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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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夜明けの変化

『治安維持軍から連絡が来ていますが、繋いでもよろしいでしょうか?』

「今なら問題ない。

 繋いでくれ」

 通信が入ったので、ハザマはそのまま応じた。

『洞窟衆のハザマ男爵でありましょうか?』

「そうだが」

 ハザマは短く応じた。

「救助活動への協力の件なら、うちの部下と直接やり取りをしてくれ」

『いえ、その件に関してはすでに着々と準備が進んでおり、今のところ問題はないのですが』

「別の問題があると?」

『問題といいますか、このような情勢下ですと、なにかしらの口実を設けてそちらの王都近辺に治安維持軍をしばらく駐留させておく方が混乱が少ないかと』

「どっちの発案だ?

 公女様と、お姫様と」

『両者ともに、同じ意見です』

「ふむ」

 ハザマは頷いた。

「公女」とは、ワデルスラス公爵家の血縁者。

「お姫様」とは、スデスラス王家の王女様。

 この女性二人が、実質的な治安維持軍の指導者なのであった。

 その二人が揃って王都の周辺に治安維持軍を駐留することをよしとする。

 そう判断している形である。

 まあ、そうなるわな。

 と、ハザマも、内心でその判断を首肯する。

 スデスラス王家や治安維持軍にとっても、今、この王国の政情が不安定になることは、歓迎できないのであった。

「食糧その他、必要な物資を森東地域に運ぶための中継場所を、王都近くに都合させることにしよう。

 王都の真ん中には無理……」

 と、いおうとして、ハザマは一度言葉を区切った。

「……いや、今回、巨人が壊した場所を狙って買い取っていけば、案外まとまった土地が都合出来るのか。

 そちらの方は急に都合は出来ないが、試しに少し交渉をしてみる。

 すぐに都合はつかないと思うが、もう少し時間をくれ」

『失礼ながら、男爵』

 治安維持軍の男は、そんなことをいってきた。

『待つだけの時間が、そちらの王国に残されていましょうか?』

「どうにかなるんじゃないかな」

 ハザマは、無責任にそういい放った。

「こっちはこっちで、関係者が頑張っているし」

 このまま内乱になだれ込みかねない。

 ハザマは、今回の騒動をそう見なしているわけだが、同じような危惧を外の国の人間も抱いているらしい。

 最低限、王族の保護を急がないと、かなり危うい状態だなとハザマは思った。

 とにかく、治安維持軍の王都周辺部への駐留に関しては、

「洞窟衆としては、出来るだけ便宜を図るつもりで準備をおこなう。

 今すぐというのは無理だし、もう少し情勢を見守ってくれ」

 と、ある意味では煮え切らない返答になってしまった。


 そうしてハザマたちが待機をしている間に、夜が白みはじめる。

 ようやくだな。

 とハザマは思う。

 一夜にして様々なことが起こった、長い夜だった。

 この王国は比較的温暖な気候なのだが、この年末の時期はちょうど真冬の最中になる。

 動いていないと寒さが肌を刺すように感じ、水妖使いの三人とトエスとは身を寄せ合うようにして縮こまっていた。

 普通ならばなんらかの暖を用意するのだろうが、今の近衛にはハザマたちにそんなサービスをする余裕はない。

 なにしろもっと差し迫った問題が山積みとなっているのだ。

 ハザマたちが待機をしている間にも、近衛は確かに仕事をしている。

 巨人による被害を受けて宿泊場所を失った住民たちを王城内に避難させ、炎上場所の鎮火活動や侵入してきた魔法兵への対処などと同時に近隣の公館街から貴族を呼び集めて組織し、王城内を本格的に捜索しはじめている。

 目下行方不明となっている王族の姿を求めて、この広い王城内部を大人数を使って虱潰しに探し求めるわけであった。

 すぐに成果は出ないかも知れないが、夜が完全に明けて明るくなれば捜索の効率もあがるはずで、王族の発見も時間の問題に思えた。

 放火などをして王城を荒らし回っていた魔法兵たちは、一人また一人と追いつめられ、討ち取られて、時間が経つにつれてその数を減らしていった。

 あくまで、近衛の側がその存在を確認している魔法兵については、ということだが。

 これは近衛と、それにブラズニア公爵家配下の魔法兵部隊とが競うようにして狩りたてていった結果になる。

 特に後者の、ブラズニア公爵家配下の魔法兵たちは、これまで敵の魔法兵たちをむざむざ王城内部に入れてしまったことに対して忸怩たる物を感じていたらしく、その追跡は苛烈であったという。

 その途中で少なからぬ犠牲も味方側に出ていたようであったが、それを気にする者はほとんどいなかった。

 巨人を起点とした一連の騒動に対して、この王国の人々は静かな、そして確固たる怒りを抱いていたのである。


「王族の方々を発見しました!」

 そんな声が聞こえたので、ハザマは瞬時にその声が聞こえた場所まで移動して、その場で問い詰めた。

「どこだ!」

 その報せを持ってきた男の襟首を捕まえて、ハザマは訊ねる。

「すぐにおれを送り込める場所か!」

 いくらか感情的になっていたのは、ハザマとしても今回の騒動に対して思うところがあったからだった。

 一言でいえば、この馬鹿騒ぎにさっさと始末をつけて幕引きをしたかった。

「ハザマ男爵!

 こちらでも見えました!」

 オングドラーデ子爵の姪、ディアーナがそういってハザマの手元を押さえる。

「天守です!

 王族の方々は、儀典用の天守に隠れています!」

「そんなところに」

 ハザマではなく、唐突に現れた甲冑姿の男が、ディアーナの言葉に応じた。

「それでは、ハザマ男爵。

 このぼくが、そこまでお送りしましょう」

 ほぼ全身に返り血を浴びた格好のアズラウスト・ブラズニアが、そういって凄惨な笑みを浮かべる。

「それでは、オングドラーデ子爵にはよろしくお伝えください!」

 ハザマはその場でディアーナに対してにやりと笑い、アズラウストの肩に手を置く。

 次の瞬間、ハザマとアズラウストの姿はその場から消えていた。

 その去り際に、ハザマはトエスの叫び声を耳にしたような気もしたが、特に気にとめることもなかった。


 儀典用の、天守。

 それが具体的にどこのことなのか、ハザマは知らなかった。

 そもそもこの王城内の施設に関して、ハザマはこれまであまり興味を抱いたことがない。

 しかし、アズラウストの転移魔法によって運ばれた先で、白みはじめた窓の外を見たときに、既視感をおぼえる。

 あれ。

 この光景は……。

「男爵も、ここで爵位を貰っておりますね」

 ハザマの想像を、アズラウストが裏付ける。

「あの建物の、さらに上の階層になります」

 アズラウストによれば、王国が誰かに爵位を授けるときは、まず例外なくこの建物が使用されるとのことだった。

 あくまで儀典用の建物であるがゆえに、普段は掃除や補修など、設備整備のための人員しか出入りをすることがない。

 かなり大きな、背の高い建物であったが、その容積のほとんどは倉庫代わりとして使用されていた。

 そんな建物に、昨夜のうちに人の出入りがあった痕跡を認めたという。

 人数などから見て、王族である可能性が高い。

 転移した後、通信でハザマはそうした事情を知った。

 捜索活動自体はまだこの建物の階下部分、倉庫として使用されている部分までにしか及んではいなかったが、その階下に出入りをしていた人間が、天守であるこの中で動く、それらしい服装の者を目撃したと、どうもそういうことらしい。

 この天守の階上部分は高価なガラス張りになっていて、夜中ならともかく日が昇った後の明るい中では、その中が一望出来た。

「ってことは」

 ハザマは思った。

「敵の目からも、見つけやすくなっているってことだな」

 王族の人々も、うまい具合に外からは見えない死角に隠れてくれるといいのだが。

 なにしろ昨夜以来、この王城の結界は壊され、無効になっている。

「声でもかけて回るかな」

「罠だと思われて、かえって隠れるかも知れませんよ」

 ハザマがそう呟くと、アズラウストは即座に否定した。

 王様をはじめとして王族の人々も、ハザマやアズラウストの顔は知っているのだが、その程度の外見を偽装することはそんなに難しくはないという。

「人間の認識能力に干渉をして、まったくの別人だと誤認させるような魔法も存在します。

 用途が限られているので、あまり広まってはいませんが」

 マンガなどに見られる安易な変装の比ではなく、この世界ではいくらでも誤魔化す方法があるようだった。

「肝心なところで面倒なことだな」

 と、ハザマは、そんなことを思う。

 ここで警戒するべきは、敵の手がすぐ近くまで及んでいる可能性があること。

 そして目的とするべきは、その敵よりも先に王族の人々を保護し、安全な場所まで連れ出すこと。

 いつものことながら、臨機応変な判断力が要求される、なんとも絶妙な難易度のミッションだった。

「手分けをして探す、というのも……」

「この場では、やらない方がいいでしょうね」

 ハザマが確認をすると、アズラウストは即座に断言した。

「下手に二手に分かれるよりも、応援が来るのを待つ方が得策です。

 近衛たちにしても優先順位は弁えているでしょうから、そんなに待つ必要もなく、どっとここにも人がやってきますよ」


 アズラウストのいった通りになった。

 天守の上層階に、数十名単位の近衛兵がどっと押し寄せて来たのだ。


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