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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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待機場所での会話

 ハザマとトエス、それに水妖使いたちには、簡素な椅子が与えられた。

 そのまま、臨時に設えた司令部の片隅にちょこんと座って待機していろ、ということらしい。

 正直、手持ち無沙汰というか退屈ではあったのだが、この場に居た近衛兵たちはそれどころではなく、緊迫した声で情勢の変化を伝え合いながら右往左往している。

 右往左往しているといっても無駄に歩き回っているわけではなく、各所に置かれた地図などに情勢の変化を記しながら声を掛け合うことによって情報の共有を果たしたりしているわけで。

「なるほど。

 実戦時の司令部の中はこうなっているのか」

 などと、ハザマは興味深そうに周囲を観察している。

 どうした加減かこのハザマは、ある程度大きな戦いに参加をするときはたいてい前線、それも一番ヤバそうな相手にぶつけられることが多い。

 バジルの能力込みで考えるとそういう配置が適切なわけだが、とにかく意外に稼働中の司令部をこうして実見する機会には、これまで恵まれていなかった。

 ふと確認をすると、オングドラーデ子爵は例の千里眼の姪っ子になにやら話しかけていた。

 どうやら、王族の居場所はまだ特定できないらしい。

 あちらはあちらで、気を揉んでいるんだろうな。

 と、ハザマは察する。

 なにしろ王族に万が一のことがあれば、この王国の体制自体がひっくり返りかねないのだ。

 場合によってはあの巨人を作ったやつらが下克上を成功させ、昨日までの逆賊がこの王国の実権を奪いかねない。

 仮にそうなったとしても、その他の、公爵以下大小の貴族たちがそんな経緯で簒奪をされた王権に素直に服従を誓うとも思えないのだが、「王家直属」を旨とする近衛としてはかなり困った事態になってしまう。

 命令を聞くべき主人が不在になってしまうからだ。

 そらま、王族の捜索にも熱が入るよな。

 と、ハザマとしては思ってしまう。

 正直、ハザマ個人の思惑としては、この王国の政情が安定してさえいれば、誰が主権を持っていてもさして興味がないのだが、この王国の、それも権力の中枢に近い立場の人間ほど、今回の件は深刻に受け止めているはずだった。

 そんなことを思ったり周囲を観察して、しばらく時間が経過してから、ようやく洞窟衆の魔法使いたちが到着した。

 大柄な老人であるハメラダス師とエルフのトスラタトテ、それに、不摂生な生活態度がそのまま体型に反映している小太りのおっさん、ゼスチャラの三人である。

 この三人はどうやら城門から馬車でここまで来たらしい。

 平時であればたとえハメラダス師が同行をしていてもまず城門を通過できないはずであったが、この混乱に乗じて、どさくさに紛れて通してくれたみたいだった。

「この辺はまだしも様子が落ち着いておるが、いくつからある城門の周辺は大層な騒ぎになっておるぞ」

 ハザマの顔を見るなり、ハメラダス師はそんなことをいった。

「近衛が避難民に対して王城を開放したからな」

 この非常時に。

 いや、この非常時だからこそ、か。

 心の中で、ハザマは思う。

 少し前に、そうした王城内に受け入れた避難民の中から有志を募って、火災が起きている現場での消火活動を手伝わせていると、聞いたばかりだ。

 不特定多数の人間を王城内部に入れることは、保安上、かなりリスキーな行為であるといえるが、ここまで事態が進行してしまったら、今さら多少戸締まりに気をつけても意味がない。

 それどころか、使える人手を閉め出す形にもなりかねず、だったら無制限に開放してしまえ。

 と、そういうことなのだろう。

 あるいは、これまで対巨人戦での不始末から、近衛連隊の指導者たちがなにかしらの処分を受けることは免れず、自暴自棄気味に決断したのかも知れないが。

 いずれにせよ、すでに多数の魔法兵が混乱に乗じて王城内で暴れ回っているこの時点で、さらに人の出入りを厳重にする意味などないのであった。


「これから荒れるのでしょうね、この国は」

 ハザマは、ハメラダス師に確認をした。

「それは、荒れるであろうなあ」

 ハメラダス師も、ハザマの予想を裏付けた。

「だが先の心配よりも、まずはこの危難を脱することを考えねば」

 いやそれ、あくまでこの王国の人々の課題だと思うんだけど。

 と、ハザマは考えたが、流石にそのまま口に出すことは控えた。

「ま、お主に申しても詮無きことではあるか」

 しかし、ハメラダス師はハザマの考えを読んだように、そんなことをいう。

「なんだかんだで洞窟衆にはかなり助力をして貰っておるし、それで満足をするべきなのだろうな」

「近衛の人たちにいわれて、王族の方々の現在地が判明したら保護をしにいくことになっています」

 ハザマは、話題を変える。

「おれたちが行くのが一番適任だろう、ってことで」

「それ以外の仕事は近衛に任せておけ、ということか」

 ハメラダス師は、大仰な仕草で頷いて見せる。

「その方が無難かも知れんな。

 近衛ならば、あの巨人のような未知の存在以外になら、対処のしようも学んでおるだろうし」

 今回、近衛があの巨人に苦戦をしたのは、あの巨人について、どのような攻撃が効果があるのかなどの詳細を事前に知らなかったことが大きい。

 実際、何度かの実戦を経るうちに、あの巨人をかなり追い詰めるところまでは、いっていたのである。

 ハザマから見ても、決して無能ではなかったと思う。

 いや、これまでハザマが見てきた水準から判断しても、この世界の軍隊としてはかなり高い水準の組織だったのではないかあ。

 仮にハザマたちが出て行かなくても、あの魔人まで含めて、近衛の独力だけで始末をつけていた可能性はかなり高い。

 もちろん、その場合は、さらに多くの犠牲が出たはずであるが。

 当然、未知の存在ではない、ある程度対処の仕方を研究していた魔法兵が相手なら、楽勝とはいわないまでも相応の働きが出来るのだろう。

 要は、対処メソッドの有無の問題なのだ。

 だからハザマたちは、もっと重要な仕事を任せるためにこうして待機をさせられている。

「結局あの巨人は、王城の結界や城壁を壊すために用意をされたものなんでしょうか?」

 ハザマは、ハメラダス師に質問をぶつける。

「ただそれだけのために、あれほど大がかりな仕掛けを用意する意味がよくわからないのですが」

「ただそれだけのために、か」

 ハメラダス師は、ハザマの言葉に苦笑いを浮かべた。

「お主らにしてみれば、その程度の仕事などその場で適切な人間を集めさえすれば容易いのかも知れんがな。

 洞窟衆のような人外ばかりが集まるような組織は、少なくともこの王国内には他にないからのう」

 ハザマはどうしても、洞窟衆を基準として物事を考えがちである。

 しかし、洞窟衆以外の人々からしてみれば、そんなハザマが「容易だ」と判断することがかなりの難事であることが多かった。

 今話題に出している、

「王城の結界や城壁の破壊」

 も、王国内に存在する洞窟衆以外の勢力からしてみれば、その後の始末も合わせて相当な難事であるといえる。

 正面からそれらを破壊するということは、つまりは王国と、王室と干戈を交えると宣言したのに等しいのだ。

 いや、普通、その前に、それが可能な軍勢を王都の内部に集結をさせて動かせば、ただそれだけで捕縛と取り締まりの対象になる。

 一国の首都のただ中に武装集団が集まれば、その所属と目的を問いただされ、あるいは問答無用に取り押さえられても文句はいえないのだった。

 あの巨人は、王都内である程度自由に行動可能な戦力として設計、製造された可能性が高い。

 ここまでは、どうやらハザマの予想とハメラダス師の推測とは、ほぼ一致しているようだ。

 しかし。

「おれがあれを大仰だというのは」

 ハザマはいった。

「あれ一体を作るのに、どれほどのコストと犠牲を必要としているのかってことです。

 召喚魔法が禁じられているのは、成功した際に召喚獣が制御不能になりがちであることの他に、術そのものを行う際に多数に贄が必要になるからだと聞いていますが」

 あの巨人は単純な召喚獣ではない。

 不定形で他の生物と融合が出来る。

 そういう性質を持つ召喚獣を原料として、さらにこちらで用意をした骨格や装甲をその召喚獣ベースの複合生体に装着した代物だ。

 そこまで動ける成功作を作り出すまで、果たして実験の過程でどれほどの生命と制作費用を必要としたことか。

 そこまで想像をすると、ハザマが判断するところによれば、

「到底、割に合う代物ではない」

 ということになるのだった。

「召喚術に限らず、魔法の研究とは、所詮、膨大な無駄と犠牲の上にようやく成立しているものだからのう」

 ハザマの論旨を理解した上で、ハメラダス師は、そう応じる。

「費用を負担してくれる。

 そういう金主が居さえすれば、たとえ禁呪の使い手でなくとも盲目的に自分の研究に邁進したくなるものだ。

 ましてや今回の場合、その金主は王家の簒奪という目的を神聖視して資金を出すことを惜しまなかった。

 おそらくその目的は、これから潰えることであろうが。

 あのような代物を製造可能な術士とそれをさせるための資金を惜しみなく与えた金主。

 本来、滅多なことでは揃わないこの両者がたまたま揃ってしまった結果が、今回の騒ぎということになるの」

「肥大した欲望と、妄想の産物か」

 ハザマは、顔を顰めて呟く。

「そいつに振り回されるこちらは、いい迷惑でしかないな」

 人命並びに物理的な損害。

 この時点で全体像は明瞭になっていないのだが、とにかく膨大な犠牲がすでに生じている。

 このことは、確かだった。

 はた迷惑なことだ。

 心の底から、ハザマはそう思う。

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