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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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オングドラーデ子爵の対策

 貴族や王族は、いざというときに領民を守ってくれるとは限らない。

 貴族や王族でも、どうにも出来ない敵がやって来ることもある。

 そうした外敵から被害を受けたとしても、貴族や王族が速やかに対応して助けてくれるわけではない。

 この騒動は、そのようなことを王都の領民に強く印象づけてしまっていた。

 現在、洞窟衆が総力をあげてどうにかしようとしている、被害を受けた王都民の救済活動にしても、ハザマの感覚でいえば本来ならば政府が行わなければならない仕事だった。

 それが普段、当然のように徴税を課している側の、最低限の責任というものではないのか?

 この一件は、

「王国という政体が意外に頼りにならない」

 という印象を、大勢の王都民に印象づけるものになったはずだ。

 さらにいえば、平民だけではなく、あの巨人を前にしてなにも出来なかった貴族たちも、自信を喪失し、貴族としての存在意義を根本から否定されたのではないか。

 ああした有事の際に動けない者が、「領民や領地を守る」という建前で高貴な身分とされていることは、完全に矛盾を来している。

「そうあるべき」という理想像と現実の実力とが大きく乖離しているということを、否が応でも意識させられる出来事なわけで。

 これは、荒れるぞ。

 今後、この王国の未来に対して、ハザマはそう予想をする。

 貴族や王族とは、本当に必要な存在なのか。

 そうした問いかけ、懐疑の声が、領民からのみならず貴族の中から出て来てもおかしくはない情勢になっているのだ。

 これまで寸毫も疑われることがなかった身分制度の根幹自体が、揺るぎはじめてもおかしくはない。

 それだけのインパクトを、この騒動はすでに与えてしまった。

 と、ハザマは考える。

 しかも、まだこの騒動は、完全に終息をしたわけではない。

「敵の目論見通りに、王族が全滅でもしたら」

 それこそ、収拾のつかないことになる。

 この国の主権を巡って争いが起き、そしてすぐに片がつくということもないだろう。

 おそらくは、内輪揉めが長引いて、この国は荒れる。

 巨人の件を準備した者は、おそらくは貴族社会の中しか視界に入れていない。

 その中での序列で、王族がいなくなりさえすれば、すんなりと他の貴族たちも、少なくともその大半は自分に従うと、そう思い込んでいる。

 一種の権威主義的な発想が抜きがたく存在するわけだが、そううまくはいかないだろうな。

 と、ハザマなどは思う。

 乱世になれば、それまで息を潜めていた者が台頭してくるはずだからだ。

 一度、社会秩序が揺らいでしまえば、それも、王族の弑殺と最悪の手段によって元の秩序が否定されてしまえば、その後はそれこそなんでもありになってしまう。

 この件を企んだ者は、自分以外に野心を持つ者が存在しないということを前提にして行動していた。

 自分の足元が突き崩されるという想定を、まるでしていない。

 この王国で一、二の権勢を誇る者がそんな真似をしたりしたら、下の者もそれに倣うだろうという想像力が欠如している。

 その意味ではこの件の首謀者も、ハザマにいわせればかなりおめでたい、ナイーブな人間なのだった。

 されにいえば、そんな単純なやつに清濁併せ呑む度量が必要とされる国政を司ることも、まず無理だろう。

 そんな根拠により、ハザマとしてはこの国の現在の体制をとりあえず守るために、なんとしても王族の人々を凶手から守らなければならないのだった。

 この王国ほど大きな国が崩壊したり内部分裂をしたりすると、なにかと面倒なのである。

 特にハザマ領は、この王国と国境を接していた。

 ハザマは別に、王族そのものに対しては、義理も忠誠心も感じていない。

 それでも万が一、最悪の事態になった場合には、ハザマ領や洞窟衆が被る被害も相当な物になるはずであり。

 それを避けようと思えば、王族の人々をそうした凶手から守り切る必要があるのだった。

 やれやれだな。

 と、ハザマは思う。

 別にハザマにそんな責任があるわけではないのだが、利害で割り切れば守るべき物がどんどん増えていく。

 どうもこの世界におけるハザマは、そうした位置に立っているらしかった。


「王族の方々は見つかりましたか?」

 ハザマたちが乗った馬車が臨時の指揮所に到着すると、ハザマは降りてすぐにオングドラーデ子爵の元に駆けつけてそう訊ねた。

「まだですな」

 オングドラーデ子爵はハザマの方に顔を向け、即答する。

「捜索は続けているのですが、王城内の各所に入り込んだ敵へも対処をする必要があり、なかなかはかどりません」

 切迫したこの事態にしては、随分とのんびりとした口調だった。

 近衛はこの近衛で、現状で出来る限りの手を打っては居るんだろうなと、ハザマはそう納得をする。

 妙に動揺をされるよりは、このオングドラーデ子爵のように落ち着いて事態に対処をして貰った方が、ハザマとしても安心が出来た。

 おそらくこのオングドラーデ子爵は、王城内で同時に進行している様々な破壊活動を俯瞰した上でそれぞれに優先順位をつけ、最大限の人員を投入している。

 どこからか持ち込んだ卓上には王城の略図が広げられ、そこに十以上もの印がつけられていた。

 それだけの数で敵勢力が一度に暴れていたら、王族の捜索など後回しになっていてもおかしくはない。

 少なくとも王族の人々に関していえば、オングドラーデ子爵の姪であるというディアーナという娘の千里眼によって現在の無事は確認されているのだ。

 今の時点で優先するべきは、王城内に侵入した敵勢力を一掃して不安要素を排除することだろう。

 近衛は近衛なりに、現在するべき仕事をしているのだった。

 ま、倒せもしない巨人の相手をさせているよりは、まともな判断だよな。

 と、ハザマとしても、そう思う。

 なんだかんだいってこのオングドラーデ子爵は、巨人の操り手だった術者の相手をハザマに押しつけたところからもわかるように、無駄な虚栄心などを持っていない。

「なにがなんでも自分たちの手で」

 などとは思わず、自分たちの手に余る相手はさっさとハザマに押しつけ、その代わり身内で近衛にはその他の、早急に対処しなければならない仕事をあてがう。

 これまでハザマたちが巨人に対処することを「やれ」といったり「やめろ」といったりしていた近衛の隊長たちと比較して、ずっと地に足のついた判断力を持っているらしかった。

 ハザマとしても、そういう人物の方がなにかとやりやすい。

「相手は魔法兵だそうですが」

 ハザマはオングドラーデ子爵に訊ねた。

「近衛でどうにか出来そうですか?」

「なんとかなるじゃろ」

 オングドラーデ子爵はいった。

「うちの連中も対魔法兵用の訓練は受けているはずであるし、なによりこちらは人数が多い。

 城外に居た連中も、続々と集合しつつある。

 不安要素があるとすれば、現状で敵襲を受けている場所が多過ぎるということ、それに、すでに起こった火災などへの対処が後手に回っていることくらいかな」

 いや、それだけでもかなり問題なのでは。

 心の中で、ハザマは突っ込みを入れる。

 前に、政庁で火災が起きていると、そう聞いたような気がする。

 あそこの消火活動を急がないと、今後の政務に支障を来すのではないか。

「許可をいただければ、うちの者たちを城内に入れて消火活動に当たらせますが?」

 ハザマは、オングドラーデ子爵にそう確認をした。

「申し出としては有り難い限りだが、それには及ばず」

 オングドラーデ子爵は即座にハザマの申し出をはねのけた。

「現在、王都の衛士隊と連絡を取って、家屋を破壊された領民を城内に入れる準備をしている。

 その中から有志を募って、消火活動に当たらせる予定である。

 すでに洞窟衆の関係者には過分の協力をして頂いている。

 王都の領民にもこの危難に際して何事かを負担して貰わねば、不公平というものではないか」

 今の王城内は、危険ではないのか。

 そういいかけて、ハザマはその言葉を飲み込んだ。

 オングドラーデ子爵がそういう、敵勢力を狩ることにハザマの助力を拒み、なおかつすぐにでも王都の領民を王城の内部に入れると宣言している以上、近衛の兵力だけで敵兵を一掃できると、そう見込んでいるからだった。

 相手の実力さえ見誤ることさえなかったら、近衛もそれなりに有能だということか。

 いや、仮にも近衛は王国最高の軍隊なんだから、その程度の実力がなかったら困るわけだが。

 ともかくもオングドラーデ子爵は、ハザマが考える程度のことは想定した上で、現状で打てる手はすべて打ち尽くしているらしかった。

 こういう人が王国内に居なかったら、この事態ももっと混乱し、とっちらかったことになっていたんだろうな。

 と、ハザマは、そんな風にも思う。

 とりあえず、「王族を救う」という使命を与えられたものの、その王族の人々の所在地が判然としないため、しばらくハザマたちはこの場に待機することになりそうだ。



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