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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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魔法消去結界の消失

 王族の血筋を根絶やしに、という目的は、まずないとハザマは考える。

 なにせ、王城や王族に対して保安上の責任を持っている近衛連隊の指導者、オングドラーデ子爵からして現在この時点での王族の居場所を把握出来ていない。

 いきなり外部から攻めてくる巨人ならば、なおさらその所在地はわからないはずだった。

 首尾よく王城にたどり着けたとしても、その後に王族を探してうろうろしているところを襲撃され、討ち果たされる公算が大きかった。

 つまり、王城を襲う巨人の側に、王族の居場所を知るための伝手がなにもなければ、ということだが。

 あるいは、こうした非常時における王族の動きについて敵側が詳しいのだと仮定したら、かえってこれからの対策も立てやすくなる。

 いずれにせよ、ハザマの立場では見通せない事情が多過ぎ、ハザマとしてはもっと周辺についての情報を知りたかった。

 このオングドラーデ子爵がハザマ以上にそうした情報を知っているのかどうか、確かなことはなにもいえなかったが、それでも実際に確認をしてみないことにはなにもわからない。


「あの巨人の狙い、ですか?」

 オングドラーデ子爵はハザマの問いかけにそう答えた後、首を傾げた。

「さて、いくつか推察は出来るのですが、一番ありそうなのは結界を破壊することですな」

「魔法を消去するあの結界ですか?」

「それです。

 一応、結界を張っている基部の所在は部外秘ということになっているのですが、王族に近しい間柄の方ならば容易に調べがつきます。

 なにしろあれは、何世代にも渡って固定されて、滅多に動きませんからな」

「その結界に対する守りは?」

「いわれるまでもなく、すでに厳重にしております」

 ハザマが確認をすると、オングドラーデ子爵は重々しく頷く。

「つまり、この非常時に動員できるだけの人数をかき集めて、そちらの警護に当たらせている、ということですが。

 あの巨人であった物に対応するのには少々心許ないかも知れませんが……」

「現状で出来る精一杯のことをしている、ってわけですか」

 ため息混じりに、ハザマはそういった。

 この混乱時、近衛は近衛でやるべきことが多かった。

 王城自体の警護と所在の知れない王族の捜索と保護、それに、例の巨人への対応。

 そのすべてを万全に、というわけにはいかないのだろう。

 オングドラーデ子爵配下の近衛連隊は、むしろこの混乱時にも関わらず、そうした必要事に適宜重要度を判断して、冷静に人員を配置して対応している。

 ハザマからは、そう見えた。

「仮に結界が破壊されたとしても」

 オングドラーデ子爵はそう続けた。

「そうなればむしろ、敵よりも味方に利するところが多いともいえます。

 なんといっても敵の方が、圧倒的に少数ですからな」

 結界の効果がなくなれば、近衛連隊は通信で連絡を取り合ってあの巨人とその背後に居る襲撃者たちの動きに対応できるようになる。

 王城内部に居る衛士たちとも連携が取れるようにもなるだろう。

 そうなればむしろ、人数で勝るこちら側、防衛する側の方が有利になるはずであった。

「やつらがそんな、自分に不利になるような真似をわざわざしますかね?」

 ハザマは、ふと感じた疑問を口にした。

「われらが通信で連絡を取り合うようになれば」

 オングドラーデ子爵は、冷静に指摘をした。

「いずれは、王族の方々の所在も通信でやり取りされるようになるでしょう。

 王族の方々さえ亡き者に出来れば後はどうにでもなると、実際はともかくそう信じ込んでいる敵方としても、そうした状況は歓迎をしたいところなのではないでしょうか?」

 王族の現在地を知るために、わざわざ自分に取って不利な状況を呼び込む形か。

 そう説明をされると、ハザマとしても納得しないわけにはいかなかった。

 呆れ半分、ではあったが。

 自身の保身や安全を捨て、玉砕覚悟で目的を達成するという気概や発想は、よくも悪くもハザマにはないものだった。

 特攻隊やテロリストに近いメンタリティだな。

 今さらながらに、ハザマはそんな風に思う。

 つまり彼ら襲撃者は、自分の命と引き換えにしてもいいほど大義をその胸に抱いてこの事にあたっている、わけであった。

 面倒かつはた迷惑なことだな、と、ハザマはそうした連中を心の中で疎んじた。


「結界の警護は増やせませんか?」

 ハザマは、オングドラーデ子爵に確認してみた。

「残念ながら」

 オングドラーデ子爵はそういって、首を横に振る。

「現状で、可能な限りの人数を割り振っております。

 それに、あの巨人が相手では、どんな精鋭をつけたところでやられるときはやられるでしょう」

 近衛の窮状を語っているというのに、飄々とした口調だった。

「相手が悪い、というわけですか?」

「あれが相手では、どうにも」

 ハザマが確認をすると、オングドラーデ子爵はそういって肩を竦める。

「あれはすでにヒトの域を超えた存在になっております。

 今ではあの巨大な体躯を捨てて別の姿になっておるものと予想しますが、いずれにせよその本質、人智を超えた存在であるという点には変わりありません。

 もしも結界の基部を襲撃する者が現れた場合、その持ち場を死守しようなどとはせず、そのまま逃げるようにと指示しております」

「逃げる、ですか?」

「下手に相手をしても味方に利することがありませんからな」

 オングドラーデ子爵は、平然とそういい放った。

「先ほどもご説明を申し上げたように、王城内部の結界が消失すれば、かえってこちらに有利になります。

 相互に連絡をし合い、離れた場所に居る味方同士が連携を取れるようになります。

 その邪魔をわざわざする必要もないわけでして」

 近衛にとっては、敵に王城内に侵入されたこの状況下では、かえって魔法の効果を消去する結界の存在は不都合なのであった。

 だったら自分たちの手でその結界を機能しないようにすればいいじゃないかと、部外者のハザマとしてはそう思うのだが、彼ら近衛の立場としては王城内の施設を自分たちの手で壊すような真似も、出来ないのだろう。

 責任のある立場というのも、なかなか面倒なことだな。

 と、ハザマは思う。

 敵が結界を破壊することを期待して、それを待つ。

 などという回りくどい真似をしなければならないとは。


「一部、外部との通信が回復しました!」

 ハザマとオングドラーデ子爵とがそんなやり取りをしているそばから、近衛の者がそう報告してきた。

「どうやら敵は、巨人であった存在は、こちらの予想通りに動いているようですな」

 オングドラーデ子爵はハザマにそういった後、部下たちに、

「外部の近衛並びに衛士隊と連絡を取り、もしも可能であれば連携を取れる体制を作れ!

 それと、どの基部が破壊されたのか、速やかに確認しろ!

 場合によっては、敵の所在地が判明するかもしれん!」

 結界を構成する基部を護衛していた近衛兵が、首尾よく逃げられていたら、すぐにでも連絡してくるはずだった。

 巨人であった存在の所在地も、この分ではさほど時間をおかずに特定出来るのではないか。

 問題は。

 と、ハザマは思う。

 仮にその敵の所在地を特定できたとしても、近衛の残存兵力だけでその敵に対抗出来るかどうか、ということなのだが。

 いや、その点については、近衛側は自分たちに期待しているのだろうな。

 と、すぐにハザマは思い当たる。

 自分と、それに水妖使いであれば、まずそんな存在であっても仕留められるはずなのだ。

 また、そうした思惑がなければ、この非常時にわざわざこんな場所まで招かれるわけもないのであった。


 巨人であった物、の所在は、ハザマが予想をした通りにそれからいくらもしないうちにかなり絞れて来た。

 その時間でハザマは、回復した通信経由の情報を総合して、巨人が倒された経緯についてもかなり詳しい事情を知らされる。

 別にわざわざハザマに報告があったわけではなく、次々ともたらされる断片的な情報をオングドラーデ子爵とその配下の幕僚とか繋ぎ合わせて、全体像を把握したのだった。

 近衛のマリエン子爵とかいう人も決して無能というわけではないんだよな。

 王城内にある物見の塔まで使用して巨人を倒した経緯を知ったハザマは、そんな風に思う。

 判断能力とか見ると、むしろ有能な方だろう。

 ただ、やはりちょっと頭が硬い。

 洞窟衆側はあの巨人を構成する一部が不定形生物であることも伝えていたはずなのだが、近衛の側はそれが意味することをうまく理解出来ていなかった、ようだ。

 そうでなければ、物見の塔の下敷きになった巨人にも、うかつに人を近づけたりはしないだろう。

 優秀ではあっても所詮は軍人さん、か。

 と、ハザマはそんな風に思う。

 自分の想像力からはみ出る存在が相手では、どうも勝手が違ったらしい。

 ま、今回は、相手の側が非常識過ぎたんだよな。

 とも、思った。


「敵はどうも、この練兵所の端から南東につっきって進んでいる様子です。

 距離を置いて追跡している部下から、そう報告がありました」

 しばらくして、オングドラーデ子爵がハザマに語りかけた。

「ご面倒とは思いますが、あれを討ち果たして貰えますかな?」

「そうせねば、ならないのでしょうね」

 やれやれ、と思いながら、ハザマは返事をする。

「その敵の居場所まで、案内をしてください」

 これではまるで、用心棒に対するような物言いではないか。

 ハザマたち洞窟衆の、この王国内での立ち位置を象徴するかのような、やり取りだった。


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