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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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巨人の退治法

 堀の水を凍らせることによって、片足を固定された巨人の上に、その巨体よりも背が高い物見の塔がゆっくりと倒壊してくる。

 この物見の塔は細長い石造りの塔で、ほっそりとした外観の割には重量がある。

 その横幅だけを見ても、巨人の体躯をすっぽりと覆うことが出来るほどの、大きさであった。

 近衛兵たちは兵隊であって別に火薬の扱いに長けているわけではない。

 今回、物見の塔を倒すため、その基部に工作をしたわけであるが、すぐに入手できる塔の図面を参考にしてあらかじめ、倒れない程度に基部の構造材を魔法によって壊し、その上で最後のダメ押しとして爆破していた。

 これは、火薬だけで塔を倒すには、すぐに集められた火薬の量が少なすぎたこともあったし、それに爆破に失敗をして塔を倒すまでに至らなかった場合のことを考えてのことになる。

 つまりは、爆破の素人なりにその場で手を尽くし、どうにかして巨人の頭上に塔を降らせることに成功した形であった。


 この、自身よりも巨大な塔が降ってくるという事態に対して、巨人はどう抗しようとしたのか。

 巨人の片足は氷によって固定されていたわけだが、その凍っている範囲はかなり広かった。

 近衛たちがなけなしの魔力札を蕩尽して、堀の水を凍らせたためである。

 この巨大な氷を片足につけながらすぐにその場から逃げることは、巨人にしてみても到底出来なかった。

 物見の塔が自身の頭上に倒れてくる、という事態がなければ、例の怪光線を発射して氷を溶かし、その場から脱することが出来たかも知れない。

 が、足元の氷と倒れてくる塔、その両方の事態がほぼ同時に進行をしていたため、巨人は咄嗟にどちらに対応するべきなのか迷ったかのように、数瞬、動きを止める。

 この遅滞が命取りとなった。

 倒れかけた時の動きこそゆっくりとした物であったが、傾いたことにより不自然な一点に自重が集まった結果、完全にその部分の構造材が砕け、塔が倒れる速度はいきなりに増す。

 巨人は、反射的な動きなのだろうが、両腕を頭上に掲げる格好をした。

 よく見ると、破壊された塔の粉塵がうっすらと舞う中、巨人の腕の周囲に不自然な円筒形がうっすらと、見える。

 おそらくそれは、前に近衛隊の砲撃魔法を弾いた、例の力場が可視化したものなのだろう。

 しかしその力場でも、巨人の体よりも大きな塔をそのまま食い止めることが出来るとも思えなかった。

 いや、その力場が塔の進行自体を止められたと仮定しても、その腕を支えているのは巨人であり、その巨人が塔の下敷きになっているという事態に変化はない。

 腕の力場があろうがなかろうが、巨人としてはその場から逃げ出すことも出来ず、倒れてきた塔の重量をそのまま受け止めるしかないのであった。

 両腕を掲げた体勢のまま、巨人の頭部前に魔方陣が出現し、そこから赤銅色の怪光線が放たれた。

 怪光線はそのまま倒れつつある塔の横腹を灼くのだが、それ以上の変化は起こらない。

 石材で出来た塔は、加熱されたとしても燃え上がるわけではなく、また、仮にその怪光線によって塔を分断できたとしても、その質量自体が変化をするわけでもなかった。

 実際には、落ちてくる塔を構成する物質が加熱されただけに終わり、そのまま巨人の上に倒れ込んでくる。

 逃れる術もなく、巨人は倒れてくる塔をその両腕で受け止めようとした。

 一瞬、塔は、巨人の腕から少し離れた空間に静止をする。

 しかし直後に、その巨大な質量に耐えかねたのか、まず巨人の脛が折れた。

 足首までが氷によって固定されていた方の、脛が、だ。

 おそらくは、無理な方向に固定されていたため、うまく塔の重量を逃がすことが出来なかったのだろう。

 脛が折れたことによって、そのまま塔の重量に負けて倒れかけた巨人の、今度はその背骨の部分が、みしみしと音を立てて軋みながら、折れる。

 そもそも、あの巨人の重量をたった二本の足と脊椎とで支えようとするのは、かなりの無理があったのだ……ろう。

 普通に立ったり歩いていたりするだけでもかなりの負担がかかっていたところに、その上さらに巨大な塔の重量をまともに受け止めた形になる。

 想定外の負荷を一気に受け止めた巨人の体が本来の形を保てなかったとしても、決して不思議ではなかった。

 足と背骨という、体を構成する上で重要な部位を破損させながら、巨人はそのままうしろ側に倒れ込み、さらにその上に石造りの塔が、巨人の体をそのまま押しつぶすように落ちる。

 倒れた塔が地面に着く前に、なんとも不快な、中の骨ごと肉と押し潰すような物音が、その下から響いた。

 ちょうど巨人の体を押しつぶす時に、ちょうどそんな音がするのかも知れない。

 人間が圧死をする時にするであろう音をそのまま大きくしたような、聞いていてなんとも不快になるような音だった。

 着地をした衝撃で倒れた塔は完全に粉々に砕け、周囲に盛大に、粉塵をまきちらした。


「やったのか!」

 見張りに出していた兵から、そうした情景を詳細に報告されたマリエン子爵は、思わずそう叫んでいた。

 この場にハザマが居たら、

「それ、フラグ」

 と突っ込みを入れたかも知れない。

 それはともかく、その報告だけで安心するほど、マリエン子爵は単純ではなかった。

 なにしろあの巨人に関していえば、これまでがこれまでである。

「粉塵が収まり次第、巨人の様子を確認せよ!」

 慎重を期して、そう命じた。

 仮に、あれでもあの巨人がいまだ健在であった場合、その安否を確認しに向かった兵士は、まず無事ではいられないはずであったが、マリエン子爵としてはその程度の犠牲を惜しむ気はなかった。

 もしも巨人が無事であり、まだ動ける状態であった場合、どうにかして息の根を止める必要があるのだ。


 もうもうたる粉塵がまだ収まらないうちから、巨人を追尾して兵士たちが、倒壊した塔に集まりはじめた。

 その塔の残骸の下に、あの巨人の体躯があるはずなのだが、現在その体躯がどのような状態にあるのか、よくわからない。

 一刻も早くそれを確認するのが、この兵士たちの仕事であった。

 兵士たちは巨人が瓦礫の下に埋もれているであろう地点を目指す。

 粉塵によって視界が悪い中、苦労をして近づいていくと、ある地点から地面がやけにべたつくようになった。

 なんだ、と、兵士たちが目線を下げると、石畳の上にどす黒い液体がかなり広く付着していて、その上に粉塵が降り注いでまだら模様になっている。

「これは?」

「あの巨人の、体液ではないのか」

 図らずも別方向から集合する形となった兵士たちは、そんな会話をしてうなずき合う。

「さしものあの巨人も、塔に体を押し潰されて」

「砲撃魔法によって損傷を受けた時も、大量の体液を周囲にまき散らしていたというしな」

 その巨人の体液は、かなり広範囲に広がっていた。

 あの巨体であるから体液の容量もかなり多くなるはずであったが、それでもこれほどの体液を一度に失えば、人間の尺度であればとうの昔に失血死をしているはずである。

 瓦礫の下にある巨人が現在、どのような状態にあるのかは未確認であったが、少なくとも無事ではなく、重傷を負っているらしいことは、どうやら確かなようだ。

 それを確認したことで意を強くし、兵士たちは互いに顔を見合わせて頷き合いながら、さらにさっきに進む。

「このあたり、であると思うのだが」

 一面、降り注ぐ粉塵で白くなりかけている上、周囲には瓦礫しかない状態だったので、巨人の現在地も推測するのが難しかった。

 ただ、その周辺の瓦礫が他に比べて盛りあがっていることと、その盛りあがっている場所の周辺の地面に、例の巨人の体液らしき粘度の高い液体が、やはり他の部分よりも多いように思えることが、その瓦礫の下に巨人が居るという推測の根拠となっている。

 第一、あの巨人も、あの巨体でこの場から、誰にも目撃されずに逃げることは、不可能であるはずだった。

 なにしろ、あの巨体である。

「ここで間違いはなさそうだな」

「おそらくは」

「これでは巨人の状態を確認をするのにも一苦労だな」

「もっと人を呼んでくるか?」

 周囲は、静まり返っている。

 集まってきた近衛兵たちが立てる物音のみが、その場に響いていた。

 兵士たちが、すでに巨人は無力化されたと、そう判断したのも無理はない。

 その証拠に、兵士たちの様子から緊迫していた空気が徐々に薄れ、その表情にも余裕らしき色が見えはじめていた。

 このような状況では、彼らが安心をし、気を緩めたとしても不自然ではなかったのだ。

 しかし。

「うぉ!」

 兵士の一人が、そう叫んでその場に倒れ込んだ。

「どうした?」

「躓いたか?」

 周囲の兵士たちが、倒れた兵士を助け起こそうと近寄っていく。

「いや、今、足元を掬われて……」

「足を?」

「誰にだ?」

「ここにはおれたち以外、誰も……」

 居ないはずだ、という言葉は、新たにあがった悲鳴によってかき消された。

 声をあげて倒れ込んだ兵士が、悲鳴をあげている。

「どうして! どうして!」

 明らかに、恐慌に捕らわれた者があげる悲鳴であった。

「なんだ!

 これは!」

「なにがあった!」

「どうした!」

 粉塵にけぶる中、目を眇めて悲鳴があがった方を見やる周囲の兵士たち。

 しかし、見通しが利かないのは相変わらずであり、そこでなにが起こっているのか、目撃をして確認することは出来なかった。

「がっ!」

 悲鳴をあげた男が、喉の奥から大量のなにかを吐き出したような声をあげた。

「……なにかが、おれの腹の中を……ああー!」

 そう叫んだのを最後に、その兵士はなにも音を立てなくなる。

 この異変を不審に思った兵士たちは、険しい顔をしながら、実際にそこでなにが起こったのか、それを確認するために声がした場所へと集まりはじめた。


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