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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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マリエン子爵の罠

 王城内に入ったことで、ハザマたちは結界の内部に取り込まれ、結果としてしばらく外部との通信が途絶する。

 これはまあ、不便ではあるが仕方がないな、と、ハザマは思う。

 例の巨人については近衛が相手をしているところであるし、被害者の救助や救援など、他の仕事についてはハザマの指示がなくても滞ることなく動ける体制になっている。

 強いていえば、想定していない事態が発生した時などに、ハザマが直接洞窟衆の関係者に指示を出すことができないという弊害があるわけだが、これ以上に突発事が起こるのを待つまでもなく、今のこの時点で十分に非常時である、ともいえる。

 これから一番、問題になりそうなのは、当面あの巨人に対応しているマリエン子爵の部隊が、あの巨人を止められなかった時のことだよな。

 と、ハザマは思う。

 通信が使えない関係で、あの巨人が倒せないと判明した時点で、その場ですぐにそれがハザマには伝わらないわけで。

 ま、その時はもう、巨人もかなり王城に近づいているわけだから、通信で知らせて貰う前に、おれの耳にもその異変が伝わってくるか。

 そう、割り切ることにした。

 マリエン子爵が失敗をしても、ハザマが責任を問われることはないし、それに、ハザマの立場としては、王城と巨人とが共倒れになったとしても、さして掻痒を感じるわけでもない。

 この王国には、最低限ハザマ領の独立を認めるまでは現在の体制を維持して貰いたいとは思っていたが、実をいうと、その条件さえも「強いていえば」ということであり、ハザマ個人はどうでもいいと思っている。

 正式にハザマ領の独立を承認する前に、王国の方が自分で崩壊をしました、ということになっても、特にハザマもハザマ領にも、デメリットは生じないのであった。

 とりあえずハザマの立場としては、この王国の危機に当たって、それなりの手を尽くしたという実績が残りさえすれば、少なくとも対外的な立場は保持できるはずであり。

 さらにいえば、その程度のことはこれまでの巨人への対応と、それに被害を受けた避難民たちに対する救助活動などによって、その程度の実績はこの時点ですでに残してもいる。

 王国中央も他の諸侯も、あの巨人の方にばかり気を取られるだけで、その巨人によって被害を受けた人々を放置しているのが現状なのだ。

 その中で、いち早く対応した洞窟衆の関係者は、すでに誰にも否定ができないほどの実績を出しているといえる。

 ハザマが落ち着いていられるのは、この先この騒動がどのような決着をみようとも、ハザマや洞窟衆の側としては、「やれるだけのことはやった、ベストを尽くした」と誰にはばかることなく主張できる状態であるからだった。

 この王国の未来については……ハザマの正直な気持ちをいえば、

「この国のことは、この国の人たちで決めればいい」

 という思いが強い。

 平易ないい方をするのならば、

「お前ら、勝手にやってろ!」

 ということになる。

 ハザマにとってこの騒動は、徹頭徹尾「他人事」なのであった。


 さて、ハザマに危惧されていたマリエン子爵率いる近衛連隊の巨人対策だが、マリエン子爵はこれまでのように巨人を直接攻撃する方法は採用せず、その代わりに大がかりな罠を仕掛けることにした。

 あの巨人の巨大な体躯は、それ自体が強力な武器なのだが、見方を少し変えれば、あの重すぎる体自体が大きな枷にもなる。

 マリエン子爵はその部分に着目し、「一度填まったら、たとえあの巨人であっても容易に脱することができない罠」を仕掛けることを選択した。

 強力な攻撃魔法など、あの巨人が想定外に強力な攻撃能力を持っていることがすでに判明しているので、いたずらに被害を増やす方法よりは、より反撃を受けにくい、いいかえればより安全な方法を選択した形になる。

 この段階で近衛連隊は、すでに甚大な被害を被っている。

 マリエン子爵の立場としては、これ以上近衛に被害を出すことを、看過することはできなかった。

 仮にこれから仕掛ける罠によって、首尾よくあの巨人を倒すことができたとしても、これだけの被害を出した近衛連隊の首脳部は、責任を追及されるだろう。

 自身が事後に更迭されることはほとんどこの時点で決まっているようなものだったが、それでもだからといってこれまで以上に近衛の兵士たちに被害を増やしていいわけがない。

 幸いなことに、まっすぐ王城へと向かっている巨人の進路は、容易に予想ができた。

 事前に罠を作ることは、そんなに難しくはない。

 いや、罠をつくる作業自体はとても大変で難易度が高かったが、罠を仕掛ける場所を設定することは容易だった。

 また、この短時間のうちに、あの巨体を確実に足止めし、倒すための罠となると、相応の規模になる。

 それだけの規模の罠を用意するのは、多数の精鋭魔法兵を抱える近衛連隊にしても、決して容易い仕事ではなかった。


「本当にこんな場所に罠を作るのですか!」

 マリエン子爵が腹案を提示すると、幕僚たちが一斉に騒ぎはじめる。

「なにもこんな、王城の間際で……」

「堀があり、物見の塔がある」

 マリエン子爵は、部下たちの動揺ぶりを見ても平然としていた。

「罠を作るのに都合がいいし、なにより巨人の進路予想線上でもある。

 さらにいえば、われらには躊躇や検討をしている時間がない」

 王城近辺の地形図などを広げて検討をしていた幕僚たちも、マリエン子爵の態度を見て、覚悟を決める。

「王城の施設を損なうとなれば、後で責任問題になると思いますが」

「これまでの近衛の被害を見ろ」

 マリエン子爵は、軽く顔をしかめた。

「なにもやらなくても、近衛の指揮官たちは全員、責任を取らされる」

 どうせ処罰されることが決まっているのならば、少しでも役に立つ策を講じ、実行しておいた方がいい、というわけであった。

「そこまでお考えでしてたら」

 幕僚たちはあっさりと引き下がった。

 別にマリエン子爵の態度に感銘を受けたから、ではなく、後で査問となった時に、「あの時、自分はこの作戦に反対をした」という実績を作り終えたからである。

 近衛連隊の構成員は良家の子弟も多く、その手の責任問題に敏感な者も多かった。


 マリエン子爵の名と責任において作戦を決行する。

 そう決まると、その後の近衛の動きは早い。

 もともと、王国の中では例外的に練度が高い兵士たちであった。

 作戦案に基づいて適切な人員を配置をした上で、必要な準備を整えはじめた。

 なにしろ巨人はこうしている今も移動中であり、刻々と王城へと近づいている。

 その巨人が王城に接近してくるまでに、すべての準備を終えておく必要があった。

 あの巨人を倒せるものか。

 誰もが、そうした疑問を抱いていた。

 マリエン子爵のこの作戦案以外では、あの巨人を止めることは不可能だろう。

 誰もが、そうも確信していた。

 マリエン子爵が考案したこの作戦は、王城側の損害も大きいものの、その代わり確実にあの巨人くらいは倒せそうな案であった。

 少なくとも近衛連隊の誰もが、この作戦以上に確実にあの巨人を沈黙させる代案を思いつくことができなかった。


 どうにかすべての準備が終わった後、見計らったかのように、地響きのような足音が聞こえてきた。

 巨人の足音だ。

 行く手を遮る者もいなくなった今、巨人は夜の王都を、わが物顔で歩いている。

 歩く、といっても、巨人の歩幅は大きかったから、速度もそれなりに速かった。

 通常の馬車よりは、よほど速い。

 なによりもこの夜更けに、あれほど大きな物体が地響きを立てて迫ってくる光景は、見る者を震撼させた。

 あんな代物を相手にするのか。

 その様子を見守っていた近衛の、誰もがそう思った。

 あれを止めなければ、この国は終わりだ。

 という認識も、近衛たちは共通して抱いていた。

 そうなればそれは、王国という体制の終焉というよりも、彼らにとってはもっと切実な、純粋に軍事的な敗北であった。

 あの巨人を倒すことができなければ、自分たち近衛の存在意義そのものが否定される。

 口には出さないものの、近衛たちはそう認識していた。

「巨人、王城に接近!」

 巨人の動きを見守っていた者が、告げる。

「もう少しで堀にさしかかります!

 迂回をせず、そのまま直進する模様!」

「よし!」

 マリエン子爵は、小さく叫んだ。

「かかった!」


 次の瞬間、巨人の体が大きく沈み込み、前方に傾いだ。

 そのまま巨人は、前の方に、堀の方に、倒れ込んでいく。

「今だ!」

 マリエン子爵は、叫ぶ。

「堀の水を、凍らせよ!」

 巨人のあの巨体を覆うほどの、深く巨大な穴は、この短時間では用意することはできなかった。

 近衛連隊はあくまで軍隊であり、別に土木工事の専門家というわけではない。

 しかしその限られた時間で、堀近くの石畳の下に、あの巨人が片足を埋めるほどの空間を穿つことは、どうにか可能であった。

 表面的には街路の他の部分と見分けがつかないように、その下の部分だけ土砂などを除けるのはなかなか難しい作業であったが、避けた土砂を堀の中に捨て、例の魔力を蓄積する札を多用して、どうにかやり遂げた。

 さらに巨人がその自重により片足を取られた先には、堀の水が存在する。

 マリエン子爵は残存している魔法兵を総動員して、この堀の水を広範囲に凍らせた。

 堀の水に片足を突っ込んだまま、その足の周囲の水が凍っていく。

 いくらのあの巨人であっても、足の先にあれほど巨大な氷の塊をつけたまま、自在に動き回ることは難しい。

 その、はずであった。

 単純ではあるが、それゆえに一度填まると抜け出しにくい、そんな罠である。

「塔の方はどうか!」

 さらに、マリエン子爵は叫ぶ。

「たった今、基部の爆破を開始しました!」

 身動きを封じられた巨人の上に、巨人の体よりもよほど背が高い石造りの塔が、ゆっくりと倒れ込んでいく。

 王城の城壁内部は、結界の働きによって魔法を使用することができない。

 マリエン子爵は急遽かき集めてきた火薬で、王城内部に存在する、歴史のある物見の塔の基部を爆破し、巨人の上に降らせることに成功した。


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