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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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抗争の構図

「そもそも王国は、なにを考えてハザマ領にこんな役割を振って来たのでしょうか?」

 今度はリンザが発言した。

「ハザマは男爵に過ぎず身分からいっても公爵様に意見できる身ではありませんし、なにより王国からの脱退をしようとしている公爵様方を説得するにしては、とてもではないですが立場的にふさわしいともいえませんし」

 さらにいえば、そのハザマ自体、不在なのである。

 リンザは、

「失敗するであろうことを見越した上で依頼してきたということはわかるんですが、それにしても不自然な点が多過ぎるように思います」

 ともつけ加える。

 これを聞いて、マヌダルク姫とメキャムリム姫はどちらともなく視線を交わして頷き合った。

「それは、ですね」

「理由は色々と考えられるのですが、こうなった元々の原因は洞窟衆にあるのだから、やつらに解決させろという意見が中央の中で起こったのではないでしょうか?」

「それと、洞窟衆は急速に大きくなりましたから、もはや辺地の地方領としての範囲を超える責任を負担させるべきなのではないか、という意見も、当然、出ていると思います。

 その権勢に比べて、やつらは楽をしているのではないか、というわけですね」

 マヌダルク姫とメキャムリム姫とが、交互に説明をはじめる。

「説得に成功したら公爵号を与えるというのも、別に鼻先においしい餌をチラつかせているわけでもなく、普通にそれだけの経済力があるのだからその程度の負担をしろというところからくだされた、割合に本気の辞令だと思います」

「実際、ここで両公爵の説得に成功したとしたら、その功績について誰も文句はいえなくなりますしね」

「でも、それは」

 リンザは反駁した。

「王国の内側からみれば正当な意見なのかも知れませんが、こちらにしてみるとかなり不公正な結果になりますね」

「説得に成功すれば公爵として王国の秩序の中により強固に押さえつけられる。

 失敗したら、その責任を問うことができる」

 タマルがそのあとの言葉を引き取る。

「どちらに転んでも、王国はハザマ領に対する影響力をより強くすることができる、と。

 なるほど、貴族様が考えそうな計算だ」

「今回の件ではっきりと洞窟衆の実態を調べたことで、かえって容易に、直接手綱を取ることができないと、そう感じたのではないでしょうか?」

 メキャムリム姫がそう意見を述べた。

「組織ぐるみで抱え込んで、その上で大まかな方針に従うように強いる方が、

まだしもできそうだと、そのように判断をしたのだと思います」

「ということは」

 リンザがメキャムリム姫に確認をする。

「やはりグラウデウス公爵様のご意向ですか?」

「おそらくは」

 メキャムリム姫が大きく頷く。

「あくまで推測に過ぎませんが、時期的に考えてもそれが強く影響しているのではないかと」

「公爵様ともなると、国政に対する影響力も大きいのですね」

 リンザはため息混じりにそうこぼした。

「それはいいとして、そのグラウデウス様のご意向を、王国の中央もそのまま素直に受け入れるものなのですが?」

「今回の場合に限り、中央は中央で独自の思惑を持っているのだと思いますよ」

 今度はマヌダルク姫が口を開いた。

「なにしろ、九つある内の、ベレンティア公爵家は事実上断絶しているようなものですから、事実上は八つになるわけですが、その八つある公爵家のうちの二つの公爵家がほぼ同時に王国からの脱退を宣言し、しかも中央はその事態を自力で収拾できていないという実態を衆目に晒しているわけですから」

「つまり、これ以上放置しておいては王国の威信に傷がつく、というわけですか?」

 リンザが確認をした。

「このままでいても失敗する公算が大きいのであれば、いっそわたしたち洞窟衆の責任にしてしまえばいい、と」

「それだけではなく、ですね」

 メキャムリム姫が控え目な態度で説明を補足する。

「王家としては、今回の事態を国内における親洞窟衆派と反洞窟衆派の抗争であると、そう捕らえているのではないでしょうか?」

「親洞窟衆派と反洞窟衆派、ですか?」

 リンザは怪訝な表情になった。

「これまで洞窟衆に対して、国内で反対運動が起こったという報告は届いていませんが」

「親洞窟衆派と反洞窟衆派、といういい方が誤解を与えましたね」

 メキャムリム姫が直前の言葉を修正する。

「ここで親洞窟衆派としているのは、洞窟衆を現状のままにしておいた方がいいと考えている派閥、うちのブラズニア公爵家やマヌダルク姫のニョルトト公爵家がこれに当たります。

 反洞窟衆派としているのは、もっと洞窟衆という組織を丸ごと抱え込み、国家ぐるみでその動きを統制するべきだと考えている派閥です。

 グラウゴラウス公爵家やグラウデウス公爵家が、これにあたります」

「洞窟衆の待遇によって、考え方が分かれているわけですね」

 リンザはそういって大きく頷いた。

「王国の上層部内で、そういう派閥が存在することは理解できました」

「今回の、二公爵家の王国脱退騒動も、王国の中央では親洞窟衆派の示威行動であると見る向きがあります」

 メキャムリム姫が説明を続ける。

「そして現在の王国には、この脱退騒動を無事に治めるだけの力がありません」

「ないの、ですか?」

 リンザが不思議そうな表情をする。

「王国とは、もっと強大な力を持っていると思ったのですが」

「従来の貴族同士の派閥争いであれば、王国もその威信にかけて力づくで仲裁したと思います。

 しかし今の状況は、それを許しません」

 メキャムリム姫が、ため息混じりに続ける。

「理由はいくつかあげられるのですが……まず第一に、国境紛争にスデスラスでの騒乱と立て続けに大きないくさを経験してきた今の王国は、財政的に大きな軍事行動を起こすだけの余裕を持っていません。

 次に反洞窟衆派であるグラウゴラス、グラウデウス両公爵家の領地は、国境に接していません。

 そのため兵士が全般に経験不足であり、国境紛争で毎回動員されていたブラズニア公爵家やムノライ王国家、スデスラス王国と国境を接しているために日夜演習を欠かしていないニョルトト公爵家の軍隊とまともにぶつかればかなり分が悪いことになります。

 最後に、現在のスデスラス王国には、周辺諸国でも最大の戦力である解放軍が鎮座しています。

 この解放軍は洞窟衆の強い影響下にあり、さらにいえばスデスラス王国のアポリッテア姫は、ハザマ男爵個人から強い影響を受けているとの評判があります。

 この状況下で親洞窟衆派と目されているブラズニア、ニョルトト両公爵家に武力による干渉をおこなったとすれば、戦火が一気に拡大することにもなりかねません」

「ちょっと待ってください!」

 リンザが大きな声を出した。

「スデスラス王国のアポリッテア姫が、ハザマ男爵から強い影響力を受けている、っていいましたか!」

「世間ではもっぱらそういわれているみたいですね」

 メキャムリム姫はいった。

「混乱状態にあるスデスラス王国をあの短時間で建て直せたのは、夜な夜なアポリッテア姫が通信でハザマ男爵に助言を求め、その内容を実行していたからだと」

 いや、待て、と、リンザは思う。

 アポリッテア姫が通信でハザマに、頻繁に何事か相談していたことは、リンザも把握していた。

 しかしあのハザマが、そうした際に真面目に受け答えをするとも思えないのだ。

 あのハザマのことだからきっと、相談されたにしてもその内容について実際的なことはほとんどなにも答えず、軽口混じりに受け流すだけだったのではないか。

 少なくとも、アポリッテア姫がスデスラス王国を奪還するのを影で支えたとか、そんなような実際的な助言をハザマがしたものとは、リンザには思えないのである。


「事実がどうであったのかはともかく」

 そんなリンザの表情を読んだのか、今度はマヌダルク姫が説明をし出した。

「世間というのはより信じやすい憶測の方を信じるものです。

 年端もいかないアポリッテア姫が独力でスデスラス王国を取り戻したというよりは、その影でハザマ男爵が数々の入れ知恵をしていたとする方が、大多数の人間にとっては信憑性があったのでしょう」

「……そういう、ものなのかも知れませんね」

 少し考えてから、しぶしぶ、といった感じで、リンザは認めた。

「でも、そういうことになると……反洞窟衆派、ですか?

 その人たちにしてみれば、かなり分の悪い状況になっているのではないでしょうか?」

 国内にはニョルトト、ブラズニアの両公爵家、国外には解放軍が控えている以上、うかつに軍事力に訴えて、という手段を取るわけにもいかない。

「だから、王命を使ってハザマ領に、いや、洞窟衆にどうにかしろといってきたのですよ」

 マヌダルク姫は、そう断言した。

「それ以外に、中央には、いえ、今の王家には、この状況を打開する手段がないのです。

 形式上は王命という形を取っていますが、事実上は洞窟衆にむかってどうにかしてくれと泣きついてきたようなものでしょう」

「泣きついてきた」

 そのいい方を聞いて、リンザは一瞬眩暈がいた。

「あの王国が、ですか?」

「正確にいうと、王室が、でしょうね」

 マヌダルク姫が、大きく頷く。

「洞窟衆が台頭をして以来、権力や経済力の均衡がかなり崩れています。

 洞窟衆がもたらす様々な事物をうまく活動できた勢力は力をつけ、活用できなかった勢力は相対的に弱体化しています。

 王国貴族が力をつけ、王室の求心力が低下したために今回の事態が起こったともいえます。

 こういういい方もなんですが、今の王室には洞窟衆よりも他に頼る先がないのだと思います」

「あの王国が、ですか」

 リンザは力の抜けた声を出す。

 森の中にある小さな村に生まれ育ったリンザにしてみれば王国とはこの大地と同じくらいに確固とした、揺るぎない存在であったはずだ。

 その王国がこんなにあっけなく、それも自分たちのおかげで窮地に晒されているという事実が、なかなか飲み込めない。


「それで、この状況下で、洞窟衆はどう動くのですか?」

 マヌダルク姫が、ゆっくりとした口調で決断を迫ってくる。



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