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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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ドン・デラ行の準備  

「そうした知識は誰でも持っているものなのか?」

「誰もが知っているというと語弊がありますが、多少なりとも塩賊に関心がある者であるのなら知っていて当然の内容にな

ります」

 まあ、普段の生活からして塩賊と縁がない、接する機会もない者がほとんどだろうしな、とハザマは納得をする。

 逆にいうと、多少なりとも塩賊に関心がある者にとってはこれくらいの予備知識は必須であるともいえるわけだが。

「ドン・デラにおけるドン・トロの一族についても説明しましょか?」

 オットル・オラがそう問いかけてくる。

「いや、まだいい」

 ハザマは短く答えた。

「今の段階では、それよりも塩賊をどう扱うのか決めるほうが先決だ。

 実は王都で、塩賊の使いを名乗る者から接触があり、そいつから洞窟衆ともよしみを通じたいと希望を述べられたのだが」

「むこうからそういって来たのであれば、無下に扱わない方がいいのではないでしょうか」

 というのが、オットル・オラの反応だった。

「敵対的な態度を取られるよりはよほど穏当な対応だと思うのですが」

「さらにいえば、塩賊の末端とは今の時点でも定期的に接触してます」

 タマルが発言する。

「洞窟衆でも、内部で消費する分に山地に運ぶ分、相応の塩を商品として扱っておりますので、自然と繋がりはできるわけですが」

 ハザマ領は海からも岩塩の山地からも遠く隔たっている。

 定量的に塩を入手しようとすれば、自然と塩賊との接触も発生するわけだった。

「その連中とはうまくやっていけているのか?」

「うまく、というか、普通の取引相手ですからね」

 タマルはそういって肩をすくめる。

「商品がなんであろうと適正な価格で取引がなされている以上、こちらとしても必要以上に敵意を持つべき理由がないわけで」

 タマルにしてみれば、洞窟衆とこれまで接触してきた塩賊たちはごく普通の取引相手に過ぎなかったと、そういいたいらしい。

「末端の者が善良かどうかは、組織の性質を決定づけるわけではないしなあ」

 ハザマとしては、そういうしかなかった。

「歴史的に見ても、塩賊は圧制者の敵で民衆の味方になることが多いですよ」

 テンロ教徒のメイムがそんな指摘をする。

「参考意見としてはそれでいいんだが、今問題にしているのは今後、塩賊がどう動くかだからなあ」

 ハザマは慎重な態度を崩さなかった。

「これまでと同じ態度を将来に渡って貫いてくれるといいんだが」

「その接触してきた者からは、洞窟衆とよしみを通じたいという申し出を受けただけなのですか?」

 オットル・オラがハザマに問いかけてくる。

「ああ」

 ハザマは軽く頷いてみせた。

「それと、おれがドン・トロの後継者を決めるようにともいわれた」

「……はい?」

 オットル・オラは目を見開いて絶句した。

「なんでそんな重要なことを、これまで黙ってきたのですか!」

 続けて、そう叫ぶ。

「なんでって、誰にも訊かれてなかったしなあ」

 のんびりとした口調で、ハザマが答える。

「訊かれなかったから、って」

 オットル・オラはそういったあと、しばらく口を開閉してから結局なにもいわずに黙り込んだ。

「男爵は、元々こういう方なのです」

 引き取るように、リンザがそんなことをいいだす。

「ことの重要さを今ひとつ理解できていないというか、緊迫感が欠けているというか。

 まだ洞窟衆に身を寄せてから日が浅い方々もこの場に居ると思いますが、男爵とはこういう人だと今のうちに諦めておいてください」

「お前なあ」

 ハザマが不満そうな声をあげる。

「人のことを残念な人間みたくいっているんじゃないよ」

「これまで男爵は正真正銘のかなり残念な方だと思っていましたが」

 リンザは澄ました顔で応じた。

「ひょっとして自覚がなかったんですか?」

「あの、いいですか?」

 ひとりの少女が片手をあげて発言してきた。

「このつど外交部門に配属された、キツフナ族のアッダといいます。

 現在洞窟衆が置かれている状況がだんだん理解できてきたところなんですが、それで外交部門としては今回具体的にどのように動けばいいのでしょうか?

 わたしたちは出席するように呼ばれたのでこの場に居るわけですが、これまで意見を述べる機会もありませんでしたもので」

 鉄蟻の件でハザマが山中にいったとき、帰りについてきた者のうちのひとりだった。

「そう、それも決めなくちゃならないんだ」

 ハザマはそういって大きく頷いた。

「ドン・デラの件については、もっと情報を収集した上で方針を決めるつもりだ。

 だから具体的なことを決定するのはもっとあとになるな。

 だけど洞窟衆が今後、王国に、あるいは塩賊に対してどういう方針で臨むかは、今のうちに決めておかなければならない。

 ええと、アッダといったっけ?

 アッダは、どうすればいいと思う?」

「え?」

 問い返されたアッダはそういったきり、絶句してしまった。

「新入りさんにいきなりそんな重要なことを訊くなんて酷なことはやめてください」

 リンザがそんなことをいいだす。

「だから男爵は残念な方だというのです」

「少し考えさせて貰ってもいいですか」

 リンザには構わず、アッダはゆっくりとはなしだした。

「ええと。

 ハザマ領は、山地と平地を仲介する重要な場所であると聞いてきました。

 そして、男爵様はメレディアス王国から爵位と領地を安堵された身でありながら同時に洞窟衆は中央委員によって部族民としても認められているとも。

 現在のハザマ領の繁栄はこの地理的な条件と特異な男爵様の地位によって支えられているというのが部族民側の認識です」

「大きく外してはいないな」

 ハザマはアッダの回答を訊いてから大きく頷いた。

「ただ、それだけでは不十分だというわけで」

「ハザマ領は単なる交易地に留まりません」

 リンザが続ける。

「そうした条件に加えて、異邦人である男爵の見識を利用した各種の商品を製造、販売しています。

 さらに、先ほどもいっていたように、書籍や通信という形で無形の情報なども取引の対象にしています。

 こんな場所は、大陸広しといえどもこのハザマ領以外には存在しないでしょう」

「ええ」

 リンザの言葉に、アッダは頷く。

「異論はありません。

 確かにこのハザマ領は、いろいろな意味で貴重な場所であると思います」

「その貴重な場所であるハザマ領をどうしたら今後も守り続けることができるのか。

 それを考えるのがあなた方外交部門の仕事になります」

 リンザはさらに続ける。

「対王国、対部族民、対塩賊はいうにおよばず、それ以外の諸外国とも対等な関係を結び、継続的に領地の安泰を守っていく必要があります。

 いずれかの勢力を敵に回すなとはいいませんが、本当にそうする必要があるのか、ほかの選択肢はないのかどうか、事前にじっくりと熟考する必要があります」

「それも、理解できます」

 アッダは頷く。

「今回、男爵様が王国首脳部による圧力に屈したように見せかけてドン・デラの件を引き受けたのも、無用な軋轢が生じることを避けるためなのですよね?」

「それもまああるんだが、それ以外に」

 ハザマは口を挟んだ。

「今のうちの陣容ならば十分に処理できる案件だと判断して、あくまで仕事として受けてきたという面もある」

「お仕事、ですか?」

「うちの兵隊さんたちは、強いぞ」

 ハザマはいった。

「なにせそこのファンタルさんが仕込んでいる。

 戦い方を知っているだけではなく、陣頭で指揮をすることができる下士官クラスの人員の数がかなり多い。

 単純な戦力というよりは頭も使える兵隊さんの数が、ほかの軍と比べると段違いに多いんだ。

 そうした頭も使える兵隊さんにうってつけの仕事がむこうから舞い込んできたんだから、多少の不愉快な状況は無視してでも受けておくべきじゃないか。

 幸いなことに、今回の件について、王国側は報酬をケチるつもりはないらしいし、純粋に仕事として判断するとそれなりおいしい案件ではあるんだよな、今回の件は」


 王侯貴族の上下関係についてイマイチうまく認識できなていないハザマは、王宮での自身の扱いについてなど、まるで気に留めていない。

 一種の小芝居とかコスチュームプレイのつもりでつき合って軽く受け流すことにしている。

 多くの貴族とは違い、王家に対して格別の思い入れがないハザマは、こうした依頼についても風変わりな、しかし太い金蔓にもなりえる依頼主としか認識していなかった。

 表面的にへりくだって見せればそれだけで安心してこちらを見下してくれる程度の相手には、その程度の認識しておくだけで十分だろうというのがハザマの判断である。

 そもそもハザマは貴族社会の中での栄達などを最初から望んでいないので、いくら脅されようとも受ける価値がないと判断できる依頼であれば突っぱねるくらいの気持ちは常に持っている。


「つまり、基本的な方針としては敵を増やさずに味方を増やす方向でいいわけですね?」

 アッダは、そう確認してくる。

「こういう方針は、いうほど生やさしい道筋だとも思いませんけど」

「だが、無制限に敵を増やしていってもいずれは行詰まる」

 ハザマは答える。

「たとえば、部族連合なり王国なりの力が今後極端に弱まったとしたら、洞窟衆はどう動きますか?」

「ケース・バイ・ケースだな」

 アッダの問いに、ハザマは即答した。

「相手の出方によるとしかいえない。

 できれば、洞窟衆の手助けなんか必要としないくらいには健在でいて欲しいものだが」

「王国側の事情はよく知りませんが、部族連合の方に関してはその勢力は絶賛地盤沈下中ですね」

 アッダはあっさりとそんなことをいった。

「そういう状況下でなければ、各部族も時期族長クラスの人材をわざわざ洞窟衆に派遣してきたりしませんし。

 願わくば同じ没落をするのでも、できるだけ穏当な没落の仕方をして欲しいものですが、こればかりは実際にそのときになってみないとどうなるのか判断できません。

 洞窟衆との交易も部族民たちにとっては文字通り死活問題になっていますから、当地の安寧を守ることにも全力を尽くすことにしましょう。

 しかし、現状ではやはり」

「情報が、圧倒的に足りないだろう?」

「はい」

 ハザマが水をむけると、アッダは軽く頷いた。

「塩賊のこと、王国のこと、その他の諸外国のこと。

 それぞれの内情をできるだけ詳細に知らないことには、それぞれに対して正しい判断を下し、正しい対応をすることができません。

 今の状態ですと、不透明な部分が多すぎるかと」

「で、諜報部門の出番になるわけだ」

 ハザマはオットル・オラたち諜報部門の出席者の方を振り返った。

「責任重大だし、王国に居たときよりは忙しくなるかも知れないが」

「せっかく拾っていただいた身。

 せいぜい身を粉にして働かせていただきましょう」

 オットル・オラはそういって深く頷いた。

「王国内の状況については文書化し、同時に人をドン・デラに派遣してそちらの情勢を探らせようと思いますが、それでよろしいでしょうか?」

「頼む」

 ハザマは短く答えた。

「必要な経費とかは財務部門と相談してやりくりしてくれ。

 とくにドン・デラ周辺の探索に関しては時間との戦いになると思う。

 すぐにでも人をやってくれ」

「心得ました」

 オットル・オラはそういってしばらく瞑目する。

 どうやら、通信術式を通じて細かい指示を飛ばしているらしい。

「で、諜報部門はそうして集めた情報を各部門に対して速やかに配布すること」

 ハザマはそう続ける。

「外交部門にせよ実戦部隊にせよ、それに通商部門にせよ、外部のより詳細な情報を欲しがっているのはどこも同じだ。

 少なくとも洞窟衆の内部ではそうした情報を滞らせることなく円滑にやり取りする習慣を今のうちからつけさせておいてくれ。

 なんなら、専任の植字工を確保していつでも印刷にかけられる体制を整えておいてもいい。

 経費はかさむが動きが悪くなるよりはずっとマシだ」

「洞窟衆内部の大まかな方針はそれでいいとして」

 それまで黙って一連のやり取りを見守っていたファンタルが、ここではじめて口を開いた。

「ドン・デラの件はどうする?

 具体的に、何名くらいの兵を動員するつもりだ?」

「できるだけ多く」

 ハザマは即答した。

「今回の経費や食糧は王国持ちにしていいとの了解を得ていますから、せいぜい派手に動かすことにしよう。

 それこそ、相手が戦意を喪失するほどの人数を揃えることができればそれが一番いい」

「領内の兵力を手薄にするわけも行きませんから、実際に派遣できる人数は自然と決まってきます」

 今度はイリーナが口を開く。

「ガンガジル動乱に参加し、その直後に引退を表明した者たちの分を補充するための人員がようやく育ってきたところです。

 最大に見積もってもドン・デラまで派遣できる人数は五百名を切るものと想定していてください」

「具体的な人数についての判断はそちらに任せる」

 ハザマは短く答えた。

「とにかく、できるだけ早くドン・デラに旅立てるように支度を進めておいてくれ」

「至急準備させます」

 イリーナはそういうと口を閉じて黙り込んだ。

 オットル・オラと同様に通信で関係各所に指示を飛ばしているようだ。

「外交部門では、当面の間、山地と王国、それに塩賊との関係をメインに対応していくということでいいのかな?」

 ニライア姫が確認してきた。

「外交部門はまだ立ちあがったばかりでみんな仕事に不慣れだし、実際問題として同時にいくつもの仕事に手を付けるほどの余裕もないわけだけど。

 特に最初のうちは、過大な期待をしないでくれると助かる」

「もともと性急に成果を求めるようなものではないだろう、外交ってのは」

 ハザマはいった。

「当面はハザマ領周辺に出入りしている要人たちの相手をしつつ、諜報部門からあがってくる情報の評価と整理をしておいてくれ。


 あ。

 あと、場合によっては何名か王都に行ってもらうことになるかもしれない」

「王都にですか?」

 ニライア姫は首をひねった。

「いったい、なにをしに?」

「王国首脳部との交渉に決まっているだろ」

 ハザマは即答した。

「ドン・デラの件は、流れによってはひどく複雑なことになる可能性もある。

 王国と、それに塩賊とも頻繁に交渉する必要が出てくるかも知れないからそのつもりで」

「そこまでこちらに回しますか」

 ニライア姫は露骨に不満そうな表情を浮かべた。

「それで、交渉事を丸投げしている間、領主であるハザマ男爵はどこでなにをしていらっしゃるおつもりなんですか?」

「ドン・デラに行くに決まっているだろう」

 ハザマはいった。

「戦闘は他人任せにしても問題はないが、ドン・トロの跡目を決めるのは他人に任せることができない。

 その仕事を押しつけてきた塩賊の手前もあるし、まずはドン・トロの四人の息子たち全員に直接面接するつもりだ。

 塩賊にもいって、そのための紹介状もすでに手配してもらってもいる」


 さらに詳細な内容についても打ち合わせを済ませ、仮庁舎の中はにわかに騒然としはじめた。

 会議に出席した人々も、当面こなすべき仕事が確定した者から会議室を出て足早に去っていく。


 ハザマはハザマでドン・デラ行きの準備のためにするべきことがあった。

 別に荷造りをする必要があるわけでもないのだが、その代わり、アズラウスト・ブラズニア公子やズレベスラ准男爵家との連絡も今のうちからそれなりに取って意思の疎通を図っておかなくてはならない。

 ブラズニア公爵領内で好き勝手な真似をされている形であるアズラウスト公子とはドン・デラにおいても共同してことにあたるという密約ができていたし、クリフやカレニライナの親類であるズレベズラ准男爵も現在のドン・デラ内の状況に対してなにやら思うところがあるらしく、自発的に自身の邸宅をハザマたち洞窟衆の滞在場所として提供してくれることを申し出てくれていた。

 ハザマにしてみてもどれほど逗留するのか不透明な状況下で宿屋に長期滞在するのはなにかと不自由なので、ズレベズラ准男爵の申し出は渡りに船といえた。

 実際には、准男爵の屋敷の中で転移魔法を活用して頻繁に人員や資料などのやり取りをすることになるのだろうが、とにかく都合のよい活動拠点を確保できたことは素直にありがたかった。

 謝礼としていくばかの金品を用意する必要があり、そいうした手配などもする必要がある。

 ハザマ領の方は、そろそろ領内自治のために必要な人材が育ちつつある時期に差し掛かっており、さらにいえばこれまでも数日ハザマが領地を留守にすることも決して珍しいことでもなかったので、今さら新たに手配すべきことはなにもなかった。

 そもそもハザマは、領内に在住しているときも必要以上に領主としての仕事に精を出すような性格でもなく、普段からして他人任せにできる仕事は積極的に他人に任せてきている。


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