表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

352/1089

異物との対話

 ハザマは、兜の覗き窓越しに改めて周囲の様子を確認してみる。

 本陣、とはいうものの、天幕さえ使用していない青天井の地べたを大きな布で区切っているだけの空間だった。

 ハザマの周囲には敵意と警戒心を露わにした、「動ける」スデスラス王国の兵士たちが取り囲んでいる。

 それ以外の、元からこの本陣の中にいた者たちの多くはバジルの能力の影響によって動きを止めていた。

 多くの机の上に乱雑に書類などが置かれ、大きな黒板に、おそらくは現在の戦場の様子が略図で描かれている。

 そこにいる者たちが不自然な格好で動きを止めていることを除けば、それは野営地に居るファンタルが詰めている場所とたいして変わらない様子であった。

 そして、敵軍の首魁であるエデチエル伯爵は、くつろいだ様子でハザマの反応をうかがっている。

 むしろ、敵であるはずのハザマとの会話をむしろ面白がっている風でさえあった。

「元はといえば、あなたががわ国王陛下の野心に火をつけたのですよ、ハザマ男爵」

 エデチエル男爵はそんなことをいいだした。

「おれが、だって?」

 ハザマは軽く顔をしかめた。

「おれはスデスラス王国なんかには、なにかしたおぼえがないぞ」

「スデスラス王国に直接干渉をしたわけではありませんが、あなたの言動の結果としてメレディラス王国は近年まれなほどに活気づいております。

 部族連合を本格的に退け、その他にも経済的にもかなり活性化しております。

 このような様子を見て、近隣の諸国がどのような危惧を抱くものか。

 貴君には、想像できませんか?」

「危機感を受けたから、他国の侵略をはじめたってのか?」

「それだけが原因だとは申しません。

 それ以外にも、あなた方洞窟衆が発行した各種の魔法教本、それに火薬の製法などがおおやけになったことが、それらをうまく活用しさえすればなんとかなるのではないかという希望となったのです。

 幸いなことに、国王陛下を中心として強権を発動できるわが国の体制は、短期間のうちに準備を整えることには都合のよい社会体制でしたので」


 もともと領土的な野心を持っていたところに、結果として、であるが、ハザマが与したことにより、より大きな力をつけつつあるメレディラス王国の存在が、スデスラス王の猜疑心を煽る。

 スデスラス王だけではなく、そのメレディラス王国に将来侵犯されることをおそれ、対抗するためにより大きな力を欲はじめた近隣諸国は、当然存在するのだろう。

 それ以外に、洞窟衆が配慮もなしに通信術式の存在や魔法のマニュアル、火薬の製法などを広め、戦争に便利な道具の数々を手段として提供してしまった。

 これらの要因が重なって、スデスラス王国が一連の侵略行為を実行に移した、大きな動機となっている。

 と、エデチエル伯爵はいいたいらしかった。


「だからといって、何万、何十万単位の人命を犠牲にしてまで行う価値があることなのか?」

「それも、あなた方の干渉があったからでありましょう」

 ハザマの反駁にも、エデチエル伯爵はあくまで動じない。

「あなた方混合軍とやらがこの地の情勢に干渉することがなかったら、ガンガジル王国はほとんどなんの抵抗も受けずに三カ国を併呑し、部族連合も合同しての経済圏を築くはずでした。

 あなた方がこの土地に来るまでは、現に成功しかけていた。

 逆にお聞きしますが、なんだってあなた方混合軍はこんな遠国にまで遠征して来たのですか?

 ごく普通に考えれば、このような長距離におよぶ出征は、よほどの利権がなければまるで収支があわない。

 三カ国の人間や山岳民たち、あるいはガンガジル王国などの地元の民にとっては切実な問題でありましょうが、あなた方遠国の人間にとっては完全に他人事ではないですか」

 ハザマたち混合軍が干渉したから、ここまで事態がこじれ、結果としてこのスデスラス王国対ガダナクル連邦の決戦を、いいかえれば、多くの死傷者を出す合戦を生んでしまった。

 エデチエル伯爵は、そう主張したいらしかった。


「平行線だな」

 ハザマはそういって軽くため息をついた。

 理屈ではないのだ。

 立ち位置が違えば、見ている景色もまた違って見える。

 この場でどちらがいいとか悪いとかいいだしも、不毛ないい争いになるだけだろう。

 と、ハザマはそう判断する。

「そのようですね」

 エデチエル伯爵も、軽く頷く。

「今は、言論よりも実力で争うべき時期にあります。

 あなたが多くの部下を行動不能にしてしまったため、現在の戦況を即時に把握できないのが残念ですが……小官が予想するに、あなた方ガダナクル連邦には、わがスデスラス王国軍を完全に撃破するだけの決定打となるものを持っておりません。

 あなた方の軍が壊滅するのも、いずれ時間の問題でしょう」

 それは、膨大な費用と人力を費やして大軍をここまで運んできた、エデチエル伯爵の自負から出た言葉だった。

 スデスラス王国軍の一番の強みは、新規な兵器や通信や付与魔法などではなく、身も蓋もないただ膨大だというだけの物量なのである。

 ただ、この物量を追い返すことは、現実にはかなりの難事ともいえた。


『正面の敵軍、そろそろ強弓の射程圏内に入ります!』

「強弓隊、射撃準備!」

 観測班の通信を受けて、小隊長が号令をかけた。

『先頭が、射程圏内に入りました!』

「放てっ!」

 号令にあわせ、膨大な矢が空中に放たれる。

 強弓隊は、急造の部隊だ。

 付与魔法を使用した兵たちに強弓を持たせて、とにかく上空に矢を放たせる。

 そうした強弓は通常の弓矢の三倍以上もの射程を誇り、そして命中した際の貫通力もかなり強力だった。

 その代わり、よほど熟練しなければまず狙った的に命中することはないのだが……今回の場合、個々の標的にむけた精密射撃をする必要がないので、この点はまるで問題にならない。

 彼ら強弓隊の一番の目的は、途切れることなく弾幕を作り続けることである。

 数を撃てば当たる、を地でいき、一人で多くの敵兵を死傷させ、戦闘不能にすることであった。

 連弩やクロスボウなどの機械式の弓は、一度発射すると次弾を装填するのに時間がかかるため、こうした作業には向いていないので、結果として彼らは通常の形状の弓の素材を工夫し、ただ単に復元力を数倍にした強弓を使用することになる。

 付与魔法を使用した者がようやくと引ける、扱いの難しい弓だったが、命中精度が優先されないこのような場では問題なく使用することができた。


 放たれた矢は物理法則に従ってスデスラス王国軍の頭上へと降り注ぐ。

 彼らスデスラス王国軍も、ここに達するまでにすでに多くの危難に遭遇し、多くの僚友を失ったあとであった。

 隊列、などはすでに崩れ切っており、将校が発するワンパターンの号令に従って、ただひたすら野営地へと進むだけの存在となっている。

 これまで、爆発や罠、それに毒薬などで倒れていく僚友たちの姿を身近に目撃してきたスデスラス王国軍は、すでに当たり前の恐怖心が麻痺している状態だった。

 いや、根本的な恐怖心が依然として存在するのだろうが、それが表面化すると精神の均衡が保てなくなる、ということを本能的に察知し、一時的に判断力を麻痺させていた。

 そうでなくては、突如爆発する地面や頭上から降り注ぐ火弾や礫弾、それに、数十名からの人間が原因もわからずに唐突に倒れてそのまま動かなくなるような不可解な現象を目の当たりにし、なおかつ、自分自身もいつ同じ目に遭遇するのかわからない現在の状況を受け入れることができない。

 彼らが命令に従って野営地へと走り続けるのは、そうした恐怖心を紛らわせるためでもあった。

 あるいは、これまでに様々な死に様をしてきた僚友たちと同様の目に遭えば、この恐怖からも逃れることができる、などという倒錯した心理に支配されているのかも知れない。

 そんなスデスラス王国軍の頭上に、強弓隊が放った矢が容赦なく降り注ぐ。

 盾を手にした兵も少なからずいたのだが、まだ弓矢が届く距離だとは思っていなかったので、頭上に掲げて矢を防ぐことをしていない。

 また、スデスラス王国軍はほとんどすべての兵員に鉄兜を支給していたのだが、この鉄兜は通常の矢を弾くことはできてもこの強弓の運動量を完全に殺すことはできなかった。

 強弓によって放たれた屋は、鉄兜のひさしをたやすく貫いた。

 頭頂部に矢が命中したものは、兜を貫いた鏃が頭蓋骨までは貫通できずに、結果として軽傷で済んだ。

 しかし、鉄兜のひさしを貫いた矢が顔面、ことに眼に命中した兵士などは、激痛のあまり顔面を自分の手を覆ってその場に転げ回る。

 そして、無防備になったその胴体部分へも矢が降り注ぐ。

 これまで、頭上から振ってきたガダナクル連邦側による攻撃とは違い、強弓による攻撃は局所的なものではなく、左右一帯に対して行われた。

 また、降り注ぐ矢はいつまでも途切れることなく続いたので、ここでまたスデスラス王国軍は大量の犠牲者を出すことになった。


「さて、矢と射者たちの体力が、どこまで保つか」

 誰にともなく、ファンタルは呟く。

 これまでのところ、ガダナクル連邦側はあまり犠牲者を出さずに多くの敵兵を倒している。

 可能な限り近接戦を避け、敵軍の射程圏外から一方的に攻撃するようにしているから、当然といえば当然の結果だった。

 ただ、問題なのは……。

「この強弓を抜けられると、あとはガチで殴り合うしかない」

 ということだった。

 ここまで敵軍に対してかなりの犠牲を強いてきたとはいえ、健在な敵兵はまだまだ多い。

 正面から殴り合って勝てると思えるほどの戦力比には、まるで届いていない。

「現在の敵兵の予想数は?」

「二十万から二十五万前後かと予想されます」

 ファンタルの問いに、幕僚の一人が即答した。

 どこまで信頼できる数値なのかはわからなかったが、それでも半分近くは減らしているのか。

 そこまで減らしても、敵との戦力差はようやく五倍前後。

「差し違え、というのはあまり趣味ではないのだがな」

 ファンタルは、小声で呟く。

 最悪、そうするしかないだろう。

 この場に居るガダナクル連合の関係者全員で、ぎりぎりまで敵兵の数を減らす。

 おそらくこの場では勝利を拾えないだろうが、そこまで敵軍を消耗させれば、あとは現在別の土地に居るやつらが残務処理をしてくれるはずだ。

 なにせやつらスデスラス王国軍は、補給線というものを構築していない。

 長期線になればなるほど、やつらの勝ち目は薄くなるはずだ。

 それどころか、どこか近場の拠点を占拠して、まとまった食料を入手しなければ、放置しておいても餓死する。

 いよいよ本格的にガダナクル連合軍の戦線が崩壊してきたら、この野営地近辺にある食料もすべて爆破して敵軍に利用できなくなるよう、指示も出していた。

 あとは。

「……そこまで追いつめられる前に、なんらかの要因により状況が変わればいいのだがな」

 これも、誰にも聞かれないような小声で、そっと呟く。

 総司令官が運に縋るようでは、眼も当てられないな、と、ファンタルはそんなことを思った。


 ファンタルが望むような変化は、戦場ではなくもっと遠く、スデスラス王国の王城内部で起っていた。

「捜せ捜せ!

 王族は、一人残らず捕らえよ!」

 ワデルスラス公爵は大声で部下たちを叱責し続ける。

 現在、スデスラス王国の国土は幾つかの勢力によって浸食されている最中であった。

 それはさながら、陣取りゲームにも似た様相になっている。

 とににスデスラス王国に侵攻してきた勢力同士が鉢合わせをすることもあったが、入ってきた報告による、そうした場合もお互いに進路を変更して別の土地を目指しているようだった。

 侵攻してきたどの勢力にしても、あくまで、

「現在のスデスラス王国がほとんど抵抗らしい抵抗をしないため」

 この侵攻を行っている、という事情がある。

 他の軍勢と直接交戦をしてまで領土が欲しい、というわけでもないのだ。

 そんな交戦をしている間に、手つかずのほかの土地が別の勢力のものになってしまう可能性の方がよほど大きかった。

 そんな中、ワデルスラス公爵率いる軍勢は効率的にスデスラス王国内の村々を訪れて説得し、着実にその領土を入手していた。

 税制上の優遇措置などをちらつかせ、ごく短時間のうちにスデスラス王国の庇護から離れてワデルスラス公爵家の庇護に入るよう、説得していったわけである。

 そうした作業は部下たちにまかせ、ワデルスラス公爵自身はみずから一軍を率いて王城内部へと侵入し、スデスラス王族の一党を身柄を押さえようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ