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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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開戦の前

 ただ、今回の場合は……。

 と、ハザマは様々な不安要素についても考えてみる。

 三ヶ国それぞれの事情が、どうも複雑だからなあ。

 そいつが、どう影響してくるのか……。

 居留地に残った人たちは、単純にガンガジル王国軍を国内から排除し、以前通りの秩序を取り戻すことを望んでいるようだ。

 しかし……。

 現在、三ヶ国内に居住している人々が、ガンガジル王国の支配を望んでいたとしたら……混合軍は、果たしていったいどういう行動を取るのだろうか?

 いや、「現在、三ヶ国内に居住している人々のすべてが」とはいわないまでも、国内での意志の統一が取れず、内乱の様相を呈してきたとしたら……混合軍はいったい……。

「……まあ、反ガンガジル王国派に荷担するんだろうけどさ」

 それはそれで、内政干渉にあたってしまうのではないか、と、ハザマは思ってしまう。

 この世界にも、以前にハザマが居た世界の基準を当てはめてしまうのもどうかと思うのだが……。

 現実は、そんなに白黒がはっきり色分けされているわけでもないしなあ……と、ハザマはそう思う。

 いずれにせよ、一番困るのはこれから戦場となる場所にたまたま居合わせた人々であることは、確かなのであった。

 ……市街戦なんてもんは、できれば避けたいんだけどなあ……。

 というのが、ハザマの本音である。

 戦争なんて、やりたがっているやつら同士で勝手にやればいい。

 ハザマにとってははなはだ不本意なことに、日々送られてくる偵察隊からの報告に目を通す限り、今回の件は三ヶ国内に潜在していた勢力争いを顕在化し、これから内乱を誘発しそうな雰囲気がかなり濃厚に漂ってきている。


「問題は、戦後だよなあ」

 戦争を終わらせれば、すべての問題が解決する……というわけではないのである。決して。

 三ヶ国の中にも矛盾や火種があることはすでに表面化している。

 仮に混合軍がガンガジル王国を退けることに成功したとしても、そのあとはどうするつもりなのか?

 半永久的に混合軍を三ヶ国の周辺に駐留しておくことは、戦費のことなどを考えあわせると、どうみても非現実的だ。

 つまり、三ヶ国はこれ以降、容易に他国に侵攻させないだけの軍備を整える必要があるわけで……ただでさえあまり豊かではない国々なのに、本当にどういう結末を想定しているのだろうか、と、ハザマは疑問に思っている。

 居留地に居住する三ヶ国の人たちは、ガンガジル王国の軍さえ押し返せば旧態に戻ると単純に考えているようだ。

 が、ハザマなどは、

「そんなに単純なものではないだろう」

 と思ってしまうのだ。

 彼ら、居留地の三ヶ国人たちが帰る頃には、故郷の姿は大きく変容しているのではないか?

 まあ、仮にそうなったとしても……洞窟衆への報酬は混合軍が負担してくれることになっているので、ハザマたちは損をしないような契約にはなっている。

 予想外に戦費が嵩んだ場合には、最悪数年、ないしは十年以上の分割払いになることもあり得るだろうが……相手が歴とした国家ばかりなのだ。

 万が一にも取りっぱぐれはないだろう。

 とはいえ、いつまでもそちらの方面にばかりにこちらの一軍を置いておきたくはないので、洞窟衆としては短期終結を望んでいる。

 混合軍は、当然のことながら、早期終結とそれ以降、三ヶ国周辺が無駄に騒がしくならないことを望んでいるだろう。

 そのすり合わせ、あるいは、資金繰りについて、司令部では意志の統一が取れているのだろうか?

 この点についても、早めに確認しておかなければな、とか思う。

 長期的な返済になったとしても、金利も貰うわけだからこちらとしても決して損をする一方ではない。

 いや、それ以前に、今回の件では別の収入源もしっかりと準備しているので、この先どう転ぼうとも損はしないことになっているわけだが。


「ただ……」

 各陣営がそれぞれ理想としている着地点が、微妙にズレているからなあ、今回の場合。

 部族連合の上層部は、ガンガジル王国の野望が潰えて独立した十五部族がこのまま孤立、あるいは部族連合に再吸収されることを望んでいる。

 王国や居留地総司令部に集まっている人々は、三ヶ国内からガンガジル王国軍を一掃して旧態然とした秩序を取り戻すことを、三ヶ国内では、どうやら一口では説明できないほどに複雑なことになっているらしい。

 すべての希望を満足させるような解決策を提示できればベストなわけだが、まず無理だろう。

 現実問題としては微妙に矛盾している希望もある。

 その中で、なるべく不満が出ないような着地点をどういう風に作りあげるか、という勝負になってくるわけで……。

「まあ、なんとかなるだろう」

 ハザマは、そう結論する。

 多少の不安材料はあるわけだが、全体としてみるとさほど厳しい状況でもない。

 ただ、この先本格的に戦争がはじまってしまえば不確定要素はいくらでも出てくるであろうから、まだまだ安心はできないわけだが……。

 おれまでに洞窟衆が経験してきた騒動の中では、混合軍の指揮権がこちらに渡されれている分、難易度が低い案件だとも思う。

 いざとなれば、こちらの判断で自由に判断し、動けるからだ。


「……ということで、本格的な戦争に突入する前に総司令部内の意向を統一しておいて欲しいんですけど」

 翌日、分厚い報告書の束を前にしたハザマは、総司令部の会議室でそう切り出した。

 いざ戦闘がはじまってから「どの陣営に味方をするのか」を協議するようでは明らかに遅いのだった。

「特に、三ヶ国の方々には、よく考えた上で結論を出していただきたい」

 そうつけ加えることも、忘れなかった。

「それは……つまり、国内のどの勢力に荷担するのか、ということかね?」

 ガルメラ貴族が気まずそうな表情で発言した。

「それは無論、王族派を後押しするべきだと思うのだが……」

 そういって、その場に集まった居留地の人々の顔を、その思惑を伺うように見渡した。

 確かこの人、例の報告を受けたとき、真っ先に感情的な反応をした人だったよな……と、ハザマは思い返す。

「その点も改めて確認しておきたかったのですが……」

 ハザマは続ける。

「……それ以外にも、微妙な判断が要求される局面が意外に多くて、ですね。

 現在現地に入っている偵察隊が、たとえばガルメラ内におけますと有力貴族のいくつかと接触をしている状態なわけですが、そうした貴族の方々がどこまで本音を出しているのか判断をするすべがないわけです。

 最終的には、ガルメラ内部の内情に詳しい方に判断をしていただくことになると思いますが……」

 偵察隊の目的は、あくまで情報収集に限定すべきなのだ。

 そうして集められた情報を目前として最終的な判断をくだすのは、あくまでこの司令部でなくてはならない。

 今回のようにその決断がどのような結果を導くのか容易に予想できない状況下では、なおさら現場の者にその判断を委ねるようなことをしてはならないというのがハザマのスタンスだった。

 そうした決断をくだし、最終的に責任を取るのがこうした司令部の一番の責務なのではなかろうか?

「場合によっては、このわたしが故国に入って判断した方がいいというのか?」

 ガルメラ貴族はそういったあと、気まずげにおし黙った。

「別に強要をすることはありませんが、あとで後悔をしたくないのならそうした方がよろしいかと」

 ハザマはあっさりと返答した。

「これは別にガルメラだけに限ったことことではありません。

 これまでに収集した情報によりますと、三ヶ国の内部では、ガンガジル王国軍の進出によっていくつかの派閥ができ、様々な思惑が錯綜しているようです。

 そのうち、どの派閥と手を組んでどの派閥を排斥するのか。

 この判断はあくまでこの総司令部で行っていただきたい」

 一言でいうと「洞窟衆ではそこまでの責任は取れないし、取るつもりはない」ということである。

 今回、洞窟衆が引き受けたのは混合軍を指揮してガンガジル王国軍を三ヶ国内から一掃する……この一事のみ。

 それ以上の仕事をするつもりはない、という意思表示でもあった。

「ガンガジル王国軍の排斥だけでも、実に大変なお仕事ですからね」

 マヌダルク・ニョルトト姫が柔らかい口調でいった。

「普通に考えると、これだけ広域に展開しているガンガジル王国軍を排除するのはかなり難しいはずなのですが……」

「提出済みの作戦企画書をご覧になっていただければおわかりになる通り……その点につきましては、まるで心配していません」

 ハザマは断言した。

「いくら人数が多くても、これだけ広い範囲に散らばっているのならば、個別撃破をするのは実に容易い。

 いや、これはおれだけの意見ではなく、今回指揮官を務めているうちのファンタルも同じ判断をくだしています」

 なにより、こちらにはむこうにはない「通信術式」という大きな武器がある。

 通信術式の使用を前提として高速で移動しながら、各部隊の連携を計る、というのがファンタルが提出した作戦案の骨子である。

 旧態然として横の連絡を欠くガンガジル軍ではそうした動きには対応できず、そのまま撃破されるだろうとファンタルは予測していた。

「軍事のことは専門外ですから、この場ではその判断を信用することにします。

 どのみち、実際に戦端が開かれてしまえば、その当否は否が応でも明瞭になるわけですから」

 マヌダルク姫は落ちついた声で応じる。

「つまりハザマ様は、戦後の三ヶ国の姿をどのようなものにするのかこちらの司令部で選んでくれと、そうおっしゃるわけですね?」

 やはり、このお姫様は年齢の割には聡いなあ、と、ハザマは思った。


 そんな重大事がその場ですぐに結論がだせるわけもなく、その件については総司令部預かりという扱いといなった。

 この時点で、ファンタル率いる部隊は明日にもガンガジル王国の国境に到着するところまで先行している。

 他の混合軍についていば、そのファンタル隊に追いつくまでまだ五日以上かかるということであった。

 つまり、実戦がはじまるまでにはまだいくらかの時間があり、結論を出すまでにもまだ少し余裕がある。

 総司令部が最終的にどのような結論をくだそうとも、洞窟衆が行うべき仕事はさして変わりばえしないのであるが。

 総司令部を出て仮庁舎の執務室に戻ったハザマは、各所に連絡をして各部署の首尾を確認した。


『出荷については、今のところ順調です。

 混合軍本隊についているものの他にも、半日から一日の距離を空けていくつかの輸送隊を送り出しています』

『技師たちの召集も完了しています。

 いつでも順番に現地に移動できます』

『こちら偵察隊、ガルメラのフォノン支部。

 現在のところ、王国軍に目立った動きはありません』

『こちら偵察隊、アジエスの……』

『こちら偵察隊、ブリュムルの……』


「ここまで、順調に行きすぎているな」

 状況を一通り確認したあと、ハザマはそう呟いた。

 順調なことを嘆くのもおかしいのだが、なんといってもガンガジル王国がまだ大きな動きを見せていないことを不気味に感じた。

 三ヶ国やその周辺国が、このまま無抵抗のままでいるとでも思っているのだろうか?

 だとすればあまりにも無邪気だと思うし、それ以外に混合軍の動きを警戒していない理由があるのならば一刻も早くそれについて調べ、把握する必要がある。

 ハザマは各所の偵察隊にむけてそうした意向を伝え、ガンガジル王国軍とその周辺の事情を改めて調査するように要請した。


 そしてついに、ファンタル率いる先行部隊が国境を越え、ガンガジル王国の領土内に侵入した。

 とはいえ、国境際で激しい戦闘行為があったわけでもない。

 ガンガジル王国はその領土のほとんどが乾燥した、不毛ともいえる大地であり、国境にもいちいち護衛を立てているわけではない。

 ファンタルたち先行部隊は誰にも見咎められることなく無防備の土地に入り込み、そのまま野営の準備に入っただけだった。

 それと平行して、ファンタルはネレンティアス皇女の配下に指示を出し、転移魔法でハザマ領から十名ほどの者たちをその場に移動させる。

 彼らは、井戸掘り職人だった。

 もちろん、井戸掘りに必要な機材もあわせてハザマ領から運び込んでいる。

「……ずいぶんと乾燥した土ですな」

 転移直後、職人のひとりがその場にしゃがみ込んで地面の土塊をまさぐりはじめた。

「乾燥した、というよりは水はけがよすぎる土質なのか。

 水を含んでいない分軽くて、かえって掘りやすいくらいです」


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