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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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アリョーシャとの会談

「お出迎えに感謝します」

 中央委員のアリョーシャは輿に乗ったまま、まずはそういった。

 それから合図をして輿を地面に降ろさせ、みずからの足で大地を踏む。

 落ち着いた様子で周囲を見渡し、バツキヤが居ることに気がつくと、

「あなたは、そこに落ち着いたのですか」

 と声をかけた。

 特に咎めるような口調でもなかった。

「子細がありまして、今では洞窟衆の世話になっております」

 バツキヤはアリョーシャから目を逸らさず、平静な声でそう返す。

「そうですね」

 アリョーシャはそういって、しばらく一人で頷いていた。

「今のあなたにとっては、なかなかいい選択なのかも知れません」

 それからアリョーシャはハザマの方に向き直り、

「今回、会見の場を設けていただいたことに感謝をします」

 と、いった。

「生憎と、おれたちは部族連合の有力者を門前払いをできるほどの大物ではないもので」

 ハザマは憮然とした表情を隠そうともせずに、そう応じる。

「詳しいことは、こちらの中ではなすことにいたしましょう」

 そういって、ハザマは会見場所として指定された小屋の中にアリョーシャたちを案内した。


「それで、改めてこうした会見を申し込んできた用件というのは、一体どういうものなのでしょうか?」

 一堂が席に着くなり、ハザマはまずそう切りだした。

 クリフが例によってメキャムリム・ブラズニアから分けて貰った上等の香草茶をいれてみんなに給仕している。

「早速本題に入りますか」

 アリョーシャは柔らかくほほえんで、ハザマの性急さを受け止める。

「今回、洞窟衆と交渉したい事項は二つほどあります。

 ひとつは部族連合の中央委員としての公用であり、もうひとつはわたくしアリョーシャ個人の私用です。

 どちらを先にお聞きになりますか?」

「アリョーシャ……様の、私用、ですか?」

 ハザマは訝しげな表情になる。

 今さら、この人が洞窟衆なんかにどんな用事があるというのか。

 興味が引かれるところではあったが、ここでは……。

「まず、中央委員としての公用の方からおうかがい致しましょう」

 ハザマは、そう答える。

 そちらの用件の方が、なにかと面倒くさそうだ。

 第一、何事かを引き受けるとなったら、早々にその手配にも手を着けなければならない。

 準備にかかる手間などを考えると、早めに聞いて準備をしておきたかった。

 ちなみ、タマルはこの場には居なかったが、通信を通じてここでのやり取りには聞き耳を立てており、なにか意見があったらいつでもハザマに伝えられる体制を整えるという形でこの場に臨んでいた。


「そうですね。

 そちらが先の方がいいでしょう」

 そう前置きして、アリョーシャは用件を切りだしてくる。

 聞いてみれば、なんのことはない。

 食料の定量的、定期的な供給を洞窟衆に依頼したい、とのことだった。

 そのときどきの穀物の相場にくわえ、運送料金と手間賃をプラスした程度の料金で引き続き、部族民に安定した供給を行って欲しい、という要望であった。

 これはある程度予想していたところでもあり、現在、洞窟衆が通常に行っている商行為でもある。

 ただ、部族連合としてはなんらかの言質を取り、将来、洞窟衆がなんらかの事情で食料の供給を停止する可能性をいくらかでも制限しておきたかったのだろう。

 現在のところ、部族民側の外交政策の失敗と地政学的な事情から、外部から食料を買い入れる経路はかなり限定されている。

 今、洞窟衆に見放されたら、かなり大勢の民が餓死することにもなりかねないわけで、念を押しに来たくなる気持ちはハザマにも理解ができた。


「もちろん、今後もよほど事情が変わらなければ、食料の供給は引き続き続ける方針ですが」

 一応、通信でタマルに確認を取ってから、ハザマはそう返答する。

 他国から買い入れた最低品質に近い古い在庫が、山岳側に流すだけで相応の現金に化けるのであるから、この食料の供給は商売としても決して悪いものではないのだった。

 実のところ、運搬の手間を考えるとそこまでおいしい商売でもないのだが、それでも定期的に供給し続ければ、かなり大量の人員に職場を与えることになる。

 利益率的にはともかく、洞窟衆内部の雇用を安定して確保するための仕事としては、かなり有用なのであった。

 このまま大きな情勢の変化とかがなければ、洞窟衆としては手を引くべき理由もない。

「なんなら、契約なり条約なりの形で明文化しておいた方がいいですか?」

 ハザマは、そう問い返す。

「いえ、そこまでする必要もないでしょう」

 アリョーシャはハザマの申し出を断る。

「今後、周囲の情勢がどのように変わるかも予測できませんし……。

 今の時点では、通常の商取引を継続していただけるという意志が確認できさえすれば、それで十分です」

 思い返してみれば、洞窟衆は各部族とは直接取り引きしたことはあっても、「部族連合」と直接意志を交換した過去がない。

 事実上、今回の交渉がはじめてなのである。

 ……そりゃあ、一度ちゃんと顔を合わせて交渉したくもなるか……。

 と、ハザマは内心で今回の会見について改めて納得した。


「公用というのは、その件だけですか?」

「ええ、今の時点では」

 アリョーシャはあっさりと頷いた。

「ハザマ様も、王国から正式に貴族の称号を下賜されることが決定したそうですが、今の時点では王国貴族というわけでもありません。

 部族連合が洞窟衆の首領に対して求めることがそんなに多くあっては、こちらが困ります」

 洞窟衆を頼りにし過ぎるほどは、困窮していない。

 と、いいたいらしかった。

 それからアリョーシャは、

「立場が立場ですから、ハザマ様が貴族となることは素直に喜べませんが」

 とつけ加えることも忘れなかった。


「……それで、もうひとつの私用というのは?」

 公用というのが思いの外あっさりと片づいたので、ハザマはもうひとつあるアリョーシャの用件について尋ねてみた。

 実をいうと、中央委員のアリョーシャが洞窟衆なんかにどんな「私用」があるのか、かなり興味をそそられていたのである。

「お恥ずかしいはなしになりますが……」

 アリョーシャはまっすぐにハザマの顔に視線を見据えながら、語り出した。

「わたくしにはザメラシュという不肖の息子がおります」

「存じあげております」

 ハザマは頷く。

 というか、この界隈でその名前を知らない者の方が、今では少数派であろう。

「ザメラシュの吶喊」といえば、今では、「無駄働き」かあるいは「まったく成功する見込みのない仕事に全精力を傾ける愚行」と同義語になってしまっている。


「そのザメラシュ氏が、なにか?」

 ハザマが漏れ聞いたところによれば、あの無駄な突撃を指揮したザメラシュは、即座に王都に送られて激しい尋問を受けているはずだった。

 ひょっとしたら、公表されていないだけですでに獄死しているかも知れない。

 いずれにしろ、ハザマの認識では、そのザメラシュとやらはとっくに「過去の人」として分類されている。

 よほどのことがない限りは、そのザメラシュは今後、日のあたる場所に出てくることはないだろう。と、多くの者がそのように予想していた。

 続くアリョーシャの発言は、その場に居合わせた者に少なからぬ衝撃を与えることになった。

「近く、他の囚人とともに、この辺地へ送られてくる可能性があります。

 いえ。

 そうなる可能性は、かなり大きい」

 その発言が意味することを完全に理解するまで、ハザマは何度か呼吸をする必要があった。

「そんなことが……あり得るのですか?」

 しばらくしてハザマは、押し出すような口調でそういった。

「十分に、あり得ます」

 アリョーシャは平然と頷く。

「王国の慣例によれば、ある程度重罪の囚人には強制労働を強いることになっています。

 その労働力を今一番、王国内で欲しているのは、居留地の建築がはじまったこの土地です。

 現に、ザメラシュとともにあの吶喊に参加した将兵はすでにこの地で働かされております。

 どうしてザメラシュのみがその例外でいられることがありましょうか」

「いや、でも……」

 ハザマは、混乱する思考をなんとか統御しようと試みながら、あえて反論をしてみる。

「……彼は……今、王都で尋問を受けていると聞いていますが……」

「尋問をされても、なにも出てこないでしょう」

 アリョーシャはそういって、哀しげな表情をして顔を伏せた。

「あの子は愚かな子です。

 根拠のない虚栄心と野心以外になにも持っていません。

 しばらく尋問されれば、あの子が深謀遠慮とかは無縁な、思いつきだけで動く底の浅い人間だということはすぐに明瞭になると思います」

 実の息子に対して、いいたい放題だった。

「あの子の無能さに関しては、そこのバツキヤがよく知っているはずですが……」

 アリョーシャはバツキヤの方に顔をむけて、そうつけ加える。

 ハザマもつられて、バツキヤの方に視線をむけた。

「……ええっと……その……」

 注目されたバツキヤは、若干表情を強ばらせながら、そう断言した。

「アリョーシャ様の、ザメラシュ氏への評言は、おおむね正しいかと思います」

「つまり……」

 ハザマは、かなり不機嫌な顔になってそんなことをいい出した。

「母親であるアリョーシャ様の前でこういうのもなんですが……そのザメラシュ氏というのは、単なる思いあがった馬鹿なわけですか?」

「ザメラシュは、確かに、思いあがった馬鹿です」

 アリョーシャは表情を変えずにハザマの評価を裏づける。

「血筋がよくて外見がそれなりに整っているのと、それに、口がうまいので……なぜか、若い者を中心に人望があったのですが……。

 その結果が、あの吶喊です」

「それで、そのザメラシュ氏がこの土地にやって来ると仮定して……」

 ハザマは今一度、アリョーシャの用件を確認してみる。

「……われら洞窟衆に、アリョーシャ様は、いったいなにを頼みたいわけですか?」

「近く、強制動労を強いられる囚人の扱いは、洞窟衆に委託される予定だと耳にしています」

 アリョーシャは、さりげなく王国内でもごく一部の者しか知らない情報を開示して見せた。

 中央委員の耳目となる人員には事欠かないのだろうな、と、ハザマはぼんやりと思う。

「王都からザメラシュが送られてきたおりには、なにとぞ、彼の身の安全だけでも守っていただきたい。

 直にお願いしたいと思い、ここまでやってきました。

 愚かだとお思いでしょうが、あんな不出来な者でも血を分けた実の息子です。

 みずからが招いた愚考のツケは自分で支払うべきだと思いますが……せめて、命の保証だけはしていただきたい」

 ハザマは、目を細める。

「というと……ザメラシュ氏は誰かに命を狙われる可能性があるわけですか?」

「戦時に捕虜となった者たちの間で、元部下であった者が無能な指揮官を嬲り殺しにするという事件は、決して珍しいものではありません。

 生死を分ける判断をする者と、それに従うしかない者。

 その両者が同じ捕虜という立場で混在を強制させられるわけですか、そうなるのも無理はありません」

 アリョーシャは淡々と説明する。

「今までは、皮肉にもザメラシュから情報を引き出そうとする王国の事情のせいで、ザメラシュは過去に部下であった者たちからその身を隔離され、結果として守られていたことになります」

 事情を聞いてみれば、ハザマにも頷くことができる点が多かった。

「つまり……ザメラシュ氏を、他の囚人たちから保護して欲しい、と?」

 確かにこれは、私用でしかないな……とか思いながら、ハザマはアリョーシャの意志を確認する。

「他の捕虜や囚人たちと待遇に差をつけてくれ……とか、そんな都合のよいことはもうしません」

 アリョーシャは静かな口調でハザマに告げる。

「ただ、過度の……命を失うような事態だけは、どうか避けて欲しい。

 ひとりの母親として、そのように願っています」


 中央委員のアリョーシャ一行が帰ったあと、ハザマはバツキヤにむかって意見を求めてみた。

「どう思う?

 さっきのやりとり」

「あの人にも、人間らしい感情があったんですね」

 バツキヤはそう感想を述べた。


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