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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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求人の事情

「……というわけで、正確な図面とか設計図を引けるやつはこっちにいるかな?」

 ハザマは今度は試作班へ足を延ばしていた。

「製図だけなら、何人かはできます」

 コキリは平然と答えた。

「ですけど、ポンプとか水車、風車とかいう未知の機械の設計図を、漠然としたおはなしを聞いただけでささっと描けるような超能力の持ち主には心当たりがありません。

 おそらく、大陸中を探したっていやしないでしょう」

「……やっぱり?」

 ハザマは天をあおいだ。

「強度計算とか部品どうしの組み合わせとか、細かいところまで考えなけりゃあならないものなあ。

 パパっとすぐにできるようなもんでもないか……」

「なんども実験を繰り返して、どうにか作りあげられるかな……という代物ですね。

 これまでに聞いたはなしから判断すると」

 コキリはハザマに確認してくる。

「それをやれといわれるのなら試作班でやってもいいんですが……そのかわり、相応の予算や人手もそっちに取られることになりますよ?」

 試作班もそれなりに大所帯になってきてはいるのだが……これまでに手掛けてきた製品群は、なんだかんだで比較的短期間のうちに製造法が固まり、生産ラインに乗せることができるものが多かった。

 しかし、今、ハザマにいわれたような複雑な機構を一から作り出すとなると、どうしても試行錯誤の段階が多くなってくる。いいかえれば、それだけ時間とか材料費、マンパワーを無駄に消費しなければならなくなる。

 長期的には採算が取れるにしても、これから普請続きになる今の洞窟衆でその作業を行うのが適切であるのかどうか……という判断は、これはまた別問題であろう。

 少なくともコキリは、安易に手を着けてタマルあたりにぶつくさ小言をいわれたくはなかった。

「……ここで開発した製品もそれなりに売れているんだろう?」

 ハザマは上目遣いでコキリの顔色を窺う。

「まあ、堅調ですね。控えめにいっても」

 コキリは頷く。

「でも、まだどれも売り出し初めてから日が浅く、今の時点での実際の利益はというと……」

 開発にかかった費用を取り戻し、本格的な利潤がではじめるのはあくまでこれからだろう。長い目で見ればそれなりの収入源になるのかも知れないが、どれも短期間のうちにがっぽりと儲かるような製品でもなかった。

「とにかく、こちらの一存だけでは怖くて手を着けられません」

「一応、この構想に関してはタマルも知っているんだけど……」

 未練がましく、ハザマはそんな食い下がり方をした。

「すぐに手を着けていい、っていう言質は取ってきましたか?」

 にこやかに、コキリはそう返す。

「聞いた中では、手押しポンプというものが一番構造が単純そうですが……それでも、何度か試作品を作って実験してみなければ、実際に使い物になるのかどうか判断できませんからね」

 とにかく、財政の方の認可を取ってから出直してきてください、と、コキリは結論をハザマに告げる。

 今回ハザマが提案してきた構想を実現するためには、コキリが自由にできる予算では全然足りなさそうだったため、すぐに首肯することはできないのであった。


「……というわけで、試作班に予算をおろして……」

『またお金を使おうというのですか?』

 洞窟衆の天幕へと帰る道すがら、例によって通信でタマルにお伺いを立てようとすると、最後までいい終える前にきっぱりと否定された。

『ハザマさん。

 今の状況、わかってます?

 毎日何千人単位の人件費が出て行っているんですよ?

 そんで、その費用が償却されるのは遙か未来と来ている。

 昨日いった宝くじみたいに楽に稼げるお仕事をもっとずばばーんと作って貰わないと許可できませんね』

「宝くじと国債だけではどうにかならんか?」

『そのふたつにプラスして、国から下賜される予定の報奨金とまだ形になっていない保険制度まで財源に組み入れたと仮定しても、しばらくは赤字になります。今は完全にこれまでの蓄えを食いつぶしている状態でして、新領地の普請が一段落するまでは財政的にはかなり苦しい状態です』

 タマルは一気にまくしたてる。

『正直にもうしますと、もうひとつふたつ、どかんとくる大きな収入源がないと先行きが暗いです』

「お、おう」

 ハザマとしても、そう答えるしかなかった。

「そっちについては……なにか考えてみる」

 土木や建築は、やはり金食い虫なのだった。

 それだけ大量の賃金が洞窟衆から出て行くわけだから、作業に携わる側からしてみれば景気のいいことになるわけだが。

『あ、それから。

 ハザマさん。

 女衒の人ともつながりがありましたよね?』

「ああ、ズムガな。

 確かに伝手はあるんだが……なんだ、タマル。

 お前、女遊びをするのか?」

『趣味以前の問題で、わたしはそんな無駄遣いはしません』

 タマルはぴしゃりと否定する。

『宝くじの当選会、そちらのおねーさん方にやって貰おうと思いまして……』

「なるほどなあ」

 ハザマは頷いた。

「派手だし、多少のことでは物怖じしないし……ちょうどいいかも知れない。

 そっちについては、おれから一報しておくことにしよう。

 やつをタマルのところに行かせればいいんだな?」

『できるだけ早くお願いします』

 タマルはそういった。

『宝くじに関してははやめに一度やってみて、どれくらいの収益が見込めるものか検証したいんです』

「ほいよ」


 タマルとの通信を切ってから、ハザマはゼスチャラを呼び出す。

『……なんだ。あんたか』

 ゼスチャラは心持ち疲れを感じさせる声で応じた。

『今、講義中なんだ。

 なにか用事があるんなら、手短に頼む』

「女衒のズムガを呼び出してくれ」

 要望に応える形で、ハザマは短く伝えた。

「おれのところにではなく、洞窟衆のタマルのところに行くようにと伝えてくれればいい。

 新手の仕事を依頼したい」

『詳しいことは、実際に行けばわかるんだな?』

 ゼスチャラは面白くなさそうな口振りでそう、応じる。

『できるだけ早く、そうだな、今夜にでもそう伝えておこう』

「そっちの調子はどうなんだ?」

『講義と、それに講義録の原稿との格闘で忙しい。

 おかげで金回りはよくなったが……ズブの素人を使えるところにまで持って行くってのは、思っていた以上に大変なもんだなあ。

 転移魔法の件は断っておいて正解だったぜ』

 ゼスチャラによると、物の温度を上げたり下げたりする魔法と転移魔法とでは、複雑さも難易度も天地ほどの開きがあるという。

『理論的な背景を正確に理解できるようになるだけでも、何年かかかるし……』

「そんなに難しいのか」

 そこまでのものだとは思っていなかったので、ハザマは少し驚いた。

 どうやら、素人にいきなり転移魔法を教えようとするのは、小学生に相対性理論を理解させるようなものだったらしい。


「……あんたに来客が来ているんだけど」

 天幕に帰ると、出迎えたカレニライナが開口一番にそういった。

「また両替商か?

 そっちの用件ならおれよりかはタマルの方に……」

「違う!

 両替商も何人か来ているけど、新領地がらみではなく、みんな、こちらに支店を出すからっていう挨拶周り。あれはおそらく、ベレンティアとかへご用聞きに来たついでにうちにも立ち寄っただけね。

 そうではなくて、今、お待ちになっているのは……」


「……ネレンティアス様の配下の方々、ですか?」

 数名の妙齢の女性たちを前にして、ハザマはそう確認してみた。

「ええ。

 姫様からはご自身が不在の間、洞窟衆に協力するようにとことづかっております」

 ひとりの女性が代表して、そう答える。

「なんなりとおもうしつけください」

「そういわれましても、ねえ」

 ハザマは視線を天井にさまよわせた。

「ネレンティアス様は、もうすでに便宜を図ってくれるとお約束してくださいましたし……」

 国外の商人を紹介してくれる、というだけでも、そういったコネに乏しい洞窟衆にとっては、十分に恩恵があるのだ。

 今すぐ大金を投じそうな勢いで、出資も約束してくれている。

 それ以上を望むというのは、少々虫がよすぎるというものだろう。

「他になにか、困っていることなどはございませんでしょうか?」

 ハザマの顔をまともに見据えながら、その女性はいった。

「うちの帝国は商売と人材の育成に力を入れております。

 ご入り用な人材があれば、おっしゃってくださればすぐにでも連れてきますが」

「……人材、ですか?」

 ハザマの眉がピクンと跳ねた。

「そうですね。

 たとえば……建築家とか、機械に強い技術者とかはいますか?」

「一度本国に問い合わせをしてみないことには、確たることはいえませんが……その程度の者なら、いくらでも居ると思います」

 その女性は、そういってあっさりと頷く。

「しっかりとした技術を修めながら、若くて無名で、自分の名を高めてくれるような仕事を求めているお方は、帝国にはごまんとおりますもので。

 それに、帝国内で仕事にあぶれた若い野心家に仕事を与えるのも、皇族の立派な勤めになります」

 帝国から遠く離れた土地で、しかじかの仕事を帝国出身の某が行った……という評判が立つだけでも、帝国の威名が高まる。

 と、ネレンティアス皇女の故国は、そのように考えるらしかった。

「なるほどなるほど」

 帝国には、仕事とスポンサーを捜している若い専門家がごまんと居るのか……と、ハザマは納得する。

「そうした人たちは、決して理屈倒れなんかじゃありませんよね」

 今、ハザマたち洞窟衆が必要としているのは、理論家や研究者ではなく実践者なのだ。

「研究者も多いのですが……たとえば、昨晩に説明してくださった国債という仕組みなどについて興味を示しそうな経済学者も帝国にはたくさん居るのですが、こちらにご紹介するのはそれなりに実務経験も豊富な方ばかりになります。

 もちろん、報酬についても働きに応じたものを考えて貰わなければならないのですが……」

「いや、それはむしろ当然でしょう」

 ハザマは頷く。

「技術や知識は無料ではないし、洞窟衆はそちら方面への出資を惜しんだことはありません」

 手に職を身につけていない人夫と専門家とでは、事情が違う。そういうところに金を出すのを惜しんでも、長い目で見ると結局損失の方が大きくなったりする。

「それを聞いて安心いたしました」

 その女性はうっすらと微笑んだ。

「安心して、人を呼ぶことができます」

 それからは、「どのような人材が必要なのか」という具体的な条件の詳細について詰めることとなった。

 ハザマが、

「こういう仕事を頼みたい」

 という要望を出すと、それに沿ってさらに細かい条件を聞き返され、それに答えるうちにだんだんと必要な技能や能力が絞られてくる。


「そうなりますと、建築家はもちろん、それ以外にも排水までも考慮し、包括的な環境を整備できる土木工事を指揮できるような者も必要になるのではないですか?」

「工事の規模からいっても、建築家は一人や二人では足りそうにありませんね」

「つまり、金融関係に強い経済官僚が……」

「単なる機械工というよりも、ドワーフの手腕とハザマ様のアイデアを十全に生かすことができるような柔軟な発想の持ち主が……」

 その女性はときおり、紙になにやらメモを書きつけながら、ハザマから必要な情報を聞き出していく。

 気づくと、かなり長い時間に渡って話し込んでいた。

 結果、「建築家だけでも数名、経済の専門家が数名、それ以外の専門家も数名」というかなりな大所帯になってしまう。下手をするとそれぞれの分野で、十名以上、必要な勢いとなってしまった。


「……実質、国をひとつ作ろうってんだから、これでも控えめな方なのか……」

 と、ハザマは嘆息した。

「そんなに報酬、払いきれるのかなあ……おれたち」

「今の洞窟衆にとってはきついかも知れませんが……」

 その女性はアルカイックなほほえみを浮かべながら、そんなことをいう。

「……将来の洞窟衆にとっては、その程度はなんということもないでしょう。

 それまでは、国債とか宝くじとかで財源を確保してください」

 その笑顔をみながら、

「まあ、他人事ならそういうよなあ」

 と、ハザマは思った。


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