金策のあれこれ
「それで、その国債の売り先なんだけどな」
ハザマは続ける。
「貴族とか比較的金銭に余裕があって投資先を探しているような層にはもちろん、売り込むことにして。
それ以外に、これからこっちに集まってくる連中なんかもどんどん巻き込んでいこう」
「集まってくる……ですか?」
タマルが首を傾げる。
「商人とかのことですか?」
「商人も、だな」
ハザマは頷く。
「この間もナントカという両替商がここに訪ねてきたけど、これからも洞窟衆と関係を持ちたいと近寄ってくる連中には軒並み声をかけてみる。
これは、国債を買って貰えればいくらかでも優遇される……と思いこませるような口上を駆使すればどうでにもなるだろう。
実際、将来的には金利分、増えて帰ってくるわけだし、相手にとってもまるっきり損な取引でもない」
「その口上は……」
「お前らに任せる。
そういうのは得意だろ」
例によってハザマは細かい部分は丸投げであった。
「それ以外に、出稼ぎで集まってくるような連中な。
おそらく、半年とか一年、あるいはそれ以上の期間を見込んでこれからこっちにどっと寄ってくると思うけど……」
ハザマは続ける。
なにしろ、各種工事の為の人手が足りないのだ。そうなるのは必然だろう。
「……そうした連中にも貯蓄の一種として声をかけていく。
毎月とかの積立型で、満期になったら金利ごと帰ってくる……とかいう形にすれば、集めやすいだろう」
「日銭を稼ぐ人夫から……ですか?」
タマルは目を丸くした。
通常、そうした層は積極的に投資や貯蓄を行うことはない……と、されている。
「長期間の出稼ぎで、ちょうど地元に帰る頃に少し色づけされたまとまった金をもって帰れるとすれば、しかも毎月の負担はさほどでもない……とかアピールすれば、それなりに集まるんじゃないのか?」
ハザマはタマルに説明した。
「第一に、こちらが賃金を支払うやつらから少しでも金を回収しようとするのは、既定路線だったはずだろ?」
「そう……かも知れませんね」
考え深げな顔つきになりながら、タマルも頷く。
「……分割で、買わせるわけですか。
その積立型だったら、今まで無視していたような庶民も国債を買うかも知れません」
「あとは、王都とかドン・デラとかでも売りに出してみてもいい。
居留地も含めて、こっちはこれから一種の建築ラッシュになる……いいかえれば、大きな金がここいらで動くってことは周知の事実になるんだから、そういう情報に踊らされて投資を考える層もそれなりに居るだろう」
ハザマは、そう続けた。
「国債についてはこんなもんだが……あとは、あれだ。
もっと短期的に、他にも金を集めることができる方法があるんだが……」
「……どんな方法ですか、それは!」
タマルは身を乗り出した。
「いや、こっちの法律で違法かどうかわからないんで、今までいわないでおいたんだが……」
身を乗り出したタマルに気圧されたように若干のけぞりながら、ハザマは答えた。
「……宝くじ、って、どうよ?」
タマルは瞼を忙しく開閉させてから、そういった。
「……宝くじ……って、なんですか?」
「うーん。
こっちには、そういうのないのかな?」
ハザマは淡々と答える。
「宝くじってのはな。
千分の一とか万分の一、あるいはもっと低い確率で膨大な賞金が当たるように設定されたくじのことだ」
「よくある賭博じゃないですか」
詰まらなそうな顔になって、タマルは呟く。
「その分の悪い賭に乗るような頭の悪い人はそんなに多く……」
「いや、一概にそうともいえまい」
ネレンティアス皇女が口を挟んだ。
「富籤であるな。
帝国内の神殿で、年に何度か神事としてそうした籤と発行しているところがあるのであるが……これが、意外に売れる」
「……本当に、売れるんですか?」
タマルは懐疑的な態度を崩さなかった。
「だって、そのくじを買う側からしてみれば、九割九分以上の確率で死に金になるような買い物ですよ?」
「誰もがそなたのように理性的な判断力を持つ消費者であるわけではない」
ネレンティアス皇女はタマルに説明する。
「万が一とか一攫千金を狙う者、楽をして稼ごうとする者はどこにでも居る。
はした金でその万が一が買えるというのなら、金を出したがる者は大勢居るだろう」
「それは、投資ではなくて投機ですね」
タマルはしたり顔でそんなことをいって、頷いた。
「試しに、単価が銅貨十枚の宝くじを二万枚、発行すると考えて見ろ。賞金を……そうだな、仮に金貨十枚と設定しよう」
ハザマはタマルにいった。
ちなみに、現在、特になんの技能も持たない人夫が一日めいっぱい働いたときの報酬は銅貨百枚前後となる。
庶民にとっては、銀貨や金貨を扱う機会はかなり乏しかった。
「それで、ざっと粗利を計算して見ろ」
「仮に、その二万枚の宝くじがすべて売れたとして……」
タマルはその場で腰に吊っていたそろばんを引き寄せ、計算しはじめた。
「総売上は、銅貨二十万枚分。
賞金が金貨十枚ということでしたら、純益は銅貨十万枚分から人件費やくじの制作にかかった費用を引いたものになり……」
「なんの変哲もないくじを発行するだけで、金貨十枚ちかくの純益になるんだぞ」
ハザマはそういった。
「人件費と紙代を合わせても、実際には金貨一枚以下で収まるでしょう。
ですから……それでも、金貨九枚前後が純益になりますか」
タマルはそろばんから顔をあげ、ゆっくりと首を振った。
かかる手間と比較すると、この利益は破格といってよい。
賭事は賭場の胴元が一番儲ける……というのは、本当だな。
と、タマルはそう思った。
「なかなか大した利益になりますね。
実際には、くじの発行数をもっと増やしてもいいかも知れません。
くじのすべて売れなかったとしても……」
たとえ当選くじが出なくても、くじを発行する側が損をすることはないのだった。
「なんだったら、当選者が出てこない場合は、次のくじの賞金額に上乗せするとかいうルールにしてもいい」
ハザマは、続ける。
「そいつを何日かにいっぺん、定期的に発行する。
公正であることをアピールためにも、できれば、抽選会も実際に大勢の人の前で行う。
ルーレットでもなんでも、衆人環視の場で当選番号を決める方法はいくらでもあるだろう。
ここいらにはなんにもない。娯楽っていうものに飢えている連中はその抽選会にもどっと集まってくる。
そこでおれたちは、そうした集まってきた人たちに対して飲食物とかも提供する」
「そちらでも、さらにお金を回収できますね」
タマルは頷いた。
「娯楽も兼ねるわけですか」
「要は、相手が喜んで金を払いたくなるような仕掛けを作っていけばいいわけでさ」
ハザマはそう説明する。
「洞窟衆だって気前よく賃金を払っているんだから、そちらにも気前よく金を払って貰えるような仕掛けをどんどん作っていけばいいんじゃね?
あとは、その宝くじがこちらの法に触れないかどうかなんだが……」
「それについては、こちらで確認しておきましょう」
即座にタマルが答えた。
「おそらくは、問題ないと思いますが。
なんといっても、数日中にハザマさんは領主様になるわけですし、その領主様が新領地の普請代をどこからも角が立たない方法で集めようとしているわけですから」
王国全土に有効な法律というものは、あることはあるのだが、庶民はその細目を知っているわけではない。王国法は、どちらかというと領主とか貴族の行動規範を定めたものが多かった。
その下の領地ごとの法の方が、生活に密着したことを決めているので、庶民にとっては「法律」といえばたいてい「領地法」のことであった。
そしてその、「領地法」は、領主が自由に決めてよいことになっている。
……と、タマルはそんなことを説明してくれた。
「……つまり、新領地の領地法とやらは、おれが自由に決めていいわけ?」
「とはいえ、実際にはどの領地も五十歩百歩のところに落ち着くんですけれどね」
タマルはそういって肩をすくめる。
「あんまり奇抜な法律なんて、作る必要もないわけですから」
詳細な法が必要とされるのは、だいたい争いが起こりそうな事物に対して、なのである。
具体的にいうと、敷地の境界線とか相続とかについてはどこでも詳細な法が定められているし、その取り決めも地方によって大きな差はない。
宝くじについていえば、ひょっとしたら過度の博打を禁止する……というような項目に引っかかるかも知れないが、この法の有無についても領地ごとに異なっていたりする。
つまりは……もともと、あまり重要視されていない規範なのであった。
「それに、これは賭博ではなくあくまで新領地の普請代をいくらかでも補填しようとするものですから……」
そういう大義名分がある限り、どこからか物言いがつく可能性は低いだろう。
……というのが、タマルの意見だった。
「それ以外にも、工事に必要な消耗品を売り買いしたりなんだりで、普通の商売でもそれなりに金は動くだろうし……」
ハザマは先を続ける。
「あとは、あれだ。
そろそろポンプとか風車とか水車も作らせたいよな。
水くみなんてものは、いい加減人力に頼らずに自動でやらせておくべきだわ。
省力化はどんどん推進して行こう」
「風車や水車はともかく……ポンプっていうのはなんですか?」
タマルはハザマに質問をぶつける。
風車、水車……というのは、なんとなくどんなものか想像できそうな気がする。
しかし、ポンプというのは、まるで聞いたことがない単語だった。
「ポンプ……は、やはりこの世界にはないのか」
そう前置きをしてから、ハザマは説明をしだした。
「井戸水をわざわざくみ出すのも労力がいるだろう?
この手押しポンプというのを使うと、その労力がいくらかは削減される……はずだ。
正確にいうと、力の方向を固定するから楽になったような気がするってだけなんだが……」
そんなことをいいながら、例によって略図を書きながら、ハザマは説明を続けた。
「……あんまり深くない井戸なら、こんな仕掛けだけで水を汲みあげることできるはずだ。
深い井戸になると、今度は中間とか水中とかにシリンダーを置かないとうまくいかない可能性があるけど……ここいらの井戸の深さなら、この単純な機構で十分だろう。
ここのドワーフの腕なら、この程度の仕掛けはわけなく作れると思うけど……」
ハザマは手押しポンプについての説明を終えると、周囲を見渡した。
「……それで、風車や水車については?」
ネレンティアス皇女が先を続ける。
「子どもの玩具にそんなものがあるが、なぜそれが省力化に結びつくのか?」
「ああ、それはですね。
基本的な動作原理はその子どもの玩具と同じなんですが、規模が違ってきます。
こーんな大きな車を用意すれば、それだけ水力や風力を受けて、大きな力で働く。
あとは、回転する力をうまく役立てるような機構を準備しさえすればいい。
この際に必要となるのは、歯車とかベルトとか、そういった細かい機械を組み合わせてうまく使いこなすことで、当然、それなりに精緻な仕掛けが必要となります。
加工技術という点では不安はないのですが、この仕掛けを考案したり実験したり……といった部分は、やはりどこからかそうした思考にむいた人材をスカウトするなり育てるなりしなければなりません。
こういうのがどうしたことに使えるかといいますと、やはり水の汲みあげ、それに脱穀や製粉などに利用しておりましたね。おれの世界では。
人力を使わずにそうした作業をやってくれるというのがミソでして、うまく実用化できればそれだけ人手を省くことができます」
あまり複雑すぎる機械をこの世界で再現するのは不可能だろうし、そうする必要もないのだが……風車や水車くらいならば、まだしもなんとかできるのではないか?
と、ハザマは以前から思っていた。
ドワーフたちの意外に精緻な冶金技術を目の当たりにして、その思いはさらに強くなった。
「あんまり複雑な仕掛けをいきなり作るのは無理かも知れませんが、水の汲みあげくらいは自動でなんとかしたいところですね」
ハザマは、そうつけ加える。
体を洗うたびに井戸や川から水をくまなければならない今の有様は、いくらなんでも不便すぎる。
高い位置に設置した給水槽にでも自動で水を汲んでおけば、水道代わりに利用できるのであった。
基本的に、この世界では煮沸しない生水を飲用にすることはないのだが、体を洗うときくらいはざっと蛇口から流れてくる水をふんだんに使いたい……という願望が、ハザマにはあった。
それに、これから工事が本格化してくれば、人夫たちの体も汚れる。
衛生的なことを考えても、気軽に使用できるシャワーとか、そうした機構を早めに準備しておけば、かなり状況が違ってくるだろう。




