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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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アイスクリームの作り方

 ローラーの試作品は半日も待たずに試作班の元へ届いた。より正確にいうのなら、「ローラーの試作品の金属部分」であるわけだが、ドワーフの手に掛かれば、この程度の代物ならわずか数時間で完成するらしい。

「……とりあえず、フェルトでも巻いて試してみるかな……」

 木版画方面の担当になってしまったザイスは、医療所から頼まれていた印刷物製造の手をいったん休め、そのローラーの試験を行うことにした。

 可動部の周りにフェルトを巻いて、糸で固定してからフェルトにインクを含ませる。

 そして、現在印刷中の版面にごろごろーっとローラーを転がしてみた。

「おお。

 予想以上に、よさそうな」

 ローラーをいったん脇によけ、インクが乗った版面に紙を乗せ、ばれんで擦る。

 版面から紙をはがすと、紙面にはきれいにインクが乗っていた。

「うん。

 いい調子だ」

 一人頷いて、ザイスはこのローラーを量産してくれるように、ドワーフの使いに頼んだ。

「とりあえず五十くらい作って、半分はこっちに、もう半分は製薬部に持って行ってください。

 これ、広い面に塗装をする際には重宝しそうだから、多少多めに作ってもそれなりに売りさばけると思うけど……」


 製薬部では、現在、部族民むけの商品として各種置き薬をフル回転で製造している最中だった。

 各種薬品の詰め合わせセットを契約した部族に持たせて、後日、実際に使用した薬品の分だけ代金を精算、補充をする。ハザマによると「トヤマの薬売り」式の売り方であるという。例によってトヤマというのがどういう意味を持つ名称なのか、この世界に知る者はいなかったわけだが。

 とにかく、小分けにした薬品を包装する際に使用する油紙も量産する必要もあり、そちらでもこのローラーは活躍してくれるだろう。


 ザイスの方はといえば、その薬品を入れる袋を作っているところだった。

 服用方法や注意事項などの文章を刷った紙の表面に防湿のための油を塗って乾燥させ、袋状に加工する。

 この行程のうち、印刷するまで、の行程を試作班で担当している。

 いずれは印刷作業は専任の班を立ち上げて担当させる予定ではあったが、目下のところは肝心の印刷作業が試行錯誤の段階であり、まだ試作班の手を離れていなかった。

 なにしろ木版画を制作するための彫刻刀もできあがったばかりであり、これを扱えるのもまだザイスをはじめとして僅かに数名しかいない現状である。その上インクの量産などの課題もまだ解決しておらず、印刷班の立ちあげはもう少し時間がかかりそうだった。

 これまで様子を見てみたところ、木の板を篆刻する、という行為自体、どうも、多少手先が器用な者でないとできない様子であり、そうした作業にむいた専任の人員を確保するのにも苦労しそうな様子だった。

 ……まあ、問題や課題は、ひとつずつ、順番に解決していくしかないか……。

 と思い、ザイスは彫刻刀を手にして作りかけの木版にむき直る。


 コキリはリバーシに続いて、チョークと黒板の製造ラインも販売部の管轄に移した。

 チョークについては、クデルにいわせると、

「成分の比率とかにまだまだ改良の余地がある」

 とのことなのだが、とりあえず、実用上問題がないレベルには仕上がっている。

 ので、それ以降の改良については、製造ラインの人たちに引き継いでやって貰うことにした。

 チョークの焼成に関しては、その後の試験により、特に高温を必要とするわけでもなく、そこいらの焚き火に数時間当てておく程度の熱量でも十分に製造できることが確認された。窯から作らなくてもよい、ということは、製造時の敷居がそれだけ低くなったということでもあり、金食い虫の試作班としてはさっさと販売部に回して資金回収の道具として活用して欲しかったのだ。

 幸いなことに、これまでに試作班が商品化した製品はどれも予想を上回る売りあげを記録している。今の時点で確認できているのは、この野営地内に限定された反響でしかないのだが、ここで好評を得たものが他の場所で不評になるとも思えず、将来的にはそれなりの利潤を生み出すことになるものと予想された。

 その他、試作班はインクの代用品になりそうな墨とか、前から引き続き行っている将棋やチェスの開発も平行して行ってり、さらに今度は、ハザマは「アイスクリーム」とかいう冷たい菓子を作るつもりらしく、必要な材料集めを試作班に依頼していた。

 当然、試作班の人手も足りなくなってきたので、増員してなんとか対処している状況だった。

 複数の計画が同時に進行しているわけであり、試作品の統括役をしているコキリにしてみれば頭の痛いところでもある。一定レベルまで仕上がった製品についてはどんどん販売部の管轄に移して、少しでも気を抜いて楽をしたいところであった。


「……熱量が、足りんなあ」

 ドワーフのムススム親方が、ハザマにそんな相談を持ち込んできた。

「もともと、わしらは鍛冶仕事をしにここへ来たわけではなく、本格的な準備もなにもない状態だった。

 道具は常に持ち歩いておるわけだが、熱源となるとそうもいかん」

「はああ。

 熱源ですか」

 相談を受けた形になるハザマは、曖昧に頷いた。

「燃料が足らないので?」

「……燃料だと?」

 ムススム親方は髭だらけの顔を歪めた。

「わしらドワーフの鍛冶がそんな原始的な方法に頼るものか。

 無論、少量の炭火は使うが、わしらの鍛冶仕事をすべて炭火に頼ろうとすれば、周辺の木々はあっという間に丸裸になってしまう。

 そんなことは山の神が許さんし、仮に山の神が許しても土砂崩れや砂漠化を推進するだけでよいことなどひとつもない」

 そう前置きしたあとで、ムススム親方は、

「鍛冶仕事には、おもに発熱の魔法を使用する」 

 と説明してくれた。

 ……魔法のある世界では、当然そうなるのか……と、ハザマは納得した。

 燃料となる木の再生産速度よりも、人間の魔力回復速度の方が上回るのであれば、後者を使う方が利便性がよい。

「ただし、わしらドワーフはもともと魔法を得意としておらんし、仲間内で交代で魔法を使うのも作業効率が悪い」

 高温を発する魔法を使う者を多数、こちらで用意してくれると、これ以降の製造がぐっと効率的になる……ということだった。


「……人を集めるだけならすぐに手配ができますが、必要な魔法を仕込む方はそちらでやって貰えますか?」

 通信で状況を説明し、すぐに必要な人員を集めるように手配をしながら、ハザマはそういった。

「魔法を仕込む、だと?」

 ムススム親方は、顔をしかめた。

「そういうのは……その、少々、難しいなあ、うん。

 わしらは幼い頃から仕込まれているから、なんとなく使えるのだが……予備知識がない素人に一から仕込むとなると……」

「……あー。

 はいはい。わかりました」

 ハザマは続いて、通信でゼスチャラに召集をかけた。

「では、魔法の心得がある者を呼びますので、その者にどういう魔法が必要なのか、説明してください。

 集めた人員に魔法を仕込むのは、その者にさせます」


「……今度はいったいなんだ?」

 暇だったのか、いくらもしないうちにゼスチャラが姿を現した。

「まずは、この桶に入っている水を凍らせてくれ」

 ゼスチャラの姿を見るなり、ハザマはそういった。

「おお。おやすいご用だ」

 ゼスチャラは即答し、すぐに呪文を詠唱しはじめる。

 桶の中の水は、ハザマたちが見ている前であっという間に氷になった。

「用事ってまさか、これだけではないよな?」

 ゼスチャラが、ハザマに訊ねる。

「これはおまけ、こっからが本番だ」

 ハザマはたった今、ムススム親方から説明された内容をゼスチャラにいい聞かせ、そのあと、

「……というわけで、お前さんにドワーフが必要とする魔法を聞きだし、それを他のやつらに教授する仕事を依頼したい。

 継続的な仕事になるし、その分、ギャラも弾むぞ」

 といった。

「なんだ、そんなことか」

 ハザマの提案を、ゼスチャラはあっさりと受け入れた。

「特に難しいことにも思えないし、引き受けよう。

 ドワーフが使う魔法ってのにも興味があるしな」

 ハザマはすぐにゼスチャラをムススム親方に引き合わせ、その場でその仕事をはじめて貰う。


 氷入りの桶はハザマ自身が持ち、その他の調理器具はクリフとリンザの二人に持たせ、ハザマは試作班の天幕へとむかう。

 発足から日も浅いのに、試作班の規模はかなり膨れあがっていた。

 同時にいくつかの仕事を進行させており、その中には、場合によってはそれなりの人数を必要とするものもあるのであるから当然の成り行きではあるのだが。

「……おーい!」

 試作班の天幕に入ったハザマは、そう声をかけた。

「コキリは居るか?

 コキリでなくても、山羊の乳の在処さえわかれば、それでいいんだが……」

「大きな声を出さなくても、ここにいますよ」

 不機嫌な表情をして、コキリがハザマたちを出迎える。

「山羊の乳とこの間入手した蜂蜜はたっぷりと残っています。

 ……急なことで、鳥の卵は入手できませんでした。

 バニラビーンズについては、どの豆がそれに相当するのかわかりませんでした」

「……こっちには、鶏を飼う習慣がないもんなあ……」

 この世界での家畜は、主として労役を目的としている。

 特に平地民は、牛や馬を農耕や荷物の運搬に使うことはあっても、食用として生物を育てるという習慣がない。当然、牛の乳を飲料や食用にすることもなかった。

 こちらでは、「食用にする動物」とは、すなわち、「野生動物」になるのである。

 鶏や軍鶏に相当する鳥はどこかに棲息しているのかも知れないが、ハザマが聞き込んだ範囲内では、それらしい鳥を飼育している事例は出てこなかった。

 平地民とは違い、山岳民は昔から放牧も行っている。その山岳民の間では、家畜の乳といえば山羊の乳であるらしい。新鮮なものはそのまま飲用にするし、チーズなどにも加工もする。

 部族民の軍も何頭か山羊を伴ってきていたし、取引として洞窟衆が入手した山羊も少なくはなかった。

 つまり、この場では、牛乳よりも山羊の乳の方が入手しやすかったのだ。

「あと、いらない布の袋があったらわけてくれ」

 ハザマはコキリにそういった。

「……今度はなにをはじめるんですか?」

「アイスクリーム作り、だけど……その前に、まずこの氷を砕かなけりゃあなあ」

 そういってハザマは、桶の中にをコキリに示す。

「麻の袋でいいんですね」

 コキリは微妙な顔をして頷いた。

「すぐに用意させます」

 穀物などを入れる袋は、そこいらに転がっているのだった。

 その麻の袋に桶をいれて地面に置き、それにトンファーを叩きつけて、ハザマは桶ごと氷を砕いた。

 かなり乱暴な方法であったが、他に手っ取り早く桶と氷を分離する方法を思いつかなかったのだ。

「よし。こんなもんか」

 適当に桶ごと氷を粉砕してから、ハザマは袋の中から氷を取り出した。

 取り出した氷を、クリフが持っていたかなり大きめのボウルに片っ端から放り込んでいく。そのボウルはすぐに、氷で満たされた。

 そのボウルの中にハザマは、食塩を適当に放り込んで軽く攪拌する。

「この上に、一回り小さい銅製のボウルを入れて……」

 ムススム親方に相談したとき、

「……冷やしたいのか?

 熱の伝導が良い方がいいのなら、鉄よりも銅製の方が適しているな」

 といわれ、食材に直接触れるボウルは銅製になった。

「……このボウルの中に、山羊の乳と蜂蜜を入れる。

 量は、適当。

 冷やしながら、ひたすら掻きまぜ続ける。

 そうすれば、いずれ固まる」

 その説明通り、ハザマは適当に材料を入れたボウルの中身を、できあがってきたばかりの泡立て器でひたすら掻きまぜだした。

「……結構時間がかかると思うから、ずっと見ていなくてもいいぞ」

 それからハザマは、コキリにそう伝えた。

「随分と大ざっぱな製法なんですね」

 コキリはそう感想を述べた。

「こいつは……適当に作っても、それなりの仕上がりになるからなあ」

 ハザマは、そう述べた。

「冷やしながら攪拌し続けると、全般に油脂分が凝固して、それで完成。

 香りをつけてバリエーションも出せるし、作り方が単純なだけに商品としては優秀になると思う」

 できあがったら、まず試作班の者たちに試食させるから、もう仕事に戻っていい……と、ハザマは続けた。


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