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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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交戦の必要性

「想定していた以上に、戦費が膨れあがっています」

 バジルニアの執務室で、リンザがハザマに指摘した。

「特に、例の空偵隊周りの案件に関して、ですが。

 現在訓練中の人員も含めて、飛行するすべての人員に転移札を持たせるとなりますと、控えめにいっても法外な予算が必要となりますが」

「稼働していた空偵隊は千名前後。

 それが今では、新規に訓練をはじめた連中も含めると、三倍近くの人数になっているわけだからな」

 ハザマは頷いた。

「その全員分の転移札を用意するとなると、うん、そりゃ、かなりの金額になるよな。

 でも、今回の事例はかなり特殊だし。

 だけど人命と、それに情報は大事。

 なにより、敵についての詳細が判明しないことには、今後の対応もままならない。

 不安はわかるが、今回はせいぜい盛大に散財しておこう」

「森東地域関連については、現状でも当初の見積もりを大きく上回る投資がなされています」

 リンザはさらに指摘をした。

「投資分がまだ回収される見込みも立たないまま、さらに資金をつぎ込むことになりますが、それでよろしいのですね?」

「ここで引いたら、これまで投資した分がすべて無駄になる」

 ハザマはいった。

「撤退するならするで、もう少し相手について知ってからにしても遅くはないだろう。

 それに、この事態はすでにうちだけの問題ではなくなっている。

 治安維持軍とかブラズニア公爵家からも訓練兵が参加している以上、こちらの一存で方針を決めるわけにもいかんさ。

 そうした同盟者たちも、今のところは戦意旺盛なようだし、なにより森東地域の住人たちが、今回の件ではかなり血気に逸っている。

 それこそ、今、おれたちが丸ごと森東地域から手を引いたとしても、現地の人間だけで続きをやるくらいには」

 リンザがあえて慎重論を唱えているのは、別に本音でこの事態がこれ以上に進行することを止めたいわけではなく、この時点で常識的な判断をハザマに突きつけておきたかったからではないのか。

 ハザマは、そうした疑念を抱いていた。

 そもそも、森東地域への干渉をはじめたのは、このリンザなのである。

 ただ、現在の洞窟衆はよくもわるくも、組織として、規模が大きくなっていた。

 あえて穏当な、事なかれ主義的な意見をハザマに提示しておくことで、現在進行中のこの事態を冷静に見直す機会を作ろうとしていたのではないか。

 あるいはリンザは、自分がきっかけを作った案件だからこそ、ここまで大きな動きになってきたことに、不安をおぼえているのかも知れなかった。

「なにより、今回の件は、こちらに手を出して来た連中が存在しているわけでな」

 ハザマはいった。

「おれたちが勝手に手を止めたら、敵さんから一方的に殴られっぱなしになるだけだよ。

 ここで対抗策をとらなければ、それこそ、この先損害がどこまで大きくなるのかわかったもんじゃない。

 相手の正体や真意、どういうつもりでこちらに手を出してきたのか早めに明確にしておかないと、それこそドツボに嵌まりかねん」

 こうしたハザマの意見もまた、常識論の範疇に収まるものだった。

 戦争も外交の一種であり、交戦相手になんらかの条件を突きつける目的がなければ、戦端が開かれることはない。

 純粋に偶発的な遭遇戦も、まったく存在しないこともないのだが、今回のやり口は、明らかに、敵側が明確な作戦に沿って動いている。

 少なくとも、ハザマにはそう思えた。

 状況から考えれば、これ以上に森東地域における洞窟衆の影響力が大きくなることが、気に食わない連中が居るんだろうな。

 今の時点では、ハザマはそう判断していた。

 空偵隊を片っ端から手にかけているということは、つまりは洞窟衆側に対して、

「これ以上、進むな」

 というメッセージを提示しているのに等しい。

「この先は、自分たちの縄張りだ」

 というわけだった。

 そうした相手側の意思は、行動がシンプルすぎて、かえって読み間違えようがない。

 だからこそ、ハザマたち洞窟衆側も、臨戦態勢に移行しているわけだが。

「大きな、いくさになりますよ」

 リンザはいった。

「少なくとも、敵側は、こちらのことを知った上で、手を打ってきているように思えます」

「その上で、勝算があると踏んだからこそ、あえて先手を出して来た」

 ハザマは、リンザの言葉に頷いた。

「まあ、そんなところだろうな。

 今のおれたちを前にして、最初に殴りかかってくる。

 そんな、鼻息の荒い連中ってわけだ」

 相手がよほどの無能でなければ、彼我の戦力差、とりわけ、戦闘継続能力について、客観的に判断出来ないわけがないのだ。

 その上で、あえて手を出して来た、ということは、つまりは、現在の洞窟衆に匹敵する戦闘継続能力を持っていると、相手側が自分たちについて、判断していることになる。

「強襲型の飛竜を使っている、らしいことから考えても」

 ハザマは、そう続けた。

「どうも、連中の中核には、山地から降りて来たやつらが混ざっているらしいな」

 ルシアナが崩御して以来、部族連合はどうも箍が外れたような状態になっているようだ。

 山地での勢力争いに敗れた連中が、森東地域に降りて来た。

 これまで、洞窟衆側ではそうした見方が主流であったわけだが、その推測も、どこまで当たっているものか。

「山地で弾き出された連中が森東地域へ降りて来た」

 のではなく、

「森東地域でなんらかの目的を果たすため、自発的に移動して来た」

 という可能性もある。

 強襲型の飛竜、などいう強力な戦力を、惜しみなく使っていることからも、相手側戦力にかなりの余裕があることは予測出来た。

 その他に、果たしてどれほど多彩なカードを持っていることやら。

 ハザマは、そんな風に感じている。

 まだまだ相手の手の内を探り合う、最初の小競り合い。

 今はまだ、そんな段階でしかない。

 そんな序盤から、手札を全開にしてくるわけがないのだ。

 ハザマは、今回の敵対者に対して、

「洞窟衆周辺の事情もよく調査した上で、今回の挙に及んだ」

 ものとして、対処している。

 実際には買いかぶりかも知れなかったが、相手を過小評価してかかるよりは、その逆の方がいい。

 少なくとも、味方の損耗を少なくする要因にはなる。

 過小評価出来ない相手だからこそ、正確な情報の収集が重要になるわけで、その意味でも空偵隊周りに転移札をばら撒く価値はある。

 と、ハザマは思っていた。

「空偵隊周りに提供する転移札、そのすべてが使われるわけでもないわけだしさ」

 ハザマは、リンザにそう説明する。

「緊急脱出用のものだから、むしろ使われない方がいいくらいの代物なんだが。

 敵さんの正体や目的について、見当をつける材料が集めやすくなるとでも思えば、投資をする価値はあるさ」

 今回に限らず、戦争というのは基本的に「高くつく」ものなのだ。

 と、ハザマは思っている。

 本気で勝ちに行くつもりでかかるのなら、なおさら、コストを重視して手を抜くことは許されない。

「なんだか、楽しそうですね」

 リンザは、ハザマの顔をまじまじと見つめてからそういった。

「普段の業務をしている時よりも、ずっと」

「そりゃあな」

 ハザマは、あっさりと頷く。

「他人の不始末の尻拭いとか、細々とした揉め事の裁定よりは、よほど面白い仕事だし」

 これは、ハザマの本心でもある。

 基本的に普段の、領主として、あるいは洞窟衆の首領としてのハザマの仕事は、その性質上、散文的で退屈な内容になる。

 今回のような、場合によっては大きな戦争に発展しかねないような事案であっても、ハザマにしてみれば先の見えない、それだけにやり甲斐のある仕事に見えてしまう。

 倫理的には問題があるかも知れないが、ここのところ、日々同じような仕事の繰り返し、に、うんざりしていたハザマにしてみれば、目先が新しくて先の予測がつかない、それだけに新鮮な仕事に見える。

「そろそろ外交畑でもなんらかの成果があがって来る頃合いだし、それに、山地と森東地域の境界にも、トエスにかなり長い監視線を構築して貰っている」

 ハザマは説明を続けた。

「後者に関していえば、完全に物資の流通を分断出来るわけではないが、かなり広い範囲で大型の動物は森東地域に移動出来ない状況を維持出来ているようだ」

「大型の動物?」

 リンザは首を傾げた。

「なんで、そんなものの移動を阻止するんですか?」

「兵糧攻めだよ」

 ハザマは、短く答える。

「機動性が高い飛竜ほど、大量の餌を必要とするそうだ。

 そうした飛竜は、肉食寄りの雑食か、完全な肉食だそうだ。

 その餌になりそうな動物の、供給を絶つことが目的だ。

 もっとも、今のおれたちでは、完全に供給を絶つことは出来ず、せいぜい、相手に大きく迂回して遠回りをさせるくらいが関の山だが」

 迂遠な嫌がらせレベル、の施策でもあった。

 それでも、長期に渡ってそうした状態が続けば、必ず、戦況にも響いて来るはずだった。


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