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第二講「教職員、顧問就任」

 射場梓の結婚は、私にとって、まったくの、ひどい不意打ちだった。

 私以外の相手の結婚式の招待状が届いたとき、どうしようもないほどに混乱していた。

 披露宴の日のことは、もう思い出せない。思い出したくもない。

 けれど私が射場一族の末娘である羽々音に会ったのは、その時が初めてだった。

 まだ私が大学生の頃で、彼女が小学生の頃だ。

 

 ベンチに座っている私に、

「なんで泣いているんですか?」

 ……泣くまいと思っていたのに。

 泣いてやるものかと、気を張っていたのに。

 幼い彼女の瞳が射貫く、私の虚像。それによって、自身が醜く泣き崩れていることに気がついた。

 伸ばされた手は小さくて、私が身じろぎして顔を覆うと、ビクリと、その手を引っ込めた。

 記憶に留めてしかるべき他の内容は覚えていないのに、なんでもない少女の、そんなわずかな所作だけは、今でも覚えている。

 不思議そうに見つめる少女の家庭教師を、上司の命令で務めることになったのは、それから間もなくのことだった。


■■■


 ……あの女の子が、

「もうこんなに大きく、か」

 私も歳をとるわけだ。いや育ちすぎてる気もするが。

 学校のカフェテラス。その室内で私たちは、長机を挟んで向かい合って座っている。

 あのとき小学生だった娘は今、片膝を抱えるようにして椅子に腰掛けている。

 たしかに、こういうどことなく少年を思わせる仕草には、面影がある。家庭教師をしていた頃の記憶がちらつく。

 少女、射場羽々音は自作のコーヒーに口をつけて、「うん」と一つ、頷いた。

「ドリップコーヒー淹れるの久しぶりなんですけど、たまには良いです」

 と言う彼女の周囲には陶器のドリッパー、年代物のミル、そして翡翠色の釉薬が美しい瀬戸織部のカップ。形から入るタイプなだけなのかもしれないが、相当なコーヒーへの入れ込みようだとわかる。

 腕も確かだ。

 砂糖とコーヒー棲み分けが絶妙だ。

 家庭教師時代、飲みたいとせがむ彼女に一度だけ言ったきりの好みまで覚えている。


 ――それはともかく、だ。

「……なぁ」

「なんでしょう?」

「いい加減、教えてくれよ。一体、アレはなんだ? どうして私に攻撃を仕掛けた?」

 口元の笑みをわずかに退かせて、不格好な角砂糖を銀の小壺から一つ、二つ、三つ、次々と取り出してコーヒーの中に落とし込んでいく。

 スプーンを前後に泳がせ、軽く一口。顔を上げて、

「なんのことでしょう」

 と目を細めて首を傾げる。

「……っ、だ・か・ら! あの妙ちきりんな弓はなんなんだって聞いてるんだ!」

 まぁまぁまぁ、と手でやんわり制される。

「父と、もう一人の新人が来ますので、揃ったら説明します」

「新人だ?」

「えぇ、あたしと同じで、『識』の構築に成功した女の子。今日大悟さんと一緒にテストするはずだったんですけど、なんか来ません」

「いや、なんか来ません、と言われても」

 そもそもその『識』とやらがなんなのか、そこから説明してもらいたいところなのだが、それも含め、話の娘が来たら説明するということなのだろう。

 が、

「……逃げたんじゃないのか」

 そりゃ何の事前説明もなくでかい矢を射かけられたら、逃げ出すに決まってる。

「それはないと思います。彼女、好奇心と正義感が強い、まっすぐな子ですから」

「何故そう言い切れる」

「中学からの友達ですから」

 と肩をすぼめる。くすくすと声を立て、声を震わせる。粗野ではないはずなのに、妙に少年的な笑顔だった。


■■■


「いやー、すまんすまん」

 次いでやってきたのは少女ではなく、むさいオヤジだった。

 言わずもがな彼女の父親、射場重藤だ。

「驚かせてしまったね」

 父親の分を用意し始める娘をちらり見、私は舌打ちした。

「そりゃもう心臓が止まりそうなほどに。物理的に」

「君らしからぬ弱気な発言だね。避けてくれなくても問題はなかったんだが」

「わかりやすく『死ね』と直接言ってもらえると助かるんですがね」

 まぁまぁまぁ、と。

 父は娘に似たおっとり加減で私を手で制す。

「ったく……今日は朝からさんざんな目にあうな……はぁ」

 弱々しく呟いた私の顔を、羽々音が回り込んで覗き込む。

「朝から、ですか?」

「あぁ。行きがけここの生徒らしき珍妙な生き物にからまれてな。……今にして思えばあれが実は射場羽々音でした、ってフラグかもしれなかったな。いや杞憂で良かった」

「変だなぁ」

 当の羽々音は、そう言って首を傾けた。

「何がヘンだ?」

「だって新学期はまだですよ。『試験』にも使われるわけだから部活どころか学校に入ることすら禁止してるのに……考えられるのは」


 ……

 …………

 イヤな予感がする。

 そんな学校に用事がある人間が、先ほど一名だけ挙げられていた気がしたが。

 きっと気のせいだ……と思うその前に、

 カフェの入り口が、大きく音を立てて開かれる。

「やー、ゴメンゴメン! 朝珍妙な生き物にからまれてさぁ……顔洗ってたら遅れ」

 やっぱり。

 想像通り。

 案の定。

 現れたのは一見育ちの良い令嬢の外面の、類人猿。

 予測はしていた私はさして驚きもせず、ただただ無念のため息をつくだけだったが、そんな私の横顔に、ヤツは反応した。

「んあーっ! 今朝の納豆男!」

「納豆はお前だろうが!」

「バネちゃん! こいつだよ! こいつー!」

「うん。だと思った。だから座って?」

 にこやかに友人を迎え入れ、羽々音は私の隣にそのバケモノを座らせる。

 そして自分は、私のもう片方の隣に腰掛けた。

 おほん、と。

 男のしわぶきが、これ以上の争いを遮るかのように聞こえる。

「紹介しよう。こっちが我が娘の友人であり『識』のモニターとして今回協力してくれる(むら)(さめ)(しずく)くんだ」

「……どーもね」

「で、こっちが花見大悟くん。今年からこの学院の国語科教師を担当する」

「うえっ!? 教師!? コレが!?」

「コレとか言うな」

「そして」

 言葉を継いだ羽々音の口から聞かされたのは、私自身聞かされていない、私の役割だった。


「この花見大悟さんは、同時にあたしたち『プロジェクト・シキガミ』メンバーの指揮官として赴任することになっています」


「待て」

「だから、二人ともこれから仲良く」

「待て待て待て待て」

「はい? なんですか?」

 笑んだまま、愛嬌ある首の傾げ方。それに惑わされず、私は彼女に苛立ちをぶつける。

「なんですか? じゃない。なんだそれは!? いつ私がそんなワケの分からんものになるって言った!?」

「あぁ、そういえば『識』の説明がまだでしたね」

「だからそーいう意味じゃ……ッ! まぁ良い……先にそっちから説明してくれ」

「あっ、わたしにもお願い。いやー! なんかよくわかんないままOKしちゃったから」

 こいつ……村雨雫にもまた、頭のネジが数本飛んでる。

 あんな奇っ怪なものに興味本位で携わろうなんて、どうかしている。

 あるいは、実際に目にしていないから、命の危機にさらされていないからこそのあの調子か。

 私たちのカップには、二杯目のコーヒーが注がれた。

 そして手元には、一枚ずつのカードが配られていた。

 名刺サイズで、それを二枚重ねるよりも分厚い。

 表面には何も描かれていない。ただ、色がついている。

 私の前には白札。羽々音の前には緑。村雨雫が指でいじっているのが赤。

 めくる。

 裏には白地に弓矢が抽象的に描かれている。

 他ならぬ、射場家の家紋だった。

「これらが『識』を構築する『(しき)(ふだ)』。およそ一年ほど前から品山市近辺で出回り始めた特例事案です。まぁ、発生自体は前々から確認はされてましたけど、ここ最近が特にひどい」

 特例事案。

 懐かしい単語が出てきて、思わず虚を突かれる。

 私こと花見大悟、射場重藤らの親玉が好んでよく使っていた言葉だった。

 呪術的、科学的、様々な意味でも使われたが、要するに、

「表の世に出るとヤバイ代物」

 その一言に、尽きる。

「……ということは、これ自体を広めたことも、『識』とやらも、別のヤツの仕業と?」

 微笑を消さぬ少女の隣、父が無言でアゴを引く。

「それは我らが使用者に負担がかからぬように、かつオリジナルの悪用に対抗するため、術式を編み直したものだ。オリジナルの出所は目下調査中でね」


「……それで、『識』とは」

「それに関しては改めて見てもらった方が早いですね」

 自らの手元の札をたぐりよせる羽々音の手元、何も描かれていなかった札の表面に、濃淡豊かな筆絵が浮かび上がった。

 その茫洋として乱雑なタッチからは、確信は持てないが、おそらくは矢羽根の絵。

 その札を、羽々音はおもむろに虚空に放り上げた。

 わずかに宙を舞った後、ひらひらと床に落ちていく……はずのそれがぴたりと中空で固定された。

 札の中央、裏面の家紋から緑の粒子を周囲に散らす。

 やがて札を完全に包み込むように、一気に散らばっていた緑の光は札に吸い付くように集まっていき、輪郭を、私がさっき見た無骨な形状を再びこの場に蘇らせた。

 すなわち、床弩。

 私の身を何度も狙った兵器が、札より生まれた。

 雫は腰を浮かせて「おぉぉぉぉぉ……」と感嘆を絞り出す。

 羽々音には誇る様子もなく、にこやかに笑っていた。


「これが『識』。『識札』に触れた特定の人間の知識、嗜好、才能、適性、血脈……もろもろの要素を吸い上げて『識』という、あらゆる法則にとらわれない異質な物体を構築する。誰が名付けたかもわからない。自然そう呼ばれるようになった。だがこれが一体何で出来ているのか、そもそも物質なのか霊体の塊なのか……それすらもわからないんだ」


「未知の要素ばかりの怪しい道具を、よくもまぁ使う気になれるもんだ」

 コーヒーをすすり、呆れるばかりの私に、説明の最中だった重藤は言った。


「だから君を呼んだのだよ。彼女たちに、正しい力の使い方を教えてやってほしい。そして、彼女らと協力してこの一件の黒幕、オリジナルの『識札』の精製者を見つけ出して欲しいんだ」


 娘に似た愛嬌のある笑顔を向ける。

 その娘は、笑顔のまま一度手を持ち上げ、それから振り下ろした。

 何気ない挙動ひとつで、私たちの全長ほどもある巨大な兵器は霧散して、一枚札が遺されるばかりだ。

 灰色になった札は、まるでその役目を終えたとばかりに、床に溶け込むように消えた。

 その尋常ならざる事態を横目で見つつ、私は言った。

「……たった今説明を受けたばかりで、何をどうしろと言われて、はいそーですかと頷けと?」

「だが、そういう異形の力には慣れているだろう? 百地家十神派の一員としてな。花見大悟くん」

 ――()(がみ)

 心の中で反芻し、舌を打つ。

「なになに? トガミって? っていうか、バネちゃんたちは何者?」

 首を突っ込んだのは、村雨雫だ。

「……お前、まさかロクに知りもせずにここに来たのか?」

「うん。なんかこないだこの札もらってさぁ。そしたらその場でぶわーって絵が浮かび出てさぁ、んでそれが私の素質で世の平和のために使ってくれ……もう、力を貸すしかないじゃん?」

「お前、頭膿んでんのか?」

「し、失敬なーっ!」

 振り上げられる手をかわし、いなし、取っ組み合って睨み合い、雫は、私に問いをぶつけてくる。


「っていうかアンタが何者!? バネちゃんとどーゆー関係!?」

「親戚だよ。ただの」

「……大悟さんとあたしは」

 と、コーヒーを味わいながらバネちゃん、と呼ばれた羽々音は言う。

「縁戚で、家庭教師と教え子の関係。そうですよね? 大悟さん」

「あ、あぁ」

 私の頭の後で、梓の影がちらつく。

 彼女と私がかつて恋人関係にあったことを、妹は知っているのか、そうでないのか。

 その疑念が、私の返事をワンテンポ送らせる。

「えー」と、疑いの眼差しを向けてくる雫。

「そして……(もも)()一族という、妖怪退治の一派の、ね」

「ようかいたいじ!?」

 好奇の目が、私にまっすぐ向けられる。

 うっとうしくて、視線から逃れたくて、私は雫を押しのけた。


 ……正確には百地一族は妖怪だけを相手にはしていない。

 百地は、この世界すべての異端の敵対者であり、天敵となりうる一族。そうあらねばと、自らに課した数世紀の歴史を持つ一族の総称だ。

 羽々音もあえてその辺りを承知の上で、わかりやすく雫に説明したつもりなのだろう。

 妖怪等の異形だけでなく、超能力者とか異能力者、現代の体勢で御しきれぬ超技術、科学。

 それらが人の営みに干渉しようとすれば、暗殺、破壊工作、テロまがいの犯罪行動、様々な手口で排除していく。そしてそれらを管理下に置き、封印し、二度と世に出回らないようにする。

 一族の広がりはかつては日本全国にめぐらされていて、もはやそれは血縁関係というよりは、ヤクザの体制に近い。

 百地は本家本元。

 十神はその直参であり、幹部であり……本家を脅かしかねないほどの、実力者。

 いや、そのはず、だった。


「……その中でも大悟さんは末端の分家である花見家から、一番の武闘派であり急先鋒、十神派にヘッドハンティングされた、いわば異端討伐のエリートだよ」

 まるで自分のことのように、羽々音は誇らしげに言ってくれる。

「やめろよ。だいたい私は内勤。デスクワークの雑用係。外に出て化け物相手に武勲を立てたっつーなら、ほら、そこの男」

「ん? 僕かい?」

「そうっすよ。あんたが指揮官なりなんなりやれば良いんだ」

 無人のキッチンからごそごそと、クッキーの入ったタッパーを持ってきていたかつての同僚であり先輩に、私は指を突きつけた。

「とは言ってもねぇ……僕はもう『クソジジイ』だし、前線から退いてる」

 ――こいつ、あの戦闘中の暴言をどこかで聞いていたらしい。

 意地が悪いから、クソジジイなんだ。


「けど、私みたいな素人にやらせるよりマシだろ」

「またまたそんなこと言って。『仕事が遅い』『どんくさい』『要領が悪い』『いっそ死んじまえ』って、最後の方は君、前線に立たされてばっかだったじゃないか。捨て石としてね」

「うぐっ」

「それに大丈夫さ。何より羽々音の『(へき)(れき)』による奇襲を切り抜けた時点で、君の実力と判断能力は保証されている。及第点程度、だがね」

「……だからって」

「それにこの一件、あまり本家に知られたくない。これ以上射場の立場を悪くもしたくないから、私自身が目立つ動きをしてはならない」

「……あぁ」

「へ? なんでよ?」

 コーヒーには手をつけず、クッキーばかりつまんでいる雫が、口の端にチョコチップの入ったものを挟みながら尋ねた。

「ヘタをすれば、インネンつけられて潰されるんだよ。数年前まで、殺し合ってたんだからな」

「……な、なんで!? おんなじ家族なんでしょ!?」

 私は残り少ないコーヒーに口をひたし、それ以上喋る口がないことをアピールする。

 そんな私を見て肩をすくめた重藤が、説明に入った。


 一年前、内部抗争があった。

 ……まぁいわゆる保守派と改革派の争いってやつでね。

 このテの争いはいつだって保守派が悪で、改革派が善人みたいな扱いだけど、今回その悪役は十神だった。

 百地本家前当主、百地(れっ)()は今までタブーとされていた、特例事案の解放を唱えた。つまり、自分たちが今まで封印、あるいは異端党閥に使役してきた異形の力を、一般的な犯罪、あるいは政界、財界進出のために利用しようとしたんだ。

 それに反対したのが十神家当主の(かい)()先生だった。


「百地一族は、異端が世に干渉するのを、許さない」


 その金科玉条の下、彼は本家に反旗を翻した。

 射場と花見は十神について……そして僕らは負けた。

 

 我々の上司である十神戒音先生は殺害された。僕らは幸いにして命をまぬがれたが、それでも厳しい立場だ。だから現状難しい立場にいる射場家がヘタを打てば、その咎で百地から除名される可能性だってある。その点大悟くんは今は無役の単身での参加だった。身軽な立場だ」


「ふぅん」

 面白くなさそうに雫は菓子を噛む。

「なんか……」

「『正義の味方じゃないみたい』か?」

 口を開いた私の方を、雫は大きく開いた目で見つめてくる。

「笑わせるだろ。化け物相手に戦おうって奴らが、人間同士で争って戦力削ってんだ。現にその隙を突くようにして、こんなバカな騒動も起こってる。そんなのとつるむなんて、金輪際私はごめんこうむるね」

「……それを君が言うのか? その抗争で、渦中にいた君が?」

 咎めるような重藤の問いが、私を締め付ける。

 それでも私は、折れるわけにはいかなかった。

「あぁなんべんでも言ってやるっ! もうウンザリなんだよ! 百地一族にも十神戒音にも! あの人のやることが何もかもが正しいと思って動いていた、あの頃の私自身にもな!」

 一同の、軽蔑するように視線を、一身に浴びる。

 その中で羽々音だけが、私を憐れむような、気にかけるような優しい目を向けている。

 ……ただそれだけが、私には堪えた。

「……『識札』の被害者は、この地区だけで百名にのぼっている。百地として、十神として異端を討つ責務を、それでも果たさないというのか?」

「そりゃお互い様だろ。あんただって、あぁだこうだと理由づけて高見の見物決め込んでる」

 哀れむような表情が、さらに私を惨めにさせる。


 男のため息。

「まっ、最初に言ったとおりさ。我が国の民には自分の仕事を選ぶ自由がある。同時に義務と責任もね。無理強いはしない。とは言え、今日一日でノーと言うこともあるまい」

「イエスと言わされることもないですがね」

「ともかく、今日は帰ってゆっくり考えてくれ」

「そうですね。とっとと帰って、今日のことは忘れることにします」

 きびすを返して帰ろうとする私の背後で「あっ」と重藤の声があがって、つい反射的に振り返ってしまう。

 ごそごそとスーツのポケットをまさぐっていた重藤は、一枚紙切れを机の上に置いた。

「君のために宿をとっているんだ。今日はそちらに泊まってくれ」

「いらないです。今日のホテルは決めてありますので」

「あぁ、あのビジネスホテルか? 悪いけど、勝手にチェックアウトさせてもらった。荷物もこちらへ移させてもらった。と言ってもほとんどなかったがね」

「……余計なことを……」

 隠しきれない舌打ちと苛立ち。

 メモを剥ぐように奪い取る。簡単な住所と地図が書かれている。

 ふと、視界に羽々音が入ってしまう。

 彼女はあくまで目を細めて微笑するばかりだ。

 目をそらす。

 黒くて苦いものが、喉の下にいつまでも引っかかっていた。


■■■


 学校の山からバスで十分の場所から、さらに歩いて十分。

 この品山の名産のひとつに温泉があるが、指示された場所は温泉街だった。

 土産物屋や足湯等、娯楽施設が建ち並ぶ大通りを少し外れると、いかにもバブル期に調子こいて建てましたという古い感じの町並みがある。

 メモの場所は、そこを指示していた。


「旅館でもとってくれたのかね」

 角を曲がり、住宅街へ入る。

 町を覆う湯気が少しずつ薄れて、生活感が代わりに漂い始める。

 そして目的地、到着。

 こぎれいな二階建ての家屋。

 黒い屋根瓦はよく磨かれていて、壁のペンキも塗り立てだ。

 だが、とても客商売であるようには見えない。

 というか家だ。

 どう見ても、一般的な一戸建て住宅だった。

「うわー、民宿かなぁ」

 呟く私の目の前に、表札。

 『射場』の文字。

「…………ってやっぱあいつの家かよ!」

 私はメモを力いっぱい地面に叩きつけた。

 呼吸を整え、投げたそれを再び拾う。


 大きめな門の前には、トランクケースがぞんざいに置かれている。

 いくらまともなものが入っていないとは言え、ひどい扱いだ。

「……見覚えあったのに、忘れてたな」

 あの羽々音の家庭教師で二年とちょっと、ここに通い詰めていたというのに。

 どうせ一泊するだけの場所だ。あえてこだわるまい。

 毒でも盛られるならそれはそれでも良い。死んでも地縛霊になって呪い続けてやるだけだ。


 これまた不用心なことに、鍵はかけられていなかった。

 あの頃と比べて、内装はきれいになっている。

 玄関で靴を脱いで出迎えたのは、来客用のソファが備え付けられたリビング。

 作者不明の洋画が壁にかけられ、中心にはテーブル。

 灰皿はない。射場重藤は嫌煙家だった。

 まずはソファに、荷物と、自分自身の全身を沈める。

「ああぁー」

 と、

 ため息まじりに声を絞れば、いろんなものがふつふつと心の中で煮られていく。

 無気力、疲労、怒り、嘆き、苦しみ、悲しみ、自暴自棄。

 すべてないまぜになって、見えない手でかき回される気分だ。

 このまま眠ってしまいたい。

 うとうとし始めたその時、


「ん?」

 かすかな水音が、耳に届いた。

 それをかんかんと沸かす、ガスの音。

 音の源は廊下の突き当たりの風呂場からだった。

「……風呂でも沸かしてくれたのか?」

 何もかもが不用心だ。火事になったらどうする? あるいは私を家ごと焼き殺す気か?

 のろのろとそちらへ身体を動かす。

 西日が差し込み、脱衣所から浴室はオレンジ色に輝いて見えた。ドアの隙間から湯気が漏れてきている。

 ドアに手をかけた、その時、ドアが開いた。


 中に人。

 女の子だ。


「あ、シャンプー取ってもらえますか」

 風呂の中からそう頼まれて、私はくるりと向きを変えた。洗面台の棚には、二種類のリンスインシャンプー。私は青いトニック入りのほうを手に取ったが、

「あっ違いますよ。その隣の、ピンクいほうです」

 と、風呂場から、裸の上半身を乗り出した少女に、指摘される。

「あぁ、悪い。こっちな」

 私はそれに疑問を持たずに従い、濡れたその手に渡した。

「ありがとうございます」

 にっこりとお礼を言ったその女子高生、射場羽々音は、くるっと回って風呂場に戻っていく。

 戸が完全に閉まるまで、私は、ほどよく、締まった白い背と、うなじに張り付いた黒髪と、丸い、お尻と……を、見、て…………

 ……

「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 叫んだ。

「ウェ!? ウェウェウェウェ、ウェェェェェェェェェェェェ!?」

 とにかく奇声を発した。

 この事態の異常性を訴えるために、言葉にならない絶叫を、絞り出す。

 だがそれに応えるのは、裸身をさらしたあの少女の、のんきな鼻歌だけだった。


■■■


「ごめんなさい。先に着いちゃったみたいで」

 射場羽々音は十分弱の短い入浴の後、黒のキャミソールとホットパンツという、堂々たる露出っぷりで私の前に現れた。

 悲鳴をあげられたりビンタされたりするのはむしろ私の方の、はず。

 こんなラブコメディ、あってたまるか。


 彼女はよく整ったシステムキッチンからアイスカプチーノを携えてきた。リビングで待つ私は、その扇情的な格好をスタンドにもたれかかりながら見つめていた。昼間束ねていた髪が下ろされている。それを見ると、一本一本は細くても、かなり量が多いことがわかった。

 彼女が両膝を抱えるようにして、身をソファに沈める。よりにもよって、私の隣へ。

 まず一口飲んで、「飲みます?」と私の方へと傾けてくる。

「いらない」

 クッション一個分離れてから、私は拒んだ。

 確かに喉は渇いていたが、とても飲みたいと思える気分じゃなかった。

 最悪でも、この疑問に、答えてもらうまでは。


「……何のつもりだ?」

「はい?」

 微笑したまま、彼女は首を傾げた。私が言っていることの意味が理解できないと、その無邪気な笑みが言っている。

 と言え、私はくり返し理由を問うしかない。

「なんでそうも、こう、も、この、その!」

「はい?」

「不用心だろっ! どーゆーつもりだ!? オヤジに色仕掛けでも頼まれたか!?」

「父は、そんな人じゃないです。っていうか、父にとって大悟さんはそれほど必要な人間でもないですし」

「はぁ!? じゃ、なんで!?」

 なんで私を、ああまで強く誘うのかと。

 その問いを言い切る前に、羽々音が答えを先回りさせた。

「あたしが推薦しましたから」

「っ!?」

「といっても、なんとなく候補者の名前として出しただけですけど。そしたら父にとって都合の良い人材像とぴったりはまっちゃって」

「『身軽で、ある程度実力があって、一族にとってどうでも良い人間』か?」

「そんなに自分を卑下しないでください」

 という彼女は、微笑をくり返すばかりだ。真意は読めない。

「それに」

 と羽々音は続ける。

「色仕掛けするなら、それは父じゃなくてあたしの意思ですよ? 大悟さん」

「……」


 どうにも初めて会って以来、妙になつかれているがこの少女の好意は、まるで信じられない。

 流した涙を、私の弱みを知るがゆえの優越か、意のままに出来るぞという威圧からか。

 その笑顔の下に、いかなる考えがあるのか。警戒心が解けない。

「……出てく」

「えっ?」

 少女の顔から、初めて笑顔が消えた。

「荷物は取り戻した。悪いが正直言って、百地も射場も信じられない。なんの思惑があるか知らないけど、これ以上私を巻き込まないでくれ」

「まっ、待ってください!」

 彼女の伸びた手が、私の手首をつかむ。

 抗おうと力を入れた瞬間、手首がひねられ、私の全身は宙で回転した。

 次の瞬間天井が見えて、背中には床。

「ぐえぇっ……」

 したたかに打ち付け、痛みが走る。

 見事な小手返しをくらってしまった。

 すかさず羽々音は私の上に乗って、押さえつける。

 風呂上がりのすべすべとした肌が、服越しに、あるいは直に、私の身体に密着していた。

「……大した腕だな」

「恐れ入ります」

 無防備な表情で、彼女は礼を言う。

 まるで自分が私に対し暴力行為を振るったことすら、自覚していないような顔だった。

「これを使う手もありましたが、確実性を重視しまして」

 どこからともなく彼女は『識札』を取り出して見せる。

 ――確実性、というのはあれか?

 『私が確実に無傷でいられるもの』を選んでくれた、というわけか?

 ありがたくて涙が出るわ。

「どいて欲しいんだけどな」

「前言撤回をお願いします」

「いや、だから」

「お願いします」

 彼女の身体が折れ曲がり、額が私の胸板に寄せられる。

「ただいまー」

 折悪く、男の声。

 ふと横に振り返れば、彼女の父がいる。

 ボトリ、と。

 手から書類カバンを取り落とした。

 私は自らを顧みる。

 無防備の年頃の娘に、男が密着している。

 冷静に考えれば娘が男を押し倒しているだけなのだが、その光景を実際に目の当たりにした父親の感情は、容易に想像がついた。

 男、重藤は、笑っていた。

 娘とは違い、紙に描いた笑顔を、そのまま貼り付けたようだった。

 周囲の空気が、震えている。

「あ、いや、これは……」

「花見くん」

「はっ」

「娘の意思はこれでも尊重している。ありのままを受け入れるさ。しかしながら、だ」

 ネクタイをゆるめ、

「僕はね、自分の娘のことをとても大事に想っている」

 握り拳を前に突き出すようにして構え、

「父親には、娘の婿を選定する義務があるとは考えないかね? 特に一日にして娘を口説くような飲んだくれに、二つ返事でくれてやれると思うのかな? ……ちょっと拳で語ろうか? 花見くん」

「いや、それ自体が事実を歪めて見てるって……おい羽々音ちゃん、君からも弁解を頼む」

「大悟さん」

「な、なんだよ」

 彼女は満面の笑み。私の方へと若干身を寄せたまま、握り拳を作って言った

「ファイト!」

「ノーファイトだ!」


■■■


 はっはっは、という豪快な笑いが、団欒に響く。

「いや、すまない。君のことだからありえぬ話ではないと思ったのだがね。でも思い過ごしで良かったよ」

「そうですね。せめて一発殴る前に気づいてもらえりゃ、なお良かったんですがね」

 赤く腫れた右頬に触れて気遣いながら、私は舌打ち混じりに言った。

 今日だけで、

 納豆を顔面にブチまけられて、

 巨大な弓には命を狙われ、

 娘にはブン投げられて、

 その父親にはブン殴られる。

 ――いったい私が、何をしたのか。


 羽々音の作ったチキンカレーが、彼女の手によって運ばれ、並べられる。

「梓が死んでからしばらくは家事はお手伝いさんに任せていたんだが、どうにも慣れなくてね。結局料理だけはその味をよく知る娘にやらせてしまっている」

 はぁ、と生返事をして、カレーを食べる。

「美味しいかね?」

「カレーなんて、誰が作っても美味いもんでしょうよ」

 いつものように、悪態をつく。

 姉に似た味だなんて、死んでも言えないから。

 羽々音は残念そうに肩をすくめて苦笑した。が、さっき頭をよぎったことを言えば、その倍は落胆させる。それだけは、あってはならない。


 無言のまま食事は終わり、洗い物をする羽々音の背を見ながら、私は重藤を睨んだ。

「なんだ、まだその頬のことを根に持っているのかい?」

「いや、そうじゃなく。……まぁ恨んでますけど。よくもまぁ私をもう一度この家に入れる気になったな、と」

「……僕は反対したさ。もう一人の娘のためにもね。だがその娘に招くように言われては、反対のしようもないじゃないか」

「羽々音ちゃんは、あのことを知ってるんですか?」

「言えると思うかい? 家庭教師をしていた君が、自分の姉を殺したのだ、と?」

 ――私は、殺してなんか、いない。

 そう言ってやりたかった。

 でも冷静に、突き詰めて考えれば、彼女を死に追いやったのは私ということになる。

 だから言い返す気にもなれず、もやのような正体定かならぬ感情が、苦い息となって漏れるのみ。

「迷惑な話ですな」

「まったくだ」

 重い頭を突き合わせ、私と重藤の会話はそこで途切れた。


■■■


 夜、誰もが寝静まった頃。

 私は、そっと、物音も立てず、二階の借り部屋を抜け出た。

 こそ泥のように忍び足で、ある場所へと向かった。

 部屋の奥の、彼女の、梓の仏壇。そこだけ妙に和風なことに、おかしみを覚える。

 墓には一度行ったきりだったが、ここには一度たりとも来たことがなかった。まして葬式など。

 彼女の実家ということもある。そこに自分が多大な迷惑をかけたということもある。なによりそこには、彼女の身も、魂もない。

 それを一番、よく知っていた。

 ただ手を合わせ、詫びる。

 詫びる、詫びる、詫びて、詫びて詫び続けて……視線を感じて、面を上げた。


 ジャージ姿の射場羽々音が、薄闇の中でじっと私を見つめていた。

「……悪い。起こしたか」

 少女はゆるやかに首を振る。

「あたしは良いんです。……大悟さんこそ、眠れないんですか?」

「命狙われて熟睡できるヤツなんかいない」

「あはは。ごめんなさい。でも大悟さんは死にませんでしたよ。どのみち」

「どういう意味だ?」

「これ以上聞くと、今日の話を受けることになっちゃいますけど」

「……あぁ、そうだったな」

 彼女の言葉に、トゲのようなものを感じるのは、私の気のせいか。

 いや、梓の霊魂が妹の口を借りて私を咎めているのか。

「ひょっとして、あたしが大悟さんを責めてる、なんて考えてません?」

「!?」

 やっぱり、と回り込み、膝を抱えて腰を落とし、ずいと私に顔を近づける。

「……気にしてないです。だって、教師だけの約束だったのに無理矢理百地の仕事やらせなようとしてるの、こっちだし」

 そう言えば、そうだった。

 それでも、と。

「なんで私だったんだ」

 頭を抱える。俯き、嘆くように、拒むように、突き放すように、問いをぶつける。


「なんで……私にもう一度、戦えと」

「……すみません。でも、不安でした」

 顔を上げれば、少し寂しげな、一人の少女の笑みがある。

「不安?」

「そりゃあたしだって、戦いの中で死んじゃうかもしれない。あたしだけじゃなくて、父さんや、仲間も巻きこまれちゃうかもしれないですから。でも、大悟さんなら託せます。みんなの命も、あたしの全部も」

「……答えになってない」

 あはは、と寂しそうな様子を吹き飛ばし、羽々音は立ち上がる。

「あたしも、よく分かってないです。大悟さんに危ないことして欲しくない。でもあのまま埋もれて欲しくもなかった。ヘンだと思うけど、どっちも本心です。あたしのこと信じなくても良いですから、でも……でもこの言葉だけ、信じてください」

 彼女の顔は、私からは見えなくなっていた。

 背を向けようとする羽々音に、


「……教師ぐらいは、まじめにやるよ」

 と約束する。

「やってくれるんですか?」

「約束しちまったからな」

「やった」

 控えめな声を弾ませて、微笑ではなく満面の笑みを間近にして羽々音は言った。

「大悟さんと、また一緒にいられる」

 その後二、三言葉を交わしたはずなのだが、どう聞いても社交辞令なその言葉が、耳について離れなかった。


■■■


 入学式まで時間はあった。

 一日で終わるはずだった射場家への逗留は二日に延び、一週間に延びた。

 準備もあったし、何より教師となる以上は住まいも探さなくてはならない。

「一緒に住めばいいのに」

 と羽々音は言ったが、生徒とその父親同伴の家なんぞ、食がついてもごめんこうむる。

 それは重藤も同様の感情だろうに。


 不動産屋からの帰り、小腹が空いていた。

「そろそろおやつにするか」

 独り言のはずだったその言葉を、プッと噴き出し笑いが拾う。

 隣に並ぶ、射場羽々音のものだった。

「なんだよ」

「いや、だっておやつって……子どもみたいでかわいい」

 軽やかな笑い声と共に『言われて腹立つワードベスト3』に入る言葉が耳を突く。

「子どもっぽい」

 よく言われるからこそ、この言葉は常に上位ランカーだった。

 怒るよりも先に、羽々音は、私の前に立った。

「じゃ、喫茶店にでも行きましょうか。おやつを食べに」

 楽しそうに彼女は誘う。

 腹は立つが、返す言葉もない。


 羽々音はよく私の買い物に同伴する。

 家主の娘だからといって好んで住んでいるわけではないし、拒めることは拒めるのだが、その好意を否定するわけにもいかない。

 だが、

 十歳年下の、しかもどうも見ても未成年の少女と居合わせたうえで家探しなんて、好奇の目で見てくださいと言ってるようなものじゃないか。

 というわけでつい買いそびれる。

 ――もしかして狙ってやってるのでは、と思わないでもない。

 なんらかの意図があって、私に付き合い、あの家に縛り付けている。監視か、それとも……

「大悟さん」

「は?」

「つきましたけど」

「あぁ」

 あいまいな返事とともに、私は彼女にともなわれて、老舗喫茶店『マナレージ』に入る。


 客の入りはシーズンオフにしては上々、メニューも豊富。私が嫌いで嫌いで仕方がない、あの地域密着とは名ばかりの、排他的で田舎くさい雰囲気もない。

 ただ常連客が静かに、互いに関わることなく自身の時間を満喫している。

 壁に大型のテレビが取り付けられているが、音はさほど気にならない。

 春とは名ばかりの山の外気に、店内の暖房はありがたい。

 想像していたよりもはるかに良い店だ。

「ご注文は」

 と、私より少し年上のマスターが聞きに来る。

「エスプレッソ二つ。ルンゴとリストレットで」

「かしこまりました」

「君、勝手に……」

 まぁまぁと羽々音が私をたしなめる。

「ここのはおいしいですから。代わりに好きなの頼んでいいですよ、おやつ」

「……っ、じゃあっ、ホットケーキ二つ」

「かしこまりました」

 マスターがきれいなおじぎと共に去る。

「大悟さん、かわいいなぁ」

 無視した。

 手をぬぐい、レモン水を口に含む。


 ちょうど連続ドラマの再放送がやっている時間帯、ぽつぽつと、客の視線を集めていた。

「あれ、このドラマって」

 ふと、羽々音が呟いた。

 どうしたのかと、そのドラマを良く見てみる。

 大正時代を舞台にしたその劇は、なかなか凝ったセットの中で行われている。

「……ん?」

 と、登場人物の一人に、見覚えがあるような気がした。

 十代半ばあたりの少女だった。

 物語上で重要人物の一人であるらしく、楚々としながらも凛としたその振る舞いは、なんとも魅力的だ。やや顔が丸いが目鼻立ちもきれいだし、何より若いのに珍しく演技派だ。長いセリフをもらっているというのに、はきはきとよくしゃべる。

「今年のヤツ、気合い入ってるなぁ」

 人気と流行だけが取り柄のアイドルあがりの素人、というわけでもなさそうだ。

 羽々音が気にしていたのは、その少女らしい。

 ということは、彼女は私と羽々音の共通の知人であるということだが、そんな都合の良い人間がいただろうか?

 あれこれ思案を巡らせているうちにドラマは終わり、次回予告とともにスタッフロールが流れる。

 何度も呼ばれていた役名を探していると、最初の頭かたりに現れた。

 役者の名は、


「村雨雫」


 ……

 …………

「ぶーっ!」

 噴き出したレモン水は、かろうじて首をひねり、羽々音に直撃させることを避けられた。

「な、なんだってアレの名前が!? 同姓同名か!? 私の見間違えか? 悪夢か!?」

「あー、やっぱりしーさんの出てるヤツか」

 私がヒザの上にこぼした水を、羽々音は濡れタオルででごしごしと拭っている。それを拒む余裕がないほど、私は動揺していた。

「だってアレ主演だろ!? エキストラとかじゃなくて、扱い的にレギュラーっぽいぞ!」

「あれ、知らなかったんですか? しーさん、今売れ出し中の実力派若手女優なのに。テレビとか見てます?」

 どこかで見たあの娘は、因縁あさからぬあのサルだった。

 ……ベタ褒めしてしまった数秒前の自分を殴りたい。


「どこかで見たと思ったら」

 私の記憶力が悪い、というわけではないのだろう。

 普段と違いすぎる役柄、私がつい最近までテレビとは縁の遠い、荒れた生活を送っていたという事実。何より、頭の中で自身と羽々音の知「人」を捜していたのが問題だった。あれは、私の中で「人類」のカテゴリに当てはまらない不思議生物なのだから。


「あんな台本も読めそうにないようなのが売れてるのか……世の中病んでるよな」


「…………花見さんってわたしが吸った空気にすらケチつけそうだよね」 


 私を非難する声が、背にぶつけられる。振り返るまでもなく、村雨雫だった。

「ケチなんてつけるか。ただ吸われた空気に同情するだけだ」

「ねーバネちゃん、こいつブン殴って良い?」

 顔の筋肉ををヒクつかせる雫に対し、羽々音の答えは

「ダメ」

 にこにこしながら、許可を出さない。すでに私の世話を終え、当たり前のように隣に座ってきている。

 むー、とふくれる雫は、納豆トマトコロッケランチという、珍獣に相応な怪しげな膳を、羽々音の隣へと置いた。

「っていうか、いたのか」

「その言葉、そっくりあんたに返すよ。あっ、バネちゃんは別だよー?」

「しーさん、演技、また腕上げたねぇ」

「にぇっへっへ。テンキュー」

「そうだな。上手かったと思うな。人間のマネが」

「なんで言うことなすこと片っ端からケンカ売ってくるの!?」

 事実に怒りを示したが、私は無視した。

 客もこいつの怒号を無視している。

 関わりたくない種のアレと見なされているのは納得できるし、役の彼女がカツラをかぶって裸眼なので、同一人物と認識できないらしい。

 だがせっかくの静寂が台無しだった。

 ――殴りたい。心の底から、殴りたい。

「つか、役者なんだな、お前」

「てっへん! 結構忙しい身の上なのだよ! どーだ恐れ入ったかこのチンピラニート!」

「お前もいちいちケンカふっかけてきてるけどな。で、その役者様がなんでこんなところにいらっしゃるんですかね?」

「いや、あたしもバネちゃんに呼ばれてね」

「……らしいが? 言い訳はあるか? 羽々音ちゃん」

 私たちを集めた本人は、ただニコニコと笑い、

「だって、せっかくの縁だし、ね?」

「ね? じゃないよ。わたしとハナミンは縁は縁でも腐れ縁だよ、クサレエン!」

「ハナミンって言うな! なんだその呼び名!?」

「うっさい! あんたなんてさん付けするのもおこがましいわッ!」

「確かに、納豆だから腐れ縁ですよね」


 ピントの外れたことを言う羽々音の前に、ホットケーキと量の少ないコーヒーが置かれる。

 羽々音は砂糖をスプーンで二杯、手慣れた手つきでポットからコーヒーへと運び、ティースプーンで上下にかき回す。

 その所作に見とれているうちに、私の手元にも同じものが運ばれてくる。

 私は砂糖を三杯入れた。

 その前に、ホットケーキを大ぶりに切って口に運ぶ。

 ふわふわの焼きたてで、とてもおいしい。


「ね、ね。ひょっとしてこの集まりって、例のアレ、『識』の件で?」

 その味を、台無しにする雫の一言。

「おやつがまずくなるようなこと言うなよ」

「おやつって……」

「違うよ。だとしたら、大悟さんを呼ばないし」

「呼ばないって? ……まさかこいつ、一週間もお世話になってるのにまだ『識』の件断り続けてるの!?」

「断り続けてるんじゃない。もう決定。私はただの平凡な教師で通すことに決めました」

「あっきれた!」

 誰にはばかることのない大声が、テレビの音からかき消す。

「あんたのことよくわかんないし、知りたくもないけど、バネちゃんとそのパパさんに悪いとも思わないの? 他の人だって傷ついてるのに、心が痛まないの?」

「あーあーうっさい! 何も聞こえない! そういうお前はどうなんだよ?」

「もっちろん! 協力するに決まってるでしょ?」

「……お前」

「あによ」


「バッ……カじゃねーの!?」


 はばかるべき大音声が、耐えきれずに私の口から一気に吐き出された。


「素人がクビ突っ込んで事態が解決するワケないだろうが! 友人だろうが親だろうが、口先で騙して踏み台にする、人類を守るだどうだのともっともらしい理由つけて、テメーらのエゴしか考えてない! それが私たちのやり方なんだよっ! どうしようもねぇ、クソみたいな集団なんだっ!」


 憤りに任せて私が吐いた言葉は、まぎれもなく、偽りなく、本心。

 なのに、ささくれたその一言一言が、自分自身の胸すら傷つけているのを、私は強く感じていた。

 その痛みでようやく落ち着いて、周りを見渡す。

 ぎょっとした表情の者もいる。徹底して無関心を決め込む客もいる。

 マスターは、割って入る隙を見澄ましているように、静かに視線を向けていた。

「……ともかく、お前がいるあのテレビの中の世界じゃない。フィクションじゃないんだ。大人しく手を引け。羽々音ちゃん、君もだ。君らの世代が、旧世代の都合に巻き込まれなきゃいけない道理がない」

 しばらく沈黙が続いた。

 呆れたような、心底失望したような雫を、ただ睨み返すだけだ。


「…………っ…………」


「え?」

 俯きがちな羽々音の、聞こえるかどうかという呟きを、私は聞き漏らした。

 聞き返した私に対し、「いえ」と羽々音は首を振って微笑で答える。

「でもあたし、やります」

「なんでっ……」

 それに対する答えは、思いがけないものだった。


「大悟さんが、辛そうだから」


「っ!」

 透明感のある表情が、私には重い。

「大悟さんは、そうやって表沙汰には出来ない事件で傷ついたんですよね? だから口をつぐんで、そんな哀しそうな顔して、悪ぶって……あたしにだって、それぐらいわかりますよ。そんな大悟さんみたいな人を増やさないためにも、あたしは戦います」

 思わず何か言いかけたその時、

「んん?」

 と、雫が首を傾げた。

 来ているフリースのポケットから、赤い『識札』を取り出す。

「……こんなところで出すなよ。目立つだろ」

「いや、だってなんかこれがだんだん熱く」

「ちょっと待ってください!」

 珍しく大声を出したのは、羽々音だった。

 熱はともかく、『識札』はわずかに光を放っている。そして、無地の表面に描かれる人型の絵。

「場所を変えましょう」

「え、あ、おい!」


 駆け出した二人の代わりに、私は三人分、料金を払って店を出る。

 店前で、二人は立ち止まって赤札を凝視していた。

「なんだ? どうした?」

「例の敵です。オリジナルの『札』がこの近辺で発動しました」

「なんだって?」

「半径五十キロで発動した『切札』を、この『赤札』は探知できますから」

 『切札』という言葉は初めて耳にするが、おそらくはそのオリジナルとやらだろう。

「父に座標を特定してもらいます。今は、とにかく移動しよう、しーさん」

「うん!」

 気持ちいいほど快諾する雫に、私は

「人の忠告無視しやがって」

 と小さく毒づく。

 ぴたりと、比較的小柄な雫の女優の足が、止まる。

「……ひとつだけ言っとくけど、わたし、正義のためだからとか、バネちゃんの組織がどう考えてるかとか、そーゆー小難しいこと考えてないから」

「あ?」

「友達が困ってるからっ、放っておくと誰かが危ないからだよ! 助けられる手段がわたしの手の中にあるなら使うに決まってんでしょ!? 他のことなんて今考えてしょうがないでしょ!? それ以外考えることなんてあんの!?」

 背を向けたままで、少女は吼える。たじろぐ私にちらりと横顔を向け、

「あんたの方が百地一族とか十神とかよく知ってるだろうし、それを知ってるあんたが思うならクソみたいなんでしょうよ。でもそこからも、自分からも逃げたら、あんたの方がよっぽどクソだよ」

 言いたいことだけ言って「行こう」と羽々音を促す。

 羽々音は、わずかに一礼した後で、雫を先導していった。

 遠のく足音が完全に消えるまで、私は拳を抱えるようにして立ち尽くすしかなかった。


 ……

 ……

「逃げる、か」

 ガキの戯言、気にすることはない。

 そう自分に言い聞かせても、雫の吐き捨てた罵声は私の頭の中で何度もリフレインする。

 それをかき消そうと、私は、傍にあった電信柱に、ためらうことなく額を打ち付けた。

 コンクリートの塊は、反響もしない。揺れもしない。

 ただ私を傷つけて、痛みでようやくその声が忘れられた。


「好き勝手言ってくれる。どいつもこいつも」


 ――でも、

 それでもと、

 私の内なる声が、奥底から聞こえてくる。

 逃げても

 逃げても逃げても逃げても、

 後悔しようとも、

 私は動くしかなかった。

 この時既に、決心していたのだから。

 ――約束、していたのだから。


「……っ」

 言葉にならぬ焦燥に突き動かされるまま、手にかけた携帯端末で、私は電話をかける。

 そいつに渡された電話には、そいつの番号がセットされていた。

〈やぁ花見くん、いい物件は見つかったかい?〉

 そいつ、射場重藤はいつもと変わらぬのんびりとした口調で応対してきた。

「トボけんな。あんた、既に娘から連絡が受けてるだろ」

〈連絡……、あぁ、『識』の件か。だが君になんの関わりがある?〉

 上っ面の敬意を装っている場合じゃない。

 むき出しの言葉を、ただ端末にぶつけていく。

「私にもその出現場所を教えろ」

〈はて、君は一般教師として雇っていたはずだが、いつからボランティアとして百地の仕事を手伝うことになったのかな?〉

 こいつの思惑はわかっている。

 彼女たちの戦っている場所を教える。それを条件に、私から協力を申し出るようにする。

 どこまで想定していたかは知らないが、汚いやり口に唇を噛みしめる。

「んの……クソ野郎がっ」

〈悪いね。こっちもこっちで必死なんだよ。今になって新しく人材を捜すとなると時間がかかりすぎる。もう君しかいない〉

「だから協力するっつってんだろ! 場所を教えろ!」

〈わかった。すぐさま座標をそちらの携帯に送ろう〉

「あと、ひとつだけ言っておくぞ、射場重藤」

〈ん?〉

「私は、もうあんたにも百地にも十神にも協力しない。するつもりもない。私が動くのは、ただ『約束』のためだ。だから一つだけあんたも約束しろ。……何をすべきか、考えるのは私と彼女らだ」


 教師としての務めを果たす。

 ……自分の教え子のために、心身を尽くす。

 そう、再会の夜に羽々音と約束したから。


〈ずいぶん青臭いことを言っているようだがね、結局君が何にすがろうと、やっていることは同じことさ〉

「……その言葉、後悔するなよ」

 元同僚との通話は、事態が事態だけに短く終わった。


■■■


「これが、詳細な、座標!?」

 息を切らし、がむしゃらに走る。

 地図の画像データで示された場所は、『マナレージ』から十分かかる場所。

 ただ坂道の連続が、容赦なく私の体力を奪っていく。

 何より地図はあるのに、町内の範囲で指定されてあるばかりで、具体的に、どこで戦端が開かれているのかまでは指示されていない。探すのに手間がかかる。

「……ん?」

 改めて見た携帯の座標。

 その円が妙に横に広く、楕円形になっているような……

「まさか……っ!」

 ――発生した『識』は一つじゃない?

 二体、あるいは三体かもしれない。

 私が実際に目にしたことがある『識』は羽々音の『霹靂』だけだが、比較対象がない今ではその強弱すらわからないが、急ぐに越したことはない。

 私は再び携帯に手をかけた。

 さっき射場重藤にかけたのだから、当然その娘の番号も登録済みで、

〈もしもし? 誰だかわかりませんけど、今取り込み中で〉

「今からその場で大きな音立てろ!」

〈大悟さん? え、でもそれって〉

「話は後、さっさとやれ!」

〈わかりました。……大悟さんの、思うがとおりに〉

 と言った彼女の声は、なぜか、どことなく嬉しそうだった。

 本当に、間もなく聞こえる衝撃音。振り返れば、北の方角にのぼりたつ土煙。

「あそこかっ!」

 たまらず、駆け出す。

 彼女の聡明さは、昔から知っていた。

 何しろ彼女は、かつても今も、私の生徒なのだから。


 坂の上、市内いくつもある山の一つのふもとあたり。

 その採石場の装置に、巨大な矢は突き立っていた。

 傍らには二人。他ならぬ、羽々音と雫だった。

 彼女たちが、対しているのは、あの赤札に描かれたとおりの、黒く細長い人型。

 影のように伸びた手足をぶらぶらと動かしていながら、どこか俊敏で、彼女たちの前に設置された床弩の攻撃をひょいひょいとかわしていく。

 だが、こちらの存在には気づいていない。

 走りつつ、かつ気配と呼吸を殺して、その背後に回る。

 移動の中、羽々音と目が合った。

 互いに一度ずつ頷き、床弩がある地点へ狙いを定め、私は敵との距離を詰める。

 発射。

 影は進路を塞がれ、右に避ける。読み通りだった。

 すぐさま背後から蹴り、腕を絡め取って押さえ込む。

 途端にじたばたと暴れ出すそれを、私は必死で取り押さえる。関節を決められているというのに、ありえないほどの怪力。もって数秒。

「ぅえ!? え、ハナミンなんでここに?」

 今まで私の存在に気づかなかったのか、『識』すら展開させていない雫が目を白黒させている。

 それを無視して、私は羽々音を見た。

「今から、三つ数えたらこいつに矢を撃ち込めっ」

「はい!」

「行くぞ、さん」

「に」

「いちっ!」

 言うが早いか、本気で抵抗される前に、私は黒い人形から離れた。

 直後、起き上がりかけたそれを、太い矢の一閃が、地に縫い付ける。

 四肢を痙攣させた後、しゅーしゅーと、黒煙をあげて霧散するそれを、私は至近距離で見つめた。

 核にある『識札』が露わになる。雫の赤札に描かれていたとおりの人型が、黒字に描かれている。それが次第に灰へと変色していき、地に溶け込む。

 雫が赤札を取り出した。その手の中で、危機を知らせる札もまた、同じようにかき消えた。

 どうやら、一度目の危機は去ったという証らしい。

「で、ハナミン何しにきたの?」

 立ち上がった私に聞いたのは、雫だった。

 声に皮肉はない。それどころか、自分が私を罵ったことすら忘却している様子で、私はほとほと呆れるしかなかった。

「お前の言葉がシャクだったからな」

「わたしの? なんか言ったっけ?」

 小首を傾げられても、全然かわいげがない。

 羽々音はただ、にこにこと嬉しそうにしているだけだった。

「で・も。なんかもう片付いちゃった感じ。わたしの『識』をお披露目するまでもなかったみたい!」

 胸を張る雫の背後、うっすらと近づいてくる音に、私は気がついていた。

「……羽々音、お前はまだ赤札持ってるか?」

「え? はい。持ってます」

「じゃあちょっとそれ、見てみろ」

 訝しげに笑顔をおさめた羽々音は、自身のジャケットから札を取り出した。


 赤札には、黒い馬。

「……っ!?」

 見開くその目に、初めて驚きの色が加わった。

「え、なに、どゆこと!?」

「つまり、こういうこと、だっ!」

 私は雫を靴底で蹴り飛ばした。

 うぎゃっと悲鳴。

 だがヤツがそのまま留まっていれば、悲鳴すらあげることができなかっただろう。

 黒々とした、二輪のバイクが、ヤツの居た場所に突っ込んできたのだから。

 伸びきった私の脚を、タイヤがかすめる。

 舌打ち。

 予想よりも速い。

 猛スピードで突っ切っていったそれには、ドライバーがいない。

 だからこそ、乗り手にまるで遠慮しないような傾き加減でドリフトしていったそれは、スピードを緩めぬままに角に折れて、あっという間に私たちの視界から姿を消した。

「もう一体、いたんですね」

 よろよろと立ち上がった羽々音は、なにかを託すような目で私を見つめる。

「うかつに動くなよ」

 無造作に動こうとした雫を、まず私は言葉で制した。

 エンジン音すら聞こえてこない。姿も見えない。


 だが

「敵の『識』は、間違いなくどこかに潜んでいる」

 羽々音が首を上下させる。

「……父に判断を仰ぎます」

「その場にいないあいつなんかにまともな判断ができるか」

 私は軽く毒を吐くと、羽々音は肩をすくめて、取り出していた携帯を上着へ戻した。


「現場の指揮は、私がとる」


 ブランクある身での前線。

 自信なんかあるわけがない。

 それでも、堕落しきった生き方から抜け出るための戦いは、この死地から始めなければならないと、そう思った。

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