ようこそ!世界一美味しいポーション屋へ〜追放された錬成士は辺境の地で信じあえる仲間達とスローライフを満喫します 。
美味しいポーションを造る錬成士のお話です。
執筆中の長編が暗い展開になってきたので気分転換にほのぼの?モノを書きました。
(ヤバいニャ! ヤバいニャ! ヤバいニャぁぁ〜)
(まさかこんニャ所にゴブリン巣があるニャんて!!)
(矢が掠ったけど、出血は大したことはニャい。私の足なら逃げ切るはずニャ)
(…………)
(あれ? ニャんか、身体が重いニャ……?)
(……もしかして……麻痺毒が塗ってあったニャ?)
(……ヤバいニャ! 追いつかれるニャ!)
(ゴブリンは狡猾で残忍ニャ、捕まったら死ぬまでおもちゃにされて、死んでもおもちゃにされるニャ〜それだけは嫌ニャぁぁぁ!)
(ハァ……ハァ……あれ? なんか目が霞んできたニャ……足も縺れる……でも、もう少しで森を抜けれるニャ……)
(――!! 枝を掴み損ねたニャ!)
「ぎゃ!」「ぐふっ!」
「が、崖ニャぁぁぁ!」
(………………)
(――はっ!? き、気絶してたニャ?)
(……か、身体が動かないニャ、身体中痛いし視界も赤いニャ……ん? ニャにかが近づいて来る……ご、ごぶりん……?)
「獣人……? ◎ィ! ダξジヨΨブカ?」
(……ゴブリンの言葉じゃニャい……人族語?……)
「◎ィ! シッ≠ァリシロ! い#″ポーション″†マセ‰ヤル!」
(……ポーションって言った? 人族が作る薬……?)
(口の中にニャにか入って来るニャ……けど、飲み込めないニャ……)
「クソ! 飲マηィカ――コゥηッタラ、スマηィ!」
(まだ死にたくないニャ……やり残した事いっぱいあるニャ……助けて……お願いャ……)
(頭が上がるャ……人族の顔が近づいて来るャ……ニャにをするき……)
(……!!んぐっ……口が塞がれたニャ!……ニャにかが流れ込んで……)
(んぐ……んぐ……)
(あ……甘い!?……ニャんか身体が熱くニャって……)
(――ああッ……甘い、甘いニャ……! まるで蜂蜜のように濃く、それでいてミントの風が鼻を抜けていくニャ……花野に身を投げ出し、甘露の雨に打たれる夢心地……ニャァァ……溺れる……もっと……もっと欲しいニャァ……!)
(――んぐ! んぐ!)
(!!!)
(軽いニャ! まるで羽が生えたように身体が軽いニャ! 怪我もニャおってる!)
「ニャアアアアア!!」
(あれ?軽く駆け上がっただけなのに崖の上まで上がったニャ)
(ゴブリンがいたニャ!)
「――我が短剣よ不浄ニャるもに裁きを! レインボーダガー!!」
(すごいニャいつもよりキレッキレニャ)
「ニャら! どりゃ!」
(ふー。全部片づいたニャ!)
(そ、そうだ、人族にお礼言わなきゃ!)
「あ、あの……ありがとうございました……ニャ」
(うー、言葉通じニャいよなー)
(……? これを飲めって?)
「ごくごく……ごくん」
(にゃああ……! 美味しい〜……! 深いコクと苦みに、かすかに香る甘み……まるで人魚になったニャ。水が苦手なはずなのに。湖を華麗に舞うその姿……こんにちわ! お魚さん!)
「美味しいニャ〜……」
「良かった……ちゃんと美味しく出来たんだ……」
「え? 人族の言葉が分かるニャ?」
「僕の名前はユーファス。君は獣人族の?」
「命を助けてくれてありがとうニャ。
私は猫族のノンチャイニャニャ……ノンでいいニャ。ご主人様」
「ご主人?」
「猫族は命の恩人には尽くす種族ニャ! ご主人様は冒険者っぽいけど、こんな辺境にニャんの用で?」
「ああ、ここは僕の故郷なんだ。冒険者を辞めて実家で薬屋でもやろうかと思ってて」
(そうなのか! じゃあ私が薬屋手伝うニャ! 恩返しニャのだ! 猫の手貸すニャ!)
「毎日あの美味しいポーション飲めるニャ! 飲み放題ニャ!」
「……え?」
「……ニャ?」
――・――・――・――
(くっ……ギザエルめ、なんと卑しき振る舞い……四天王の座を狙うておったは知れておったが、この時に裏切るとは……)
(まもなく陰隠も解け果てよう……羽も裂け、なにより魔肺をやられたのが歯痒い……これでは魔力を溜めることも叶わぬ)
(あのギザエルが放った手下共も、この辺りを徘徊しておろう……ふふ……これまでか、わらわも……愛しき妾の命も……)
(…………)
(……なんじゃ? 小さな気配がふたつ)
(…………)
「ご主人様、この森を抜ければ近道ニャ」
「ノン、ちょっと待ってよ。そんなに急ぐ事ないから」
「ん?」
「木の根元、誰かうずくまってないか?」
「ニャ? ホントだ、女の子ニャ?」
「……蝙蝠の羽、長い尻尾……露出度の高い衣装……って、ご、ご主人様! サキュバス、ニャ! 魔王直属護衛四天王のひとりニャ!」
「サキュバスってあの、精神魔法で魅了とか幻術などかけてくる奴だよな? Sランクの? あんな少女の姿なのか?」
「確か聞いた事あるニャ、サキュバスは魔力が枯渇するとあの、ボン!キュッ!ボン!のスタイルが維持出来ニャいとか」
「羽も千切れてボロボロじゃないか!」
「ちょっと待つニャ、もしかして救ける気ニャのか、ご主人様!?」
「ああ、救けるよ……僕はもう誰も見捨てない。今度こそ人を信じ抜くんだ」
「で、でも魔族ニャよ」
「うん。ノンだって獣人族だよね……」
「そ、そうだけどニャぁ」
(人族と獣人族が……相並んでおるだと……? ふん、珍しき取り合わせじゃな……)
(……む、気づかれたか……。くっ……ここまでか……)
(な、何じゃ、その瓶に入った蒼き液体は……? 毒か……?)
(う、動かぬ……もはや妾の身体は……これほどまでに……くっ殺せ!)
(な、なにをする……妾の顎を……触れるでない……! 口を無理やり――あ、開くでない……っ)
「んぐ……んぐ……」
(…………!!)
(ま、ま、不味い! これは最悪の毒じゃ……まるでゴブリンのBeepとドロトカゲのBeepを混ぜ、常温で一週間放置した味ではないか……!)
「くそっ、駄目か! 飲んでくれない……また不味くなったのか!?」
「ご、ご主人様!! ミノタウルスがこっちに向かってきてるニャ!」
「ノン、対処出来るか?」
「気を逸らすぐらいなら出来るニャ!」
「分かった。じゃあこのポーションを飲んでてくれ!」
「了解ニャぁ! 行ってくるニャ!」
(逃げぬ……だと? 愚か者め。ミノタウルス相手に勝てるはずがなかろうに……)
「待ってろ、今から新しくポーションを生成する!」
(何を言っておる……剣で首を跳ねれば済む話ではないか。……なにをしておる?)
「――ご主人様あああ!! スケルトンアーチャーがそっちに向かってるニャぁぁぁ!!」
「くそっ……とりあえず防御ポーションを……!」
(な、なんじゃ小奴、妾に覆いかぶさりおって……何を――)
「がはっ!!」
(き、貴様……矢が刺さっておるではないか!?)
(……妾を、庇ったとでも言うのか? 人族ごときが……!?)
(な、何なのだ小奴らは……早く逃げぬか! 獣人の娘も疲弊しておるではないか!)
(……妾を救おうとしておる……? さっきの毒は……薬、だったのか? 解せぬ……)
(腕が……動くじゃと? さっきの液体を少し飲んだからか……?)
「がぁっ!! は、早く……ポーションを……飲んでくれ……!」
「……あの瓶に手が届く……されど、あの不味きものを、妾に飲めと言うのかえ……?」
(……しかし、この男の、苦悶に満ちた顔……可愛いではないかえ……)
(やれやれ、魔王直属の四天王のひとりやぞ、妾も血迷うたのう……)
「んぐ……んぐ……」
(ま、不味…………くないじゃと?)
「――なんじゃこれは!? なんという美味! 嗚呼、全身に熱い魔力が注ぎ込まれる。ああ、一糸纏わぬ妾に金糸の絹が愛撫してくる感じ……甘いスライムの雨……これは辞められぬわ」
「嗚呼、妾の身体が蘇る! おお、いつもよりも胸が、尻が……こ、此れは!」
「げ! サキュバスが元の姿に戻ったニャ! ニャんかとんでもない魔力を感じるニャ! これは離れたほうが良いニャ!」
「フフ……人族ごときに救けられるとは、我ながら滑稽よのう。されど――不思議と胸の奥がざわめく……これは悪しき感情ではないな。むしろ、この昂ぶり……なんじゃ、この胸に籠る熱は。――まあ良い。今は目の前の下郎どもを、駆逐してくれようぞ」
「――妾の愛を、その身に刻むがよい……その苦しき呻き、妾を悦ばせ――狂愛穿矢!」
「ブファ〜凄い爆風ニャ。す、すさまじいエネルギーの矢がニャっと言う間にスケルトンアーチャーを粉々にしたニャ!!」
「ミノタウルスがサキュバスの方へ突進して行くニャ!」
「――もう抗わずともよい……その身、その心、すべて妾に委ねよ……終わりなき愛に溺れ、己を己で葬るがよい……無涯恋葬!」
「デカい鞭が出てきたニャ! ど、どうする気ニャ! あわわわ〜ニャんて事を! ああ、そんニャ事まで……なんて……なんて破廉恥技ニャぁ!!」
「ミノタウルスが爆死したニャぁ! 花火のように散ったニャ」
「はっ、ご主人様!」
「ごしゅじんさまぁぁぁぁ」
「ノン、もう大丈夫だよ。ポーションがひとつ残ってたからね」
『神の祝福、″ユニゾンタイズ″のレベルが2になりました。対象との「絆」に応じてアクティブスキルの数値が変化します』
(――ユニゾンタイズ……今、初めてレベルが上がった。
僕自身も、誰ひとりとして知らなかったスキル。かつてのパーティーはゴールドランクに昇格してから、それぞれが好き勝手に動き、空気は険悪になっていった。あの頃からだ――「お前のポーションは不味い」と言われ始め、やがて僕は追放された。
おそらくこのスキルは、自分を信じてくれる仲間には力を与え、敵意を向ける者には逆に作用する……そんな特性を持っているのだろう。
だから僕は、ここ辺境の小さな地で薬屋を開き、静かに、ひっそりと暮らしていこうと思う。 ひっそりと)
――・――・――・――
「ご主人様〜この机はここでいいかニャ?」
「そうじゃ、そこへ置いておくれ」
「……って何でサキュバスがまだここにいるニャ! 魔族領へさっさと帰るニャ」
「仕方あるまい? 魔肺をやられた今となっては、帰還など叶わぬ。それに、このような小娘の姿では、魔世の荒波に呑まれて、あっという間に殺されてしまおうぞ?」
「それに、主様は――『救ける』と、言って下さった。妾は、ただそれに応えるだけじゃ。……さあ、机が済んだら、次は商品の補充をしておくれ」
「だからニャんであんたが指図するニャッ!」
「“あんた”って、連れないことを。″ネフィリア″と呼んでおくれ。これから宜しゅうな、ノン」
「フン! いいから手伝うニャ、ロリバス」
「……おや? 客人の気配。女の騎士が、傷ついた者を連れてこっちへ来るようじゃ」
「ご主人様〜、お客ニャぁ!」
カラン……カラン
「いらっしゃいニャ〜!」
「ようこそ、ここは薬屋絆堂じゃ」
「さあこちらへ、もう大丈夫ですよ」




