5話 ぬいぐるみを取りに来たのは?
そうしてぬいぐるみを直し始めてから5日目。俺はついに、ぬいぐるみの修復を終えた。そしてその日の深夜、今、修復を終えたネコのぬいぐるみは、玄関先に置いてある。
ネコのぬいぐるみの出来栄えはというと、今の俺にできる限りのことはしたし、じいちゃんと神谷さんからも合格をもらったから、大丈夫だとは思う。
そう、思ってはいるけど、じいちゃんたちに合格をもらったからといって、最初から最後まで、1人で修復したのは今回が初めてで、まったく心配ない、なんて事はなく。
それに、そもそも誰が、小学生の俺が初めて1人で作ったぬいぐるみを、修復に出してきたのか。
じいちゃんと神谷さんには、玄関先に置いておけば、俺たちが仕事をしているうちに、それか俺たちが寝たあとにでも、勝手に持っていくだろう。ついでに今度からは、ちゃんと依頼してくれって、手紙にでも書いて一緒に置いておけ、と言われたけれど。
いろいろ気になること、知りたいことがあり過ぎて、じいちゃんたちが寝たのを見計らって、玄関先が見える部屋へとそっと移動し。そして今、誰がぬいぐるみを取りに来るのか、見張っているところだ。
「誰が来るのか。……シロタマだったら嬉しいな。引っ越す時、ちゃんとお別れもできなかったから。もし本当にシロタマだったら、急にいなくなったことを謝って、それでまた、前みたいに一緒に遊べたら。……なんて、そんな都合の良いこと、あるわけないか」
誰が来るのか考えながら、時間だけが静かに過ぎていく。
そうして待ち始めて約2時間。今日がバイトも、じいちゃんたちの手伝いもない日で本当に良かったよ。おかげでずっと見張っていられるからさ。
「お菓子でも食べて待つか。用意しておいて良かったな」
もしかしたらずっと、起きていないとダメかもしれない。そう思った俺は、飲み物にお菓子にと、いろいろな物を用意しておいた。
と、いう事で、用意していたお菓子の袋に手を伸ばし、すぐさま玄関先へと視線を戻す俺。
「ん? 誰か来た!?」
よく見ると、門の方。生垣の下の方に、いつの間にか小さな黒い影が揺れていて。そしてその影が、どんどん中へ入ってきたんだ。
俺は持っていたお菓子をその場に置き、もっと窓に近ずくと、カーテン越しにそっと様子をうかがう。そして数秒後。
「……嘘だろう? 本当に?」
門から入って来たのは、1匹のネコだった。それもシロタマそっくりの。……いや、まるで本人じゃないかってほどのネコだった。
思わず、ごくんと唾を飲み込んでしまう。
本当にシロタマなのか? 俺の大好きだった友達の、あのシロタマなのか!? お前、まだ生きていたのか? ずっと俺の作ったぬいぐるみを持ってくれていたのか?
すぐにでも外に出て、確かめに行きたい。だけどもしも違うネコで、俺の勘違いだったら? たまたま家に来た野良猫で、ぬいぐるみと関係なかったら?
思わぬ事態にいろいろ考え過ぎて、軽くパニックになってしまった。しかしそんな俺とは対照的に、軽い足取りで、まっすぐぬいぐるみの方へ歩いて行く、シロタマかもしれないネコ。
そうこうしているうちに、シロタマかもしれないネコは、ぬいぐるみの前にたどり着き。匂いを嗅いだり、鼻や手でちょんちょんと触れたりしながら、ぬいぐるみを調べ始める。
どれくらい、そうしていただろう。ようやく調べるのに満足したのか、シロタマかもしれないネコは顔を上げた。そして、ニニャアァァァッと嬉しそうに鳴いて、ぬいぐるみをそっと咥えたんだ。
その鳴き声も、シロタマそのものだったよ。俺があの声を忘れるわけがない。
「シロタマ……」
俺は無意識に、シロタマと声に出してしまていた。その途端、ピタリと動きを止め、シロタマかもしれないネコが俺の方を見てきた。
しまった! と思った。もしかしたら逃げてしまう!? と慌てる。が、そう思って慌てた俺の予想に反して、ネコは逃げなかった。それどころか、ぬいぐるみを咥えたまま、まっすぐ俺の方へと近づいてきたんだ。
そして、縁側にピョンッと飛び乗ると、ニャアァァァ、と鳴いて。
「……シロタマ、なのか? 本当に?」
ジッと見てしまう俺。が、次の瞬間、ここまで驚きの連続だった俺に、さらなる驚きが待っていた。
『よう、久しぶりだな! 元気だったか!』
「……は?」