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4話 違和感は確信へ

「神谷さん、見てもらっても良いですか?」


「ああ、どれどれ……。良いんじゃないか? 師匠どうですかね? 生地も縮んでいないし、良いと思うんですけどね」


「どれどれ、ふむ……。よし合格じゃ。綺麗に汚れも取れていて、生地も縮んでいない、完璧じゃ。次の作業に移って良いぞ」


「神谷さん、じいちゃんありがとう!」


 俺の修復作業が始まって、5日が経とうとしている。今は、ぬいぐるみの生地を綺麗に洗って、乾かし終わった所だ。


 洗う前に生地と部品を、使える物と使えない物で別けておき、新しい物を用意しておいたから。これからサイズを測り、しっかりと新しい糸で縫い合わせていく。もちろん中のワタも、新しい物に変えるぞ。


「……いびつだが、しっかりと新しい生地を合わせられそうか?」


「大丈夫です。しっかりと修復しますよ」


「なら良いが。お前でも大丈夫だろうとは言ったが、やはり気になる。もしも何かあったら、すぐに俺に言えよ」


「はい!」


 生地をバラしてみると、思っていた以上にいびつで、完全に新しくしなければならない部分もあり。ちゃんと合わせられるか、と少し不安だったけれど。昔を思い出しながら生地を用意してみたら、案外うまくいった。


 これなら、丁寧に縫い合わせれば、いびつなネコのぬいぐるみのまま、ちゃんと修復できるはずだ。


 そしてこの時の俺だけど。最初にこのぬいぐるみを見た時に、どうにも心に引っかかるものがあるって言っていただろう。その引っかかりが、完璧に解決されていた。まぁ、どうしてこのぬいぐるみが、玄関に置かれていたのかだけは、今も分からないんだけど。


 それを確信したのは、ワタを抜き生地を調べた時だった。全ての糸を外して、パーツを並べると、どれだけいびつなパーツが使われていたか。

 ただ、そのいびつなパーツと、生地に残されていた名前の跡で、このぬいぐるみが誰が作った物で、誰の持ち物かが分かったんだ。


 実は、このネコのぬいぐるみを作ったのは、小学2年生の頃の俺だった。じいちゃんにぬいぐるみの作り方を教えてもらって、それから何回か一緒に練習したあと。初めて1人で作ったぬいぐるみが、このいびつなネコのぬいぐるみだった。


 まず、このいびつなパーツ。まだぜんぜん作る事に慣れていなかった2年生の俺が、綺麗なパーツを作れるわけもなく。まぁ、いびつなパーツを作ったこと。でもあの頃は、これでもしっかり作れたと、自信満々だった気がする。


 そしてもう1つ、俺が作ったっていう証拠だけど。じいちゃんは新しいぬいぐるみを作る時、自分の名前を刺繍したり、ネームタグを付けたりして。が、これもまた、2年生の俺にそんな技術があるわけもなく。


 じゃあどうするかと考えて、生地の裏にマジックで自分の名前を書いたんだ。その名前がしっかりと生地に残っていた。


 この2つの記憶と証拠により、このネコのぬいぐるみを作ったのが俺だと、しっかりと確信がもてた。


 そんな2年生の俺が作った、いびつなネコのぬいぐるみだけど。実は、俺は大切な友達にプレゼントしたんだ。誰にプレゼントしたか? それは……。


 うちによく来て、俺と遊んでくれていた、野良猫のシロタマだ。そう、俺はシロタマにプレゼントしたんだよ。


 シロタマは、黒色でところどころに白色の玉模様があるネコで。人見知りだった俺は、あまり友達と遊ぶ事はなく、いつも遊びに来てくれるシロタマと遊んでいた。


 それのお礼ってわけじゃないけど、いつも一緒に遊んでくれてありがとうって感じで、シロタマに似せたこのネコのぬいぐるみをプレゼントしたんだ。まさかここへ来て、このネコのぬいぐるみを見るなんて、思いもしなかった。


 それに引っ越しが近づくと、何故かシロタマは来てくれなくなって、さよならも言えなくて。その後どうしたかな? と最初は心配していたんだ。

 だけどその後のバタバタと、俺も引っ越してからいろいろあって、今の今まで忘れてしまっていたよ。


 思い出してから、それとなくじいちゃんに、シロタマのことを聞いてみたら。あの後何回か家には来たらしい。でもその後は見ていないって。もしかしたら他の場所へ移動したのかもしれないし、寿命が来たのかもしれない。


 まぁ、どっちの理由でも、最後まで持ってくれていたらなぁ。プレゼントした時、シロタマは元気に鳴いたあと、サッとネコのぬいぐるみを咥え、どこかへ持って行ってちゃって。ただ、その姿が嬉しいそうだったからさ。気に入ってくれて、最後まで持っていてくれたらって。


 だが、俺が2年生の時に遊んでいた野良猫だ。さすがにあの時は生きていたとしても、今はもう、この世にはいないだろう。なら、誰がこのネコのぬいぐるみを?


 もしかしてまだ生きていて、俺に気づいて持ってきてくれた? いやいや、まさかな。じゃあシロタマに子供がいて、その子が俺の話しを聞いていて持ってきてくれたとか? いやいや、それもないだろう。


 となると、たまたま誰かが見つけて、たまたまここへ持ってきた? 他の野良猫や鳥とかネズミとか? 


 それか誰かが拾って、じいちゃんの事を知っていて、わざわざ持ってきたとか? う~ん、それもなぁ。大体それなら、じいちゃんか神谷さんに声をかけるだろうし。


「一体誰が持ってきたんだか……」


「ほら、晴翔。集中しないと失敗するぞ」


「は、はい」


 そうだ、考えるのは後だ。まずはしっかりと、俺が作ったぬいぐるみを修復しないと。

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