表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/43

3話 玄関先に置かれた不思議で気になるぬいぐるみ

 それは、手にちょこんと乗るくらいとても小さく、しかもかなりいびつでぼろぼろな、ネコのぬいぐるみだった。


「誰だ? こんな所に置いたのは? まさかじいちゃんか神谷さんが、何かの理由で持ち歩いていて、その時落としたとか?」


 いや、まさかな。修復するぬいぐるみは、工房とその周りでしか扱わない。修復を頼まれるぬいぐるみは、新しいものから何十年も昔に作られた、とても古い物までいろいろだが。


 古ければ古いほど、壊れやすくなっているのは当たり前で。例えば普通に触っただけでも、腕がとれてしまったり、生地が余計に破けてしまったりと、想定外のことが起こりやすいんだ。


 そのため、送られてきたぬいぐるみは、箱に入ったまま工房に運ぶし、なるべく移動は最低限にして、できるだけ工房かその周りで終わらせるようにしている。

 だからじいちゃんと神谷さんが、家の方にぬいぐるみを持ってくることはまずない。それなら、誰がここに? 


 それにこのネコのぬいぐるみ、不思議なことはまだ他にもある。どうにもこのいびつな感じと、この顔つきに、俺は見覚えがあったんだ。


「う~ん、これ、あの時のやつにそっくりだよな。でもなぁ、まさかそんな事、あるわけないよな。あれももう何年も前、俺がここで暮らしてた時のだし。似過ぎてるってだけだよな?」


 思わず声に出てしまった。が、声に出して否定したけれど、どうにも心に引っかかるものがあって。こう、すっきりしない感じだ。


 まぁでも、ここで考えていてもしょうがない。もしかしたらじいちゃんたちなら、何か知ってるかもしれないし、と思った俺は。見つけた鍵で家に入ると、玄関に荷物を置いて、すぐに工房へ戻った。


「じいちゃん」


「ん? どうした晴翔」


「玄関先に、このぬいぐるみが置いてあったんだ。もしかして今日、誰かぬいぐるみを持ってくる日だった? それにしては直で、玄関先に置いてあったんだけど」


「いや、今日は何もなかったはずじゃが。神谷、どうだったかの?」


「今日は何もないですよ。どれ、どのぬいぐるみだ?」


 俺はすぐに、ネコのぬいぐるみを見せた。


「なんだ、ずいぶんぼろぼろだな。それに……、言っちゃ悪いがずいぶんいびつな姿だな」


「でも、顔は可愛いですよ」


「そうか? まぁ、それにしてもだ。こんな感じの依頼なんてあったか? それに直に玄関に置いてあったって言ったよな」


「はい」


「普通依頼のぬいぐるみは、宅急便で送ってもらう事になっているし、必ず日にちを守ってもらっているから、これは違うだろう。もしかして近所の誰かが置いて行ったか? いや、それにしても玄関に直にはな」


「ふむ……」


 じっと、ぬいぐるみを見るじいちゃん。


「じいちゃん、何か知ってる?」


「……いや、わしも分からんのう。じゃが、置いてあったという事は、修復してほしいという事じゃろう。ふむ、そうじゃ、このぬいぐるみは晴翔、お前が修復してやりなさい。そしてまた玄関に置いておいてあげなさい」


「え?」


「師匠、誰のぬいぐるみかも分からないんですよ。それに依頼かどうかも分からないのに、勝手に修復は」


「そうだよ! それに、もしも本当に修復の依頼だったとしても、素人の俺が修復なんて。ちゃんとじいちゃんか神谷さんが修復しないと」


「晴翔の腕前なら、この子はきちんと治せるじゃろ。それに、わしらは他の依頼で忙しいし、しっかり依頼を受けたわけではないからのう。ここは晴翔に任せるぞい。なに、もしもこれを取りにくる者がいて、文句を言ってきたら、わしがしっかりと言い聞かせるから大丈夫だ」


「いや、でも」


「まぁ、そうか。これならお前でも修復できるだろう。お前が見つけたんだし、お前が修復してやれ。で、文句を言われたら、俺もそいつに話してやるから大丈夫だ」


「神谷さんまで、俺は職人じゃないんだよ?」


 それからも、断ろうとした俺。どれだけ話していただろうか? だけど結局、最後には押し切られてしまい、俺が修復をする事になってしまったんだ。なんで素人の俺が……。


 修復作業は、明日はバイトがあるため、明後日から行う事にした。はぁ、本当に俺で大丈夫なのか? 不安しかないよ。何でじいちゃんは、俺に任せるなんて言ったのか。はぁ……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新、お疲れ様ですm(_ _)m 誰がぬいぐるみおいたんだろう(; ・`ω・´)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ