21話 ふたりでひとつの贈りもの5
「健斗君、お待たせ」
「お兄ちゃん、遅いよ!」
「ごめんごめん。ちょっといろいろとあってね」
「もう! 今日は、ぬいぐるみをもう1度プレゼントする日なんだからね。ほら、早く行こう!」
「ああ」
今日、俺は朝から健斗くんの家を訪ねている。そしてこれから、健斗くんと2人で、健斗くんがピョコとクルリとよく遊んでいる、家の裏の山を少し登った先の、少し開けた場所へ向かうところだ。
1週間かけて健斗君と修復したぬいぐるみは、昨日、無事修復を終え。修復が終わったのが夕方だったから、今日朝からピョコたちに渡しに行く約束をしていたんだ。
健斗君はぬいぐるみが直って、これでまたピョコたちと遊べると、とても喜んでいたよ。ただ、ピョコたちの方は……。
今ピョコたちは、健斗君がこれから連れて行ってくれる場所に、もうスタンバイしてい。が、ほら、謝るにはどうしたら良いか、みんなで考えるって言ってただろう?
だけど、あやかしだと言わずに、謝るのはどうにも無理じゃないか。こう仕草で伝えるしかないんじゃないかと、大した方法を考えられず。何とも言えないまま、今日を迎える事に。
まぁ、その分、他にもある物を用意したから、それで何とかピョコたちの気持ちが、健斗君に伝われば良いと思っている。
健斗君に連れられ、どんどん山を登っていく俺。現場に着くまで、緩やかな傾斜を20分も登っていなかったけど。久しぶりに登ったせいか、それでけで少し息が上がってしまった。
挙句、隠れてついて来ているシロタマたちの、『だらしない』と言う声が聞こえて。その時、俺の前の方にいた健斗君には気づかれなかったが。今声を出すなよと、煩いなの意味を込めて、声が聞こえた方を睨んだ。
だけど、うん。少し運動しないとダメだな。せっかく山があるんだから、ちょくちょく登りにこよう。
「お兄ちゃん、こっち!!」
「ここに2匹がいるのか?」
「僕が呼ぶと来てくれるんだ。でも……、来てくれるかな? この前から来てくれないから」
「大丈夫。きっと来てくれるよ」
そう言いながら、俺は木の上を見た。シロタマたちは隠れているから見えないけれど、ピヨ太たちはその辺の木に止まっていて、俺は2人が居るか確認をする。するとピヨ太たちが羽で丸を作った。よし、大丈夫だな。
「キツネがコンちゃんで、タヌキがポンちゃんだよ。コンちゃん!! ポンちゃん!! 遊びに来たよ!! 出て来て!!」
健斗君が木々の奥へ向かって叫ぶ。するとすぐにピョコたちは、左右の草むらから、ピョンピョン跳ねながら出て来た。そして健人君の所まで走って来ると、足に擦り寄ったよ。そう、これが仕草での2人のごめんなさいだ。
すぐに謝りたかったんだろう。健斗君が何か言う前に、謝り始めてしまった。ぬいぐるみを渡されてからの方が、分かりやすいんじゃないか? って言ってたんだけどな。
「あー、良かった!! 2匹とも出て来てくれた。僕、なかなか会えなくてつまんなかったし、寂しかったんだよ。この前のこと気にしてるなら、もう大丈夫だからね。ほら!! 僕と晴翔お兄ちゃんで直したんだ!! これでまたみんなで遊べるよ!!」
ぬいぐるみを袋から出して、クルリたちに渡す健斗君。クルリたちはぬいぐるみにそれぞれ抱きついた後、気を落ち着けて、それから健人君を見た。
「ん? どうしたの?」
『コン……』
『くぅ……』
たぶん、ごめんんさいと言ったんだろう。その後もう1度、健斗君の足に抱きついた。ここで俺はアシストしてやる。
「これは、ごめんなさい、って言ってるんじゃないか? ぬいぐるみ壊してごめんなさい。遊びに来なくてごめんなさいって」
「うん、そうかも。僕ね、いつも2匹と一緒にいたから、2匹がなんて言ってるか、なんとなく分かるんだ。コンちゃん、ポンちゃん、僕怒ってないよ。でもごめんなさい分かった。だから、今度からはちゃんと一緒に遊ぼうね」
『コンッ!!』
『くぅっ!!』
ニコニコになる3人。良かった良かった、仲直りができて。
その後は全員で時間まで遊んだよ。そしてお昼頃、ピョコたちはぬいぐるみを持って、山の奥へ戻って行った。まぁ、戻って行ったフリをして、その辺に隠れているだろうけど。実はこれから健斗君に渡す物があって、それの反応を隠れて見ているはずなんだ。
よし、ここからは俺の番だな。
「あ、そうだ、健斗君。帰る前に渡す物があるんだ」
「渡す物?」
「実は健斗くんに、ある人から……。誰かは言えないんだけど、健斗くんのことが大好きな小さなお友達から、プレゼントを預かってるんだ」
「小さなお友達? 誰かなぁ? 何で内緒なの?」
「恥ずかしいから言わないで、って言われてるんだよ」
「ふ~ん」
ちょっと無理があるが、これで押し通そう。うん、余計なことを言うと、どんどん面倒な事になるだろうからな。
「はい、これ」
俺は小さな包みを健斗君に渡した。
「開けても良い?」
「ああ、もちろん」
「ガサゴソ……。わわっ!! これ僕!?」
「そうだよ。頑張って君のことを作ったんだ。いつも一緒に遊んでくれてありがとう、大好きだよの、プレゼントだって」
「わあぁぁぁ!! 凄い凄い!! こんなに可愛い僕のぬいぐるみ!! こんなプレゼント貰えるなんて!!」
「健斗君と同じだね。大切な友達に、ぬいぐるみのプレゼント」
「うん!!」
健斗君に渡したプレゼント。それはピョコとクルリが作った、健斗君のぬいぐるみだ。ごめんなさい、いつも遊んでくれてありがとう、ずっと友達。健斗君と同じように、大切なお友達にって。俺と一緒に2人が、健斗君のことを想って、頑張って作ったんだ。
それと、2人のごめんなさいは、すぐに伝わったけれど。もしも伝わらない時は、このぬいぐるみで、気持ちが伝わればと思っていたんだ。どっちでも伝わったからさらに良かった。
「今度コンちゃんとポンちゃんと遊ぶ時に、一緒に遊ぼうっと!!」
「うん、それが良いね。さぁ、そろそろ帰ろう。お爺ちゃんとお婆ちゃんが待ってるよ」
「うん!!」
2人で健斗君の家に向かって帰り始める。と、歩き始めてすぐだった。健斗君が振り返って、ピョコたちが帰って行った方を見たんだ。そしてこう言った。
「コンちゃん、ぽんちゃん、プレゼントありがとう!! 僕ねコンちゃんと、ポンちゃん、お話しできる、カッコよくて可愛い動物さんって知ってるよ!! でも内緒なんでしょう!? 今度3人で遊ぶ時は、お話ししようね!!」
え? なんて? 一緒にお話ししようって言ったのか?
「健斗君?」
「おばあちゃんが前に教えてくれたんだ。あやかしっていう生き物がいるって。それでね、コンちゃんとポンちゃんがお話ししてるのを聞いて、あと、お話ししてるところも見たの。だから僕、気になって調べたんだ。それで、コンちゃんとポンちゃんがあやかしなんだって、分かったんだよ」
「そ、そうだったんだ」
何やってるんだよ、あの2人は。
「でも、あやかしって人に分からないように、内緒で暮らしてるんでしょう? だから僕、何も言わなかったの。でもおばあちゃんが、本当の友達になれたら、お話してくれるあやかしもいるって言ってたから。僕、ずっと楽しみにしてたんだ」
「そうか、そうだったんだね」
どうやら、ピョコとクルリが初めて健斗君に会った日に、2人が話しているところを、健斗君に見られていたらしい。そして健斗くんは、それに気づきながらも、ずっと知らないふりをしていてくれたようだ。
って、最初からかよ。俺や健斗くんだったから良かったものの、もしも悪いことを考える人間に見られていたら、大変な事になってたぞ。後で気をつけるように、しっかりと言っておかないとな。
「だからね。みんなでぬいぐるみ作ってプレゼントして、大切で大好きなお友達になれたから、これからはお話しできると思うんだ。僕たちの内緒のお話し。そうだよね、コンちゃん!! ポンちゃん!!」
奥の方へ向かって聞く健斗君。少しの間、沈黙が流れる。そして……。
『うん!!』
『お話し楽しみ!!』
と、ピョコとクルリが答えた。にっこり笑う健斗君。
「じゃあ、また明日ね!! お兄ちゃん帰ろう!」
「あ、ああ」
最後にまさかの展開が待っていた。だけど、うん。3人は、俺とシロタマのような関係になれるだろう。
まぁ、友達として喧嘩する時もあるかもしれないけど。でも今度は、きちんと言葉にして、相手に気持ちを伝えられるし、それでもっと仲良くなれるはずだ。
「健斗君は、本当に2匹が大好きなんだね」
「うん、大好き!! 僕たちは3人一緒じゃないとね!」
「そうか」
このまま3人が、ずっと友達でいてくれたら。本当に大切な存在には、そう簡単に出会うことはできないと思うから。
こうしてその後、ピョコとクルリと健斗くんは、健斗くんが引っ越すまでの間、ずっと一緒に過ごし。そして、1年後に戻ってきたらまた遊ぼう、と約束して、健斗くんは引っ越していった。
ピョコとクルリは、健斗くんが引っ越したばかりの頃は、寂しそうにしていたけれど。それでも少し経つと、ぬいぐるみで遊びつつ。健斗くんが帰ってきたら何をしようか、なんて楽しそうに話しながら、少しずつ元の生活に戻っていったんだ。




