16話 子供たちの眠りを見守る優しいあやかし6
「おう! すまねぇが、園長先生はいるか?」
「え、園長先生ですか?」
「ああ、ちょっと用事があんだよ。だから呼んでもらいたんだ」
「え、ちょっ、ちょっと、待って待って! これって警察呼んだ方がいい!?」
「え、でも園長先生を呼んでくれって言われただけだし。ガラは悪いけど、本当に用事があるだけかも」
「用事って何よ!? ま、まさか、他の保育園からの殴り込み!?」
いやいやいや、先生! 殴り込みって。漫画じゃないんだから。しかもコソコソ話してるようで、全部俺たちに聞こえてるから。カエンは確かに見た目ヤンキーだけど、優しいあやかしだよ!
とは言えるわけもなく。だからと言って、このまま警察を呼ばれても困るから。俺は急いで保育園の先生に話しかけた。
「す、すみません。俺は高橋晴翔と言います。今日はある方の依頼を受けて、その修復が終わったので、お届けにあがりました!!」
「完璧に修復したからな。これで子供たちも喜ぶだろう」
シロタマが箱を開けて先生たちに中身を見せる。すると先生たちは驚いた後、すぐに園長先生を呼びに行ってくれた。そして数分後。
「あらあら、まぁまぁ、本当なのね」
園長先生が門まで出てきてくれた。
修復を初めて1週間後。無事にぬいぐるみの修復を終えた俺たちは、シロタマとカエンと俺で、ひまわり保育園を訪れた。が、最初、カエンがいきなり声をかけたから慌てたよ。案の定、ヤンキーカエンに、先生たちは警戒しちゃったしさ。
あれほどいきなり、声をかけるなって言っておいたのに。まずはベルを鳴らして先生を呼んで、今日はこういう要件で来ましたって伝えてから、園長先生を呼んでもらうからなって。
まあ、とりあえず園長先生が来てくれたから良かったけどさ。
ちなみに今、シロタマは変身して、人の姿になっているぞ。うん、へんしんできるなんて、今日まで知らなかった。シロタマの人の姿は、20代後半のイケメンって感じだったよ。
なんで今まで変身しなかったんだ? って聞いたら。本人的にネコの姿の方が楽で好きらしい。ただそれだけの理由だった。
「これの修復を依頼されたと」
「はい。俺も修復を頼まれただけで、まさかお話しをされていないとは思っておらず。修復が終わり、こちらへ届ける時にその話しを聞いて」
俺はこの前決めた設定を、そのまま園長先生へ伝えた。
「それは、申し訳なかったわね。誰かしらね、そんな大変あることをお願いしたのは」
「サブロウって言ってたな」
「ああ、そう言っていた」
「サブロウ……、これまでに何人かその名の子がいたけれど、そのうちの誰かってことよね。……高橋さん、もしその人がまた訪れたら、私の所へ来る用の言ってもらえるかしら。まったく、人様に迷惑をかけて」
「い、いえ、迷惑だなんて。……えっと、それで。ぬいぐるみはどうしましょうか? しっかり修復したので、問題はないと思いますが」
「あなたが由伸さんのお孫さんね。おじいさま同様、あなたの修復も素晴らしいわね。ここまで修復していただいたのに、また捨てるなんてことはできないわ。修復してくれてありがとう」
ホッとした。ダメなら俺たちが引き取れば良いなんて言っていたけど、やっぱりさ。俺の隣にいたシロタマが、そっと自分の肩を3回叩いた。
そては合図で、保育園の建物の上にヒビキがいて。新しい保育園でも、建物の裏に引っ越してきたサブロウじいちゃんに。受け取ってもらえたことを、伝えてもらう事になっていたんだ。
肩を叩いたら1回叩いたら、受け取ってもらえなかった。3回なら、受け取ってもらえたってな。
ヒビキは頷くと、嬉しそうに屋根から向こう側へ降りて行ったよ。
「それでは俺たちはこれで」
「ええ、申し訳ないわね。今は引っ越してきたばかりで、バタバタしているもので。また後ほど、ご挨拶に伺うわね」
「いいえ、お気になさらないでください。俺たちは依頼を受けただけなので。それでは……」
何かいろいろと突っ込まれて、余計なことがバレる前に、その場を去ろうとした俺。だけどその時。
「あー!! かめしゃん!!」
「さぶろじいちゃ!!」
「ねんね、しゃぶろじいちゃ」
「ねんねじいじ!? どこ!?」
子供たちがぬいぐるみに気づいて、わらわらと集まってくると。ぬいぐるみの入っている箱と、俺たちを囲んでしまい、俺たちは帰れなくなってしまった。……だけど。
「じいちゃ、どこいってたの?」
「ずっと、まってた」
「みんなねんねよ」
「しゃみちかった」
「しぇんしぇ、またかめしゃんといちょ?」
「ええ、また一緒にお昼寝、ねんねできますよ」
「やちゃ!!」
「あっ! ねんねのじかん!!」
「かめしゃん、いっちょいく!!」
「あのねぇ、あたらちいおちょもだち、りしゅしゃんいりゅの」
「みんななかよくよ」
「けんかはめっなの」
「みんなでねんね、うれちいねぇ」
みんながみんな、サブロウじいちゃんぬいぐるみに話しかけ、ギュッと抱きしめ、先生と一緒に中へ入っていく。その勢いに唖然としながら見送る俺たち。と、園長先生が話してきた。
「どうやら私が間違っていたみたいね。やっぱりこの保育園にはあのぬいぐるみが必要だったんだわ。まったく何年先生をしているんだか。子供たちの、本当の気持ちが分からないなんて」
「あの……」
「実わね……」
園長先生の話しは、サブロウじいちゃんと同じものだった。園児たちがみな、ずっとなんとなくだけど、元気がなかったと。そして何かをずっと待っていたって。
「子供たちがあんなに元気に、ニコニコと笑っている姿を久しぶりに見たわ。ここへ引っ越すのなら全て新しく、なんて。私の勝手な考えだったわね。どんなに古くても、長い時間ずっと子供たちの側にいて、見守ってくれていたのは、あのぬいぐるみたちだったのに」
「古いものほど、人とのつながりは深いからな」
「まったくね。子供たちがここで少し時間は短いけれど。その短い時間の中で子供たちは、相手を大切に思う、大切にするということを学び、元気に巣立っていく。そんな大切なぬいぐるみを置いてくるなんて、ダメね私は」
「なに、ぬいぐるみは戻ってきたんだ。これからまた大切にすれば良いだろうよ。そうすれば喜ぶ奴らが、たくさんいるんだから。なっ!」
「ああ、少し離れたくらいじゃ、そう簡単に絆は切れない。俺のようにな」
「え?」
「いや、何でもない。じゃあ俺たちはいくぞ。ぬいぐるみ大切にしろよ」
「それじゃあ、失礼します」
「ええ。今日は本当にありがとう」
俺たちは園長先生と別れると、園児が全員帰るのを待って、再び幼稚園へ行き、サブロウじいちゃんの所へ行った。今日は初日ってことで、園児たちはみんな、いつもよりも早く帰って、残っているのは先生だけだから。この時間まで待っていたんだよ。
『今日はみな、しっかりと寝ておったよ。それに新しい者たちとも、仲良くしようと言って、今までよりさらに楽しそうにしとった。ぬいぐるみを修復してくれて、本当にありがとう』
『みんなで直したんだぜ!』
『カエンは邪魔しただけでしょう!』
『何だと!!』
『はぁ、お前らは喧嘩せずにいられないのか?』
「みんな静かにしろよ。気づかれたらどうするんだ? それに、まだ伝える事が残ってるんだから」
『伝える事? 何かあったのか?』
俺はそっと、カバンの中からサブロウじいちゃんぬいぐるみを取り出した。実はまだ1つ返していなくてさ。この話しが終わった後、シロタマに中へ持って行ってもらう予定なんだ。
「実は、サブロウじいちゃんに黙ってやった事があって。もしかすると怒られるかもしれないんだけど、その方が前よりももっと良くなるかと思ってさ」
『なんじゃ?』
「ここの部分を見てほしいんだ。このぬいぐるみのこれ。これはタグって言うんだけど。このタグに付いているマーク。これはこの前、じいちゃんの手形を取らせてもらっただろう? それをタグに移して、じいちゃんがもっと、子供たちと一緒にいられるようにしてみたんだ」
『……これは』
これがこの前、ユイトが言っていた《《あれ》》だ。サブロウじいちゃんの依頼を受けた次の日。俺はサブロウじいちゃんの手形を取らせてもらって、その手形をデータに入れ。さらにタグに印刷して、ぬいぐるみのにつけたんだ。
いつもみんなの側にいて、みんなを見守ってくれているサブロウじいちゃん。昼寝の時や、部屋で遊んでいる時は、ぬいぐるみが見守ってくれていて。
でもじいちゃんは、どんなにみんなを大切に思っていても、そして時々は部屋に入れてもらえても。ずっと側にはいられないだろう?
だから、ぬいぐるみにじいちゃんの一部をつけることで、今までよりもっと、みんなの側にいられるって思ってもらえたら良いなと思って。じいちゃんの手形を、タグとして付けさせてもらったんだ。
「俺が勝手にした事だから、嫌だったらすぐに外すし、もちろんじいちゃんが許してくれるまで謝るよ。……どうかな?」
じっとタグを見つめるサブロウじいちゃん。ドキドキしながら返事を待つ俺。あ~、やっぱり時間がないとはいえ、しっかり話してからやるべきだったか。
依頼に勝手なことをして。あやかしだろうが人だろうが、動物だろうが、後々問題になるかもしれない行為だったよな。
『晴翔……』
「は、はい!」
『ありがとう。これでわしは、もっと子供たちに側にいられるのじゃな。手形だろうが、ぬいぐるみだろうが。お主の言った通り、わしは少しでも皆の側に居たいのじゃ。嬉しいのう、ありがとう、ありがとう』
……サブロウじいちゃん、泣いてたよ。まさかそこまで喜んでもらえるなんて。作って良かった。
それから俺たちは、サブロウじいちゃんが落ち着くまで待って、それから家に帰ることに。
「それじゃあ、俺たちは行くな。時々会いにくるよ。サブロウじいちゃんも、由伸じいちゃんの家の方へきたら、誰かに伝えてくれれば、迎えに行くからさ。遊びに来てくれ」
『ああ、今度何か土産を持って遊びに行こう。今日は本当にありがとうのぉ』
『じゃあな』
『またな』
『また今度ねぇ』
「じゃあ!」
手を振り、歩き始める。
『さて、まさかこんな素敵な修復をしてもらえるとは。これからは、さらに気合を入れて子供たちを守らねばの。そして子供たちが幸せな気持ちで、過ごす事ができるように、ここを過ごしやすい場所へしなければ。よし、まずは手始めに……』
こうして保育園を後にした俺たち。歩き始めてから、サブロウじいちゃんが何か言っているようだったけど、俺は気にせず帰ったんだ。……まさか次の日、あんな事になるなんて。
次の日、街ではある話題で持ちきりだった。ある保育園の庭に、なかったはずの木が生え、季節外れの花々が咲きみだれ、動物や虫が集まり。子供たちが目を輝かせ、夢中になって遊んでいる、と。
「保育園って……、まさかね?」
『いや、やったのはじいさんだ。昨日の夜、膨大な力を感じたからな』
『ぬいぐるみを修復してもらって、お前に特別なタグを付けてもらって、気をよくしたんだろう。で、とりあえず、子供たちが喜ぶ事をとやった感じか?』
『まったく目立つ事をして。俺たちの存在に気づかれたらどうするのか』
『僕も遊びに行ってこようかな』
『おれ、行く!!』
『ボクも!!』
そう言い、窓から出ていくヒビキ達。
何だろう? サブロウじいちゃんが喜んでくれたのは嬉しいし、子供たちが喜んでくれたのも嬉しいんだけど。こんな騒ぎになるなら、タグはつけても、内緒にしておいた方が良かったか?




