守りの終わり 攻めの始まり
◆
大和たち三人はいつも通りゲートの中に広がる小部屋の中に集合していた。
有事の際や監視対象を張る時などはこの空間に集まり情報を共有している。
今集まっているのはアルファとブラボーが接触し、アルファの勝利後、捕虜となったはずのブラボーの二人が街の中を何故か歩いていたためだ。
捕まってから二週間ほどが経ってはいるもののアルファが何の考えもなしに開放するとも思えない。
もしかしたら拘束を破壊し勝手に出ている線もありえるということだった。
「どう見ます? これ。」
慧は冷静に机の真ん中に置かれた水晶に映し出されたブラボー。 東の姿を見ながら言う。
この映像は凪の式神晶亀によって映し出されたものであり、観測したものであれば遠隔で監視だってすることが出来る。
映像を見ながら西がいないことに気付いたのか
「あの二人は兄弟なんでしょ? 単独で行動するのかな?」
凪は思った疑問を口に出す。
「そんなものこちらで捕まえて聞き出せば問題なかろう!!」
いつも通りの大きな声で大和が二人の話に割り込むと慧と凪はお互いに顔を見合わせ呆れたように大和の方を見て
「「アルファの罠だったらどうする?」」
と口をそろえて言うのだった。
「はっはっ!! 罠だったらではなくどちらかと言えば餌じゃないのか!?」
このバカは変なところで頭が回る。
実際にブラボーを追い、アルファとは接触しなかったため向こうからすれば撒き餌のつもりなのだろうか。
正直考えていても埒が明かないため、どう行動するかによって何がしたいのかをはっきりさせようということに決まった。
もし、東が人を襲えば脱走してきたものとして拘束。
人を傷つけることなく徘徊しているだけなら撒き餌として利用しているものとして接触はしない。
こちらの出方を窺っているかもしれない状況では動くことなく観察し対処することが優先であると考えた。
どちらにせよアルファの息がかかってることはほぼ確定だろう。
理由としては逃げたにせよ追跡している痕跡がないことだ。
意図して開放しているなら当然追跡はしない。
この場合、追跡の痕跡がないことが観察ことが最善手となるはずだったのだ。
そこから一週間後に事件が起こった。
怪しい挙動をしていた東は近くにいた女性に言い寄った際の反応が気に食わなかったのかその女性を燃やしたのだ。
苦しむ女性を見るや否や大和はゲートの扉を開け、飛び出す。
それの合わせるように二人も部屋を後にするのだった。
ゲートを抜け、燃やした女性を見る東の背中を睨む。
「お前!! 何をしたのかわかっているのかっ!!」
そう叫ぶと振り返った男は東ではなくアルファ、新だった。
「これはどういうことだ!!?」
「何って釣りだよ、なかなか出てこないもんで行動してみただけさ。」
「ここまでする必要があったのか!? 人を一人殺してまで!!?」
俺はバカだが善か悪かは流石にわかる。
これは悪だ。 許容しがたいほどの。
「あぁ、これのことなら気にするな。 そもそも人間ではないからな。」
「虚力者じゃなければ人ではないというのか!!」
信じられない、まさかこんなやつを野放しにしてしまっていたとは!!。
遅れてきた二人はこの状況を見ると理解が追い付いていないようだった。
「アルファは敵だぞ!! 交戦に入る!!」
叫びながら来ていたシャツを破り捨て上半身を自由にして新に掴みかかる。
それを聞いた二人も戦闘態勢をとりはじめ、その光景を見ていた新は面倒くさそうな顔をする。
新の両手を掴み、口から糸を出し視界を封じようとする。
しかし、向こうも同じように黒い何かを吐き出し、糸がぶつかると同時に口の中に戻すことでこちらの糸を口に含み回避する。
それならと脇から左右四本の腕を生やし殴りかかる。
それも読んでいたかのように新の腕も増え、同じ本数の腕が握り合う形で落ち着いた。
「お前の虚力は蜘蛛に近い能力を得るものだろ? ならやれることは大体わかる。」
自分の全てを見透かされたような気分になる。
凄い力で抑え込まれており、振りほどけそうにもないことも問題だった。
「凪!! 頼んだ!!」
そう叫んだ瞬間、新の腕に手が引きづりこまれ体制を崩しかけるのをぐっとこらえる。
もう頭突きでもしてやろうと思ったが、その考えはすぐに改めた。
新の背中が割れており、すでに自分を拘束しているのは新の抜け殻だと気付いたからだ。
抜け殻だとしても振りほどけず、全く動けそうにもない。
こうなると後ろにいる二人が心配だが今は自分の拘束を解くことに集中することにした。
◆
拘束された大和を見て驚いた。
まさかあの大和が良い様にされているのを見るのが初めてだったからだ。
それは慧も同じようで一瞬だけだが取り乱していた。
「氷虎、お願い。」
札をポーチから取り出し地面に落とす。
氷の虎が現れるが次の瞬間にはどこからか現れた新が虎の足を払い、黒い木で足を固定し腕を払い腹這いになる形で虎は固定されてしまった。
「―――――なっ!?」
「遅いぞ。」
すでに後ろに回り込んだ新は地面に手をつき、泥を十字の磔刑を生成され気が付くと磔にされていた。
その前にギリギリでポーチを投げ捨てて
「ありったけでお願い!! 水狼、ヴァッサーファール!!」
普段より多くの札を使って出すことになった水狼は基本の狼の大きさの三倍以上にもなった。
そんな水狼が出す大量の水による大瀑布。
流石にどの規模になるのか想像も出来なかったがこの際だから仕方がない。
慧は大和が交戦後すぐに多分虚力を使ったのだろうキャパを超えたのか早々に地面に突っ伏してしまっている。
そんな彼を巻き込むのは気が引けるが最悪の場合は皆に連れて行かせてる空魚が助けるはずだ。
そう思考している間に準備が出来た水狼が吠える。
次の瞬間には大量の水が周囲の全てを飲み込んだ。
◆
拘束されたまま藻掻いていたが凪の水狼の遠吠えが聞こえた瞬間に覚悟を決める。
水によるものとはいえ声の大きさからいつもの水狼より大きいことと爆心地のほぼど真ん中。
かなりの距離を流されることになるが、拘束が水圧で壊れることを予測し、すぐに糸で流れに逆らう心構えを完了する。
実際に起こってみると拘束していた新の抜け殻は固めることに重点を置いていたためか水圧であっさりと壊れてしまった。
すぐに近くの建物に指をかけながら糸で固定する。
呼吸に関しては考えてなかったが気合いだな!!
そう思っていたがあっさりと水位を下げた。
すぐに新を探すがすぐに見つけた。 彼は足を木にして根を張り耐えていたようだ。
凪や慧も探したかったが相手はそれを許してはくれないだろう。
速攻で決める!!
新に向けて大量の糸を発射する。
その糸に対して大量の何かを散弾のように打ち出したのか張り付いている壁にもおびただしい量の何かが刺さっていた。
これはなんだ?
しかし、考えている時間もあるはずがなくすぐに向かいの壁に糸を出し立体的に動こうと壁を蹴る。
だが結果は何かに切断されたのか地面に叩きつけられそうになるのを受け身でギリギリ回避した。
「何が起こったんだ!?」
「言っただろ蜘蛛に近いなら予測は簡単だ。」
腕を軽く引くと刺さった何かがいくつか新の手元に戻ってくる。
「これは硬度を高めた樹皮だ。 そしてこれに同じく固めた蜘蛛の糸を繋げてある。 つまりお前の糸は俺の細い糸に空中でぶつかって切断されたんだよ、ワイヤーで切るみたいにな。」
「なるほど!! よく分からん!!」
「まぁ、お前が理解しようがしまいが変わらん、大事なのはまだやるのかどうかだ。 お前の仲間なら宙吊りにしてあるからあの大瀑布には晒されてすらないぞ。」
「なにっ!? だがお前は人を殺しただろ!!」
「殺しはしたが今は悪人だけだ、お前らを釣るために燃えたのは俺の虚力で作った人形だよ。」
そう言いながらさっき燃えたはずの女性を作って見せる新。
「これはもう完敗だな!!」
ここまでくると最早清々しいまである。
両手を上げ降参のポーズをとる。
新はそれを見た瞬間に吊られている慧と凪の方へ向かい地面に下ろす。
それを追いかけ近くへ行くと凪は磔から解放され伸びをしているが慧が動いていない。
「慧はどうなってるんだ!?」
「俺はコイツの虚力を知らんから何とも言えん。」
そういう新は簡単な触診をするがイマイチな表情だった。
ここで慧が行動不能になるか虚力を言ってしまうか悩んでいると伸びを終えた凪が
「慧の虚力は未知を既知にして再現することだよ。 多分、君の虚力を解析するための目を作ったはいいものの情報量が多すぎてこうなっちゃうのかも。」
慧が何回か同じことをしているのは知っていたがこうなったのは初めてだ。
「なら、脳を弄ればなんとかなるか。 少し離れてろ。」
そう言うと何のためらいもなく耳にツタの様な何かを入れていく。
「それは大丈夫なものなのか!?」
「人間の脳の構造は理解しているからな。 脳に俺の虚力を一時的に接続して同化すれば処理を手伝えるはずだ。」
まぁ、起きた瞬間に暴れられても困るから固定しておくかと黒い糸で全身を固めた。
少しの間沈黙の後
「――――ッハァ!!」
慧が無事覚醒した。
地面に縛り付けられているせいで動けないことと新のほかに凪と大和が覗き込んでいる状況に理解が追い付いていないようで目を丸くしている。
「えーっと、すみませんがこれはどういう状況なんでしょうか?」
「お前の虚力については聞いた。 俺を見て処理落ちしただろ? 覚えてるか?」
少し考えてハッとした顔で新を見る慧。
「なんだ?」
「いえ、何でもありません。」
なにか気まずそうな慧と何も知らなさそうな新。
治療は終わったのか新は慧の耳からツタを抜き拘束を外した。
俺には何のことか全くわからないが気まずそうな雰囲気は伝わってくる。
「とりあえず、治療には感謝しますが状況の説明をお願いできますか?」
「それがだなぁ!! 俺の勘違いだったみたいだ!!」
「大和、お前死んだ俺の知り合いそっくりだな。 誰が分かるんだそれで。」
新が呆れた顔で言うが俺は自己紹介しただろうか?
それからは新が俺にした内容と同じ説明を二人に聞かせていた。
慧にはどのように施術したのかまで説明をしていたようだ。
「では、同盟という形を取りたいというので合っていますか?」
「その解釈で問題ないな、頼みたいことは他の街からくる虚力者の撃退だ。 俺たちは都市側に潰したい奴がいるから離れるんだがその間だけでもこの街を頼みたいんだ。」
難しい話はさっぱりだから話していた内容のほとんどは理解できなかったが最初のほうだけはかろうじて理解できた。
話が一通り纏まったのか
「とりあえず俺らの拠点に案内しよう。」
そう言った新の言葉に従い彼の拠点に向かうのだった。
◆
新が協力関係を築くため撒き餌を撒きに出てから数時間。
言われていたように虚力の拡張作業に没頭していた。
新がどのように出来そうか脳を見て思案してくれたおかげかすんなりと応用が利き拡張できた。
脳を覗かれる体験は一生の内にはないはずだったのに応用してそこまで単独で出来るようになった新には
若干の恐怖があるが味方でよかったととりあえず安堵するのだった。
しかし、新はおらずただ待っているのも暇である。
とりあえずマスターの手伝いでもと思い、部屋の扉を開けると当のマスターがゴミを持って何故かこちらに上がってきていた。
「あれ?マスターどうしたんです?こんなところにゴミなんて持ってきて。」
マスターは持っている袋一杯のごみを軽く持ち上げ
「これかい? これは新に頼まれててねぇ、まぁ、青年も無関係ではないから大丈夫だと思うんだかねぇ。」
そう言って使っている部屋の向かいの扉を開けた。
その部屋は真っ暗で全容はよく分からない。
そんな部屋から大量の黒いネズミが来たことによりこの部屋のほとんどが新の虚力で覆われているせいで暗いのだと理解した。
ネズミたちはこちらを見るなり
「哲玄。 真守に見せるとはな。」
新の声だがいつもの新よりも冷たく怖さすらある。
「お前さんたちはチームだろぅ? それならちゃんと見せておいた方がいいと思うんだけどねぇ。」
「よく回る口だな。 ここに来るのを見られたから俺に嫌がらせしようとでも思ったんだろ。」
「・・・そんなこたぁないけどねぃ。」
「新はここで何をしているんだ? 戦闘に出てる新はなんだ?」
「両方俺だ。 言っただろう、これが強化案だ。」
強化案と言われてもこの真っ暗な部屋では何があるのかまでは把握できない。
思考を巡らしている間にも他のネズミたちはマスターが持ってきたゴミにたかっている。
「新、この部屋は結局なんなんだ?」
「拡張機だ。 俺の虚力は俺の身体含めて思考能力をかなり使うからな。それを拡張するために巨大な脳を作ってしまえば不安要素は排除できる。」
それは、新の虚力だからこその応用だ。
その応用は俺の虚力では出来ず、俺の応用も含めて虚力の造形が深すぎることに驚きが隠せない。
確かに識教授に虚力とは何かについて教えて貰ったにしてもここまでくると本当にすごい。
そんなことを考えている間に地響きが起き建物が少し揺れた。
「真守、150秒以内に外に出ろ。 入口出て左方向を向いて待機。」
「―――は? 待て、説明してくれ!」
「この後こちらに大量の虚力による水が押し寄せる。 それを消せ。」
説明をと言ったがそんな淡々と簡単に言うんじゃない!!
どの程度かさえ曖昧だったが時間がないことも分かっているため、すぐさま部屋を出て外を目指す。
「なんで毎回急に言うんだよ! まったく!」
外へ出ると他の路地などは黒い木が塞いでいるようで新も対策を全くしていないというわけではなさそうだが大通り側はどうしても規模が大きく負担が大きいのだろうと察せた。
左を見ると町全体に広がっているためか規模は小さくはなっては来ているようだが波が過ぎた後も膝ぐらいは浸かってしまいそうだ。
すぐに流れてくる水に対して虚力を発動してみる。
それだけで大量の水がいともたやすく消えていくが直後、目が焼けるように痛んだ。
痛み自体は短い時間ではあったものの巨大すぎるものを消すにはまだ練度が足りないのだろう。
そのまま地面に倒れこんだ。
目を覚ました時には拠点の部屋のソファに横たわっていた。
誰が運んだのかと思ったがおそらくマスターだろう。
新はこの場にはいないし店の外で倒れていたのだからそう思うのが普通だった。
「目を覚ましたか、痛みや違和感はないか?」
しかし聞こえてきたのは新の声だった。
声の方を振り返ると人型ののっぺりとした黒いナニカが立っていた。
「新か?」
その問いに対してナニカは
「操作しているものを俺と認識するのならばそうだ。」
「その肉体はなんだ?」
「省エネモードだ、向こうで今虚力を使ってショートした奴を助けているからリソースが足りなくてな。」
助けているということは戦闘は終了したのだろうか。
まさか戦闘になるとは思ってもみなかったが先ほどの水のこともあり規模はそれなりの戦闘になったということなのだろうか。
始めは友好的に話し合いのはずだったのに何をしたら戦闘になるんだと訝しんだが新は必要だと感じたことしかしないことを思い出しとりあえず口をはさむのはやめた。
「戦闘は終了した。 今からこちらに三人を連れてきて事情を話すから待機しておいてくれ。」
「わかったよ、何か必要なことはあるか?」
「特にはないが向かいの部屋のことは黙っていろ。」
「了解。」
話が終わると新は向かいの部屋へ向かい、俺はソファの上で再び微睡むことにした。
10分ぐらい経っただろうか下の階が賑やかになった。
マスターには悪いけどこの店が繁盛するわけもないので新が戻ってきたのだろう。
とりあえずソファから起き上がり軽く伸びをする。
階段を上る音が聞こえてきて立ち上がると部屋の扉が開いた。
「なるほど!! ここが君たちの拠点か!!」
部屋に入るなり必要のないほどの大きな声で一人が発し、他の二人はまたかと言わんばかりに呆れているのが分かる。
「真守、この五月蠅いのが木戸大和。 小さいのが白崎凪で大きい方が鷺沢慧だ。」
「あの・・・私たち自己紹介してないと思うんですけど?」
困惑する慧を無視して
「こっちは白瀬真守。 俺は朽葉新だ。 改めてよろしく。」
「自己紹介してなかったと思うんですけど!?」
「お前の治療で脳の情報処理の手伝いをしたからな、記憶はほぼ見たからな。」
「それはプライバシーの侵害なのではっ!?」
さらっという新に講義をするが本人は全く気にしていない様子なのが哀愁を感じさせる。
「気にしたら負けですよ。 彼は必要だと感じたら倫理観とか関係ない人類なので・・・」
あまりにも可哀想なのでフォローを入れたもののやはり印象は最悪といった感じだった。
「まぁ、納得はしませんがいいでしょう。 それで?私たちに何をしたらいいんですか?」
新の方を見て確認を取る慧だったが返ってきたのは
「想像以上にレベルが低い。」
そのたった一言だった。
大和と凪は新と直接対峙したのだろう。 何も反論できないでいたが慧だけは違った。
「レベルが低い? ならあなたはレベルが高いというのですか? そもそもレベルとは何に対して言っているのですか!?」
矛先は俺に向いていたのだった。
勘弁してくれ、俺は別に何も言っていないだろう!?
心の中で叫ぶが何の解決にもならないよなぁと言葉を探していると
「そうだと言っている。」
勝手に新が答えてしまっていたのだった。
俺はまだそんなに虚力を使いこなせてないんだが!?
「検証するか? この近くに今は誰も住んでない空き家がある。 そこに行こうか。」
「いいでしょう。 あなたの驕りを正してあげましょう!!」
俺の思いとは裏腹にどんどんと話が進んでしまう。
「ちょっと待ってくれ!! なんでそうなるんだよ!!」
「そうだぞ!! 俺たちは同盟の話をしに来ただけだろう!!」
大和もこの空気に耐えれなくなったのか口をはさんでくる。
「同盟以前にこの言い草を私は許容できないんですよ!!」
「さっさと行ってハッキリさせるぞ、急げよ。」
慧と新はそのまま部屋を出て移動を始める。
「またこれかよっ!!」
頭を抱える俺に大和は笑い、凪は黙って部屋を後にする。
「お前も苦労しているんだな!! あんな慧は初めて見たぞ!!」
しゃがみ込む俺の背中をバシバシと力強く叩きながら愉快そうに部屋を後にしていく。
もはや俺はその背中を追いかけるしかなかった。
道案内にはカラスが所々に待機していたため迷うことはなかったが大和と雑談をしながら歩いていたためか思いのほか時間がかかっていたようだ。
目的地に着くと在ったはずの木造一軒家がほぼ跡形も無くなくなっており、代わりにと言わんばかりに小規模のドームが出来ていた。
「これはまた変なものを作ったもんだ!!」
相変わらず大和は起こっている事象に楽しそうに反応を示している。
「とはいってもこの空間で模擬戦は小さすぎないか?」
「慧もいるから多分大丈夫だと思うよ。」
疑問を口にすると意外なことに凪が反応してきた。
扉が開いていたためそのまま入るとそこはまさに訓練場といった様子の在りえない空間が広がっていた。
明らかに外観と内観のサイズ感が合っていない。
外観は20Mあるかないかぐらいの直径だったのに対して内観は100Mを超える総合体育館を思わせるような巨大な施設である。
「これはなんだぁ?」
全く理解できず素っ頓狂な声が出てしまっていた。
「慧の虚力はアニメとかの不思議空間とか作れるから。」
「そうだぞ!! 俺は外観の方が気になるレベルだったぐらいだぞ!!」
つまり仲悪そうに先に向かった新と慧の合作ということらしかった。
「お前ら遅いぞ、さっさと準備始めろ。」
「大和、凪、実戦形式です。 準備してください。」
やる気満々な二人が話に割り込み急かしてくる。
「新、俺は何すればいいんだ?」
近くに駆け寄り作戦会議を始めようとするが新は面倒くさそうに
「必要だと思ったら虚力を使え。」
としか答えなかったのだ。
それに比べて向こうはさっき前のリベンジマッチと言わんばかりに慧が張り切っているようだ。
まぁ、向こうは向こうで凪と大和は新との差を理解しているのか若干渋っているようには見えた。
「慧、ルールはさっき決めたのでいいな?」
「構いませんよ、こちらに有利ですし負けるはずがありません。」
待ってくれ?明らかにこっちが不利な条件出しただろ新お前!!
「ルール説明すんぞ。 ルールは簡単だ、こちらが防御でそっちが攻め。 真守に攻撃を当てればそちらの勝ち。 降参するか行動不能になったらこっちの勝ちだ。」
マジでこっちが不利じゃないか!! 何を考えてるんだ!?
「攻撃は死なない程度であれば俺が治すが俺への攻撃は殺す気で構わん。」
「本当に死んだらどうするんだ!!?」
「もう死んでるようなものだし死にはしないことだけは言っておく。」
ますます不利になる条件が増えていくんだが??
それでも新は何一つ気にしていない様子だった。
「それで結局俺は何をしたらいいんだ?」
「基本は俺が攻撃を防ぐ。 お前は凪と慧を注視しろ。 大和が俺を抑えに来るはずだから凪の式神と慧がする虚力の移動を気を付ければいい。 慧をメインに凪を抑える感じで問題ない。」
それぐらいなら問題はなさそうだ。 俺の虚力は使用した後、少しの間は持続することは立花兄弟の時に理解している。
新の方も問題ないのだろう。 自信がなければそもそもこんな勝負の形にはしないだろうし
いつだって必要に思ったことしかしない奴なのは嫌というほど知っている。
「そっちは準備できたか? 出来たなら始めるが。」
「問題ありません。 負けた場合は謝罪してくださいね。」
慧は仲間を貶められたことが許せなかっただけで元々は好戦的ではないのだろうと思った。
仲間思いの良い人そうだ。 大和は裏表がないし、凪はまだよく分からないけど二人が信頼しているのは分かる。
「じゃあさっさと始めようか。」
新は床に手をつき出口を封じ窓を消し外に被害が出ないように建物の外観を変更した。
「スタートの合図はそっちがしていいぞ。」
「では、コインを投げますのでそれが落ちたら開始ということで。」
慧はコインを取り出し上に投げる。
こちら側の近くに落ち、キンッと音を立てた瞬間にお互いが動く。
大和が大量の糸を吐き出して慧と凪の周りをメインに壁や天井にまで糸を張り巡らせようと動き、凪は式神を呼ぶために紙を取り出し、慧は移動のための準備をしている。
新は飛んできたコインを音が鳴ると同時に蹴り上げ大和の方へと飛ばしながら脱皮し蹴り上げた形そのままに走り始める。
俺は慧へと虚力を使い見つめて展開の妨害、即座に凪の紙の方へ視線を向け式神召喚を封じる。
第一陣は糸の展開をある程度許し、慧と凪は虚力発動の失敗。
新は敵陣へ到達し、蹴り上げられたコインが軽い爆発を起こして終了した。
次の手はなんだ? 一瞬の出来事で混乱する頭を慧と凪の警戒にのみ割くことで無理やり納得させる。
大和と新は糸の上で近接を行っているようであちこちから音が鳴る。
身体能力においては今の新と大差ないのではないだろうか
慧と凪は虚力が発動しないことを俺の虚力だと仮定して視界外になるように糸で姿を隠そうとするが、それは許さない。
糸も虚力で生み出されたものならと消しにかかるが消えない。
マズいと思った瞬間には新が何かを投擲して糸を切断し二人の姿が見えた。
恐らく大和の虚力は体の変化だけで糸は本物なんだろうと本能的に理解しながら距離を保ちつつ二人を視界に入れる。
しかし、急に後ろから音がして振り返ると人の大きさはありそうなトカゲがいつの間にかこちらに向かってきていた。
式神か!! いつの間に!?
俺が攻撃を食らった時点で負けになるルールだからこれはまずい!!
そう思ったがトカゲの攻撃は抜け殻だったはずの新だったものが防いだ。
二人を視界から外してしまったことでどうなるのかわからないが二人がいた方を見直す。
二手に分かれてしまった様でバラバラになった二人を見続けるという当初の目的は果たせない!!
ならばと一番警戒すべき慧の方を見ることにして目で追う。
周りにあった糸は黒く染まっているのが視界の端に移り、新は大和を制圧したのかと考えた。
実際には正解であり、大和の糸は新の手によって支配権が移り凪を拘束することに成功していた。
俺は新を信じ慧を視界に収めることに集中していると新が慧の後ろへ回り込んでおりそのまま拘束することで勝負は決することとなった。
新の戦闘をちゃんと見たのは初めてだったが手際が良すぎて意味が分からない。
相手も恐らく同じことを感じているだろう。
「降参です。」
その一言で完全勝利が決まった。
新は即座に糸を回収し、三人分の拘束を解いた。
「これがレベルの差だ。 お前らには同じレベルまで育ってもらう。」
俺を含めた新以外の四人でポカンとした顔を浮かべていると
「レベルを認識できてなかったら納得しないだろ?」
とあっさりとわざと挑発したことを認めた。
「お前はそういうやつだったわ。」
呆れてそれしか口に出せなかったが他の三人はまだ呑み込めていないのか
「俺たちの負けか!!」
「だから嫌だったのに」
「すみません、冷静になるべきでした。」
と反省会をしていた。
こちらの話は聞いてなさそうだ。
新は無視されたことで別の作業を行おうとしているようだった。
「なぁ、新。 俺もお前のようになれるのかな。」
何を考えたわけでもなかったが新の戦闘やその後の処理を見て思ったことが口に出てしまっていた。
自分でも唐突過ぎてハッとした。
気が付けば俺は彼に憧れていたのかもしれない。
何も持たず、虐げられるだけだった俺を優馬さんは助けてくれた。
第一印象は最悪だった新も今は食い違うことはあれど頼もしい仲間だと胸を張って言える。
そんな彼に近づきたいと無意識に思ってしまっていたのかもしれない。
「は? 何言ってんだ?気色悪い。」
そんな新から返ってきたのはひどい罵倒だった。
あんまりである。 若干へこたれそうになったが彼は続けて
「俺のようになれるわけないだろ。 お前はお前だ、俺のようになってどうする? お前はお前であればいい。」
素知らぬ顔でそう言い放ってきた。
「そういうんじゃなくてさぁ」
「バカか。 俺にしか出来ないこともあれば、お前にしか出来ないこともある。」
確かにその通りではあるのだがコイツに言われるとなんか腑に落ちない。
「お前らもメソメソしてる時間あったらさっさと特訓すんぞ。」
「「「誰が!!!!」」」
本当に仲の良い三人である。 息ピッタリだ。
しばらく言い合いが続いたが新の性格を理解したのか面倒くさくなったのか五分ほどで言い合いは終わった。
新は終始めんどくさそうにしており、三人は諦めたの方が正しいのかもしれない。
「特訓と言ったって何するんだ?」
「大和は基礎能力の向上。 凪は式神の複数同時稼働。 慧はやれる範囲の増強。 お前は虚力の精度の向上。」
ビシッとそれぞれに指をさしながら新は言った。
俺たち四人の強化案はすでに新は見つけているようだった。
模擬戦もこれ目的だったのでは?と言いたいほどの手際の良さである。
「俺は何すればいいんだ!!?」
大和は首を傾げながら言う。
「お前の虚力は発展性がほぼ無いからな、徒手空拳と糸の扱い方を覚えてもらう。」
そう言いながら床に触れ、さっき俺を起こした人の形をした黒いナニカを出した。
「これは俺と同期しているから俺と同じことをある程度は出来る。 まずはこれに勝ってもらう。」
床を三回叩きながら言う新。 それだけで建物が変化し上層階とそれに繋がる階段が生まれた。
「じゃあボクは?」
「お前は二種以上の式神を同時に召喚しないのはなんでだ?」
「基本仲悪かったりだから協力してくれなくて。」
「ならまずは小さく召喚できるか? 俺と初めて戦ったときはデカくしてたろ?」
「それなら出来なくないと思うけど・・・」
「その状態で複数召喚して対話させて仲裁しろ。」
「えぇー 雑ー」
何とも言えない表情をする凪。
「それが出来れば連携もとれるし技をかけ合わせることが出来るのは分かるだろ?」
「それが出来てもあまり変わらないじゃん。」
虚力のことをこの三人は理解していないのだろうと俺はここでやっと理解した。
新は多分このことをレベルと言ったのだろう。
「立花兄弟と戦った下水道でお前は氷虎と水狼だったな。」
「・・・そうだけど、なんで知ってる?」
「慧の記憶とあの三馬鹿の記憶で確認してるからな。 それはどうでもいいが召喚獣の連携があればやれることが増えるのはもちろんだが、現状の対応した召喚獣を出すだけでは限界が来るぞ?」
「それは・・・でも、どうすれば・・・」
「そのための訓練だ。 お前らは虚力についてどう考えている?」
「知らん!!」
「知りませんね。」
「知らない。」
三人は虚力に関してなにも知らないようだ。
今までも恐らく超能力として認識していたようだ。
「真守、教授の話を説明してやれ。」
急に話を振られて少し驚いたが新なりの講義のつもりなのだろう。
「虚力は願いの力であり、願望の形が虚力になる。 あとは、虚力に触れると虚力の種が植えられて芽吹くと虚力者になれるだったか?」
そう答えると新は不服そうに
「五十点だ。 虚力は願望の形であり、その力は虚力者の解釈次第で強化できる。 俺が言いたいのはここだ。 基本的にはこのことを知っている人間は少ないようだな。」
新は講義の話を例題交じりに三人へと伝え、三人は興味を惹かれたのか目を輝かせるようにして新の話を聞いていた。
「こと虚力に関しては自分にやれるのか?ではなく自分がやる遂げるという意志の方が重要になってくる。 凪はその点応用力がある虚力だろうし、処理能力もほとんど必要なさそうだから当たりの部類の上の方だろう。」
「SSRってこと?」
「なんだそのエスエスアールって?」
新はソシャゲとかしなさそうだもんなぁ。
「そうだよ、SSRぐらいかもしれないね。」
そう助け船を出した。 新は年頃の学生とかではなくおじいちゃんレベルで物を知らない気がしてきた。
「まぁ、納得できるなら構わん。」
「新が言いたいのはSSRだけで満足しないで限界突破してスキル強化とかもしていこうねって話だと思うよ。」
この解説については俺の方が分かりやすく説明できてそうで役に立ててよかった。
凪の方も話の内容を理解できたためかさっきよりもやる気が見てとれる。
小学生高学年か中学生ぐらいだというのにこんなことに巻き込まれてしまってなどと思ったが彼らには信頼関係があり無理をしているようには見えなかった。
歳も全然違う三人ではあるものの不思議と俺たち三人が楽しく話していたころに似ている気がした。
「私は何をすればいいんでしょうか?」
最後は慧の番だ。彼が一番年長者っぽい落ち着きがある。
「お前の虚力は特殊過ぎるからな、特訓と言うより伝授にしようと思う。」
「というと?」
「お前には常時敵の虚力を見れる目と離れた地点を繋ぐドアの様な能力を作ってもらう。」
「それは前に試したんですけれど、どうしても出来ないんですよね・・・」
「そのための俺だし、この特訓の話だろ。」
新は包み隠すとかオブラートに包むとかそう言ったことはめんどくさいと一蹴する。
やればできるとか曖昧なことを言うぐらいなら黙っているだろう。
つまり、彼が出来るといえば基本的には出来るということでもある。
そんな彼が出来ないことを出来ると言っているのだ。
「慧、新が出来るといえばきっと出来ることなんですよ。」
「真守さん・・・。 わかりました、やってみます!」
三人の強化案は纏まった。 これで間違いなく虚力や戦闘力が大幅に強化されるだろう。
それぞれ新の用意した別の階層で特訓を始めるだろう。
「俺はどうしたらいいんだ?」
ここまで俺の話をしなかったのは俺の虚力の話を避けたからか聞かれたくない話をするかのどっちだろうかと思ったが、新の考えが俺に読めるわけもないので直接聞くことにした。
「お前、さっきの戦闘でずっと虚力を使っていたな?」
「それはそうだろ? いちいち切り替える暇もないし・・・」
「俺は必要だと思ったら使えと言ったはずなんだがな。」
まさかの説教だった。 なら、どうすればよかったのだろうか・・・
「お前の虚力は虚力の否定だろう? ならばお前のすべきことは虚力か虚力ではないかの選別と副産物の虚力の麻痺を誘発的に起こせるようにすることだった。」
「そうは言うが上手くいったんだから良いだろ?」
「俺のサポートありきでな。 お前は俺が意識していなければ少なくとも二回は、負けていたことに気付いているよな?」
それはその通りだった。 確かに糸を破壊できなかったこととトカゲから守ってもらったことでの勝利だ。
これは新がいなければ負けていたことにはなる。
「それでもお前が勝手に決めた不利なルールのせいだろ!」
「ほぅ? ならお前は実戦でも自分に有利なルールで戦ってくださいとでも言うつもりか?」
「―――それは・・・」
確かにその通りだ。 新は実力差を見せるために相手を有利にし、俺には実戦で戦えるようにという意図で不利なルールを付けたのだろう。
俺はその中で十全な状態だったにも関わらず、新がいるということに甘えていたのかもしれない。
これでは肩を並べているのではなく、以前と変わらず庇護されている状態じゃないか!
「新、すまん! 確かにその通りだ。 俺を鍛えてくれ、俺はお前と共に戦いたいんだ。 守られたいわけじゃない!」
その言葉を聞きたかったと言わんばかりに新はニヤリと笑った。
「なら、お前の特訓は厳しめで良さそうだな。」
「お手柔らかに頼むぞ? お前の本気にはあまり付いていける気がしないぞ?」
新は俺の弱音に全く気にした様子もなく床を足で三回叩くと何も無かったステージが広がり、大きな一つのフィールドに変わった。
「こんなものか。 さて、始めるぞ。 さっさと上がれ。」
ステージに上がり、立花兄弟と春臣を二人ずつ配置する。
「やな予感しかしないんだけど・・・」
そう言いながらしぶしぶステージに上がる。
これから起こることに不安しかわかない。
「お前は今から虚力で出来たと認識できる方と認識できない方を見分けて消す能力を養いつつ、多対一の徒手空拳の練習をしてもらう。」
「待ってくれ、俺は喧嘩すらしたことないぞ??」
「別に素手でとは言ってないだろ、武器は用意してやる。」
そう言って虚力で作った黒い木刀を投げ渡される。
これでやれってことかぁ。 そういうことではないんだけどなぁ。
「お前はこれで良さそうだな、上手く出来るようになったらこっちでまた難易度上げて底上げしてやるよ。」
そう言いながらこちらの意見は全く聞かずに黒いナニカを連絡役において勝手に出ていった。
やらなければならないのは分かるんだけどここまでスパルタにやるか普通?
考えていても仕方がないので出された課題に向き合うのだった。
◆
虚力者発生から二か月。
特訓開始から一か月。
流石にスマホも圏外となり、電気や水道すらも通らない状態へと悪化した。
水は西が虚力で賄い、電気はランタンを使用している。
食事は俺の虚力によって生成。 有機物の補充には成長速度を上げた種子を蒔き、成長させて回収していたが三人は最初ありえないといった面持ちで拒否していた。
それも二日目には特訓にならないということで無理やり泥を流し込むかどうか尋ねたことで諦めていた。
そんなこともあったが、準備は上々と言って問題なさそうだ。
全員俺の出した課題はクリアし、他の要望にも応えて見せた。
そして何よりメイビーに作っていた巨大な脳をこちらの総合体育館にも規模を大きくした形で設置できた。
正直これがなければここまでの特訓は不可能だっただろう。
それももう終わった。
「お前ら、模擬戦やるぞ。」
全員に集合をかけ、皆が集まる。
一か月前とは違い、実力が付いたことで各々が自信を持っているように見えた。
「ルールはどうしますか? この前みたいにハンデを付けるとか言いませんよね?」
慧は教えた以上のことを己で実行できるようになったためか余裕すら見せている。
「当たり前だろ、ルールは変える気はないぞ? 俺たちに勝って証明するんだな、このルールでは不足だと。」
真守も弱音を吐かなくなったためか何も口を出さない。
真守には立花兄弟と春臣をぶつけて真守が攻撃した際にはリアルに苦痛を感じさせたことで最初は戸惑っていたが今では六組用意しても即座に感覚で虚力を見抜き、攻撃にも迷いがなくなっていった。
「はっはっ!! 強く出たなぁっ!! 俺たちだってちゃんと強くなっていることを証明せねばならんなっ!!」
「そうだね、このルール嫌い。」
大和と凪もそれぞれが長所を生かせるようになった。
大和は俺の出した分身体を三人までなら余裕をもって倒せるようになり、調子が良ければ五体に勝てた。
虚力の使い方も感覚だけに頼らなくなったことで的確に攻撃できるように成長した。
凪は召喚獣を三体まで出せるようになり、そこからは分身体と戦わせたが戦績はかなり良い。
一か月という時間はこの街を任せるに足る実力を三人に与えた。
「縛りは付けなくてもいいのか? 俺にとってはお前らはまだまだなんだが?」
安い挑発だなと思いながら口にしたが
「「「いらん!!」」」
三人は息をそろえて返してきたのだった。
「じゃあ始めるか。 スタートはお前らで良いぞ。」
「では、この前と同じようにコインで始めましょうか。」
あぁ、あの胡散臭いコインな。 誰も気にしてなかったがこの前のは爆発したし、また何か仕込んできているだろうな。
「いつでもいいぞ。」
「今回は俺に指示くれないんだな。」
「いらんだろ、今のお前に。」
そう答えると少しうれしそうな顔をする真守。
変な奴だなと思いながら宙を舞うコインの軌道を見て、三人の姿を確認する。
良い感じだ、あまり手を抜かない方がよさそうだな。
キンッという音が鳴る。
即座に前に出てコインを蹴り飛ばしたが今回は何も起きなかった。
だが、俺は殴られていた。
同時に前線へ出てきた大和がコインにかまけた俺に一発くれたのだ。
すでに腕は六本であり、うち二本は俺の腕を糸を纏わせて拘束していた。
中々やるようになったものだな。
感心しながら足で大和を蹴り飛ばそうとしたがさらに二本の腕で拘束される。
口から種子を複数吐き出し、成長させる。
真守の方は召喚獣を相手にしながら慧の虚力を封じたようで押されてはいるようだったが持ちこたえていた。
育った樹を残った足で触れ、取り込みながら四体の分身体を作り出す。
拘束された両手を木に変化させ、拘束を解きながら大和へ攻撃を加えたが距離を取り、回避された。
三体の分身体は大和へと距離を詰め、二体を立花兄弟に変化させ、水で囲い、火で追い立てる。
もう一体は変わらずに大和へと攻撃を続けることで彼は完全にこっちのペースに飲み込まれていた。
樹に残した分身体は更なる分身体を出しつつ樹の範囲を広げる。
俺はそのまま真守の方へと駆け寄り、氷虎と水狼、炎姫に苦戦している真守をフォローする。
水狼に対しては西に行った種子を使い水を吸収させる方法を取り、氷虎は肉体を硬化させて続けざまに打ち壊す。
炎姫は真守が虚力を使い破壊する。
しかし、凪が召喚獣を出し続けることには不毛な戦闘であると分かっているため、適当な分身体を二体呼び寄せて召喚獣を制圧させる。
その間に凪の方へ駆け、糸を使い拘束した。
慧は虚力を使い姿を隠したようだったが真守が感知してそれを消すと同時に糸で拘束。
大和は追い詰められたまま打開できずに分身体に拘束されていたのだった。
身動きが全員取れなくなったタイミングで三人は降参を選んだ。
「合格点だな。」
「ほとんど新の無双じゃんかよ、俺のいいとこちょっとしかなかったんだけど。」
そうは言われても困る。 三人の成長は知っていたが各々で特訓していたはずなのに連携まで完璧と来た。
けしかけた手前、負けるのはごめんだった。
「今度からは分身と他者の虚力は無しにしようっ!!」
「反則ぅ~」
「まさかここまでされるとは思いませんでした。」
三人はこちらに対してうだうだと言っているが面倒なので無視して話を進めることにした。
「さて、同盟を組もうか。」
「そういえば、最初はそんな話でしたね、いいでしょう。 街の治安維持は私たちも望むところですし。」
「なら、決まりだな。 慧には俺たちを都市部の方まで送ってもらいたい。 俺は良いんだが真守が文句を言うからな。」
「あの移動方法じゃ着く前に疲れるじゃん!!」
「だそうだ。」
「わかりました。 ではそのように。」
「連絡と索敵はその分こちらで負担するさ。 カラスも街中に放てているし、すでに五組ぐらいは侵入してきていたが処理してある。」
「修行中にそこまでやっていたんですか!?」
「俺の虚力は修行するものでもないからな。」
呆気に取られている慧だが、この程度ならば負担も少ない。 相手は下っ端ばかりだったしな。
そんなことを考えながら他にも必要になるものの話をした。
春臣の方も順調のようだし、解決が必要な問題は、ほぼ片付いたと言ってもいいだろう。
次の目標はノアズ・ファミリーとの戦闘となるだろう。
少し休んだのち、慧に連れられ虚力の部屋に来ていた。
大和と凪は特訓していたいからと動向を拒否した。
悠々と先を行く慧を見ながら思う。
施設の件もそうだが慧の能力は完全にサポート向けであり戦闘に出る必要はないように感じた。
「行きますよ。 この先が私たちの拠点です。」
来た扉ではない部屋の扉を開けるとそこには工場の跡地だったであろう場所に着いた。
海が近いのか潮の匂いがする。
「この場所は知っているがなんでわざわざ俺たちを連れてきたんだ?」
カラスが一羽、新の肩に止まる。
「私達にはもう一人メンバーがいるんです。 彼はここで避難してきた住人の面倒を見ながら私達の帰りを待っているんです。」
「そうか、それで? 会わせたい奴はどこにいる?」
「新! お前なぁ!!」
「構いませんよ、大体新のことは理解してますから、こちらへ。」
慧は特に気にした様子を見せることなく案内を続ける。
こういう気にしない人間の方が楽でいい。
案内されたのは小さな小屋。
中に入ると施設と同じ虚力が働いているのか部屋の大きさは何倍か拡張されている。
その部屋にいたのはガタイの良い職人気質そうなオヤジだった。
オヤジは一瞬不審そうにこちらを見たが慧のことを見るや否や顔色を変え
「慧じゃねぇか!! なんだ!!知り合いかっ!?」
「ええ、紹介します。 この二人は新と真守。 それでこの人は牧野源さん。 私たちみんなの親代わりみたいな人ですよ。」
「おうよっ! 何かあったら言ってくれ!! 何でも作ってやっからよ!!」
良いオッサンだな、あのお気楽能天気なオッサンに垢でも煎じて飲ませてやりたいもんだ。
「源さんの虚力は設計し再現可能であるなら作成できる能力です。 都市部に行くのなら必要になるものを作ってもらうと良いですよ。」
なるほど、ここに連れてきた意図はそういうことか。
用意が必要なら助けるというわけか。
「なら、スタングレネードをいくつか用意できるか?」
「なんだい、えらく物騒なものをご所望じゃねぇか。」
「都市部の大型クランに攻め込むんだ。 必要になる可能性も出てくるだろ、作れるか?」
「作れるが何個必要なんだ?」
「出来るだけ量があると嬉しいが何個ぐらい作れそうなんだ?」
「ここの防衛用に素材が必要になるんで、三つぐらいだな。」
防衛か、ここはコロニーとして避難所になっているのは確認済みだ。
人口は二百人ほど肩を寄せ合ってひっそりと生きている。
ここを守るのは大和たちであってその範囲を増やそうとしているわけだ。
「わかった、それでいい。 防衛については俺の虚力で戦力を増やしてやる。」
「守ってくれるっていうなら、もうちょい作ってやるが?」
「必要ない。 それはここのために使ってくれ。」
体からカラスを生み出し種子を持たせる。 それを複数羽、部屋から飛び立たせる。
それを見ていたオッサンは目を輝かせながら体を凝視してくる。
「こりゃあ、どうなってんだ!? これも虚力か!?」
俺の周囲をぐるぐると回りながら吟味するように見てくる。
「俺を見ているより、やることがあるだろ。 周囲に説明できる設備はあるか?」
「あるにはあるがそれが何だってんだい?」
「急げよ、説明が遅れれば混乱になるぞ。」
巨大な樹が成長し始めたせいか外が急に騒がしくなる。
その騒ぎを聞いて外を見たオッサンは部屋にある壁掛けの通信機を手に取り
『今生えた樹は客人の力によるものだ。 恐れることはない!!』
その放送が流れた後すぐに外が静かになった。
これによりこのオッサンがこの地でいかに信頼されているのかが分かる。
どこかのオッサンとは本当に大違いだ。
『集会場にて客人を紹介するからこれるやつは集まってくれや』
そう言い通信機を戻し
「そういうことだから付いてきてくれ。」
面倒だな、真守だけでも良さそうだし俺は散歩でもするか。
視線を少し真守へと向け、そう決めて行こうとしたが
「新、お前の虚力の説明するんだからお前も来るんだぞ?」
コイツなんでたまに察しがいいんだ?
「兄ちゃん達、どうしたんだ?」
「いや、コイツが面倒くさがって逃げようと考えてそうだったんで釘指しただけっす。」
「まぁ、そんなに時間取らせやしないから心配すんな!」
そういうことではないんだが、まぁいいか。
どうせ真守から逃げたところで面倒なことになりそうだし。
渋々といった形で付いていくと集会所と言われていたのは倉庫の跡地のような場所だった。
海に面していることを考えるとまぁ、あながち間違いじゃないだろう。
オッサンが扉を開けるとそこにはすでに百人ほど集まっているようだった。
壇上へとすぐに上げられ
「こいつらが客人だ。 お前たち失礼のないようにするんだぞ!」
そこから始まり俺の虚力についての大雑把な説明とそれによる虚力者の発生に関しての進言の義務化など方針の変更についての話し合いもあったようだ。
ようだと言う理由は紹介が終わった後すぐに面倒になり、避難所周囲の状況把握や困っている避難民の要望をある程度片づけていたからである。
まさか会場から抜け出した方が面倒に巻き込まれるなどと思いもしなかったが収穫も多かった。
取り込めていない有機物、海産物や木の実、果物などを返礼品として受け取ることが出来た。
流通網が死んでいるこの状況においてはかなりありがたい状況であることは間違いなかった。
こちらの食糧問題もかなり深刻だったこともあり、かなり助かっている。
なんといっても塩が手に入ったのはありがたかった。
なんせ、俺が作り出せるのは有機物のみであり、無機物の塩は生成できない。
何度文句を言われたのかわからないぐらいだった。
手伝いをしている間に日は落ち、暗くなり始める。
この場所は源の虚力のおかげなのか街灯が機能しているおかげで夜も明かりが灯っている。
「新、ここにいたのか。」
集会が終わった後、俺を探していたのか真守がこちらに駆け寄ってくる。
「どうだ、ここは。」
「いい場所だと思うよ、ちゃんと守っていかないといけないし。三人の負担を増やしてしまうのは心苦しいかも。」
「ここの守護に関しては俺も協力できるようにしておいたし、あまり考えなくても構わないだろう。」
今持て余している立花兄弟をここに配置しても良いなと思いはしたが、ここの住人に不信感を与える可能性がある今は得策ではないか。
この街と同じようなコロニーを俺たちの街に作ってしまうのも良いかもしれない。
距離が離れてはいるものの範囲を広げていけばそのうち全てをセーフゾーンに変えられるようになるかもしれない。
「お前は先々のことまで考えられて凄いよな。」
「なんだ急に。」
「いや、俺は現状だけで手一杯だからさ、今だってこの場所の未来とか都市部のこと考えてるんだろ?」
「当たり前だろう、俺たちは優馬の仇を取る、そうだろ?」
「あぁ、俺はお前がいなかったらそれすら叶わなかっただろうな。」
それは真守の本心なのだろう。
真守は虚力をある程度使えることになったおかげか弱音は言わなくなっていた。
だが時折自分と俺を比べて少し寂しそうな顔をする。
俺はお前みたいになれるのかな。
ひと月前に言っていたことを思い出した。
コイツは馬鹿だが人の気持ちに寄り添える。
それは俺には無い感性だ。
故に俺は前に一蹴して返したが思うことはあるのかもしれない。
「お前はこの先何になりたい?」
ふとした疑問だった。 俺には優馬の死に対する報復以上の未来は見当もつかない。
いくら先を読めていてもその先は優馬の意思を尊重して真守のことを守ることぐらいだろう。
だが、コイツが見ている未来を共に叶えるのも悪くはないと感じ始めているのかもしれない。
「俺はまだちゃんと考えられてないけど、俺たちの街やここの人たちを守りたいとは思っているよ。 それが力を持った俺たちの義務だと思うから。」
「そうか、まぁやることやってから決めればいいさ。」
そう言うと何か納得したように真守は何度か頷き
「そうだよな、俺たちはまだ一歩目すら踏み出せてないのかもしれない。」
その通りである。 俺たちはまだ最初の一歩すら踏み出していない。
俺たちは三人で始まるはずだった。 それが叶わなくなったことで報復という道へと舵を切った。
最初の理由は正しくない行為ではある。 ただ、現状を見る限りはこちら側に正義があるだけ。
「俺たちは正しいよ。 俺は後悔はしないと思う。」
何を考えているのか理解しているように真守は呟く。
実際は話しながら自分の考え方に反した行動だと感じたのだろう。
「正しいさ、俺たちは必ず勝つ。 勝てば文句なく正義として記録に残るだろ。」
「そういうことじゃないんだが・・・」
「うじうじしてる暇があったらさっさと寝とけ、明日からは都市部に入るんだからな。」
真守は納得はしていなさそうだったが半ば引き摺るようにオッサンに用意してもらった客室の方へと戻った。
朝、真守を起こし、オッサンの元へと向かう。
準備は終わってるようでこちらが来るのを待っていたようだ。
「準備は出来てるぞ! 持ってけ!」
部屋の机には用意されたスタングレネードが置かれていた。
「真守、持っとけ。 お前用だ。」
「待ってくれ! 俺使い方とか知らないぞ!?」
「簡単だ、ピンを抜いて遠くに投げて目を逸らせばいい。」
「簡単に言うなよ、そんなに上手くいくわけないだろ!?」
「あくまで緊急用だ、必ず使えなんて言ってないだろ。」
「わかったよ、一応持っておくよ。」
そう言って手に取るがバッグを持っていないことを思い出したのかそわそわしている。
「安心しな! ちゃんと用意してあるさ。」
オッサンが壁にかけていたサイドバッグを真守に投げて渡す。
「ありがとうございます。」
バッグを肩に掛け、中に詰めていく。
「あとはコレだな。」
携帯食をいくつか生み出し、真守に持たせる。
準備も出来たことを確認した慧がこちらに歩いてくる。
「準備が出来たのでしたら行きましょうか。」
「あぁ、そうだな。」
返事を聞いた慧は扉のドアに札を掛け、扉を開けた。
「さぁ、行きましょうか。」
慧が先に入りそれに続く。
この先で俺はお前の無念を清算してやるさ。
そう心の中で呟いた。
◆
白い少女はどこにでも現れる。
今回現れた場所はノアズ・ファミリーの拠点の中にある一室。
「ふふ、上手くやっているのね、想定以上よ。」
「はい、澪様。 貴方の期待に応えられないなんて私にとっては地獄ですから。」
「私は潜り込んで欲しいと言っただけなのにまさか幹部にまでなってしまうなんて驚きました。」
澪と呼ばれた白い少女は楽しそうに笑いながら少女に言う。
話し相手の少女はひと月前、澪に助けられた少女であり、黒髪のボブを靡かせ褒められたことに目を輝かせながら
「澪様に助けられた命ですから、貴女のために使いたくて。」
「朱莉、貴女のそういうところが可愛らしくて私は好きですよ。」
篠田朱莉。 彼女は澪に助けられたことで完全に心酔していた。
「可愛いなんてそんな・・・言われたことなんて無いので照れてしまいます。」
「そういうところですよ。 まぁ、良いでしょう。 貴女のすることは分かっていますね?」
ハッと我に返り、普段通りの精悍な顔つきに戻し
「わかっています。 ノアズ・ファミリー内部に潜入して武闘派リーダーである鬼塚烈司の暗殺。」
「もう一つは?」
「最重要目標で、攻め込んでくるはずの白瀬真守を殺すこと。」
「ふふ、合格です。 貴女のこと頼りにしていますからね。」
「はい! お任せください! 必ず成し遂げて見せます!」
その言葉を聞くと澪は満足したように自身の姿を影へと変える。
影へと完全に変わった瞬間、その姿はまるで誰もいなかったかのように消えた。
少女は自分に課せられた使命を胸に抱き椅子へと腰掛ける。
全ては澪様のために。
そう心の中で復唱しているとコンコンと扉を叩く音が聞こえる。
「入ってください。」
そう答えるとドアが開き男が入ってくる。
「取り込み中だったか?」
入ってきたのは筋骨隆々の大男。鬼塚烈司だった。
感づかれたか?と一瞬緊張が走ったが彼は何も気づいていないらしく
「ボスに会いに行くんだがお前はどうだ?」
そんなことを言ってくる。
「えぇ、もちろん行きます。 わざわざ気を使って頂きありがとうございます。」
「なに、気にすることはないさ。 お前はまだ入って間もない金の卵?らしいからな。」
「光栄です。 組織でお役に立てるようにより頑張りたいですね。」
心にもない返事をするが彼は気を良くしたのか
「お前ほどのやつが俺の副官になってくれて嬉しいぞ。」
はっはっはと大笑いしながらボスの元へと向かう彼の背中に付いて歩いていくのだった。
「」




