表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

『 休肝日 』


 あっという間にお正月は過去の出来事となり、そんな余韻も残さないままいつもの生活に戻った。

 そんな日の午後、慌ただしくネコのSpayを済まし、約束の時間を待つ。


 時間きっかりにトラックがやって来た。

 新しいエコーの到着だ...っていっても中古だけどね。

 診察室に運ばれ、荷を解かれた姿は、わたしにしてみれば中古に思えないくらいきれいなもの。

 ちょっとうれしい...。

 入れ替わりに、古いエコーが運び出される。

 さっき、記念に写真を撮っておいたんだ。

 もう、骨董品のようなものだから、きっと潰されちゃうんだろうな。

 今まで活躍してくれてありがとう。

 ほんとに、ありがとう。

 ちょっと、涙が出た...。



 さて、いざと言う時に慌てないように、とりあえず最低限の使い方はマスターしておかないと。

 取説片手にひとつひとつ機能を確認していく。

 「よし、舞ちゃん、誰でもいいからネコ連れて来て」

 舞ちゃんがおとなしそうな居候を見繕って連れて来た。

 バリカンでおなかの毛を刈って、プローブをあてる。

 「ちょ、ちょっと、うごかないでよ」

 だめだ、動き回って落ち着いて見れない。

 「じゃぁさ、はぐちゃんにして」

 今度ははぐちゃんが診察台に上がった。

 はぐちゃんははぐちゃんで、エコーが気になってやっぱりじっとしててくれない。

 ったく、うちにはおとなしくエコーをあてさせてくれる子はいないの?

 もういいや。

 自分のおなかにあてるか。

 でも、何か見つかると嫌だからやめておこう...。



 午後の診察が始まりやって来たのは、後足がおかしいというMixのチホちゃんだった。

 診察してみる。

 どうやら直接後足がおかしいんじゃなさそう。

 陰部の腫脹、腹部の膨満。

 子宮じゃないの?

 エコーの出番だ。なんだか緊張するな。

 「最近おなかが張ってるような感じはしないですか?」

 「そーいえば、ちょっと大きいかも」

 「エコーでおなかを診させてもらいますね」

 そう言って、おなかの毛を刈り、ゼリーをたっぷり塗ったプローブを当てた。

 間違いなさそう...。子宮だ。

 え?でも、なんだ?これ?

 もっとシャープに出てもよさそうなんだけど...。

 フォーカス変えたり、ゲインを変えたりしても同じ...。

 どーしてこんな写り方するんだろ?

 この子のおなかがおかしいのか...。

 新しいエコーがおかしいのか...。

 こんななら、古いのとってけばよかったなぁ。

 でも、子宮蓄膿症には間違いない。

 あとでゆっくり見直すために動画をとっておこう。

 フリーズボタンを押した。

 「子宮蓄膿症ですね。そのためにかなりおなかが張ってますから、それで歩き方がおかしくなってた可能性がありますよ」

 採血して結果が出たあと、飼い主さんに一通り説明して、手術を勧めた。

 飼い主さんは「相談してみます」と言って帰って行った。


 さて、さっきの画像、もう一度見てみよう。

 なにげに、フリーズボタンを押す。

 あ...。

 ふえぇ~...、消しちゃったよぉ...。

 ボタンを間違えて、メモリー上の動画を消してしまった。

 プリントアウトもしてないよ...。(T-T)

 なんてこったい...。



 次の日。

 午前の診察が終わり、昼食の用意のために2階に上がったところで電話が鳴った。

 しばらくして舞ちゃんがやって来た。

 「昨日の松原さん、なんだか様子がおかしいので手術して下さいってことですけど」

 蓄膿症のチホちゃんだ。

 電話を受け取り、通話ボタンを押す。

 「もしもし、どんな様子ですか?」

 「朝から震え出して、ゴハンも全く食べないんです」

 ひょっとして、膿が漏れ出したか?

 「分かりました。すぐ来て下さい」

 朝からおかしいなら、朝来てよ...と、電話を切ってから言ってみた。

 すぐに手術が出来るように、一応準備をしておこう。


 しばらくしてやって来たチホちゃんは、思ったよりも元気そうだった。

 でも、ちょっとおなか痛そうかな?

 漏れてなきゃいいけど。

 飼い主さんはすぐにでも手術をしてほしいとのことだったので、そのまま預かって始めることにした。

 昨日の血液検査では、心配するような異常値はなかった。

 留置して、導入。挿管後手術室へ運ぶ。

 手術台で仰向けに寝かせると、そのおなかの大きさがさらに目立った。

 それにしても大きい...。

 子宮以外にも何かあるのかな?

 昨日のエコーの写り方が気になった。


 お臍の直下から大きく切開する。

 皮下を剥離して、白線を出す。

 結構脂肪があるね。

 そして腹壁を開けると、少し濁った腹水が漏れ出した。

 その奥に、蓄膿症特有の姿をした子宮の一部が見える。

 白線の切開をさらに広げる。

 そして子宮を引っ張り出す。

 あれ、出ない...。

 腹壁を広げ、おなかの中を覗いてみる。

 うわ、卵巣だ。

 小さな嚢胞がいくつも集まってぶどうの房状になった卵巣。

 ひょっとして、これ...。

 引っ張っても出ないので、さらに上へ切開をひろげた。

 そしてもう一度子宮を引っ張る。

 巨大な卵巣が、ズボッと言う音とともに姿を現した。

 うわぁ...、でっかい...。

 反対の子宮角を引っ張る。

 さらに同じくらいの大きさの卵巣が出て来た。

 こんな大きなの初めて見た。

 おなかの中のほとんどのスペースを左右の卵巣が占めていた状態だった。

 これが写ってたんだ。

 こんなに細かい房状のものが大きく集まっていたら、あんな写り方をしても当然だね。

 変な写り方をしてたんじゃなくって、むしろしっかりと映し出してくれてたんだ。

 わたしの見る目がなかったんだね。

 それにしても...、

 こんなおっきなのが入ってて、おなか痛かったろうな。

 

 膿が漏れてるのを心配したけど、一部腸管が充血しているところがあっただけで、腹膜炎を起こしている様子はなかった。

 摘出後、念のため洗浄をして閉じることにした。

 まぁ、大きく開かなきゃ出なかったから仕方ないんだけど...、縫うの大変。

 連続でやると簡単なんでしょうけど、万が一切れたりしたら不安なんだよね...。

 なので、腹壁と皮下は結節で、がんばって縫う。


 「舞ちゃん、ホチキス出して...」

 皮膚を縫う時には、もう疲れ果てていた...。

 

 

 

 暇な夜の診察が終わり、いつものようにはぐちゃんと2階へ上がる。

 今日は、休肝日か...。

 何故か健康に気を使って、お酒を飲まない日を決めている。

 いつも不摂生してるのに笑っちゃうけどね。

 飲めない日は、ちょっと...いや、かなりさみしい。

 そんな日は、夜がとても長い。


 やることないから、いつもよりも早くベッドに入る。

 でも、なかなか眠れない。

 飲まない日は、いつもそう。

 市販の睡眠導入剤を飲んでみたことあるけど、寝たい時間に効かなくて、次の日に効いてたなぁ...。

 花粉症の薬が合わなかったから、そもそもわたしに抗ヒスタミン剤は向いてないんだろうね。


 眠れないけどアルコール抜きと、眠れるけどアルコール摂取...、

 どっちが健康に良いのだろ?


 まぁ、そんなこと考えてるうちに、そのうち寝ちゃうんだけどさ。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ