第8話 夏だ!キャンプだ!
チャイムが鳴り響く学校。
同時に生徒が後ろから用紙を回収していく。
「えー、これで期末試験も終わり明日から夏休みに入るが、間違っても羽目を外しすぎるなよ〜」
教壇で担任が気だるげに注意点を告げる。
「そういうことで、9月に元気にまた会いましょう。」
その言葉を皮切りに生徒が立ち上がったり話し始める。
やや高い位置でお団子を2つ携えた少女、愛
は荷物を持ちポニーテールの少女に近づいた。
「凛ちゃんテストお疲れ様〜!」
「お疲れ様、今日部活ないから一緒に昼でも食べに行く?」
「いいねいいね!何食べよっかなぁー!」
2人は並んで靴箱に向かう。
「あら、2人ともお疲れ様。」
階段から降りてきた艶やかな黒髪を伸ばしている大人びた少女、吹雪に声をかけられた。
「吹雪さんもお疲れ様ー!」
「これから私たちお昼食べに行くのですが、一緒にどうですか?」
吹雪は2人からの提案に少し考え、笑顔で受け入れた。
ショッピングモールのフードコートで各々の好きなものを購入してくる。今日から夏休みの学校も多いためか制服姿の学生もチラホラと見られる。
「いっただっきまーす!」
愛の元気に食べる姿を見て、吹雪は微笑む。
「今日から夏休みで嬉しそうね。」
「苦しい苦しいテストが終わったこの開放感!」
フォークをビシッと天井に向ける愛に凛はやめるよう伝えながら
「1週間後にテスト受け取りに行って、赤点だとそのまま1週間補講だけどね。」
と付け加える。
「うぅ…去年赤点取って私の貴重な夏休みが削られた苦い思い出が…」
愛はそう言いながら肩を落としフォークをパスタに突き刺した。
「でも今年は吹雪さんに詩依さんにみっちり教えられたおかげで、今回のテストいけてる気がする!」
「お役に立てたようならよかったわ。」
3人で話をしているといつもの2人がやって来た。
「なんや騒がしい思ったらあんたらだったんか。テストお疲れ様やな。」
「みなさんお疲れ様です…あの、相席いいですか?席が空いてなくて…」
ハンバーガーの乗ったお盆を持った秋定姉妹。
「詩依さん!仁菜ちゃん!お疲れ様!今日から夏休みだよ!」
快く承諾しいつものように話をする。
「夏休みはみんな何する予定なの?」
吹雪の質問に各々答える。
「私は大会があるのでそこに参加しますし、部活は変わらずあるので日々鍛錬します。」
「わ、私はお姉ちゃんと過ごしたり、家事や買い物とかに…」
「うちは仁菜と出かけたりやなぁ〜。」
「私はクーラーガンガンの部屋でアイス食べてスイカ食べて、1日ゴロゴロ!」
吹雪は両手を組む。
「そんなんじゃ、ダメだわ。」
吹雪の言葉に皆固唾を飲む。
「えっと…吹雪?」
「そんなんじゃダメ、魔法少女としての責務を果たせれていないわ!」
吹雪はカバンからノートを取り出した。
「夏休みなのに普段と変わらない鍛錬、変わらない生活、あろうことか大堕落な生活!」
「ひ、ひぃ!」
「そんな甘ったれてたらいけません!そこで!」
吹雪はノートを開き4人に見えるように見せる。
「夏休みですし!私主催の元、強化合宿を行いたいと思います!」
「強化合宿って…もしかしてキャンプ?!」
愛は目を輝かせる。
「そんなところね。施設にお願いしたら魔法少女強化のためならって快く一泊の許可をいただけたの。」
「なるほどなぁ、強化合宿とはまた吹雪も考えたなぁ。」
「凛ちゃんの部活を中心に考えて予定組みましょう!」
そして5人で予定を組み、準備の担当も決めた。
ーーーーーーーーーー
合宿当日。
5人は吹雪の家の前に集合した。
「暑いなぁ、夏はやっぱ日差しが照りつけるなぁ。」
「暑いよぉ…クーラーが恋しいよぉ…」
「こんな暑さでへこたれたらダメよ!こういう時は暑いと思ったら負け!気持ちで勝つのよ!」
「ど、どんな指導なんですかそれは…」
「ふふふ、山の中なら多少涼しいとは思うわ。車に乗って行くわよ。」
施設が車・運転手を貸し出してくれ、5人は乗り込む。車は2時間ほどかけて山奥に進んでいく。
「なんだか山奥って不気味ですね…熊とか…」
「そん時はお姉ちゃんがぶっ倒して熊鍋にするわ!」
「怪我しないでくださいね?」
「虫とか多そうだね…」
「大丈夫よ!こんなこともあろうかと虫刺されスプレーはもちろん、蚊取り線香や救急セットまでありとあらゆるものを取り揃えてるから!」
「通りで大荷物なのね…」
「そういう愛は荷物少しね。」
「着替えとお菓子!」
「‥軽装備にもほどがあるわね…」
ほどなくして山奥に着いた。川辺のためか日差しも入り込み明るく、ログハウスも広く、非常に綺麗であった。
「すっごーい!こんなところに泊まれるんだ!」
「本当に施設がこんなことまで…」
「まあ、大きな施設やし、今怪物に対抗できるのは魔法少女だけやからなぁ。お国さんも投資してるんちゃうか?」
荷物をおろし5人は外へ出る。
「まずは枝や魚を取るなど準備をしましょう!」
吹雪はそう言いながら振り返ると4人は各々水着であったり水鉄砲を待っていたり遊ぶ体制に入っていた。
「吹雪、まずは川で遊ぶ、これが定石や!」
詩依の提案に吹雪はため息をつくも口角を少しあげて服を脱いだ。
「そうだと思って水着を準備してよかったわ。まずは夏休みの主である遊びを楽しみましょう!」
5人でしばらくの間、水遊びを楽しんだ。
「そろそろご飯にしましょうか、私と凛さんはカレーを作るわ。」
「うちらは川魚でも吊るわ。ぎょうさん釣るで!」
「はーい、私は薪拾ってきまーす!」
各々が空腹を感じ始め行動に移る。
「吹雪さん、こっちも切りますね。」
「あら、ありがとう。ねぇ、その左腕の包帯…」
吹雪は左袖からチラッと見えた包帯について尋ねた。
「あ…これですか?この前の戦闘で切れて血が出てしまって。」
凛の笑顔に吹雪は傾げる。
「でもだいぶ前だし、そこまで激しい怪我でもなかったと思うけど…もしかして毒のような?」
「違うんです!ただ…」
凛は自分の左腕をさする。
「何かで圧迫してないと血が止まらないんですよね、少量ですけど。これでもだいぶ良くなりました。」
「血が?傷が塞がりにくいってこと?」
「はい。今まで怪我してもすぐに瘡蓋になって良くなってたんですけど…でも傷は小さくなってるのでもうすぐ治ると思います!」
吹雪は思い悩むような表情をするも解決策など見つからなかった。
少し川が深くなっているところで姉妹は釣りをしていた。
「ええ天気やなぁ。絶好のキャンプ日和やな。」
「いいですね!魚釣り初めてだけど釣れて楽しいです!美味しいといいなぁ〜!いっぱい釣っていっぱい食べるぞー!」
仁菜の笑顔に詩依は不安を覚える。
「あのさ…楽しむ仁菜は好きなんやけどその…」
口籠る姉に仁菜は首を傾げる。
「あ、いや…なんでも…あ!仁菜見てみぃ!あそこに綺麗な花が咲いてるで!自然豊かやな!」
「あれですね!」
そういうと仁菜は立ち上がり花の下まで行き、花を躊躇いなく引きちぎった。
「仁菜?」
ちぎった花を仁菜は耳にかける。
「お姉ちゃん、可愛い?」と微笑んだ。
その問いに詩依は「可愛いで」と答えつつ、この高さから仁菜を突き落としたら驚くだろうし、何より面白いかなと考えていた。
ーっ!!なんやこの考えは!うちは…うちは妹を…
「お姉ちゃん?」
いつの間にか戻ってきた仁菜に気づいていなかった。
「あ、あはは!なんでもない!仁菜が可愛すぎて見惚れてしまったんや!」
詩依は違和感を無理やりぬぐい消した。
釣ってきた魚とカレーをみんなで頬張る。
「美味しいねぇ!みんなで作るの!」
「あんためちゃくちゃ薪割りに苦戦してたくせに。」
「だってぇ…斧がめちゃくちゃ重いんだよ!火をつけるのにも苦労したし…」
「ならもう少し薪割りしてもらったお風呂も沸かしましょうか?」
「お風呂はガス使おうよぉ〜」
4人は笑う。
「詩依…どうしたの?美味しくなかった?」
「あ、吹雪、いやいや!めっちゃ美味しいで!お店で出せるくらい!ただ…みんなでこうやってるの不思議やなぁと思って。」
詩依は咄嗟に取り繕った。吹雪は何か言いたげに見つめるがそれ以上は尋ねなかった。
「夜はバーベキューして手持ち花火もあるよ!」
「なんかこんなに騒いで遊んで楽しんでってできることが幸せね。」
「そうよね。こうやって集まってみんなで楽しく過ごせるなんてね。また来年もしたいわね。」
「もちろん!2人が大学に行ってもみんなで集まろ!」
「来年はあんた受験生だから勉強合宿ね。」
「ひぃ…薪割りの方がいいよぉ…」
昼食を片付け終え、吹雪を囲むように座った。
「ではここからがメイン!魔法少女強化合宿を始めます。」
「よっ!待ってました!」
「魔法少女にとって大切なもの、それは心。心が魔法少女の力となり想いが強いほど魔力は上がるとされているわ。反対に動揺したり無理って思うほど魔法少女の力は弱まるの。その結果部分変身となって本来の力は発揮されないの。」
「なるほど!それならやってやるぞー!って気持ちが大切ってことね!」
愛の理解力に吹雪は一瞬固まる。
「…まあ、そういうことにしましょう。そこで精神統一と体力作りこれらをします!」
「ひぇ…体力作り…」
仁菜と愛は震え上がる。
「せやで、いくらやってやる!思っても体力がなかったらどないしようもないやろ?幸いにもここは施設の所有する山奥や!少々何しようがええってことやな。」
そういうと詩依は変身し大きな岩を殴って粉々にした。
「まずは岩砕きでもしようかな!できんかったら200mダッシュ!戻ってきてまた岩砕き!」
「そ、そんなこと…」
「懐かしいわね、私たちも訓練したわね、変身なしで。」
吹雪の「ふふふ」という笑みがいつにも増して凄みを感じた2人は
「が、頑張ります…」
以外口にできなかった。
「ほら!もっと早く走らんかい!」
「はひっ…は、はい…」
「仁菜!もっと力入れて殴らんかい!いくら妹でもそんな弱々パンチは認めんで!」
「はぁはぁ…あぅ…えいっ!」
ぺちん。
「仁菜!ダッシュ!」
「ひゃい…」
鬼教官と化した詩依は愛と仁菜に指導をする。
「あっちは大変そうね。それにしてもすごいわね、3回目でクリアなんて。」
坐禅を組んでいた凛は吹雪の言葉に返答する。
「吹雪さんが心って言ってきたので。それに走るのは私嫌じゃないですし。」
「ふふ、そうね、それと私の言葉聞こえていたから集中が足りないわね。」
「あっ!」
凛は再び眉間に皺を寄せ、集中し始める。
「ほれ!力入れぇや!2人とも腕立て50回!」
「そ、そんなぁ〜!」
「ひ、ひぃ〜!」
いつまでも2人の悲鳴は続いた。
ーーーーーーーーーー
愛と仁菜はそれぞれ67回目、72回目で達成した。
「つ、疲れたぁ…もう動けない…」
「わ、私も無理です…」
倒れ込む2人に詩依は笑顔で労いの言葉をかける。
「お疲れ様、2人とも、よー最後まで頑張ったわ。吹雪たちが夕食作ってくれとるで。」
愛は鼻をピクピクとさせて嗅ぐと肉の焼ける香ばしい匂いが漂う。
「お肉だぁー!仁菜ちゃん行こう!」
仁菜に手を差し伸べ、2人は匂いの元へと勢いよく駆けていく。
「いや、2人とも元気なんかい。」
詩依はドッと疲れを感じた。
「美味しいねぇ仁菜ちゃん…」
「はい…私たちこのお肉を噛み締めるために頑張ってきたんですね…」
2人は泣きながら食べる。
「2人とも大袈裟よ。疲れてるだろうから焼くのは私たちに任せてしっかり食べてちょうだい。」
「吹雪さん天使…」
愛と仁菜は輝く目で吹雪を見つめる。
「詩依も疲れただろうからしっかり食べてね。」
「ありがとな、吹雪」
詩依を凛はじっと見つめる。
「なんや、うちに女に見つめられる趣味ないで?」
視線に気づかれ、凛は思っていたことを尋ねる。
「いや、『おおきに』じゃないんだなって」
凛の質問に深くため息を吐き、返答する。
「うちは生まれ育ちもあんたらと同じここやで?」
「確かに、初めて詩依と会った時は標準語だったわね。」
吹雪が「うーん」と昔を思い出そうとする。
詩依はふふんと得意げになりながら
「関西弁の方が威圧的やろ!」
と答えるも、吹雪は思い出した。
「そう、詩依ったらある日突然お笑いにハマって、それから関西弁になったわね。」
「ちょ、ちょっと吹雪!」
「あ、そうです!何度もお笑い番組見てて。お姉ちゃん修学旅行で関西に行って、帰ってきた時の一言目が『本場やった』でしたから…」
「こ、こらー!仁菜!それは言うたらあかんやろ!」
クスクスと笑う仁菜に詩依は顔を赤くする。
夕食を終え、外も暗くなり、手持ち花火を始める。
詩依と愛は手持ち花火を振り回したがそれぞれ吹雪と凛に怒られた。
最後になり線香花火を始めた。
愛のしゃがんでる横に凛も並ぶ。
「花火、綺麗だね!凛ちゃん!」
「そうね、子供会とかでもよく花火大会したけどいくつになっても花火っていいわね。」
「だねだね!いつまでも花火しようね!」
少しの沈黙の後、凛は愛に尋ねた。
「…ねぇ、愛。愛は魔法少女になれてよかった?」
愛は即答した。
「もちろん!私の夢は魔法少女だったし、魔法少女になれるだなんて今でも夢のようだよ!」
「じゃあ自分自身が犠牲になっても?」
凛は愛の方を向くも、愛は変わらず線香花火を見続け、質問について少しだけ考えていたが、迷わず答えた。
「私は怪物からみんなを救いたい。そのためならなんだって犠牲にできるよ!」
「そっか…」
凛は強く弾ける線香花火に再び視線を落とした。
「だから!凛ちゃんは腕が治るまで無理しないで!」
「え、愛気づいてたの…」
「部活の走る時とか普段の様子とか!全部知ってるんだからすぐに気づくよ!私は凛ちゃんを守る!凛ちゃんはかけがえのない親友だから!」
「親友…」
凛の目頭が熱くなっていった。
「そう!ズッ友だよ!」
愛の言葉に思わず凛は吹き出した。
「何それ、古くない?」
「いいじゃん!小学生の頃言い合ったじゃん!」
愛と凛は純粋な笑みを浮かべあった。
ーーーーーーーーー
吹雪は夜風に当たるため川辺に出ていた。
「詩依、どうしたの?寝れないの?」
詩依は「バレたかぁ〜」と頭を掻きながらそばに座る。
「なんだか違和感を感じてな。」
「私もだわ。ハッキリと分からないけどなんだかおかしい気がするの。」
「…うちらは本当に『ヒーロー』なんか?うちらは施設の…」
「駒なのは今に始まったことじゃないわ。」
吹雪は川に向かって石を投げた。水面を勢いよく飛び跳ね、川の中間に達すると石が沈んでいく。
「使い捨ての駒だとしても構わないわ。施設が何を考え、何をしたいのか。秘密があっても今尋ねても答えてはくれないだろうから。私たちで真実を探るのよ。」
吹雪の力強い目力に詩依は頷いた。
「うちらは駒で終わらん。陰謀があるなら突き止めな。」
そうして合宿は終わり、それと同時に
物語は終末に向っていくのであった。
貴重なお時間で見ていただきありがとうございます。
誤字脱字やコメントなどいつでもおまちしております!
物語はまもなく佳境に入っていきます。これ以上暗い話が苦手な方や心が非常に繊細な方はご注意ください!この先も見てくださる方、よければ最後までお付き合いお願いいたします。