第7話 勝負は真剣に!
私は負けない。この足で最後まで駆け抜ける。
風を私の味方につける。
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とある放課後
「じゃあ、愛、部活行ってくるね」
「いってらっしゃい!ここから見てるね〜!」
愛は部活に向かう凛に手を振る。
教室の窓からグランドを覗いていると吹雪がクラスに入ってくる。
「あら1人?」
「吹雪さん!凛ちゃんは部活に行ったよー!」
吹雪も窓からグラウンドを覗く。
「こんな暑い中ご苦労様ね。」
「凛ちゃんは頑張り屋さんですし、何よりもうすぐ県大会があるんですよ!」
あ、そういえばと吹雪は思い出す。
「学校の垂れ幕に凛ちゃんの成績が書いてたわね。彼女すごい実力なのね。魔法少女になってからも速さは誰よりピカイチね。」
吹雪の言葉に愛はえっへんと腕を組んで鼻を高くする。
「何せ凛ちゃんの将来の夢は陸上選手ですから!2年生の今でさえ、スカウトがありとあらゆるところから!」
「それにしては大学すごい悩んでたような…」
「そりゃスカウト先がたくさんあったら悩みます!」
愛は自分のことのようにフンフンと鼻息を荒くする。
吹雪はふふっと笑うも違和感は拭い切れなかった。
「あなたも進学真面目に考えないとね。」
「それは言わない約束ですよぉ〜。ところで吹雪さんはどこに進学するんですか?外国ですか?」
愛はいたたまれない気持ちになり話題を変えるも、吹雪は顔を曇らせる。
「外国ね。実はまだ悩んでるの。もう夏休み来るのにね。私があなたに進学どうの言えないわね。」
「それは…」
吹雪は一度深呼吸すると
「行きたいと思うところはたくさんあるわ。でも私は魔法少女。勝手に好きなところにはいけないわ。それが施設の掟。」
愛の不安そうな顔を見てニコッと笑いかけた。
「でも私たちはそれを知ってて施設に所属して、魔法少女をしてるんです。」
愛はなるほどと思うと同時に、もし、凛ちゃんが施設に所属してしまったら彼女の夢は…
「ああ、大丈夫よ、施設に無理やり属さなくても。あなた達は特別なのよ。」
愛はホッと胸を撫で下ろした。
ピーっ!
外から笛の音が聞こえる。
再度覗くと凛が走っていた。
風を切り、同時に走り出したであろう生徒をぐんぐん置いていく、そしてそのまま一位で着く。
「ん〜っ!凛ちゃん今日もかっこいい!」
愛が興奮していると凛がこちらに向いてウインクをしてきた。
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凛の部活終わりに愛と吹雪は校門で待っていた。
「2人ともごめんなさい、お待たせしました。」
制服に着替えた凛がやや小走りにやってくる。
「凛ちゃ〜ん!お疲れ様!今日もかっこよかったね!」
「すごかったわね、群を抜いて速かったわね。」
凛は少し照れくさそうに顎を掻いた。
「ちょっと恥ずかしいわね。でもコンディションは整ってるとは思う、土曜に県大会があるしね」
愛は顎が外れそうなほど驚いた。
「今週だったの…」
「前々から愛には伝えていたけど。」
愛は項垂れるもすぐに姿勢をビシッと正し、
「凛ちゃんの応援に行くぞー!」
と拳を天に掲げる。
「ふーん、今週の土曜なんやなぁ〜」
後ろを振り返ると秋定姉妹がいた。
「うちも応援に行きましょうかね〜、無様な姿でも見に行きましょうかね〜」
ハハっとしえに笑う。
凛は眉を顰め、
「どんだけお暇なんでしょうかね〜」
と言い返し、2人の視線により火花が散る、ように見える。
「お友達の応援は楽しそうです!ね、お姉ちゃん!」
仁菜はキラキラした瞳でしえを見つめ、しえは楽しみにする仁菜の肩を抱き、嬉しそうに帰っていく。
「詩依がごめんなさいね…邪魔そうならやめさせるけど…」
ため息をつく吹雪に凛は大丈夫と返す。
「負ける気はさらさらないんで、むしろ土曜に私の実力を見せつけます!」
ファイティングポーズを取り、その勢いのまま走り出してしまった。
「あら…」
「凛ちゃんは熱い女ですよ!」
愛の返答を聞き、吹雪は納得した。
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週末
愛達は凛の試合を見に県内グラウンドに向かった。
「ごっつい人やなぁ〜。」
「ひぃ…こんなに人がいたら怖くて…体がカチカチに…」
「ふふふ、私たちは応援だから大丈夫よ」
4人は応援席に着く。
「皆、顔が引き締まっていますし体の筋肉のつきもいいわね…」
「ほんまやな、あの子なんかも相当鍛えとるな。さすが県のトップを決める大会やなぁ。」
2人は次々とグラウンドに集合する選手を舐めるように見つめ、ブツブツと評価している。
試合用のユニフォームを身につけた凛がグランドに上がってくる。
「凛ちゃーーーーん!」
愛はどこから取り出したのかメガホンを持って応援している。反対の手には『凛1番』との文字が書かれている団扇を持っていた。
ウォーミングアップは済んでいるようだ。
「予選だけど緊張しますね…」
「凛ちゃーん!頑張ってー!」
声援が聞こえたのか、凛はこちらに顔を一瞬向けた。表情はやや硬い。
選手達はそれぞれのレーンに着き、体を屈める。
ー位置について、ヨーイ…パン!
ピストルの音と同時に選手は一斉に走る。
凛は…先頭だった。
そのまま先頭をキープし、余裕の一位でゴールする。
「100mってやっぱ短いなぁ、あっちゅーまに終わるやんか。」
「その短距離でいかに力をコントロールするか…そして何度も繰り返し走るんだからすごいことよ。」
そのまま二次も余裕で突破。次勝てば決勝に進めるまで勝ち進んできた。
「まあ凛ちゃんなら余裕っしょ!」
3次、スタートがやや出遅れるもなんとか2位キープし決勝へ進出決定する。
「こ、こっちがハラハラしちゃいます…」
「凛ちゃんも緊張してる…私がほぐさなきゃ!!」
立ち上がった愛を詩依が止まる
「あんたは何をする気なんや!席で応援しぃや!」
ーーー
…本気で走ってないにしろ、油断しすぎちゃった。
次はいよいよ決勝。勝って夏の全国大会に出場しなきゃ。
友人の応援に一切プレッシャーになっていない訳ではないが、応援してくれることで力が湧いてくる。
レーンにつく。今日最後の走りだ。
隣には前回県内2位の少女。
…今回も負けない。
ー位置について
体に緊張が走る。だがこの緊張すら楽しんでいた。
ーよーい、パン!
前に踏み込んだその瞬間、
ーウウウウウウウウゥゥゥゥン
グラウンドの警報が鳴り響いた。
選手は皆足を止め、観客も音に驚き周りを見渡している。
遠くから悲鳴や金属のような音、木の薙ぎ倒される音が聞こえ、次の瞬間、ステージの反対側が崩れ落ちる。
ーご来場の皆様、今すぐグラウンドシェルターに避難を!繰り返します、今すぐ…
避難放送と同時に人々は悲鳴をあげながら一斉にシェルターに向かって走る。
「〜っっ!大事な試合で気合い入れていたのに!!許さない!」
「凛ちゃん!」
凛は観客席の愛からへストーンを受け取り、凛は変身した。
怪物の姿が見えた途端、鎖が伸びてきた。
鎖に気づくも凛の左上腕を掠め、血が溢れた。
血は止まらない。止血していると他4人の魔法少女が助太刀に入る。
「凛ちゃん大丈夫?!」
「ええ、掠っただけよ。それより気をつけて、鎖の長さは無限大みたいよ。」
鎖を体に巻きつけた怪物がやってくる。
ーグオオオオオ…
「鎖に注意しながら近づくしかないわね。」
吹雪はステッキで鎖を弾き、詩依は扇子で鎖を塞ぎながら前へ進む。
しかし、鎖がうねり、2人の武器に鎖が巻きつく。
「こいつ、直線にだけやなく鎖を自在に操れるんか?!」
「そ、それなら切り刻みます!」
仁菜が2人の武器に巻きつく鎖をバラバラに切り裂く。
「サンキューな!仁菜!」
「このまま…あひゃぁー!」
仁菜の足に鎖が巻きつき顔面からこけてしまう。
「仁菜ちゃん!」
凛は左手でピストルを取り出し、砂を弾に変えるも弾は小さく鎖に弾かれる。
「変えた物の大きさにも弾は影響するのね。」
鎖が凛を襲うも愛が大鎌で鎖を刻む。
「凛ちゃん!血は!」
「だいぶ落ち着いたけどまだみたい…痛みは大丈夫よ。」
「私が前進する!」
愛が大鎌を振るいながら突き進むも鎌に鎖が巻きつく。
「このやろぉー!きゃー!」
手にも巻きつきそのまま鎌は空に浮く。
「切っても無限に出てきますぅ〜」
泣きそうになりながらも仁菜は鎖をなんとか切り刻む。
「いえ、十分よ!」
近づいた吹雪が一撃を入れようとするも、鎖がメリメリと地面を破って出てくる。
「マジかいな。」
2人も鎖に手足を取られる。
「お、お姉ちゃ…きゃっ」
姉に気を取られ仁菜も宙に浮く。
「私がやらなきゃ…」
凛はストーンからマシンガンを取り出すも、身近に弾の原料がない。
「砂以外は…」
そうだと凛は閃いた。
自分の溢れて止まらない血に力を込めた。
血がみるみると弾に変わっていく。
ストーンが紫に光り輝く。
「これなら!」
鎖は立ち上がれない凛を狙うも凛は冷静に怪物に照準を合わせ地面に体を固定する。
「貫け!ブラッドマシンガン!」
次々と飛び出す血の弾は鎖に触れるもそのまま鎖をバラバラにし、スピードを落とすことなく怪物を貫いた。
怪物は悲鳴と共に崩れ去った。
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「鎖…」
「吹雪、どないしたんや?勝ったのに浮かない顔して。」
「詩依…鎖、懐かしいなって。私達の先輩が使っていた武器だから…」
「あぁ、せやったな。うちらをビシバシ鍛えてくれたな。」
「使い方も…なんだか…」
先輩に詩依はもちろん、吹雪はすごく懐いていたのだ。
吹雪の肩を抱き寄せた。
「また墓参り行かな。」
「ええ、そうね。」
2人はみんなの元へ歩き始めた。
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試合は結局翌週になり、凛は颯爽と駆けて無事1位となった。
「おめでとう、凛ちゃんーー!うわーーん!」
「ありがとう、みんな。日本一を次こそは勝ち取ってくる!愛、夢のために頑張るね。」
愛はうん!と頷いた。
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「ただいまー!お母さん聞いて聞いて!凛ちゃんが…」
そこで言葉を止めた。普段ならおかえりと迎え入れてくれるのに声がかからなかった。
何よりこの時間は夕ご飯の美味しそうな匂いがするはず。
「お母さん?」
キッチンを覗くと母親が倒れていた。
急いで駆け寄る。血は流れておらず、脈も呼吸もある。意識を失っているようだ。
「はっ!そうだ…救急車」
一瞬立ち止まるもあたふたとカバンから携帯を探す。呼ぼうとしていると
「愛?」と声がかかる。
振り返るとなんとか母が目を開けている。
「ごめんね、一瞬真っ暗になってしまって。ここのところ忙しかったからかしら。」
気苦労などが溜まっていたのだろう。愛は魔法少女となり自分のことで精一杯になってしまっていた。
愛は胸騒ぎを抑え母を強く抱きしめた。
「お母さん、ごめんなさい、私自分のことばっかりでお母さんを…」
涙で続きを言えない愛を抱きしめ返す。
「もう、高校生なのに、この子ったら。」
母はそう言うと愛も強く抱きしめ返した。
「愛は私の可愛い娘よ。そのためならなんだってしちゃうしなんだって犠牲にできるわ。だからあなたは気にせずあなたのしたいことをしなさい、あなたの周りにはいいお友達がたくさんいるからあなたを絶対支えてくれるわ。愛は人のために頑張れる子だからきっと大丈夫。一生懸命なあなたが、お母さんは大好きなのよ。」
泣く愛を母は愛が落ち着くまで抱きしめ続けた。
貴重なお時間で見てくださりありがとうございます!
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もうすぐ1歳になる猫を飼っていますが、犬のように部屋の中を走り回るので本当に猫か不思議に思ってます、猫にもいろんな性格の子がいるんですね…