第5話 お姉ちゃんは負けられない!
ーグオオオオオオオ!
三つ首の怪物は轟く。
そんな怪物を前に詩依は構える。
「あの時と同じやけど…今回違うことがある。
それは、大切な人を守りたいという気持ちや。」
胸元に握り拳をビシッと当てる。
「眠れる獅子を起こしたあんたらの運の尽きや。」
胸元のチャームが強く光を放つ。
出現したのは顔を二回りほど覆えるような大きな扇子であった。
詩依はニヤッと笑い、武器を見つめる。
「うちによー似合うお上品な武器やないか」
そう言い放つと背中越しに仁菜に告げる。
「仁菜、そこにおりーや!うちが守ったる!」
両端の怪物の首が詩依に襲いかかる。
間一髪のところで地面を蹴り空に舞う。
飛び上がった先に向け、真ん中の怪物が咆哮を放つ。
詩依はニヤッと口角を上げると、扇子で咆哮を跳ね返し怪物に直撃する。
「これでもうちは魔法少女候補者だったんやで。」
扇子を思い切り投げる。怪物の左前足に当たるとブーメランの要領で地面着地と同時に手元に戻ってくる。
怪物はバランスを崩す。痛みのためかグオオオと啼く。
三つ首は力を溜める。
「なんやまた咆哮か?ワンパターンやな、いくらでも跳ね返したるわ!」
詩依は扇子を身構えるも、咆哮の軌道の先には仁菜がいた。
咆哮は仁菜を狙っていたのだ。
「きゃっ!」
「あかん!危ない!」
間一髪のところで仁菜を扇子で守るも咆哮は続く。
「お、お姉ちゃん…」
「なに妹狙ってんねん!卑怯なやっちゃ。今度はこっちの番やで。お姉ちゃん怒らせたらどうなるか教えたるわ!」
咆哮を受け切り、仁菜に離れるよう告げる。
詩依は腕を伸ばし、その場で回り始める。
「うりゃーーー!」
回転はどんどん早くなり風が集まる。
3つ首の怪物は風に危機感を覚えたのか、止めるために同時に詩依襲い掛かろうとする。
「遅いわ!」
風はどんどん縦に伸び、胸元のチャームが強く輝く。
その勢いを殺さぬよう怪物に向けて放つ。
「怒濤疾風斬撃!」
怪物は巨大台風に体を呑まれ吹き飛ばされる。
グオオオオオオオ!
そしてそのまま消滅した。
「お姉ちゃん!!」
仁菜は詩依に駆け寄り抱きつく。そしてわんわんと泣き始めた。
「お姉ちゃんのバカぁ〜」
「仁菜は泣き虫さんやなぁ〜…仁菜が無事でよかったわ。」
詩依は優しく頭を撫でる。
その後足音がバタバタと聞こえる。
「今の風は?!」
「え!あれって!」
米川、愛、凛が2人の元に駆け寄ってくる。
「変身…できたんですか?」
愛と凛の驚きに対して
「なんやなんや?うちはやればできる子なんや!」
ふふんと偉そうに鼻を伸ばす。
凛はその様子をジロッと見つめる。
米川は詩依に近づく。
「吹雪…」
「ふふ…信じていたわ」
詩依はその言葉にニヤッと笑い、吹雪とハイタッチした。
ーーーーーーーーーー
次の日の放課後、愛の教室で魔法少女4人、仁菜の5人が集まった。
丸くなるように5人それぞれ椅子に座る。
「それにしても戦ってるところ見たかったです。」
「あんたらがはよきたら戦わないで済んだんやけどな〜」
ジロッと凛を見ると、凛は両手を握りしめ立ちあがろうとする。
愛と吹雪はそれぞれを慰める。
「お姉ちゃんの戦ってる姿すごくすごくかっこよかったです!」
仁菜が興奮気味に言うと詩依は満面の笑みになる。
「ま!うちの活躍はこれからもあるわけやし、次回に期待しときや!」
机の上の足を組み替える。
「でも、どうして魔法少女に?先輩って…」
「先輩ってやめてぇなぁ〜」
愛にそう返すと
「知ってる思うけど、うちはあの日戦闘から逃げ出してもうた。あんなに憧れてたのにな、自分の命が大事だったんや。でも、魔法少女を諦めきれんかった。部分変身ができたから、うちは所長に直談判し、民間人の避難を手伝う代わりにストーンを持ち続けたんや。」
そして天井を見つめる。
「でもまさか、部分変身しかできへんかったうちが、全身変身できる思わんかったわ。」
愛が恐る恐る手を挙げる。
「あの〜、部分変身ってなんですか?」
詩依は目を丸くし、愛を見つめる。
「あんた施設出身ちゃうんか?!そもそもどうやってストーンを手に入れたんや…」
その問いに対して愛は元気よく
「白猫です!」と言う。
詩依と吹雪は顔を見合わせて首を捻る。
「あの…その白猫ちゃんは今どこにいるんですか?」
仁菜の質問に愛は頭を悩ませる。あの日教室で再会して以降会っていなかったことすら忘れていたのだ。
窓から透き通った声で解答が返ってきた。
「やれやれ、僕はここだよ」
体全体が僅かだが白く光を放ち、赤眼がキラキラと輝いている。
白猫は近くの机に飛び移ると、ピョンピョンとリズミカルに教卓へ移る。
「白猫!この子だよ!探してたよ!!」
「僕は白猫じゃない、ミュータだ。」
二又に分かれた尻尾が揺れる。
「僕は研究所から魔法少女たちのフォローするように言いつけられているのさ」
吹雪はミュータに尋ねる。
「ミュータさん、私たちはずっと研究所に居ましたがお会いしたことも話を聞いたこともありませんが…」
ミュータは吹雪と詩依を見つめ、
「僕はこの間まで違う魔法少女の部隊に居たんだ。そして今回、この街の魔法少女を援護するように指令を受けたんだ。」
凛は眉をひそめミュータに尋ねる。
「こっちに来たって言うことは前の部隊は…」
ミュータは表情を変えずに淡々と答える。
「死んだよ」
5人は声が出なかった。
「ああ、言い方が悪かったね、もちろん生きているものもいるさ。でも、戦闘ができなくなってしまってね。そして今、怪物がこの街にやってきている。」
1番に口を開いたのは吹雪だった。
「なるほど…ここ最近怪物が多いのは、魔法少女がいなくなってこっちに流れてきてるのね。」
ミュータは首を縦に振る。ミュータは見渡し吹雪に尋ねる。
「もう1人の魔法少女はどこだい?」
「もしかして…応援に来るって言う子のことかしら?」
「なんかうちも研究所から聞いたけど。せやからてっきりあんたらのことかと思ったったわ。」
詩依は愛と凛を指差す。
「彼女たちは違うよ、僕が個別に力を与えたんだ。彼女たちは他と違うと思ったから。」
ふと仁菜を見つめ、白猫は首を捻る。
「君は魔法少女じゃないね。」
そう言うと白猫は透明なチャームを取り出した。
「これは君にあげるよ」
「へぇ?!」
仁菜に差し出した。
詩依はその様子を見て立ち上がる。
「うちの妹に変なもん渡すなや!それに仁菜は戦いに参加せーへんからそんなもん必要ないわ!うちが妹を守ったる!」
仁菜は「お姉ちゃん…」と顔を僅かに曇らせる。
「魔法少女とずっといるなら持っている方がいい。これは変身だけじゃない、わずかに防御もしてくれるのさ。君たちなら知ってるだろ?そもそもストーンに選ばれし者しか変身はできないんだから。」
ミュータの言葉に詩依は唸るも吹雪は納得した。
「も、持ってるだけなら…」
仁菜は不安そうな顔のまま恐る恐る受けとる。
そんな仁菜をミュータはまっすぐ見つめ告げた。
「大丈夫、君は僕と一緒さ」
「え?それって…」
その後ミュータは何も言わず窓から飛び降りる。
「私が白猫ちゃんと一緒?」
仁菜は考えるも白猫の発言の意味は理解できなかった。
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