第4話 立ち向かう勇気!
ー7年前
「うぉりゃー!」
「一本!!」
相手の頭を竹刀で打ち付け華麗な一本を決める。
試合終了後、闘技場から出ると様々な人が詩依を祝う。
「ありがとなー」皆に笑顔を振り撒き進んでいく。
そしてその人混みから相棒を見つける。
「お疲れ様」
「よっ!吹雪!見てた?1位やで!うちめっちゃかっこいいっしょ!」
吹雪は共に歩き出す。
「ほんとね」と吹雪はふふっと笑う。
その反応に対し詩依はむすっとする。
「なんで今回出場せんかったんや。あんたがおらんからつまらなさすぎたわ。」
「中学受験よ。父親が厳しいから。」
吹雪は頬に手を当てため息をつく。
「だけど詩依とはいつまでもライバルだし、仲間だから」
その言葉を聞き、詩依はニヤッと笑い吹雪の頭を撫でる。
「また試合しよな!負けへんから!」
「ふふふ、125勝109敗だけどね」
「キィー!なんなら今から勝負しよや!なんで勝負しよか!せや、今から戻って剣道で真の勝者を決めようや!」
話していると後ろからスーツ姿の男性が2人に声をかける。
「吹雪くん、詩依くん、来てくれるかね。」
2人の表情から笑顔が消える。
そのまま黙ってスーツ姿の男について行く。
ーーーーーーーーーー
とある施設の最上階、1番奥の部屋の扉をノックし中に入る。
スーツ姿の男性がお辞儀をし、「連れて参りました」と伝える。2人もお辞儀をする。
椅子が回るとメガネをかけた強面の男性が座っていた。
「待ってたよ。」
と腹の底に響く低い声で話しかけてくる。
しかし2人は動じない。この人がこのグラスター施設の所長であり、自分の上司であると知っているから。
2人は俯いたまま足元に跪く。
所長は2人の元まで歩き始める。
「君たちは勉学、武術共に優秀である。そして君たちはこの春から中学生になる。
そこで、君たち2人に魔法少女になる権利を与えようと思う。」
詩依はハッと顔を上げる。
この施設の子ども達は魔法少女になるべく勉学や武術に励み、一流の魔法少女を目指す。
しかし、皆がなれるわけではない。
詩依や吹雪にとっても非常に名誉なことであった。
所長が男に合図すると男は何やらスイッチを押す。
扉から小型のロボットが流れるように入ってくると、ロボットが2人の間に止まり、プシューと煙と共に2つの石が現れる。
「このストーンに想いを込めると、選ばれしものは魔法少女に変身できる、次怪物が現れた時、2人とも変身しろ。」
「「はっ。」」
2人はストーンを受け取る。
詩依の瞳はキラキラと輝いた。
退室後、詩依はウキウキとした声で吹雪に話しかける。
「次、いよいようちらのデビューやな!1発かましたるで!」
詩依は浮き足たっている。
当然詩依も魔法少女になりたがっていた1人の少女であったから。
そのための辛い訓練や試練を乗り越えてきたのだから。
吹雪は心配そうにストーンを見つめる。
「何暗い顔してるんや、吹雪!うちらなら大丈夫やって!なんたって現最強小学生なんやから!」
吹雪の肩をバシバシと叩く。
そして、震えているのがわかった。
「吹雪…」
その先は口をつぐんだ。
魔法少女に変身するということは怪物と闘うということであり、最前線に立つということ。時に魔法少女は死をも覚悟しなくてはならないのだから。
ーーーーーーーーーー
「お姉ちゃん美味しいね!」
仁菜の言葉でハッとする。
なんでこんな時に昔を思い出したのだろうか。頑張っていた全てが無駄になってしまったあの時を。
「お姉ちゃん?」
「あー、すまんすまん!クレープって甘いんやなーって思って!」
最近オープンしたクレープ屋に来ていた。
仁菜は甘党で、奢ってもらえたクレープを美味しそうに大きな口で頬張る。
「せやけど最近はおかず系のクレープっちゅうのがあるんやな〜」
詩依はツナマヨレタスを口に入れる。軽食の感覚で食べれるなと関心していた。
「それにしても最近は怪物の発生率が高いね。」
仁菜はそれとなく詩依に尋ねる。
「せやなぁ。まあうちにはなんもできんけど!」
から元気に答えるが仁菜はなんだか表情が暗くなる。無理もないか、妹は全部知ってるんだから。
「まあまあ!はよ食べて帰ろか!今日の晩御飯はハンバーグにしよかなぁー」
「ハンバーグ?!」
今晩のメニューを聞き、仁菜の表情はパァーッと明るくなる。
仁菜の表情はコロコロ変わるから面白いなと思いクスクスと笑う。
その時、けたたましい警報が鳴る。
「お、お姉ちゃん!」
「マジかいな。急いで逃げな!」
2人で近くのシェルターに急ぐ。
怪物が近くにいるのか何かが崩れる音がする。
他の人も慌ただしく逃げる。
その途中で女の子が泣いていた。
「なんやなんや!」
詩依は迷わずその子に近寄る。
「どないしたんや?」
女の子は泣きながら「お母さんがぁ」と泣く。
少女の指差す方角を見ると母親と思われる女性が瓦礫の下敷きになっていた。
「あー、もうしゃーないなぁ!」
制服の下の首にぶら下げてあった黄緑色のストーンを握りしめる。
ストーンは黄緑色に光るも光は弱々しく詩依の四肢を包むのみ。
「…お姉さんは魔法少女?」
「んー、どうなんやろなぁー。」
少女の呟きに淡白に返す。
「どっこいせぇー!」
瓦礫を容易く退ける。
すると母親はなんとか起き上がり、女の子は駆け寄る。詩依に感謝すると彼女達はそそくさと逃げる。
グーパー動かす手を見つめて、
「はぁ、やっぱダメやな。」と、
詩依はため息を吐く。
「お姉ちゃん!危ない!」
仁菜の声にハッとしたのも束の間、仁菜が詩依の前に立っており、そのまま仁菜が吹っ飛ばされる。
振り返ると怪物がすぐそばまで近づいていた。
「にーな!!」
仁菜はぴくりと動くが声や起き上がりは見られない。
「このやろぉー!」
詩依は殴りかかるも怪物へのダメージは少ないのか怯むのみ。
「仁菜!逃げろ!」
呼びかけるも仁菜は起き上がるだけで精一杯の様子。
なんとか怪物を退け、仁菜に駆け寄り声をかける。
「お、お姉ちゃん…ごめんね…私のことはいいから…早く逃げて…」
「そんなことできるか!あんたはうちの…たった1人の妹や!!」
怪物は仁菜と詩依を狙う。ストーンの力でなんとかシールドを展開し、乱撃を受け止める。
「はよ来いや、なんしとんねん魔法少女は!」
可能な限り力を込めるも怪物は激しく攻撃を続ける。乱撃により徐々に、ヒビが入っていくのがわかる。背中には一筋の冷や汗が流れた。
「あ、これあかんかも」
その瞬間、シールドは粉々に割れ、詩依は吹き飛ばされる。
「お姉ちゃぁぁぁん!」
…あかんわこれ、肋骨折れとる痛みやわ
冷静にそんなことを考えていた。全身に痛みが走る。
うちは死ぬんか?あーでも、あの日逃げ出したうちにはこんな死が相応しいかもな
自嘲気味に笑う。
あの日もこんなだったな、うちは変わらんな
次の瞬間意識を失った。
ーーーーーーーーーー
警報がけたたましく鳴る。運命の日。
吹雪と詩依の初陣。
先輩魔法少女に同伴し怪物の元へ急ぐ。
怪物の位置が把握できないため、皆バラバラになり、見つけ次第他魔法少女と連絡し攻撃開始と命令を受ける。
「こっちや!」
詩依はいつもの勘でいち早く辿り着く。
初陣で成果を出したい。
何より、ライバルである吹雪に勝ちたい。
詩依は命に反して変身するためにストーンを握りしめる。
が、それより早く怪物が詩依に近づき詩依を激しく突き飛ばす。
「ガハッ」
体が壁に打ちつけられる。
ーっ痛い痛い痛い。
デカくて不気味な怪物に突き飛ばされた。
戦わなきゃと分かっているが今の痛みにより体が震えてストーンが手から零れ落ちそうになる。
「ああ!」
なんとかストーンはキャッチするも今度は怪物に蹴り飛ばされる。
殺されてしまう。これが戦闘。
痛みで動きが鈍い。変身しなきゃ。
ストーンに力を込めた。
ストーンが黄緑に輝き、体を包む、が、両手両足のみしか変身できず。
「なんでや、これは部分変身やないか!これじゃやられてしまう!」
詩依はパニックになる。
怪物が再度攻撃を仕掛けたため、咄嗟に頭を抱えた。
瞬間、「詩依!」と聞き覚えのある声と共に、怪物が後ろに吹っ飛ぶ。
真横には赤い棒が伸びていた。
「大丈夫?!詩依!ここは任せて!」
吹雪は赤の衣を身に纏い対抗、いや、圧倒していた。
詩依は気づいてしまった。自分は吹雪と並んでいたんじゃない、吹雪が足並みを揃えていてくれてただけと。
格の違いに気づいてしまったのだった。
ーーーーーーーーーー
たった数秒の気絶であっただろう。
あーもう、今日は嫌なことばっか思い出すわ。
状況を知るため顔を上げると、目の前に仁菜がいた。弱虫で怖がりで痛いことなんて大っ嫌いの最愛の妹。なのに彼女は震える両足でなんとか立ち上がり、姉を庇っていた。
「仁菜?」
ストーンの加護もなく怪物に吹き飛ばされた仁菜は泣きながら、逃げ出さず姉を庇う。
詩依理解ができなかった。
「何してんねん、はよ、逃げ…」
「お姉ちゃんをこれ以上傷つけないでぇ!」
怪物が仁菜の叫びにより仁菜に狙いを定める。
怪物の中心に青黒いオーラが集まる。
「仁菜!ダメや!うちはええから!はよ!」
「お姉ちゃんを置いて逃げるものか!私はお姉ちゃんと一緒なんだから!」
詩依は目を丸くした。体の底から何かが渦巻いていく感覚がした。
「うちはええねん!まだストーンの力がある!あんたは早よ逃げ!」
「良くない!大好きなお姉ちゃんを置いていけるもんか!」
詩依の熱い塊が弾けた。
「うちの…仁菜を…これ以上傷つけるのはお姉ちゃんが許さんでぇ!」
叫んだ瞬間、再度ストーンが輝いた。真黄緑に眩しく輝く。そして体全体を包み込んだ。
「お、お姉ちゃん?」
怪物も光に驚いたのか動作をやめてしまった。
「うちは誰にも負けへん。最愛の妹を守るために!二度と傷つけへん!」
光が消え、全身変身した詩依が怪物を睨みつけ立ち上がった。
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姉妹の愛はいつだって美しいですね…。