第1話 魔法少女になる!
「夢は魔法少女!」高校生の時畑愛の幼い時からの口癖であった。ある日怪物が目の前に現れ夢の魔法少女になるが…。魔法少女達の残酷な戦いが始まる。
51xx年
ある日突然、巨大な隕石が降ってきた。
周囲を破壊したその隕石は、除去される予定であったが、墜落してもなお、不思議なオーラを放出し綺麗に輝く隕石に世界各地の多くの学者が集まり、研究され続けた。
そんなある日、怪物が出現し街や人々を襲い始めた。
どんな兵器でも倒せない怪物を唯一倒すことができたのは隕石から作られた"ストーン"と呼ばれる石の力を授かった幼き少女達だけであり、のちに魔法少女と呼ばれるようになった。
これはそんな魔法少女が世界を救う物語である。
――――――――――
キーンコーンカーンコーン
就業のチャイムが鳴り響く。
生徒はそれぞれ部活に行ったり帰路につく者もいる。
普段は教室で下校時刻まで駄弁るものもいるが、今日は誰も2年3組の教室には残ろうとしなかった。
なぜなら人生の大きな分岐である進路調査票未提出者のみ居残りするよう教師から指導があったからだ。
2年にもなれば進路を決めている者が多いためか、ほとんど残っていなかった。1人、2人と生徒は教室から出て行く。
だか、やや頭の高い位置に2つのお団子ヘアの茶髪の少女は、時間は経てど微動だにしなかった。
ガラガラと教室の後ろの扉が開く。
「愛、部活終わったのにまだいるの?今日は早く帰るって言ってたのに。」
練習着を纏ったポニーテールの少女は机に突っ伏している少女に語りかける。
「あーん凛ちゃーーん!部活お疲れ!窓から覗いてたよ!今日もめちゃくちゃ速かったね!ドキドキした!」
愛と声をかけられた少女はすぐさま顔をあげ、元気な声でそう伝える。
「ほんと?ありがとう、これでもまだまだフォームが乱れてるから…って!その机の上にある紙!」
凛は愛の手元で隠れてる用紙を指差す。
「そーだよー!進路調査票!一度出したんだけど再提出くらったってわけさ!私の夢なのにいちゃもんつけるんだもーん。」
そういうと愛は口を尖らせる。
凛は近づき愛の前の席に座る。
「ふーん、まあ進路って悩むよね。でもそんな難しくないでしょ、おおよそでいいって言われたし…って、あんたなんて書いたの。嫌な予感しかしない。」
凛は顔を曇らせると、愛は反対に目を輝かせ勢いよく立ち上がる。
「私の夢は魔法少女になること!そして地球のみんなを守るのさ!」
進路調査票と書かれた用紙を高らかに掲げる。
その第一希望には大きく四字熟語のように魔法少女とのみ記載してある。
「昔から言ってたけれども。そりゃ却下されるわ…そもそも選ばれた者しか魔法少女になれないしなり方もわからないんだよ?私らにとっては雲の上の存在なのに。」
幼馴染の凛は大きくため息をつく。
「いいんだよ!夢はおっきく!明日にはお願いって頼まれちゃうかも!」
愛は満面の笑みで自信たっぷりにそう話す。
「ほんと昔から…本当はちやほやされたいだけでしょ?」
凛にジロッと睨まれ愛は後ずさる。
「そ、それもあるけど!否定はしないけど!」
「動機が不純なんだよ…絶対騙されても気づかないタイプだな…気をつけろよ?」
「大丈夫!私には凛ちゃんがいるから!」
そう凛にウインクを返すと呆れられながら、
「調子いいんだから…仕方ないなぁ」
と愛の髪をぐしゃっと撫で、
「テキトーに提出して帰ろう」と帰宅を促す。
愛は「えへへ」と嬉しそうに笑い凛に着いていく。
これが最後の平凡な日々であった。
――――――――――
「ま、でもあんたには向いてると思うよ、自分を省みず、見返りを求めず誰かれ構わず救うんだもの。」
「え?なんの話?」
下校中、愛は目を点にして凛を見つめる。
「進路だよ!ただ、ちゃんと見据えた将来の夢も考えなよ?担任をこれ以上困らせるのは学級委員の私が許さないよ?」
「そこは幼馴染である私のこと庇ってよ〜」
愛はムスっと頬を膨らまし、手をバタつかせる。
凛はその様子を見て笑う。
「それなら、夢に近づくためにまずは基本の体力作りからね!朝から私と走ろう!まずは1万km!」
「陸上部の凛ちゃんと?!ご勘弁〜!」
2人でキャッキャと会話しながら帰宅していると突然愛は立ち止まった。
「なんか鳴き声しない?」
凛も耳をすまし声のする方角へ足を進める。
曲がった先のダンボールの中に白猫が入っていた。
「可愛い!白猫だ!」
愛は無抵抗な猫を抱き抱える。
「毛並み綺麗だし人馴れもしてるみたいね…」
「こんなところにこんなに可愛い猫ちゃんを捨てるなんて許せない!家に連れて帰りたいけど…今連れて帰っても何もないから揃えてから迎えにこよう!」
「…そうよね、協力する」
猫に別れを告げ、2人で急いで家に帰ることにした。
「何がいるかな!ミルクとか鰹節とか?!」
「なんにせよおばさんに相談しなきゃ。」
「うー。お母さんに負けそうになったら凛ちゃん、助けてね…君の弁だけが頼りだ…」
「何それ。まあでも任せて、一緒に救おう。」
ーーーウウウウゥゥゥゥ
けたたましい音の警報音が町中で鳴り響いた。
その音は怪物が近くに出てきたことを知らせるサイレンであった。
「うそ、今?ここから近い避難所は…」
凛は慌てて近くの避難所を携帯で探す。
「あっちね、愛行くよ…ってあれ?」
すぐ隣にいた愛は荷物だけを残し、来た道を戻っていた。
「愛!何してるの!逃げるよ!」
「先行ってて、あの猫ちゃんだけ助けてくるから!すぐ行く!」
まだ叫び続けている凛を置いて愛は走り続けた。
猫に近づくにつれどんどん怪物が破壊してるであろう音が大きくなってくる。
「もう少し」
息を切らしながら走る。
猫の入っていたダンボールを見つけた途端、後ろからの爆風によりバランスを崩して倒れてしまう。
道路に体を打ち、膝から血を流すも痛みに耐えながら這うように猫に近づく。
白猫がダンボールからひょっこり顔を出し見つめてくる。
「よかった…ごめんね、普段から運動しなきゃだね。ひとまず逃げよう、まだ間に合う。」
再度爆風と共に瓦礫がそばまで飛んでくる。瓦礫に注意し逃げようと決心する。
しかし、愛は足がすくんで立ち上がれなかった。
目の前には怪物が立ちはだかっていからだ。
ーーーグオオオオオオオ!
「あ、はは。実物ってこんなに恐ろしいんだ。」
口の中が一瞬にして渇いていくのがわかった。
体が震えているが膝の痛みのせいでないことは確かだ。殺されると初めて感じた。
怪物が手を大きく挙げる。
猫を守ろうと彼女は必死に体を丸めた。
触れる寸前、後ろから風を感じ、細長い何かが怪物を吹き飛ばす。
「ーっ!君!大丈夫?」
声の方に顔を向けると体が硬直した。
「魔法少女…」
彼女の憧れが目の前に立っていたのだった。
ーーーーーーーーーー
赤色に輝く魔法少女が再度話しかけてくる。
「大丈夫?」
本物に出会えたことが嬉しくて返事を忘れていた。
「え、あ、大丈夫です!ありがとうございます!」
サッと立とうとするも痛みからよろけてしまった。
「血が出てる…治癒能力ないから何もしてあげれないけど、時間なら稼ぐ!可能な限り早く逃げて!」
吹き飛んだ怪物が再度向かってくる。
怪物に向かって赤色の魔法少女が立ち向かっていく。
「かっこいい。て、見惚れてる場合じゃない!逃げなきゃ!」
自身を奮い立たせ、白猫のダンボールを抱えて反対方向に足を引き摺りながら逃げる。
すると真横を赤い何かが目にも止まらない速さで飛んでいった。
「え?」
その正体は先ほど愛を守ってくれた魔法少女であった。
怪物は争う相手がいなくなり周りを破壊し始める。
再度愛を見つけると近寄ってくる。
「に、逃げなきゃ…!」
声が震える。逃げるも体が痛みによりうまく動かず転倒してしまう。
ダンボールから手を離してしまうが白猫は華麗に着地する。
白猫は近づきながらニャーと鳴いた。
「私は大丈夫だよ…ごめんね」優しく猫に声をかけ抱きしめる。
白猫は逃げなかった。
愛はそのまま目を瞑り呟いた。
「私が助けるから」
再度白猫は鳴いた。
ーーーいや、正確には語りかけた。
「君はどうして逃げないんだい?」
愛は驚き、怪物を見るもグオオオと声を出すのみ。
「え?まさか白猫?」
白猫はまっすぐ愛の目を見つめて再度話しかけた。
出会った時よりなんだか体全体が白い光を放っており、目の赤みが増してる気がした。
「君には覚悟や勇気があるね。君はどうしたいんだい?」
愛は悩まず即答した。「世界を救いたい!」と。
その返答を聞き、白猫は笑った。
「"今"じゃない答えは初めてだよ。まっすぐな君に力を授けるよ。」
白猫はそう言うと金色の枠に囲まれた透明な石を胸元から取り出した。
「もし君の気持ちが本当なら、その石が君に力を授けるさ。」
愛は迷わず石を握りしめて怪物に向き直り、ふらふらの体にムチを打ち立ち上がる。
「私は…この街を、世界を救う!」
その瞬間、眩しい光が彼女を囲む。
「な、何これ?」
ー君の願い聞き入れようー
石が語りかけてきた気がした。
足元から暖かい光で包まれる。
さっきまで身につけていた物が次々変化していく。
そして髪の毛まで変化し、全体的に綺麗なピンクベースに染まって光は収まる。
「え?これって…まさか魔法少女になっちゃった〜?!」
ーーーーーーーーーー
怪物はグオオオとしか声を発さないが怯んでいるように思えた。
「本当の本当に魔法少女になっちゃったの?え?!可愛いーー!」
愛は自身の服装を見てクルクルと回りスキップする。
膝より短いフリルのスカートに胸元に大きなリボン、真ん中に先ほど白猫から受け取ったであろう石がピンク色に染まっている。
赤色の魔法少女はふらふらと愛に近づく。
「嘘、あなた魔法少女なの?」
「なんかなっちゃいました!」
明るく話す愛に対し、赤色の魔法少女はキリッと目をしかめて語る。
「魔法少女になるということは普通には戻れないということ、理解できてる?覚悟がないとなれない。半端な気持ちなら今すぐやめて逃げなさい。」
愛は真面目な顔つきになり、
「私の夢は魔法少女。世界を救うために生まれてきた!」と。
その返答を聞くと彼女は一瞬唖然とするもすぐにふふっと頬を緩め、怪物に向かい直す。
「あなたの覚悟は受け取ったわ。フォローは私がするわ、好きなようにやっちゃいなさい、初陣よ!」
「よっしゃーー!」
2人は気合を入れる。が。
「でもどうやって戦うの?私の武器はどこ?」
魔法少女には特有の武器があることはテレビで何度も見てたから知っている。
何もない両手を見つめ、空を掴むようにグーパーと指を動かすも何もない。
その様子を見て赤い魔法少女は、
「想いが力になるの。今ならなんだってできるわ。そして武器はストーンに手を当てて祈るの。そしたら…」
そう説明すると胸元にある真っ赤なストーンが光を放ち、中から長い棒が出てくる。
「さあ!いくわよ!」
そう言うと長棒を把持し、怪物目がけて駆けて行く。
「よし!うぉーりゃーーー!」
見よう見真似で気合を入れるとストーンがピンクに輝き始め、そこから同じように棒が出てくる。
「魔法少女には魔法のステッキ…ってあれあれあれ!」
どんどん出てきて重量を感じ始める。
出てきたのは大鎌であった。
「でかぁー!うわぁっ。重すぎるよぉ…可愛いピンクだけど…。お婆ちゃんから雑草刈りでしか使い方教わったことないよぉー!」
ズシリと重い鎌をなんとか両手で支える。
あたふたしていると怪物が飛んでくる。
「大丈夫!最初だけよ!大事なのは想い!」
愛は鎌に向かい合う。
「思い?想い?重い?いや!軽いと思おう!軽い軽い軽い…」
自己暗示を始め徐々に鎌への回想を始めた。
「なんで鎌なんかなぁ。鎌…お婆ちゃんとの雑草取り…暑かったなぁ…
でもこの人作業で作物が美味しいくなるんだなぁ…あーー!今日はお婆ちゃんのお見舞いだった!早く終わらせるぞおおお!」
愛は重さを忘れ怪物に駆け寄り、鎌を力任せに「おりゃーー」と両手で振り回す。
怪物にはかすれる程度だが、愛は当たったことに「よっしゃー!」と喜びを発する。
「お前なんかに負けないぞぉー!」
その声と共にストーンが真っピンクに輝く。
「まさか!」
愛は鎌を大きく振り回し怪物を一撃で狩りとる。
「魔法少女スラッシュ!!」
愛が道路に着地すると同時に怪物は光の粒子となって分散した。
「やったの?わーーい!わぁ…あれ?なんだか力が抜けてきた」
バタンと大きな音を立てそのまま愛は倒れ込んでしまった。
「大丈夫?!」
声をかけられたため、返答しているつもりだが聞こえてくる声はどんどん小さくなり、視界も暗闇に吸い込まれていった。
ーーーーーーーーーー
目が覚めると見知らぬ天井があった。
「これは記憶喪失系漫画でよく見るやつ!」
起きあがろうとすると体の節々が痛むが動けないことはなかった。
痛みに甘え、頭のみ左に傾けると、そばには見たことのある女性がいた。
正確には赤い魔法少女に類似している女性がいた。黒のロングヘアーにストーンがぶら下がった赤いヘアピンをつけていた。
「魔法少女さん!」
声をかけると本を読むのをやめこちらに向き直る。
「起きてよかった。記憶喪失ではなさそうね。」
聞かれていたことに恥ずかしさを覚え、顔が火照るのがわかる。
彼女はふふっと笑う。
「今日はありがとうね、すごく助かったわ。ちなみに筋肉痛だそうよ。」
と、感謝と痛みの原因について教えてくれた。
我ながら恥ずかしいものだ。日頃の運動不足がたたっているようだ。
凛の言うとおり手始めにランニングから始めてみようか。
そう心の中で誓った。
「それじゃあ帰るわね」と彼女は身支度を整えている。
「あ、そうそう、内容見てないけど1時間前にたくさん連絡来てたわよ?」
テーブルの横に置いてある携帯を指差した。
手に取ると携帯の通知には凛から『どこ?』との連絡や電話が数百も来ていた。
それとは別に母からもメールが来ていた。
「みんな私が好きだなぁー!」
内容を確認すると
「え?」
そこには祖母の訃報が記されていた。
お時間割いて見ていただきありがとうございます!拙い文章ですが、伝わることを祈って綴っております。誤字や話へのご指摘等いつでもお受けしております。また、メッセージ等いただきましたら作者がニヤニヤしながら丁重に拝見します!
彼女達に後々立ち塞がる運命をどう超えていくのか楽しみにしていただけるとありがたいです。