(7)
そうだ……「黄金龍」の渾名の元になった金色の鎧は……所々汚れ……そして、顔には……。
「や……火傷?」
炎に包まれた山車から脱出出来たと言っても……無傷じゃ済まなかったらしい。
「あ……あの……大丈夫です。僕のこの聖剣で……」
後から考えたら、変な所は山程有った。
でも、そんなのは後知恵だ。
よく言うじゃないか、「今の基準で過去を裁くな」って……。
けど……この時、僕は……憧れのヒーローに認めてもらえるかも……って……それで……。
頭の中8割以上がエロ妄想の思春期の馬鹿なオスガキが、最高の美女と一晩同じ部屋で過ごせてベッドでドン・ペリニヨンな事になったら……そんな状態と同等か、それ以上に心が天国にイきかけてたんだ。
僕が冒険者になったばかりの頃に、偶然見付けた、この「聖剣」。
どうやら、数百年前のまだ「本物の神聖魔法」が絶滅危惧種じゃなくなる前……でも、「本物の神聖魔法」が今の主流の「偽の神聖魔法」に勢力や信者を奪われ始めていた頃に作られたものらしい。
ギルドの鑑定師の話では、本物の「神々」と人間の間の「絆」が失なわれた時代の為に「本物の神聖魔法」の使い手によって作られたものらしい。
1日あたりの回数制限は有るけど……もうこの世界には残ってないかも知れない本物の聖騎士の能力を模倣した「力」を使える。
副作用なしの治癒魔法に、解呪に、「悪を討つ一撃」に、「精神操作解除」に……。
「あああ……光栄ですぅ♥ あこがれの人の役に立てるなんてぇ♥」
我ながら……どう考えても(エロ描写自粛)みたいなみっともない声だ。
でも、ともかく……僕は……聖剣の力を全部「治癒魔法」にして、本日1日分を一気に使い切……えっ?
「があああああッ‼」
僕の憧れの人の傷は……一気に酷くなった。
そして……僕にとっての最高で究極のヒーローの口から出たのは……そう……まるで……魔物やアンデッドが本物の聖騎士の「悪を討つ一撃」を食らったなら……こんな感じだろぉ〜なぁ〜って悲鳴。
嘘。
嘘。
嘘嘘嘘嘘嘘……(以下略)。
皮膚どころか……肉さえ溶け出し……骨や歯が剥き出し。
血走った目に有るのは……怒りと憎しみ。
あ……。
あははは……。
何で……気付かなかったんだろう?
僕の憧れの人が手にしていた剣には……血のりがべっとり……。
そして……鎧の汚れの半分ぐらいは……火に包まれた山車から脱出した時の煤や灰じゃなくて……返り血……。
業っ‼
「うわあああ……」
僕の頭上を黒い霊気の刃が通り過ぎ……。
しゅう……しゅう……しゅう……。
アンデッドになった冒険者ランキング1位のパーティーのリーダーの血や肉が嫌な臭いと共に蒸発し続け……僕の憧れの人の成れの果ては……膝を付く。
どうやら……アンデッドにとっては「毒」である「生きた人間向けの治癒魔法」を盛大に食らった状態で、怒りにまかせてパワーを消費する技を使ったせい……だと……思う。
どっちに逃げる?
僕は……神に祈りながら……って、知らない内に魔物に魂を売り渡してたマヌケの祈りを神様が聞き入れてくれるかは別にして……ほんの少し前まで僕の最高で究極のヒーローだった人……もう人じゃないけど……の横を走り抜け……。
目が合った。
あの人は……歯茎が剥き出しになった口を開き……。
「うそ……うそ……やめて……たすけて……」
そこら中に有る無数の死体から……何か煙のようなモノが立ち上り……アンデッドと化した「黄金龍の勇者」の口に吸い込まれていき……。
冗談だろう……。
少しづつだけど……「黄金龍の勇者」だったモノの肉が再生している。
この人……いや、くどいようだけど、もう人じゃないけど……は……自分が殺した人達の死霊を吸収して……自分の力に変えている……。