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(5)

「おい、何で、もう浮遊(レビテーション)の効果が切れてる?」

 浮遊(レビテーション)の魔法で酒場の2階のベランダ席から大通りに降りた途端に、ローアがブチ切れた。

「え……だって……」

「『だって』じゃねえ。この状況だと、空飛んでかねえと、標的(ターゲット)に追い付けねえだろうがッ‼」

 ……あ、まぁ、ローアの言う通り、通りは燃え盛りながら大通りを走ってる山車(だし)のせいで起きた火事から逃げようとしてる人達が山程居て、大混乱状態だ。

「母ちゃん、2階席の客が、どさくさに紛れて、食い逃げしようとしてるよッ‼」

 その時、たまたま表に出てた酒場の看板娘が大声で怒鳴る。

「黙れッ‼」

 ローアは得意の「猿ぐつわ」の魔法を、酒場の看板娘に……あ……えっ……?

 看板娘は、魔法の猿ぐつわを力づくで引き千切る。

 ……って、何者だよ、こいつ?

「おい、若造。何、ビビっとるんじゃいッ?」

「ちょ……ちょっとシュタール……」

 シュタールは戦斧を横殴りに振う。

 いや……普通は「振り降す」だろうけど、小人症の人間を改造して作った偽ドワーフでは、身長が足りないんで、人間の頭を狙うのは困難だ。

 だから、胴体を狙って横に振り……。

 ガシンっ‼

 シュタールの戦斧と、看板娘がたまたま手にしていたフライパンが激突し……。

「に……逃げた方が……いいよ……これ……」

「って、この()……何者?」

 フライパンには傷1つなく、シュタールの戦斧が手から弾け飛ぶ。

「あ……あ……あ……」

 うろたえた表情(かおつき)で……自分の両手を見るシュタール。

 その両手は……。

 あ……どう見ても……アル中による手の震えだ。

 そのせいで、握力が落ちてたらしい。

 ドゴォッ‼

 看板娘の前蹴りがシュタールの胴体に命中。

 それも命中した場所は、正中線上じゃなくて、アル中のせいで弱ってる肝臓の辺り。

 派手に吹っ飛んだ訳じゃない。

 ただ、板金鎧が思いっ切り凹んだだけで。

 蹴りのダメージだけじゃなくて、凹んだ鎧に内臓を圧迫されてるせいだと思うけど……シュタールは血と胃の中身を吐き……。

「食い逃げは捕まえたのかい?」

 店の奥から……おかみさんの声。

 たしか……この看板娘、何かドジする度に、おかみさんにブチのめされてた……。

 ……つまり……。

 おかみさんは、こいつより強い。

 おかみさんが出て来たら……僕たちは皆殺しだ。確実に。

 ああああ、そう言えば、この辺りの酒場街で、「税金(みかじめ料)」を請求するヤクザを全然見掛けないと思ったら……そ……そんな……こんな無茶苦茶な裏が有ったのかッ⁉

「すいません、急用で、すぐに行かなきゃいけない所が有るんで、お金は倍払いますッ‼」

 僕は、そう言って、財布を差し出した。

「足りないよ」

 看板娘は、財布の中身を見ると、冷たくそう言った。

「へっ?」

「あんたらが飲み食いした分には足りてるけど、あんたが言った倍には足りない」

「あ……すいません、後で冒険者ギルドに請求して下さい」

「まぁ、いいけどね。なら行った、行った」

「はいいいいッ‼ あと、こいつの葬式代も冒険者ギルドに……」

 僕は、一応は、まだ生きてるけど……助かるのは無理っぽそうな状態のシュタールを指差して、そう言った。

「わかった、わかった。さっさと消えな」

「は……はい……。ローア、シュネ、行く……」

 そう口にした瞬間、僕は、ようやく気付いた。

 あの2人は、既に近くには居なかった。

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