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「あと、もう帰れないのは昨日でよく分かりました。

今はこの世界に早く馴染みたいと思っていて…。

手始めにお二人のこと聞いてもいいですか?」


外の天候の落ち着きはこの世界で生きていくことを決めた神子の覚悟の現れだったようだ。

昨日はどうなるかと思ったが今回の神子は神に会ったことで、諦めがついたらしい。

前の神子と同じように泣き暮らすことを心配していたアルバートは少し気持ちが楽になった。


「私たちについてですか…。

たとえばどんなことをお話すればいいですか?」


聞かれたことには何でも答えるが、教えてくれと言われるだけだと何を話していいのかメアリもよく分からないようだ。


「じゃあお2人の年齢は?仲が良さそうですけど、どういうご関係ですか?」


楽しそうに話す神子に2人で慌てて否定した。

メアリと仲良くみえるなんて心外だ。

というか、神子に親しい女性がいると思われる事自体がすごく嫌だった。


「仲良くなんてありませんよ。ただ昔からの知り合いなだけです。

俺もメアリも今年で25歳で独身です。姫は俺たちよりお若いと思うのですが、おいくつか聞いても?」


神子がアルバートたちのことを知りたがるのと同じようにアルバートも神子のことが知りたかった。

神子は見た目だけだと16、7歳だが話し方はもう少し大人な気もする。

異世界人は若く見えるとも言われているし、真っ白な見た目も相まって実際いくつなのかはよく分からなかった。


「じゃあアルもメアリも歳上ですね。

私は今、20歳です。向こうの世界では学生でした。」


20歳で学生ということにアルバートは驚いた。

こちらではどんな貴族でも18歳までしか学校には通わないが、向こうは違うらしい。


「何を学んでいらっしゃったんですか?」


メアリも気になったようで神子に質問する。

過去に特殊な技能を持った神子がこちらで新しい物を作った事例もあるため、学んでいた内容は聞いておきたい。


「デザインの勉強です、将来はウェディングドレスのデザインがしたくて。

こちらにはウェディングドレスってありますか?」


政治に関わるわけでもなく、難しい研究をするわけでもないのに、成人をすぎても学生を続けるのが向こうではスタンダードなのだろうか。かなり文化の差を感じた。

折れそうなくらい細い腕を見るに食糧事情が良い世界ではないのだろう。

それでも教育を受けさせるのはどういう理由なのか、アルバートには理解できなかった。

ただ、女性が被服に関心があるのはこちらも向こうも変わらないらしい。


「ウェディングドレスがどのようなものかは分かりませんが、ドレスは夜会のときには着ますよ。

確か昔の神子がドレスの文化を持ち込んだはずです。」

「ドレスって私も見たりできます?」

「もちろんです。見るだけじゃなくて着れますよ。

姫のドレスを新調する予定ですので、ぜひデザインお願いしますね。」


メアリからドレスを着れると聞いてすごく嬉しそうな顔をする神子。

好きな色は何だとか、生地がどうとか男のアルバートにはよく分からない話を始めた。

ふと外を見ると少しだけではあるが魔素がふわふわと降り出していた。

神子に幸福を感じさせるのが自分ではなく、メアリであることがアルバートは面白くなかった。

ただ、神子の笑っている姿は可愛らしく、それを見ているだけでも癒やされるのを感じていた。



――コン、コン


「失礼します、アルバート殿下はいらっしゃいますでしょうか。」


ノックの後、アルバートを呼ぶジェイの声がする。

神子にひと言断ってから部屋を出た。


「こちらに殿下を迎えにきたら、姫様にお会い出来るかと思っていたのですが。」


部屋にジェイを入れることなく廊下まで出てきたアルバートに嫌味を言う。

女性のメアリにまで嫉妬しているのに、男のジェイに会わせるなんて選択肢自体、存在しなかった。


「で?何しに来た?」


たとえ話についていけなくても神子のそばにいる時間を妨害されて、アルバートは機嫌が悪かった。

ジェイにはさっさと要件を話して立ち去ってほしい。


「朝から謁見の間に押し寄せている貴族共が天候が安定していることを理由に神子にあわせろと。

このままだと押し切られて、来週の夜会でお披露目になりそうです。

どうなさいますか?」


神子の精神が安定していることが悪い方向に転ぶ場合があるとは思ってもいなかった。

神子に会わせろと言っている貴族は神子に気に入られることでこの国ででかい顔をしようとしている小汚いやつか、自分たちの商会を贔屓にしてもらおうとする守銭奴かのどちらかだ。

わざわざ会わせる必要もなく感じるが、王家が神子を独占していると言われるのも都合が悪い。

だが、来週はさすがに早すぎる。もう少し、アルバートに懐かせてからにしないと。

それに今、神子に夜会の話をしてもドレスが着れると喜ぶだけで行きたくないと言ってくれるとは思えなかった。

ふと、先ほどまで神子と話していた内容が頭をよぎる。


――ドレスか…。使えるかもしれないな。


ジェイに待つようにいい、踵を返して部屋の中に戻った。

相変わらず、メアリと神子は楽しそうにドレスについて話している。


「メアリ、姫のドレスを仕立てるとしたらどのくらいかかる?」

「そうですね、神子のドレスであれば職人たちも最優先で仕立てるでしょうから、最低で1ヶ月。

まあ2ヶ月あればお好きなデザインで仕立てられるでしょう。」


2ヶ月も短い気がするが、それ以上引き伸ばすのは不自然ということだろう。

不思議そうな顔でアルバートを見上げる神子に微笑みかけた。


「姫がきてくださったことに感謝を伝えたい者がご挨拶の夜会を開きたいと。

せっかくですから、その夜会で姫ご本人がデザインしたドレスを着るのはいかがでしょうか?」


いいんですか!と満面の笑みでアルバートを見つめる神子。

その笑顔があまりにも可愛かったので、頭を撫でておいた。

強欲で守銭奴な貴族共にあわせるのは相変わらず嫌だが、こんなにも神子が喜ぶなら仕方がない。

次は貴族と国王を説得しなければと部屋の前に待たせたジェイを連れて謁見の間へと急いだ。



謁見の間には見たことのある顔がずらりと並んでいた。

フレドリックが神子にあわせろという貴族たちをとめているらしい。

王家が神子を独占するつもりだろう、と詰め寄る声が聞こえてくる。

謁見の間に静かに入ってきたアルバートを見つけて挨拶もせずに1番嫌いな顔が詰め寄ってきた。


「アルバート殿下!神子のご様子は?

天候がこの1日でこんなに落ち着いているのですよ、魔素まで降っていますし。

私達にも早く紹介していただきたい!」

「ごきげんよう、グレイソン侯爵。

そんなに慌てなくても、姫様から夜会に出ると言っていただいている。」


嫌味のように頭を下げると、グレイソンも慌てて礼を返してきた。

まわりの貴族たちもそれにならうように頭を下げる。

今まで王位継承権がないからと馬鹿にしてきたアルバートが、神子に気に入られる窓口になるということが未だに分かっていないらしい。

今日来ている貴族のおおかたは財政的に厳しいと聞く家のものばかりだ。

神子様御用達のものでも作って、売りに出したいのだろう。

思惑が見え透いていてうんざりする。


「でしたら、次の夜会で決まりですな!」


鼻息荒く迫ってくるグレイソンをアルバートは鼻で笑ってやった。


「侯爵は淑女の準備がたった1週間でできるとお思いか。

女性なら分かると思うが夜会用のドレスが出来るまで2ヶ月はかかる。

自分たちはオーダーの服で着飾って、姫様には既製品の安いドレスでいいとでも?」


そんなことまで考えていなかったのであろうグレイソンはぐっと押し黙った。

騒いでいた他の貴族たちも反論はないようだった。


「では、姫様へのご挨拶は2ヶ月後で決まりだな。

詳しい日程については追って連絡する。」


最後は国王のひと言で決まった。

納得したようなしていないような顔で貴族たちは帰っていった。

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