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2時間ほど後、アルバートは行為後のだるさでベッドに寝転がっていた。
眠気もあるがそれ以上に暖かな幸福感に包まれる。
今までの女性との行為はなんだったのかと思うほどアルバートは幸せだった。
何やら動いている神子を見るとアルバートに背中を向けて、さっさと下着を着直している姿が目に入った。
――もうちょっと余韻とかあるだろ。
神子の後ろ姿に寂しさを感じたが、自分も今まで余韻に浸ることなどなくベッドを後にしていたことをぼんやりと思い出す。
今までの女性たちによく文句を言われていたのはこのことだったのか、と少しだけ反省した。
それでも神子が下着だけでなく今日着ていたネグリジェにも手をかけたところで、昔の女性たちのように少し文句を言おうとアルバートは起き上がった。
「姫、なんでそんなすぐに着ちゃうんですか。」
「だって、さっきアルが可愛いって褒めてくれたから。」
今日、神子が着ていたネグリジェは薄い生地のレースをふんだんにあしらったものでとても美しかった。
いつもの色気のない寝間着と違った煽情的な姿を褒めたのは事実だ。
だが、神子はやはり少しアルバートの感覚からずれている気がする。
「いや、それは…」
――やる前だからだろ。
恥ずかしかったのか少し赤くなった神子の耳をみて、思ったことは言葉に出さずにぐっと飲み込んだ。
「こういうときは、素肌でくっついていたくないですか?」
そう言いながら、すでにネグリジェをしっかりと着てしまった神子の背中に抱きついた。
薄いネグリジェの生地を通して伝わってくる神子の体温が心地よかった。
「じゃあ、次からはそうします。」
首筋にキスを落とすアルバートに神子はそっけなく返した。
照れているのかその様子すら愛らしい。
当たり前のように次があることもアルバートは嬉しかった。
後ろから神子を抱きしめたまま、ベッドに寝転がる。
神子を腕の中に抱きしめながら、行為の最中に気になっていたことがふとアルバートの頭の中をよぎった。
「あの、姫ってもしかして経験あります?」
別に神子が特別上手かったわけではない。
むしろ、下手で慣れていないところが可愛いとまで思ったくらいだ。
だが、アルバートを受け入れるときだけ無駄に身体に力を入れることも怖がることもなく、すんなり受け入れたことがアルバートの中で引っかかっていた。
「ない、なんて言ったことありませんよ。
私も20歳過ぎてるんです、恋愛の1つくらいしてます。
勝手にモテない女扱いしないでください。」
背中を向けたまま、ちょっと怒ったように言う神子の言葉にアルバートは落胆する。
ずっと自分が神子の最初で最後の男になるのだと思ってきたのに他の男がいただなんて、受け入れられなかった。
先ほどまで幸福感に満たされていた心の中がすっと冷えていくのをアルバートは感じていた。
「…俺とそいつどっちが上手かったですか?」
「比べるものじゃないですから。」
思った以上に嫉妬にまみれた冷えた声が出たことにアルバートも驚いたが、神子はそれ以上に冷たい返答をしてきた。
初夜から喧嘩したい訳では無いが、神子の態度に苛ついてしまう。
どんな男だとか、今日くらいは俺のことを褒めろだとか、いろいろな言いたいことをアルバートはぐっと我慢する。
「姫、次はもっと長持ちさせますね。」
腕の中で絶対にこちらを向かない神子を、小さな仕返しのつもりで一瞬だけぎゅっと痛いくらいに抱きしめる。
神子はそんなアルバートに少しだけ振り返った。
「私は何も言ってないですよ。
自分から聞いておいて勝手に怒らないで。」
アルバートの返事を聞く前におやすみ、と短く会話を切って神子はまた後ろを向いてしまう。
神子の言う通りだと思いながらも、苛つきが勝ってしまい今は謝る気にはなれなかった。
仕方なく睡魔に従うようにアルバートは目を閉じた。
「おはようございます、姫、アルバート様。」
朝、メアリの声に起こされて目を開けると腕の中に収まったままの神子の頭が目に入った。
昨夜と違い、こちらを向いていることが嬉しくて頭を撫でてやると神子の眩しそうに細めた目と目が合う。
昨夜のことを思い出したのか、気まずそうに目線を反らした神子はすぐにベッドから降りようと布団をめくろうとする。
アルバートはとっさに両腕で神子を抑えつけるように抱きしめた。
「悪い、メアリ。俺の今しゃきっとしてないからちょっと後ろ向いて。」
裸のまま寝てしまったことをとっさに思い出せた自分を褒めたい。
メアリはため息をついてから後ろをむく。
「しゃきっとしてたら見せてもいいってことですか。
さすが倫理観のない年中ベルトを外しっぱなしにしている男は言うことが違いますね。」
後ろを向きながらも嫌味を言うメアリに適当に返事をしながら、抱きしめていた神子の頬にキスをして離してやる。
神子はそのままメアリのもとに行き、そのまま振り返らずに風呂場に2人で入っていった。
まだ怒っていそうな神子の態度に昨日のことをどう謝るべきか考えながら下着を探していると、タイミングを見計らったように着替えを持ったジェイとリアムが一緒に入ってきた。
「おはようございます。
昨夜のピロートーク、最悪でしたね。」
いつから聞いていたのか、リアムは馬鹿にするように笑う。
すでにリアムから内容を聞いていたのか、ジェイも苦笑いを浮かべていた。
これにはアルバートもため息をつくしかない。
アルバートが持ってきてもらった服に着替え終わったことを確認すると、リアムはにやにやした顔のまま窓のカーテンを勢いよく開いた。
そこには昨日以上の魔素が降り注いでいた。
降りすぎて景色が見えないほどになっている。
魔素は神子の幸せの象徴だ。
こんなにも幸せを感じてくれていんなんて。
アルバートは自分の緩む頬を抑えられず、片手で口を覆った。
「アルバート様、ご結婚おめでとうございます。」
茶化すように言ったジェイに何を返すことも出来ず、外の景色を見つめ幸福感に浸る。
――姫が着替えてきたら、謝罪なんかじゃなくありったけの愛を伝えよう。
アルバートはそう決めて、ただただ魔素を見つめていた。
fin




