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その日の夜、風呂に入り終えたアルバートは神子の部屋のベッドに腰掛け頭を抱えていた。

昼間、貴族たちを返したあとフレドリックたちが神子殿から出ていき、神子は元の部屋で生活することになった。

神子はほとんどの時間、意識がなかったので神殿での生活に慣れておらず、こちらに戻ってきて安心したようだ。

それに伴い、アルバートも元の部屋に戻ろうと思ったが、従者ではなく夫になったので従者の部屋は使えないと神子が言い出し、同じ部屋で生活することを提案された。

神子が襲われてからずっと勝手に同じベッドで寝起きしていたアルバートにとって、あまり環境が変わるわけではなかったが、それでも神子からの提案は嬉しい。

だが、逆に神子が添い寝だけのつもりなのか、その先に進んでもいいと言うことなのか分からず、神子が風呂に行った今どうするべきかアルバートは悩んでいた。


続き間となっている騎士の部屋のドアが開く音がしてアルバートはそちらを見ると、ウイスキーのボトルとショットグラスを2つ持ったリアムがアルバートに向かって歩いてきた。


「神経の細いアルバート様は初夜に緊張なさっているのではないかと思って、景気づけに1杯お持ちしました。」


からかうようにそう言いながら、ベッド横のサイドチェストに持ってきたものをおいていくリアム。

手際よく2つのグラスにウイスキーを注ぎ、アルバートに手渡した。


「やっぱりそうだよな、やっていいってことだよな。」


そうひとり言をつぶやきながら、リアムの持ったグラスとカチンと音を立てるようにアルバートが持っていたグラスを合わせて2人とも一気に飲み干した。

熱い液体がアルバートの食道を通っていくのを感じる。


「姫様がどんなつもりかは知りませんが、その気にさせるのが男の役割です。」


相変わらず小馬鹿にしたように笑うリアムのことが嫌いだとアルバートは思った。

これから神子の寿命が尽きるまでずっとこの男とも一緒だと考えると、嫌な気持ちになる。

それと同時に、いつも女性と過ごすときには感じたことのない緊張感が湧き上がってきていた。

黙ってしまったアルバートの顔をリアムが覗き込む。


「アルバート様にとっては数百回目でしょうけど、姫様にとっては最初の1回目ですよ。

リードすべき相手にそんな情けない顔されたら、安心して身を任せられないでしょう。」

「いや、分かってるけど、どうやって今まで女とやってたかが思い出せない。」


思わず出たアルバートの本音にリアムは噴き出すように笑った。

からかうことを楽しんでいる顔をしている。

アルバートは軽く笑うリアムを睨んだ。


「あの有名なベッドの帝王からそんな愁傷な言葉が聞けるなんて。

あ、もう1杯いっときます?」


ウイスキーのボトルを持ち上げるリアムにアルバートは首を振った。


「酒で出来なくなったら本末転倒だろ。」

「その前に緊張で出来なくても情けないですよ。」


今日のリアムはどことなくアルバートに冷たい気がした。


――姫を取られることへの腹いせか?


リアムと神子の関係はアルバートからしてもよく分からない。

騎士としては近すぎるし、かといって友人でも恋人でもない不思議な距離感だった。

アルバートが神子を独占していれば嫉妬心があるような顔をして奪おうとするし、神子と2人きりになれる時間は本当に嬉しそうにしていた。

神子の意識がなくなった際には愛してるとまで言っていたことを思い出す。


「リアム、前にも聞いたが本当に姫に恋愛感情はないのか。」

「前にもお答えしましたけれど、薄っぺらい女に興味はありません。

子供みたいな体型の女には、俺の男性的な器官が全く反応しないんで抱けと言われても抱けない可能性までありますね。

姫様のことは愛していますが、歳の離れた妹っていう感覚で抱ける女ではありません。

妹が他の男に貰われていくのは嬉しい反面、面白くないものですよ。」


相変わらず胸があるかないかでしか女性を見ていないリアム。

話すその言葉は最低ではあるが、本心なのだろう。

全く嫉妬心を感じさせなかった。

リアムが神子を可愛がる姿を思い返せば、妹のことが好きすぎる兄と言えなくもない。

レオンハルトの態度とは違うのは確かだった。

それでも神子に抱きついたりキスしたりすることが許せるわけではないが、アルバートは少しだけほっとした。


「あ、アルバート様にプレゼントを用意したんでした。」


そう言いながらポケットから手のひらより少し大きいくらいの小瓶を取り出して渡してくるリアム。

その瓶はアルバートもよく知っているもので、思わずリアムの胸に突き返した。


「なんでこんなもの人から貰わないといけないんだ。」

「初めての相手には潤滑油くらいあったほうがお互いに楽ですよ。

軍にいたときは、初めての恋人ができた人間に送る定番のプレゼントだったんですが。」

「…そんなんだから軍人あがりは下品だって言われるんだよ。」


アルバートは呆れたが、同時に少しだけ緊張がほぐれていくのも感じていた。

リアムはアルバートの言葉を全く気にせず、勝手にベッドヘッドに突き返された潤滑油をセットしている。


――そんなもん絶対に使わねぇよ。


人から渡された潤滑油なんて誰が使えるとこの男は思っているのだろうか、とリアムを見るが相変わらず涼しい顔をしていた。

本当に軍では当たり前のことなのだろう。

正直、すでに潤滑油を隠し持っているアルバートからすれば余計なお世話だ。


「そろそろ姫様も戻ってきそうですから行きます。

顔を合わせたら気まずいでしょう。」


そう言って持ってきたグラスとウイスキーを片付け出すリアム。

アルバートは早く帰れと冷たい目線でそれを眺めていた。


「あ、俺は今から2時間ほど出掛けてきますので、心置きなくお楽しみください。

これからはそんな面倒なことしませんが、初日くらいは気を使って差し上げます。」

「本当に気を使える人間はそんなことをいちいち報告しないがな。」


相変わらずのリアムのふざけた態度に、アルバートは頭の血管が切れそうな感覚がした。

それと同時にありがたさも感じる。

地位が高ければ高いほど閨は開かれたものになる。

見えないようにはしているが、必ずメイドや従者がそばに控えているものだ。

今日もメイドの控室には誰かが必ずいるだろう。

そんなことを元々庶民であるはずの神子が知っているのか知らないのかは分からないが、出来ることなら初夜くらいは他の男のいない環境をつくってやりたかった。


部屋を出ていくリアムを見送りながら、風呂からなかなか戻ってこない神子を気長に待とう、とアルバートはベッドに寝転がった。

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