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2日後の午前中、神子からの書簡を受け取った貴族が続々と神殿に集まってきていた。

この2日で王宮内は完全にカイエンの率いる軍部が掌握し、国王であるエリオットは軟禁状態となっている。

王宮に入る前に貴族たちは武器を持っていないか入念に確認されてから神殿に通された。

軟禁状態のエリオットは腰紐を巻かれたまま、神子派の兵士2人に挟まれて神殿に連れてこられていた。


神殿には新しく神の要望で作り直した移動式の魔法陣が敷かれ、その真ん中に玉座が設置されていた。

これも神子の要望を叶えたものだ。

アルバートはその要望通りになっているか確認しながら、会場をぐるっと見回した。


国王派の貴族は青い顔をして小さく座っているものがほとんどだ。

神子からの書簡が届いたあと、数人の国王派の貴族の家に雷が落ちた。

神子いわく、この招集に応じず逃げようとしている人間の家に落としたらしい。

怪我人や死人は出ていないが、脅しとしての効果は抜群だったのだろう。

国王派の全員が出席している。


「アルバート殿下、全員揃いました。」


その場を取りまとめていた神官から声をかけられ、アルバートは神子を連れに部屋に戻った。



「姫、そろそろよろしいでしょうか。」


アルバートが部屋に戻り声をかけると、椅子に座った神子はいつになく緊張した顔でアルバートを見上げた。

神官が用意した真っ白な正装を身にまとった神子は、神々しく光り輝いているように見える。


「アル、1回ちょっとほっぺ叩いてくれません?」


突然何を言っているんだとアルバートが戸惑った表情をしていると、メアリが横から両手で神子の頬を包みパシンと気合いを入れるように叩いた。

神子は一瞬、痛そうに顔を歪めたがすぐに笑顔でメアリに礼を言ってから立ち上がった。


「もう誰かに嫌われるのは気にしないことにしました。

私、今から立派な魔女になります。」


独り言のように言った神子の顔は何か覚悟を決めたような、引き締まった顔をしていた。

アルバート、リアム、メアリ、3人の顔をゆっくりと見渡してドアのほうに進む。


「さあ、3人とも行きますよ。」


緊張を隠すように少し早い足取りで歩き出した神子の後を3人で追う。

本来であれば一介のメイドであるメアリが出席できる場ではないのだが、神子はメアリにも出席していてほしいらしい。

アルバートが会場に入る前にエスコートの手を差し出すと、神子はその手を強く握った。


「アル、あなただけは何があっても私のこと嫌いにならないでね。」

「もちろんです。」


きっとこれで父に会うのは最後になるだろう、とアルバートは神子の様子から察していた。

もしかしたらアルバートの目の前でエリオットに雷を落とすつもりなのかもしれない。

それでも神子にたいする愛が変わることはない、とアルバートは確信していた。


神子は真っ直ぐと前を見つめ、神官が開いた神殿の広間へと足を進めた。

会場内のすべての貴族が椅子から立ち上がり、その場に跪く。

神子は椅子の前で正面を向き貴族たちを見回した後、ゆっくりと玉座に腰掛け優雅に足を組んだ。

アルバートたち3人も神子のそばに控えるように玉座の周りに立った。


「顔をあげなさい。」


澄んだ声でそう告げる神子の姿はこれまでにないほど神々しく美しい。

ゆっくりと顔をあげていく貴族たち。

彼らの目に堂々とした神子の振る舞いがどう移っているのかアルバートは知りたいと思った。


全員が頭を上げたことを確認すると神子はそっと目を閉じる。

それと同時にアルバートたちの足元に敷かれた魔法陣が輝き出した。

アルバート、リアム、メアリの3人はこのまま魔法陣の上に立っていていいものかと顔を見合わせたが、今更動くことも出来ずかたまる。

貴族たちもこの光景に目を見開いていた。


室内にもかかわらず魔素が降り注ぎ、魔法陣の上に集まって形を作っていく。

人型のようなその形は数十秒で、アルバートたちがよく見慣れた人物になっていった。


――うそだろ、神が…。


静かにその光景を見ていた貴族たちもざわめき出す。

神官たちは涙を流しながらその場に膝をついていた。

室内に降り注いだすべての魔素が魔法陣の上に集まったとき、それは完全な神の姿になっていた。


「黙れ、愚民ども。」


神がざわめく貴族たちを一括した。

今まで聞いたことのないような複雑な声質の低い声だ。

神の言葉に一瞬にして広間は静まり返った。


「我が愛し子を殺そうとする愚民どもよ。

お前達、愛し子に感謝しろ。

愛し子に反対されなければ、この世界を壊しているところだ。」


国王派の人間たちはうつむいて神から目線を反らしていた。

神子の尽力のお陰で自分たちは助かったらしい。

アルバートは改めて神子が愛おしくなった。


「ここにいる愚民ども全員に告げる。

これからこの国に、全世界に信仰を広めることがお前達の責務だ。

それを放棄するならば、喜んでこの世界を壊そう。

今後のことは我が愛し子に任せる。

我が愛し子に異を唱えるものには死を送ってやろう。」


そこまで言うと神の姿はぱんっと弾けて、ただの魔素に戻っていった。

神子はそっと目を開け貴族たちに向かって微笑んだ。

ぞっとするような底冷えする笑顔に国王派の面々は怯えている。


「まずは…エリオットの処遇から。

もちろん、あなたには死んでもらいます。

フレドリック、自分の父親の首を落としてそれを私への忠義としなさい。」


前置きなく、話し出す神子。

2日前にフレドリックに詰められて下を向いていた人物とは思えない。

フレドリックは神子の言葉に険しい顔になったが、御意とただ頭を下げる。

自分の父親の首を落とせと言われたフレドリックの気持ちを思うとアルバートは胸が痛くなった。

エリオットも覚悟していたのだろう。

その暗い表情が変わることはなかった。


「あと、フレドリック、あなたが忠義をしめした際にはご褒美としてメアリをあげる。」


メアリが驚いた表情で何か言いたそうに神子に1歩近寄るが、声をあげることはなかった。

フレドリックはありがとうございます、と頭を下げる。


「次にあなたの処遇について。

現在空位となっている辺境伯にフレドリックを任命し、王位を空位とします。

辺境の地をメアリとともに治めなさい。

フレドリック、何故あなたが王位を手に入れられなかったのか分かる?」

「…い、いえ。」


王位を空位にしてでもフレドリックを国王にしないという神子の采配にアルバートは驚いた。

貴族たちもお互いの顔を見合わせている。

神子派のトップを国王にしないとは誰も思っていなかった。

フレドリック自身も自分が次の王になれると思っていたのだろう。

ぐっと眉間にシワを寄せて神子を睨みつけるように見ていた。


「あなた、全く信仰心がないでしょ。

これから神の言う通り、この国は信仰深い人間を増やさなければいけないの。

そんな中、あなたのような信仰心がない人間がトップだなんて邪魔なだけ。

それに、貴族をまとめ上げる力も全くない。

国王としての能力も才能もあなたは何も持ち合わせていないの。

本当はこんな謀反を起こした罪人の息子として、首を落としてもいいのだけれど、神子派をまとめてくれたから貴族として生きさせてあげる。」


厳しい言葉がフレドリックに飛んだ。

信仰心だけでなく、国王として才能がないとは痛いところをつく。

フレドリックは神子を見続けることが出来なかった。

ただうつむきその言葉を受け止める。

たしかに、アルバートから見ても今までの神子に対するフレドリックの態度は酷いものだった。

何度、アルバートが神子を敬えと言っても変わらなかった結果が王位を逃すことに繋がったのだろう。

それもまた仕方のないことだ、とアルバートは思う。

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