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神子の最後の言葉とともに金の光がすっと消えると、アルバートに抱きついていた神子の腕から力が抜けていった。

アルバートが支えていないと座っていることも難しい。


「姫、姫!」


何回も神子を呼びながら肩を揺すったが、神子が反応を返すことはなかった。

ただ、首が向いた方向をまっすぐ見つめるだけだ。

落ち着いた様子で、リアムは神子の肩を揺するアルバートの手をつかんで止めた。

それからゆっくりと神子を後ろから抱きしめる。


「姫様がどこに行こうと、俺は、リアムは見捨てたりしませんよ。

帰ってきてくださることをお待ちしています。」


この状況をリアムは受け入れたらしい。

アルバートもリアムから奪うように、神子を正面から抱きしめる。


「俺も絶対に姫を見捨てたりしません。

あなたがこちらに来てから変わらず愛しています。

これからもずっと愛しますから。」


意識のない神子に伝わっているか分からなかったが、それでもよかった。

メアリも神子の手をとり、絶対に側にいると誓っていた。

神子の言っていたことの意味が全て理解できたとは3人とも言い難いが、それでも神子の言う通り待っていようと決めた。



昼過ぎ、アルバートは一連の騒動についての説明を求められ、エリオットの執務室に向かった。

昼まで過ごして分かったが、神子は自分でトイレにだけは行けるらしい。

食事は食べさせられないと食べないので、人間として最低限の尊厳を保っているだけの状態だ。

そんな状態の神子に今日くらいは1日中ついていたかったが、そうも行かないらしい。


「失礼します、アルバートです。」


執務室のドアをノックすると、入れとフレドリックの声が聞こえてきた。


「アルバート、天気がいいが神子は大したことなかったのか。」


部屋に入ってすぐ、天候がいいからと呑気なことを言うエリオットをアルバートは殴り飛ばしたい気持ちになった。

アルバートの表情がさっと変わったことを察したのか、エリオットは目をそらす。


「たいしたことない?そんな訳がないでしょう。

前回雹が降った後、何があったのか忘れたのですか。

あのときも非常に天気はよかったですよ。」


2年前、前の神子が自殺した朝も天気は突き抜けるような青空だった。

前日の雹が嘘のようだと思っていたことを思い出す。

天候が落ち着いていれば神子は幸せなわけではない。

こちらの人間はいつになればその認識を直せるのかとアルバートは憤った。


「リック、お前も昨日のことどう思っているんだ。

傷ついた姫を気にもとめずに、部屋に押し入って自分の女だけ連れて出ていくその行動を。

俺たちと同じ気持ちで姫を慈しめとは言わない。

だがな、神子を慈しむことは国を慈しむのと同じだ。

それが出来ないのなら、王族なんてやめてしまえ。」


フレドリックが痛いところをつかれ、顔を伏せる。

メアリの話をエリオットの前でされることも都合が悪いのだろう。

フレドリックは言い返すことなく、悪かったとつぶやいた。


「姫の気持ちが落ち着くまで天候を荒らさないように、神の世界で姫の魂は過ごすそうです。

いつ戻ってくるかは分かりません。」


アルバートの報告にエリオットはとても嬉しそうな顔をした。

その顔を見て、アルバートの眉間にはぐっと濃いシワが出来た。


「そんな便利なことが出来るなら、何故今までその手を使ってくださらなかったんだ。」


何の悪意もなくそう言った自分の父親に、アルバートは殴りかかりたい衝動にかられる。

結局、エリオットとフレドリックも神子のことを人間として見ていない。

魔素を降らせる便利な道具としてしか見ていないのが手に取るように分かった。


「陛下、何を考えているのですか。

そこまでしなければ、この世界が滅ぶ段階まできていると何故思わない。」


あまりの悔しさにアルバートは机を殴りつける。

こんなことをしたところで、2人にはアルバートが何を言っているか全く伝わらないだろう。

それでもこの思いを訴えずにはいられなかった。


「神子の警護についてジェイを通して連絡しましたが、今日の夜までに神官たちが納得する案を持ってきてください。

姫は感情のある1人の人間です。

魔素を降らせる便利な道具ではないことを努々お忘れなきよう。」


それだけ吐き捨てるように言って、エリオットやフレドリックの返事を待つことなく執務室を出た。

アルバートは息を大きく吐き、廊下の壁を思いっきり殴りつけた。

漆喰が塗られた壁は硬く、アルバートの拳に傷をつくる。

それでも、このどろどろとした感情を捨ててから神子の元に行きたかった。


「アルバート殿下!」


廊下をゆっくりと歩くアルバートに後ろから声がかかる。

振り向くとジェイが焦った様子でこちらに走ってきていた。


「今から昨日、夜の番をしていたメイドの事情聴取が始まります。

殿下、立ち会いますよね。」


アルバートは当たり前だと返し、ジェイに事情聴取が行われている部屋に案内させた。

神子の元に早く戻りたい気持ちもあったが、今自分が酷い顔をしているだろうことを思うと戻らないほうが正解な気がした。

今の神子に意識があるのかは分からない。

それでも神子と過ごす時間は穏やかなものにしたかった。



事情聴取には近衛騎士団の団長と騎士たち、昨日の夜の番をしていたメイドのエヴリンがいた。

アルバートを見て全員に緊張が走ったのを感じる。

何となく居心地が悪いと思いながらもアルバートは椅子に座った。


「殿下にもきていただいたので、早速事情聴取を始めていきます。

まず、昨日の夜のことを時系列順に話してくれるか。」


団長に促され、エヴリンは少し考えてから口を開いた。


「アルバート殿下が部屋を出ていってから2時間ほど後だと思います。

部屋の外を警護していた騎士2人が、ノックもなく部屋に入ってきました。

私はその時、隣の控え室にいました。

何故騎士が入ってきたのか分からず、神子の部屋に行きました。

そこで、1人に押さえつけられ、『静かにすれば見逃してやる』と言われて、暴漢だと気づきました。

騎士の部屋にリアム様がいることは分かっていたので、叫ぼうとしたところお腹を殴られて、息ができなくなったところで頭を殴られたんだと思います。

その後、2人が何かいろいろと話しながら神子のほうへ歩いていったところで意識がなくなりました。

そこからリアム様に起こされるまでに、何があったのかは分かりません。」


エヴリンの証言は大体はアルバートの予想通りの内容だった。

ただのメイドが身体を鍛えている騎士に殴られれば抵抗は出来なかっただろう。

頭を打っていたとリアムも言っていたことから、証言に嘘はなさそうだった。


「何を話していたかは全く分からないか?

正確だと言い切れない内容でも構わない。」


今後も結局、近衛騎士に警備を任せることになる。

わざわざリスクの高い神子に手を出した動機についてアルバートは知りたかった。

近衛騎士たちに今後、どう教育していくべきかも含めて手がかりになる情報がほしい。


「あの、殿下の前でお話するのは心苦しいのですが…。

アルバート殿下に夜の世話をさせているのだから、昔の神子と一緒で性的に奔放だろう、むしろ喜ぶはずだと。」


言葉を選びながらゆっくりとエヴリンは話した。

本当はもっと下品なことを言っていたのだろうと安易に想像がついた。

100年以上前の神子の倫理観がおかしかったせいで、神子は全員性的に奔放だと思っている人間が一定数いることは事実だ。

こちらの人間は神子を1人1人違う人間だと考えず、1つの神子という物として見ている人間が多すぎる。

エリオットやフレドリックでさえそうなのだから、一介の騎士がそう思っていても不思議はなかった。


「…そうか。

騎士団長、今代の神子はそのような人間ではないと全員にしっかりと教育してくれ。

次がもしあったら、犯人とともにお前の首も飛ばしてやるからな。」

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