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6

「大丈夫ですよ、俺もリアムもいますからね。

怪我してないですか?」


アルバートは小さな子供をあやすようにとんとんと背中を叩きながら神子を落ち着かせる。

アルバートの服にも血が染みていくが、気になりもしなかった。

神子の目線が転がった死体から離れなくなっていることに気がついて、アルバートは神子の顔を自分の胸に押し付けるように抱きしめ直した。


神子のことはアルバートに任せておけばいいだろうと、リアムは床に倒れているエヴリンのもとにむかった。

殴られたのか気を失っているエヴリンの肩を揺すると、意識を取り戻す。


「おい、大丈夫か。」

「ひ、姫様は…」


目覚めたエヴリンはすぐに神子のことを尋ねた。

リアムは大丈夫だ、と返すとメイドは頭を抑えながらなんとか起き上がる。

気絶していたが、重症ではなさそうだ。


外からバタバタと騒がしい音が聞こえる。

神子の異変を感じた非番の騎士やメイドたちがアルバートと同じ様に寝間着姿のまま集まってきていた。

開け放たれたドアから部屋の中を覗き、血まみれの神子と転がった2つの死体に皆、絶句していた。


「騒ぐな、姫様は無事だ。」


リアムは落ち着いた口調で集まってきた人たちに伝えた。

相変わらず外の(ひょう)は降り止まず、時折雷も落ちている。

あまり騒いで、神子を混乱させたく無かった。


「メアリです、通しなさい!姫、大丈夫ですか!」


人混みの中を無理やりかき分けて、メアリが入ってきた。

転がった死体と血まみれの室内を見て、小さく悲鳴をあげる。

だが、神子がアルバートに抱きしめられているのを確認すると、すぐに正気に戻ったようだ。

驚いた表情がすっといつもの厳しい顔になる。

さすがメアリだ、とリアムは思った。


「姫、ゆっくりお風呂でも入って休みましょう。

メアリがお背中お流しいたしますね。

アルバート殿下のお部屋のお風呂貸していただけますか?」


出来るだけ笑顔を作って、優しく話しかけるメアリ。

この場から早く神子を引き離すことをメアリは優先したいらしい。

アルバートは頷いてから神子を抱き上げ、立ち上がった。

くるっと、部屋の入り口のほうに向きを変えた瞬間、神子がひっと短い悲鳴を上げてアルバートにしがみついた。


「男性の皆様、申し訳ありませんが壁の方を向いて後ろで手を組んでいてください。」


神子の様子を見たメアリが騎士たちに命じる。

騎士たちは大人しくそれに従った。

神子は男が怖かったのだろう。

ぎゅっとアルバートの服を握った手は緩まなかったが、少しだけ安心したようだった。


神子とアルバート、メアリは3人で神子の部屋を出ていったが、リアムは現状の把握のためその場に残った。

斬り落とした首2つを持ち上げて、近衛騎士の隊長に見せつける。


「こいつらは誰だ。俺は見たことのない顔だが。」


「今日の夜の番でございます。

夜会に人を割きましたので、夜は王宮の騎士に応援を頼んでおりました。」


偽物の騎士かと思ったが、本物の騎士で夜の番をしていたものだと知り、リアムは頭を抱えたくなった。

近衛騎士を信用できないとなると、リアムとアルバートが夜も神子の警護をするしかなくなってしまう。


――現実的じゃなさすぎる。


今、リアム1人で考えても答えは出なかった。

アルバートとも相談のもと、人員を厳選することを考えなくてはならない。


――本当に殿下を毎日添い寝させるか。


それはそれで他の問題が起きそうな気もしたが、こんな風に襲われるよりましだろう。


「近衛騎士団の団長にどう始末をつけるつもりか、と聞いておけ。」


リアムに命令された隊長は敬礼して、承知いたしました、と返事をした。

持っていた生首を地面に投げ捨て、片付けるように他の騎士たちに命令してからリアムは部屋を出る。

すぐにでも神子のところに行きたかったが、リアム自身も返り血が顔までかかっていた。

神子のところにこのまま行くわけにはいかず、血を洗い流そうと浴場に向かった。



リアムが浴場につくとそこには先客がいた。


「お前も血を流しに来たのか。」


湯けむりの中から聞こえてきたのはアルバートの声だ。

そうなると今、神子はメアリと2人きりだ。

リアムはまた襲われないかと不安になった。


「殿下、のんびり風呂に入っている場合じゃないでしょう。

血を流したらすぐに姫様の元に戻らないと。」


「俺も出来ることならずっと姫の元にいたいが、メアリから多少時間を開けて戻ってこいと言われている。

女にしか分からないこと、男に聞かれたくないこともあるってな。

あれだけ人が集まっているんだ。

今から姫に危害を加えることは難しいだろう。」


リアムに言っているようでアルバート自身に言い聞かせるようにいった。

外の(ひょう)は小さなものに変わっていたがまだ降り続いている。

アルバートは神子の心中がどれほど荒れているかを考えるとすぐにでも戻って抱きしめたかった。

だが、メアリがの言うことも最もだ。

自分の思いよりも今は神子を優先させなければならない。


リアムもアルバートとメアリの意見は分かるのだが、部屋の前の警備だけでもしようと血を洗い流すだけで浴場を出ることにした。

そんなリアムを見てアルバートも結局はゆったりしていることなど出来ず、同じ様に浴場を出た。



神子がいる自室の前まで2人で戻ると、神官たちが騎士に殴りかかっていた。

事の顛末を聞いたのか、神子になんてことをしてくれたんだと顔を真っ赤にして激怒している。


「お前ら落ち着け。

襲ったのがこいつじゃないことくらい分かっているだろう。」


リアムが間に入って神官たちをとめた。

アルバートもリアムも神官たちの気持ちが痛いほど分かったが、今いる騎士を殴ったところで何の解決にもならない。

集まった神官の中の最年長で思われる男が前に進み出た。


「姫様をお守りするはずの近衛騎士にこんなことを起こされて、我々に黙っていろと?

これから一体誰に姫様を任せればいいのですか!」


「それは、…こちらが聞きたいくらいだ。」


リアムは神官の問いに答えれず、うなだれてしまった。

近衛騎士全員が神子を襲おうと思っていないことは理解している。

むしろ、そんなやつは今回の2人くらいだろう。

だが、その2人を放置して神子の警護につかせた近衛騎士団を神官もアルバートもリアムも信用出来なくなっていた。


「お前達の気持ちも分かるが、今すぐにどうにかしろと言うのは無理な話だ。

神子の警護については明日中に体制の変更を考えるから、待ってくれ。」


アルバートは出来るだけ冷静に神官たちに命令する。

正直、明日中に結論を出せる保証などなかったが、そうでも言わないと神官も納得しないだろう。


「こちらに姫がいらっしゃるのに騒がないでいただけますか。」


アルバートの部屋からメアリが出てきて、押し殺したような声でいった。

反論しようとしていた神官たちもこれにはぐっと押し黙るしかない。


「…今日は私達もこちらに見張りに立たせていただきます。」


顔は相変わらず激怒した表情のままだったが、ここで揉めてもどうしようもないことも分かっているのだろう。

振り上げた拳をおろしてくれたことにアルバートは安堵した。


「メアリ、姫に怪我は無かったか。」


「みぞおちあたりに殴られた形跡がありました。」


神官たちがざわめく。

また騒ぎだすことはなかったがお可哀想に、と嘆き出した。

アルバートとリアムも渋い顔をする。

防げる手立てがあったはずだとか、もっと早く対応出来ていればだとか、今更考えたところでどうしようもないことばかりが頭に浮かんだ。


「皆様、姫を刺激しないように、今日はくれぐれもお静かにお願いいたします。

殿下、リアム様、姫がお待ちです。」


メアリは集まった神官やいまだ慌ただしく片付けを進めている騎士たちに念を押してから、アルバートたちを部屋に招き入れた。

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