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5

夜会のあと、部屋に戻った神子はなんだか様子がおかしかった。

カリーナとレティシアが帰ってしまい寂しいのかとも思ったが、不安そうな顔で部屋の中を見回すあたり、何か違うことに原因がありそうだった。


「姫、何かありましたか?」


神子は困ったように床を見つめながら首を横に振った。

どうみても、何かある表情をしている。


「悩み事があるなら、何でも話してください。

男性に話しにくいことなら私がいくらでも聞きますから。」


メアリも神子に優しく話しかけるが、相変わらずその表情は硬い。

先ほどまで明るかった神子に何があったのかアルバートは全く分からなかった。


「アル、今日は私が眠るまでいてくれますか?」


珍しく甘えてくる神子にアルバートは嬉しくなって抱きついた。

リアムとメアリのため息が聞こえてきたが無視して、神子の頬にわざとちゅっと音を立ててキスする。


「眠るまでと言わず、朝まででも一緒にいますよ。」

「だめです、ちゃんと自分の部屋で寝てください。」


神子から甘えてきたのに突き放されるアルバート。

調子に乗ったのが原因だったのかもしれないが、少しがっかりした。


――また、添い寝だけでもしたい。


結局、神子とアルバートの関係は全く進んでいない。

抱きしめたり、キスしたり、スキンシップ多めに過ごしているのだが、全然神子がなびかないせいだ。

好きだ、愛してるとアルバートが言っても話題をそらされる。

添い寝もアルバートと2人で飲んだあの夜以来、1回もなかった。

アルバートは添い寝の先の段階など神子の中で存在しないんじゃないかと思ってしまう。


アルバートから離れ、風呂に向かう神子を見送ってから自分も自身の部屋に戻りシャワーをあびた。

神子が眠るまで隣にいるだけで別に何があるわけでもないが、1%でも可能性があるなら準備しておきたい。

神子の部屋に行くと、そんなアルバートの下心を見抜いたリアムに呆れたような顔をされた。


「隣の部屋に俺、いますからね。

くれぐれも過ちは侵さないでいただきたい。

もしなにかあったときは、この剣の最近の犠牲者になって頂きます。」


腰に携えた剣に手をかけほとんど脅しのような言葉を言って、リアムは隣の騎士の部屋に入っていった。

何だかんだ言いながらちゃんと神子と2人きりにしてくれるあたり、リアムもアルバートに気を使ってくれているのだろう。


神子が風呂から戻ってくると夜会で疲れたのか、すぐに寝ると言ってベッドに入っていった。

アルバートはその横にスツールをおいて、神子に布団をかけてから腰掛ける。


「アル、私が寝たら必ず自分の部屋に戻ってくださいね。」


神子が念押ししてくる。

そこまで信用されていないかと少しアルバートは残念な気持ちになった。

今のところ何もするつもりはない。


「心配なさらなくても分かっていますよ。」


ちょっとぶっきらぼうに返事を返すと神子がアルバートの手を握る。


「眠るまでこうしててください。

おやすみなさい。」

「おやすみなさい、姫」


返事をして手を握り返したアルバートを見てから、安心したように神子は目を閉じた。

アルバートは無防備な神子に先ほどまで何もしないつもりだったが、理性と本能がせめぎ合い始める。

ここで、何かしたら今度こそ神子の信頼を損なうだろうと、頬にキスを落とすだけに留めておいた。


――こんなことばかりしているから、姫は男として俺を見てくれないんだろうか。


女性は押してばかりいるとなびかず、たまに引かれたときに男を意識しだすと誰かから聞いた気がする。

アルバートは今度、試してみようかとも思ったが、自分で神子から離れることができる気がしなかった。

結局、惚れた方の負けだなと頭の中で考えながら神子の顔を見つめた。


しばらくすると神子の繋いでいた手から力が抜けた。

一定の感覚で寝息も聞こえてきて、完全に寝入ったようだ。

アルバートは神子の手を布団の中にしまい、名残惜しそうに神子の部屋を出た。


「アルバート殿下、姫様はおやすみになられましたか?」


神子の部屋を出たところで、部屋の前にいる騎士に声をかけられた。

今日は夜会のために人を増員していたため、いつもとは違う騎士2人が部屋の前の警備を担当していた。


「あぁ、そうだが、どうした?」


アルバートが聞き返すといえ、と返事をして頭を下げられる。

初めての神子の部屋の警備で勝手が分からないのかもしれない。

神子の身辺を警護する騎士は神子に妄信的なものも多い。

神子が今、何をしているのか知りたい人間もいるだろう、とアルバートはあまり気にすることもなく自室に入り休むことにした。




「やめて、こないで!」


夜、リアムは神子の悲鳴で飛び起きた。


――またあの馬鹿殿下が理性でも飛ばしたか?


そう考えながらアルバートにまたお灸を据えてやろうと、神子から下賜された剣を手に取った。

音を立てないように、そっと神子の部屋へと繋がるドアを開ける。

神子は口を塞がれているようでくぐもった声が聞こえた。


――殿下相手にしては様子が変だ。


理性を飛ばしきった男がわざわざ口を抑えるようなことをするだろうか、とリアムは疑問に思った。

薄暗い中、目を凝らしてみると男が2人いることに気がつく。

1人はベッドの脇に立っており、もう1人は神子に覆いかぶさっている。

2人とも近衛の騎士の格好をしていた。


――暴漢か。騎士がなんてことを。


すぐに剣を抜いてしまいたい気持ちになったが、そんなことをすれば覆いかぶさっている方に神子を人質に取られてしまうと思い直す。

幸い2人は神子に気を取られて全く他を見ていない。

そっと音を立てずに立っている男の方に忍び寄り、真後ろまで近づいた瞬間、剣を抜きそのまま男の首をはねた。

血を撒き散らしながら床に倒れる身体と、転がっていく首。

その音に気がついて、神子の上にいた男もこちらを振り向くが、リアムはその男が次の行動に移る前に同じ様に、首を斬り捨てた。

王宮の警護しかしたことがない騎士と、幾度となく死線をくぐり抜けてきたリアムとでは力の差は圧倒的だった。


神子の上に転がってしまった男の死体を蹴り飛ばし、神子の様子を伺う。

返り血を頭から浴びた神子は錯乱しているようで、ひっひっと吸うことも吐くことも出来ていない呼吸を繰り返していた。


「姫様、お怪我は。」


神子を落ち着けようとその肩に触れようとした瞬間、神子がびくっと身体を震わせた。

同時に、切り裂くような神子の悲鳴が上がった。

窓の外から部屋が明るくなるほどの閃光が走り、空が割れたのかと思うような轟音が響く。

リアムは神子に触れるわけにいかず、そっと伸ばした手を引っ込めた。

リアム1人で神子を落ち着かせることは出来ない。

夜の番をしていたメイドはどうしたのかと部屋を見回すと、部屋の入口付近に倒れた女性の影が見えた。

今日の夜の番をしていたエヴリンだ。

誰か助けを呼びに行くとしても神子を1人にすることも出来ず、リアムは途方にくれてしまう。

外からガツンガツンと硬いもので建物を殴るような音が聞こえてきた。


――(ひょう)だ。


大きな雹が大量に降るのが窓から見えた。

リアムは焦っていると神子の部屋のドアがノックもなくあいた。


「姫、どうなさいました!」


言いながら駆け寄ってくるのは寝間着姿に靴を履いただけのアルバートだった。

突然の雷に神子の異変を察して駆けつけたのだろう。

一瞬血まみれの室内を見て目を見開いたが、すぐに神子を抱きしめようと手を伸ばす。

神子はアルバートにたいしてもびくっと震えたが、アルバートは気にせずに神子を腕の中にしっかりと抱きしめた。

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