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夜会の会場にはアルバートの予想通り、何人もの近衛の騎士が立っていた。

全員神子を見て一瞬固まるが、すぐに視線を神子ではない方向に向ける。

騎士ともなればそのあたりのマナーは教育されているのだろう。


「カリーナさん、レティシアさん!」


エスコートしていたアルバートの手を離し、ゲストの2人の元に走っていってしまう神子。

神子の向かった先を見てアルバートはまた絶句しそうになった。

カリーナの淡い緑色のドレスは神子のドレスと全く同じ形をしている。

もちろんスカートの丈は短い。


「レティシアさん、約束が違いますよー。」


神子がレティシアのドレスを文句を言いながら指さした。

レティシアのドレスは黒色で上半身こそ神子やカリーナと同じものだが、スカートはきちんと床につく長さになっている。

刺繍も2人と同じものが入っているあたり、3人で色違いの同じドレスを着る予定だったのだろう。

逆にレティシアのドレスでは何故いけないのかとアルバートは神子を問いただしたかった。


「あなたたちみたいなドレス、わたくしが着れるわけないですわ。

はしたなくってよ!」


神子にかなり失礼な物言いではあるが、この場で1番常識的なのがレティシアなので誰も注意もしなかった。

レティシアが実家のローレンツ伯爵家から連れてきた執事のみが、青い顔で必死にレティシアを止めようとしている。

そんは執事とは逆に、アルバートは心の中でもっと言えとレティシアを応援していた。


「この短い丈のドレス、可愛いじゃないですか。

さすが姫様ですね。

恥ずかしがらなくてもレティシアさんにきっと似合いますよ。」


カリーナもこのドレスを気に入っているらしい。

似合うとか似合わないとかの話しで、レティシアはドレスをロング丈に変えてきたわけではきっとないだろう。

常識を逸脱したデザインは着れないということを、全く理解しない神子とカリーナにレティシアは呆れたような顔をしていた。


3人を座らせて夜会というなの単なる食事会を始めると、さすがに足が見えなくなったのでアルバートはほっとした。

そこにローレンツ伯爵家の執事がよってくる。


「アルバート殿下、うちのレティシア様が非常に失礼な物言いをやめないのですが…。」


この執事はアルバートとレティシアが密会していた当時よく世話になっていて、アルバートにとっては頭が上がらない相手だ。

わりとアルバートの言うことならレティシアは聞くので、どうにかしてほしいらしい。


「いや、姫はああいう失礼な物言いをするレティシア嬢を気に入っておられる。

気に病まなくても大丈夫だ。」


相変わらずドレスのデザインをカリーナと2人でレティシアに見せて、片っ端から否定されているようだったが、神子は楽しそうだ。

アルバートもまだ子供の頃、アルバートが何をしても否定されない環境に恐怖した覚えがある。

アルバートにとってそこから救ってくれた人間が、メアリとスタンであったのと同じ様に、カリーナとレティシアには好きに言わせておいたほうがいいだろうと考えていた。

レティシアの執事もアルバートの顔色を見て、レティシアが罰せられる可能性はないと思ったのか、一礼してアルバートから離れていった。


「そういえば、スタンさんをカリーナさんが犬にしたがってるってレオンハルトさんから聞きましたよ。

その後どうなりました?」


神子がなんの悪気もなくまた犬の話をしだす。

今日はいつものメイドたちの他に近衛の騎士がいる。

騎士たちは一瞬驚いた表情をして神子とカリーナに目線を向けていた。

話を知っているはずのレティシアですら引きつった顔をしていた。


「お兄様がスタンに直接許可をもらえるならいいって言われて…。

本人に犬になってって頼んだんですけど、断られてしまいました。

そのような話を令嬢がしてはいけない、と何故かスタンに説教までされました。」


話しながらがっくりと肩を落とすカリーナ。

レオンハルトはスタンが常識人であることを見抜いていたのだろう。

そんな話を持ち掛けられたスタンの表情をアルバートは見てみたかった気がした。


「それは残念でしたね。」

「レオンハルト様も常識知らずの妹を持って大変ですわね。」


神子とレティシアの反応の違いをカリーナはどうとったのか分からないが、何故かうんうんと頷いている。

都合の悪いことは聞こえない人間なのかもしれない。


「姫様はどういう経緯で犬を飼うことになったんですか?

私も参考にしたいです。」


まだカリーナは諦めていなかったらしい。

神子はそんなカリーナに困った顔をしていた。

リアムの首を落とす代わりに魔素をつかって服従させました、なんて言えないのだろう。


「リアムが犬にしてほしそうだったからです。」


神の言うことを信じるならそれも正解なのだが、アルバートが見た事実とは随分違う。

リアムの思いとも違ったのだろう。

リアムの眉間には恐ろしいくらいのシワがよっていた。


「姫様、俺はそんなことを言った覚えはありません。

あなたが俺に靴を投げて『私の犬になれ、分かったらその靴拾って履かせろ』と仰ったのではありませんか。」


さすがに自分の意思で犬になったと思われたくなかったのか、リアムは神子に反論するように会話に割って入る。

リアムの話の内容もどうなのかとアルバートは思う。

カリーナは興味津々といった感じでリアムの話を聞いていたが、レティシアはまだこの話を続けるのかと頭を抱えるような仕草をしていた。


「で、犬になりたかったリアム様は姫様に靴を履かせて差し上げたわけですね。

すごい、ロマンチックです!」


何故かよく分からないが、カリーナの中で話が1つにまとまったらしい。

神子も満足したのかうんうんと頷いている。


「カリーナさん、絶対に姫様のマネをしてはいけませんよ。

あなたがそんな事しても成功するはずがありませんからね。」


レティシアが今にも靴を投げる相手を考えていそうなカリーナを必死に止めていた。

いつもの余裕たっぷりのレティシアと違い、焦っているレティシアはアルバートからみても新鮮だった。

ローレンツ家の執事も珍しいものを見る目でレティシアを見つめていた。


女性3人の楽しげな話は夜会が終わるまでずっと続いた。

アルバートが窓の外をみると魔素が今までで1番多く振っている気がする。

好きなドレスに仲のいい友達。

それだけで魔素を降らせてくれる神子に心の中でそっと感謝した。

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