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15

謁見の間には、貴族たちの他にエリオットとフレドリックも来ていた。

アルバートを見るとざわついていた部屋の中が静かになる。


「姫様は?」


貴族の誰かから声が上がる。

アルバートはその声の方を睨んだ。


「先触れも出さずに姫に謁見できると思うな。

そういう姫を軽んじる態度が見抜かれているからこんな事になるんだろ。」


鼻で笑いながら言うと、貴族たちは押し黙った。

図星だったのだろう。


――やっぱり姫を連れてこなくて正解だったな。


自分の利益ための薄っぺらい謝罪など、フレドリックのときと同様にすぐに神子に見抜かれてしまうだろう。

次は怪我人の出るような雷が落ちるかもしれない。


――1番、姫を恐れているのは俺かもな。


アルバートは王子として、国を荒れさせたくはなかった。

出来るだけ死者を出さず、天候を荒らさず、平穏な日々を民に与えたい。

それが上に立つものの責務でもある。

だが、今は神子を第一にすれば天候が荒れ、天候を第一にすれば神子に我慢を強いることになってしまう。

小さな女性ひとり幸せにすることの出来ない現実がアルバートは辛かった。


「姫から『国に忠義を尽くせ』とお前たちに伝えろと言われた。

お前らが何をするつもりだったか姫は見抜いておられる。

次、お前らが何か起こそうとしたときには、カルノーと同じ末路を辿ることになると肝に銘じておけ。」


頼むからもう余計なことをするな、とアルバートは願いを込めて貴族たちを脅した。

貴族たちも神子の言葉だと言われれば文句も言えず、ただ口々に御意、と言いながら頭を下げるだけだった。


「太陽がなくなったことに関しては何か言っておられたか?」


肩を落とす貴族たちのことはどうでもよさそうに、フレドリックがアルバートに聞く。

国としては罪に問うことも出来ない貴族たちよりも、太陽がなくなったことのほうが問題だった。


「…姫は何か向こうの言葉で呟いてはいたが、思い当たることはないらしい。

今、神殿で神に聞いてみると。

リック、あまりことを急かないでほしい。

姫をこれ以上追い詰めると碌な事にならない気がする。」


フレドリックもエリオットもアルバートの言葉に頷いただけだった。

結局、誰にもどうすることも出来ない。

分かってはいたが、3人とも王族としての不甲斐なさを感じていた。


これ以上話すことはないだろうと、アルバートはエリオットに一礼してから謁見の間を出た。



神子の部屋に戻ると、すでに神子とリアムは部屋に戻ってきていた。

ソファーに座る神子は泣きそうな顔でアルバートを見つめていた。


「貴族の方たちはどうでしたか?」

「そちらは特に問題ありません。

貴族たちもすぐに引き下がりました。

神にはお会いできましたか?」


アルバートの質問に神子は俯く。

会えなかったのか、会えたがいい話ではなかったか。

アルバートは何も言わず、神子の返答を待った。

神子の唇が泣くのを我慢しているかのように震えていた。


「あ、あの、やっぱり太陽がなくなったのは私が原因でした。

ごめんなさい。」


震える声で神子が言う。

ぎゅっと握りしめた神子の手の指が力を入れすぎて白くなっているのが痛々しかった。

アルバートは座る神子に目線が会うようにしゃがみ、そっと手を撫でた。


「先ほども言いましたが、何が起こっても姫のせいではありません。

誰もあなたを責めたりしませんし、謝らないでください。」


神子の力で天候が荒れたり、太陽がなくなるのは事実だ。

しかし、責任は神子をそんな思いにさせているこの世界の住人が持つべきだとアルバートは思っていた。

神子にアルバートの思いが伝わっていないことも分かっているが、言わずにはいられなかった。


「…ありがとうございます。

それで神様は太陽がなくなったのは、私が自分の気持ちを抑え込みすぎているからだそうです。

太陽を戻すには天候を荒らすしかないと。」


神子の言葉にアルバートはすぐに返事を返せなかった。

神子がきて数ヶ月たち、後もう少しで収穫出来そうな作物もある。

せめてその収穫が終わってからにならないかと思ってしまう。

天候の悪化がスタンのときやフレドリックのときと同じ様に数分で収まる範囲ではもうないのだろう。

どのくらいで収まるかによっては最悪、今配給している国庫の食料も足りなくなる。


――従者の病にかかったままなら天候を荒らせばいいって言えたのに。


神子を最優先したい気持ちと王族としての責務が自分の中でせめぎ合う。

神子の顔を見続けることすら辛くて、そっと目線を伏せた。


「アル、もうひとつ方法があります。

私を殺して、新しい神子を呼べばまた元通りになるんです。」


そう言われてアルバートははっとして目線を戻した。

神子と目が合う。神子は微笑んでいた。

その穏やかな顔は覚悟を決めた死刑囚のように見えた。


「ありえません!」


そう怒鳴ったのはリアムだった。

般若のような形相でアルバートの胸ぐらを掴んだ。


「何ですぐに天候を荒らせといわない!

それでも男か!」


怒鳴りながらアルバートを床に叩きつける。

メアリの叫び声が聞こえた。

背中が痛かったが、リアムの怒声にアルバートは目が覚める思いだった。

従者の病が治ってもアルバートの愛しい人は神子だけだ。


――俺は今、何と神子を天秤にかけようとした…。


神子の小さい背中にとてつもない重圧を背負わせようとした自分自身が怖かった。

アルバートを叩きつけた後、リアムは神子の肩に掴みかかる。


「姫様も何を考えているんですか!

死んで解決するわけないだろ!

次の神子?ふざけるな!」


怒鳴りながら神子の肩を揺さぶるリアム。

ごめんなさい、と怯えた顔で神子は答えた。

リアムはそのままぎゅっと神子を抱きしめる。


「俺は姫様の犬です。

他の人間があなたを殺せと言ったら、あなたを連れてどこまでも逃げます。」


神子の目からぼろぼろと大粒の涙がこぼれ落ちる。

外からはざーざーという激しい雨の音が聞こえてきた。

神子は何か喋ろうとするが、その声はすべて嗚咽に変わっていく。

こんなに号泣している神子をアルバートは初めて見た。


リアムが言った言葉は前にアルバートが神子に言った言葉だ。

その言葉を今、神子に伝えるのがアルバートではないことが悔しかった。



神子が泣き止んでも雨が止むことはなかった。

泣き止んでからもリアムがずっと神子の隣に座って肩に手をまわしているのが気に入らなかったが、今のアルバートに文句を言う権利もない。


「ねぇ、みんなとお酒飲みたいです。

今日ぐらいは付き合ってくれてもいいじゃないですか。」


メアリが用意した蒸しタオルを目にあてながら、神子がつぶやいた。

準備してきますね、と言いながらメアリが部屋を出ていった。

まだ夕飯の時間にもなっていないのに、いつも口うるさいリアムもメアリも反対しない。

今日は3人とも神子を甘やかしたい気分だった。


「リアムとメアリはお酒強いの?

アルとは飲んだことあるから知ってるけど。」


目に被せたタオルを取りながら神子が話す。

パンパンに腫れた目に似合わない明るい神子の表情と口調に逆にアルバートは心配になる。


「俺はまぁ軍人でしたからそこそこ飲めるほうかと。

メアリとは前一緒に飲んだことありますけど、あれはザルです。

姫様は弱そうですよね。」

「私もそこそこ飲めるほうだよ。」


アルバートは噴き出しそうになった。

あんなアルコールの薄い酒で酔える人間が強いとは言えない。

それとも、神子の世界はあれが強い方だったんだろうか。


「アルは弱い方ですよね。前もグラス1杯だけでっ…」

「姫、それはリアムの前では言わないほうがいいですよ。」


アルバートは神子が何を言おうとしてるか察して遮る。

何しようとしたんだとリアムに問い詰められるのはアルバートだろう。

実際何もなかったが、詮索されるのは面倒だ。

神子は何を自分が言おうとしていたことの意味に気づき顔が赤くなった。

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