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14

飴をなめた神子はゆっくりと目を閉じていく。

コロンと神子の口から落ちた飴を回収して、アルバートはため息をついた。

この飴は、睡眠薬だ。

天候が暴走したとき、一時的にそれを抑えるために常備されている。

これを最後に使ったのは前の神子が自殺する前夜だった。

アルバートにとってもメアリにとっても苦い思い出が蘇る。

外は相変わらず黒い影が太陽を喰い続けほとんどがなくなり、昼間なのに薄暗かった。


「何があったんですか。」

「カルノーが姫を人殺しだなどと口汚く罵った後、姫の落とした雷で焼き殺された。」


メアリが目を見開いて信じられないという風に息を呑む。

メアリもまさか神子に人を殺す力があるとは思っても見なかっただろう。

2人の間に沈黙が流れる。


睡眠薬で眠らせている今はいい。

ただ、薬が切れて起きたあとが問題だ。

この後、どう神子に接するべきなのかアルバートには考えても答えが分からなかった。



しばらくして、リアムも部屋に帰ってきた。

寝ている神子の頭を撫で、ため息をつく。


「リアム、犠牲者の数は?」


何人か兵士が倒れていたことを思い出し、アルバートはリアムに尋ねた。


「カルノーだけです。

周りのやつは一時的に意識を飛ばしていただけでした。

もう普通に仕事に戻ってます。

スタンも手枷が焼かれただけで、若干手首に火傷があるそうですがほぼ無傷です。

姫様が拘束を外した人間を処刑していいか分からないから、今は牢屋に入れると。

今のところ、神の御業だと貴族どもは騒いでいるだけで、特に姫様にたいして何か言うようなことはありませんでした。」


神の御業か、その通りだな、とアルバートは思った。

カルノーに落雷が落ちたとき、確実に兵士たちはカルノーに触っていた。

あれが通常の雷なら全員巻き添えになっていたはずだ。


「現時点であれだけの力を見せつけられて、姫様を魔女だと言えるやつはいません。

魔女だと罵れば、次に雷に打たれるのはそいつでしょうし。

あとは、太陽が消えたことで軽いパニックが起きてますが、それはどうしようもないですから。」


とりあえず、神子の立場が悪くならなさそうでアルバートはほっとした。

やはりこれからどうするかが1番の課題のようだ。

多少、天候が荒れることも覚悟しておくよう貴族たちに通達を出そうか悩む。


「とりあえず、1番は姫に自殺されないことを考えましょう。

太陽が戻ってくるのかは分かりませんが、天候についてはこの後荒れたところで自ずとよくなってくるはずです。」


出来るだけ明るい口調でメアリが言う。

自分たち3人が暗い表情でいれば、神子も気を使うだろう。

出来るだけ普段通りに、何もなかったように過ごすのが正解な気がする。


「メアリ、夜の番をするメイドたちに姫が夜中に起きだしたら必ず声をかけるように言っておいてくれ。

あと、紐状のものと刃物はこの部屋から片付けておくように。」


分かりました、と言ってメアリは部屋の中に自殺に使えそうなものがないか探し出した。

夜中もアルバートが一緒に付き添えればいいのだが、気力も体力も続かないのは目に見えていた。

ある程度、メイドたちに力を借りるしかない。


「姫、俺は誰が何と言おうと姫の味方ですよ。」


ささやきながら神子のおでこにキスを落とす。

神子の表情が和らいだ気がして、アルバートの気持ちも少し和らいだ。

いつもはこういうことをすると文句を言ってくるリアムとメアリも今日は何も言ってこなかった。


睡眠薬の効果は3時間程度で切れる。

薬が切れるまでアルバートは眠っている神子の穏やかな顔を眺めて心を落ち着けた。



3時間を少し過ぎた頃、神子はゆっくりと目を開けた。


「おはようございます、姫。

ご気分はいかがですか?」

「お、おはようございます…?」


アルバートに声をかけられた神子は戸惑ったように返事を返した。

神子が起きても天候が荒れないことにとりあえずは安堵する。


「アル、天気は大丈夫ですか?」

「はい、落ち着いていますよ。

ただ、太陽が…消えました。」


どう伝えていいのか分からず、結局素直に伝えることにした。

神子はベッドから起き上がり、薄暗い窓の外を確認する。


「今、何時ですか?

あと、太陽が消えてからどのくらい経ちました?」

「午後2時すぎです。

だいたい3時間くらいだと思いますが…。」


神子は太陽がなくなったことに心当たりがあるのだろうか。

アルバートの言葉に驚いている。


「皆既日食にしては長すぎる。

…私のせい?こんなに頑張って抑えてるのに。」


独り言のように向こうの言葉を交えながら言う神子。

その表情は今にも泣きそうに歪んでいる。

外にはしとしとと雨も降り出した。



――コンコン


「帰れ。」


ノックの音に誰かも確認せずにリアムが返す。


「すいません、ジェイです。

アルバート殿下と姫様に言付けがございます。」


入って、と神子が返事をしてジェイを部屋に入れた。

言付けの内容を先にアルバートだけが聞いて神子に伝えるか考えたかったが、そうもいかないようだ。


「貴族が何名か姫様と謁見を申し込んでいます。」

「…誰か殺してほしいって話しですか?」


神子は窓の外を見つめたまま、ジェイのことを見ようともしない。

冷たい声が神子の心の中を表しているようだった。


――そんな話ならその貴族どもをさっさと殺すべきだな…。


アルバートの心の中も神子と同様に冷え切っていた。


「いえ…、実は謁見を申し出ている貴族は、今日家に雷が落ちたものです。

怪我人などは出ていませんのでご安心ください。

全員、姫様に謝罪したいと言っております。」


ジェイはアルバートに今回、雷が家に落ちた貴族たちの家名が書かれている1枚の紙を手渡した。

それは前にスタンがあげた反乱に参加する予定だった者たちとぴたりと一致している。

ジェイは反乱の話をどこまでしていいのか迷い、アルバートにこの紙を渡してきたらしい。

神子の力にアルバートは鳥肌がたった。


「雷、家にまで落ちたんだ。

謝罪って私が怒っているから落ちたって思われてるんですね。

謝るのは私のほうなのに…。」

「いえ、雷が落ちた家の貴族たちは先日の反乱に参加しようとしていた者たちです。

証拠がなく捕まえることは出来ませんが、姫からの伝言として俺が『国に尽くせ』と伝えれば十分です。

姫がわざわざ謁見する必要はありません。」


どう伝えるか迷ったが、神子の力の前に嘘をついても意味がない気がした。

アルバートはそのまま謁見の間に来ている貴族に会おうと立ち上がった。

でも、と神子がアルバートをとめる。


「姫、太陽が隠れようと、どこに雷が落ちようと、それは神のご意思です。

あなたが責任を負う必要はありません。」


ついてこようとした神子の手をそっと両手で包み、安心させるように微笑んだ。

この期に及んで無駄な謝罪を直接神子に聞かせて、疲弊させることだけは避けたかった。

どうせ自分たちが助かるためにくだらない言い訳ばかりするに違いない。


「じゃあ私は、神殿で本当に神様のご意思なのか直接聞いてきます。

あと、太陽の戻し方も。リアム、つきあって。」


リアムが御意、と返事をする。

神と神子が会ったときは毎回ろくな事が起こらない。

アルバートもついて行きたい気持ちは山々だったが、ぐっと自分を抑えた。

自分の王子としての仕事を全うすることを今は優先することにし、神殿に向かう神子の背中を見送り、自身は謁見の間へと急いだ。

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