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2週間後、アルバートは神子とリアムとともに処刑場にきていた。

今日はスタンとカルノーの処刑の日だ。

他の大勢の貴族たちも出席している。


カルノーが王都についてからすぐ、形ばかりの裁判が開かれ、2人の公開処刑が確定した。

公開処刑と言っても市井で行われるわけではない。

王宮の中にある処刑場で、主要な貴族の前で首を落とされる。

昔は市井で行っていたらしいが、偶然見かけてしまった婦人や子供が倒れてしまう事件が頻発し、このような形に落ち着いたらしい。

公開処刑をする目的は単に辱めることではなく、重罪人がきちんと死んだことを開かれた場で立証するためだ。

牢の中で毒を煽って死んだ発表だけでは、逃がしたんじゃないかと政府に懸念感を抱かくものが少なからずいる。


この場に神子を連れてきてしまったことをアルバートは後悔していた。

何度か処刑に立ち会ったことはあるが人が殺される瞬間なんて気分が悪くなるだけだ。

しかし、基本的に被害者は公開処刑にくる義務がある。

きちんと殺されたことを確認させるためだ。

被害者が婦人や子供の場合はその家の亭主が代理で出席することが可能だが、神子が結婚していない以上、処刑されたことを確認してもらわなければならない。

きっと処刑のあとは雷雨になるだろうと、アルバートとリアムは事前に話していた。


もうひとつアルバートには懸念点があった。

それはスタンの死を悼んで自分が泣いてしまわないかということだ。

自分を殺そうとした人間の死に涙しているアルバートを神子はどう思うのだろうか。

処刑には納得していても、感情的に割り切れない部分は当然あった。


神子は処刑場に来てから全く話さない。

用意された椅子に座り、緊張したかのように何度も周りを見渡していた。

アルバートとリアムはそんな神子の両側から挟むように座り、落ち着かせるように話しかけたり、肩を撫でたりしていた。


――嫌なら部屋に帰ってもいいのに。


リアムかアルバートを代理にすると神子が言えば、ここにいろと強制する人間もいないだろう。

先ほどから何度もそれを伝えているが、神子は首を立てに振らなかった。

神子は妙なところが頑固だ。

人に慣例です、と言われると嫌なことでも従ってしまう。

そもそも神子の耳に今日の処刑の話しを入れなければよかった、とアルバートは反省していた。



「只今より、カルノー元辺境伯ならびに、その子息スタンの処刑を開始する。」


カイエンの重々しい口調とともに、処刑場に兵士たちに囲まれたカルノーとスタンが姿を現した。

主要な貴族の処刑のため、わざわざ総司令官が立ち会うらしい。

2週間前ぶりに会ったスタンはまた痩せた気がする。

その姿だけでもアルバートの気持ちがざわついた。


処刑台に上がり、2人並んで両膝をつかされる。

汚い服でしばられ、猿ぐつわを噛まされる姿に貴族としの面影はない。

スタンとの思い出がアルバートの脳裏を駆け巡り、一筋の涙が頬を伝う。

神子にバレないようにそっとその涙を拭った。


処刑台の上の2人は兵士に肩を押され、首を前に差し出すポーズをとらされている。

アルバートは神子を安心させようと手を握るが、神子の手が震えていることに気がついた。


――もう姫は限界だな。


雨こそ降っていないものの分厚い雲が立ち込め、あたりは昼間なのに薄暗い。

処刑までの手順は順調に進み、兵士は最後のひと言を言わせるためにカルノーの猿ぐつわを外そうとしている。

ここで命乞いでもされれば、神子はまた罪悪感に苛まれるだろう。

リアムを見ると同じことを考えていたのか目があった。


「姫様、部屋に戻りましょう。

あとはアルバート殿下に任せておけば大丈夫です。」


本当は神子に付き添ってアルバートもこの場を立ち去りたかったが、今日だけはスタンとの最後の約束を優先しなければならない。

立ち上がったリアムに握っていた神子の手を渡し、神子に部屋に戻るよう促した。


「逃げる気か!私はお前のせいで今日、殺されるんだ!

お前が山を崩したせいで何人が死んだと思っている!

お前は人殺しの魔女だ!」


部屋に戻ろうと立ち上がった神子に罵声がとんだ。

その声の主は最後のひと言のために猿ぐつわを外されたカルノーだった。

神子は目を見開きカルノーを見つめたまま固まってしまった。

先ほどまで静かだった空の雲と雲の間に雷が走り出し、ゴロゴロと空が鳴り出した。


――命乞いよりひどいな、最悪だ。


兵士たちもまずいと思ったのか、また無理やり猿ぐつわを噛ませようとカルノーを複数人で抑えつける。


「雷落とすくらいしか出来ん魔女に屈するな!」


兵士たちを掻い潜ったカルノーがそう叫んだ瞬間、処刑場にバン!と言う短い爆音とともに閃光が走った。

思わずその眩しさに全員目を閉じる。


――雷がこんな近くに。


アルバートが落ち着いて目を慣らそうとしている間にもう一度、近くに雷が落ちた。


――まずい、早く神子を落ち着かせないと。


焦りながらまだきちんと見えない目で必死に神子を探す。

はぁはぁと息を切らして立っている神子をほとんど手探りで見つけ、肩を抱き寄せようとするもそのまま神子は座り込んでしまった。


神子はまだカルノーを見つめているようだ。

気づけば、あたりには肉の焦げた臭いが立ち込めている。

ようやく慣れた目で恐る恐るカルノーの方を向くと、そこには焼け焦げたカルノーの死体と手枷と猿ぐつわがバラバラになり自由になったスタンがいた。

周りには兵士たち数人が倒れている。

その衝撃的な状況にその場の全員が呆然とただ立ち尽くしていた。


「どうしよう…、私が、私が、殺したの?」


ぺたんと地面に座り込んだまま独り言のようにつぶやく神子にアルバートは正気を取り戻す。

神子の目線がカルノーに向かわないように、自分の胸に神子の顔を押し付けるように抱きしめた。


「何が起こっても姫のせいではありません。」


そう言いながら神子の背中を撫でる。

神子も震えていたが、アルバート自身の手も震えていたことにそのとき気がついた。


その場にいた貴族たちもだんだんと正気を取り戻したのか、あたりが少しずつざわつき出す。

皆、神子を見る目に恐怖が浮かんでいる。

天候を荒らすだけじゃなく、人を殺せるだなんて誰も思っていかなっただろう。

神子は魔女だと言い出す連中がまた現れそうだ。


「アルバート殿下、姫様を連れてお戻りください。

俺は少し残りますんで。」


リアムの声にうなずき、腰の抜けた神子を抱えあげ足早にその場を後にした。

空がどんどん暗くなっていくのが分かったが、それを気にするほどの余裕がアルバートにはなかった。



神子殿までつくとそこにはメアリを筆頭としたメイドたちや、神官たちが待ち構えていた。

処刑場に落ちた雷を全員が見ていたんだろう。

神子は無事だと告げると、何も聞かずにアルバートに道をあけ下がっていく。

その間も腕の中の神子はただ、虚空を見つめてときおりうわ言のようにごめんなさいと繰り返していた。


アルバートは部屋に入るとベッドに神子を寝かせた。

相変わらず、神子の目にアルバートは写っていない。

ふと外を見上げると、太陽が謎の黒い影に喰われていくのが見えて、思わず立ち上がる。


――どういうことだ。


あたりがどんどん暗くなっていく原因は雲ではなかったようだ。

メアリも心配そうに外を見つめている。


「メアリ、飴を。」


アルバートの言葉に、メアリは一拍おいてから御意、と返事をし、飴を手渡した。

包み紙をとった飴をそっと神子の口元に近づける。


「姫、少し甘いものでも食べて少し落ち着きましょう。」


できるだけ不自然ではないよう微笑んでそう言いながら、軽く唇に飴を押し込むと素直に神子は口の中に飴を入れた。

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