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数日後、神子はメアリと茶会の準備をしていた。

2人はアルバートの知らないところで和解できたようだった。

リアムが神子とメアリの間に入ったらしい。

メアリはまた以前のように神子の部屋に毎日来て、アルバートに小言を言っていく。

最近はそれにリアムも加わり、なかなか神子に抱きついたりキスしたり出来ない日々が続いていた。


今日の茶会はカリーナとその友人1人という小規模なものらしい。

神子は基本的なマナーは最初から出来ていたので、友人とであれば問題ないだろう。

まあ神子のマナーに問題があったところで指摘するものもいないが。


メアリが用意した淡いオレンジの茶会用のドレスをきた神子はご機嫌なようでくるくると鏡の前で回っている。

今日のドレスはきちんと腕も足も隠れていて、アルバートはほっとしていた。


「アル!どうですか?似合ってますか?」

「ええ、非常にお似合いですよ。」


リアムやメアリにも順番に似合っているか聞いている姿は少女のようで愛らしい。

あまりにも可愛いので、抱きしめてやろうかと思ったがメアリとリアムがいることを考えて諦めた。



晴れた空に魔素がふわふわと降り注ぐ中、2人の令嬢が案内役のメイドに連れられて、神子殿の中庭に現れる。

1人はカリーナだったが、もうひとりを見てアルバートは背筋が凍りついた。


――レティがなんでここに…。


カリーナが連れてきたもうひとりの令嬢である、レティシアは神子が来る前まで、アルバートのベッドの中でのお相手だった相手だ。

最終的に、アルバートに本気になったようだったので手酷く捨てた。

神子に何かしようと思ってるのか、アルバートに復讐したいのか分からないが、とにかくすぐに追い出したかった。


「ごきげんよう、姫様。

本日は私までお招きいただきありがとうございます。

まあ、お久しぶりですわ、アルバート殿下。」


貴族の令嬢らしい美しいカーテシーを披露し、白々しく話しかけてくるレティシアに、嫌な汗がアルバートの背中を伝う。


「あ、あぁ、久しぶりだな、レティシア嬢」

「わたくしのこと、昔みたいにレティと呼ばれてもよろしいんですのよ?」


にっこりと微笑みながら恐ろしい爆弾を投げてきたレティシアに、アルバートは唖然とする。

貴族の間で愛称で呼び合うのは、家族や恋人など親しい間柄の場合のみだ。

幸い、レティシアの言った言葉の意味は神子には伝わっていないだろう。

カリーナとレティシアがしたカーテシーを真似して何故か笑っている。

周りにいたメイドたちも聞こえなかったふりを貫いてくれた。

しかし、メアリにたいしてはそうもいかない。

楽しげに談笑している令嬢たちに頭をさげて、話が聞えない位置までメアリはアルバートを引っ張った。


「単刀直入にお伺いします。

レティシア嬢とはどのようなご関係で?」

「ベッドの中の友達…です。」


もうバツが悪すぎて、メアリにたいしても敬語になった。

メアリにも大きなため息をつかれる。


「だいたいいろいろなことの想像が付きました。

あなた様の姿が目に入ると腹も立つでしょうから、女性だけの会と言ってリアム様と2人でどこか行っていていただけます?

姫のことはおまかせくださいね。」


メアリの言葉は一応疑問符がついているだけの命令だ。

アルバートははい、と返事をする他なかった。

茶会の会場に戻り、令嬢たちに頭を下げ、リアムを連れてその場を後にする。


――いや、やっぱりレティが何かしようとしたら困る。


アルバートの余計な情報を神子に言われるのも問題だったが、もっと問題は神子に何かされることだ。


「リアム、少し付き合ってくれ。」


結局、リアムもつれて会話が聞こえるぎりぎりのところにある物陰に隠れた。

リアムもアルバートのせいで自分まで追い出されたことは不服そうだったが、神子のことは気になるらしく、同じ場所に隠れる。


相変わらず、カリーナと神子はドレスのデザインを見ており、時折レティシアに助言を貰っているようだ。


「そういえば、お2人は一生懸命デザインを考えておられますけど、ドレスを見せたいお相手がいらっしゃるの?」


デザインを見るだけに飽きたのか、レティシアが唐突に恋愛話を持ちかける。

いえ、という神子とカリーナの声が聞こえた。


「きっと目的があるドレスを作ればもっと楽しいですわよ。

姫様はアルバート殿下とお付き合いなさっているんでしょ?」


やはりレティシアはそのことを神子から聞き出そうとしたらしい。

余計なことを言わないでくれ、と心の中で願う。

リアムはそんなアルバートを見て、鼻で笑っていた。


「い、いえ、そんなことはありません!

彼は従者なだけで、恋人とかそういう関係性じゃないっていうか。

見た目もどっちかって言うと、リアムの方が好きですし。」


今までそうじゃないかと思っていたが、まさか神子の口からはっきり言われるとはアルバートは思っていなかった。

リアムは神子のひと言に堪えられないように笑いながら、アルバートに向かってこれみよがしに無言でガッツポーズしている。

やはりリアムのことは好きになれそうもない。


「え、じゃあリアム様とお付き合いなさっているんですか?」


カリーナも恋愛の話に乗ってくる。

この間の夜会にいたカリーナはアルバートと神子が付き合っていると思っていたのだろう。


「い、いえ、違います。

確かに顔はかなりタイプですけど。

私、おじさんに興味ないですもん。」


次はアルバートが噴き出す番だった。

逆にリアムはがっくりと肩を落とす。

たった10歳の差でおじさん扱いされるとは、リアムも思っていなかったようだ。


「それに、リアムは私の犬ですから。」


この神子の発言にはアルバートもリアムも笑いを堪えきれない。

リアムに下賜された剣にもそう書かれているし、間違いではないだろうが、他人に言ったら勘違いされるに決まっている。

言われた令嬢たちも唖然としているようだった。

神子はイケないプレイをしている変態だと思われているに違いない。


「い、犬、ですか!騎士とかではなく?」


レティシアもいつものまどろっこしい令嬢言葉を忘れてしまうほど、衝撃を受けたようだ。


「そうです、犬です。

毎日、ちゃんとお散歩にも連れて行ってあげてるんですよ。」


最近神子は毎日決まった時間に神子殿から出て、宮殿の庭まで散歩していた。

暇だからなのかと思っていたが、リアムを散歩していたらしい。

思い返せば、リアムが何か神子の言い付けを実行すると単純なことでも頭を撫でて褒めていた。

前にアルバートがどうしてリアムにだけ敬語を使わないのか聞いたときも、『犬に敬語はおかしいですよ』と言っていた。

立場としての犬ではなく、本物の犬のつもりだったことにアルバートは笑い、リアムはショックを受ける。


「そ、そうでしたのね。」


さすがのレティシアも返す言葉を失ったようだ。


――神子は人を犬として飼っている、なんて噂が流れなければいいが。


あまりの神子の天然さにアルバートは少し不安になった。


「レティシアさんはお慕いしている方とかいらっしゃるの?」


話題を変えようとカリーナがレティシアに話をふる。

少し変わった令嬢だと聞いていたが、きちんと空気を読むタイプだったらしい。

レティシアが大きくため息をついた。


「わたくし、長いことアルバート殿下をお慕いしていましたの。

ですが、他の男性と婚約が決まりまして…。

最後にアルバート殿下に嫌味のひとつでも言えれば、と今日カリーナさんに無理を言ってこちらに来ました。

お2人とも、せっかく呼んでいただいたのに申し訳ございません。」


神子に毒牙を抜かれたのかしおらしく謝るレティシア。

あの気の強いレティシアでも神子にはかなわなかったようだ。

余計なことを言われなくてアルバートはほっとする。

あとは道具として使われることを嫌がる神子がどんな態度になるかだけが不安だった。

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