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「姫、俺とメアリの関係、勘違いしてません?」
むしろ邪魔者は神子との2人の時間を邪魔をしているメアリだ。
アルバートは心の中で今後、2人で話すのは最低限にしようと決めた。
「そもそもメアリには恋人がいますし。」
メアリと付き合っている相手については触れてはいけないのだが、神子の勘違いをなくす為には言ってもいいかもしれない。
「じゃあ、アルの片思いですか?」
「あいつを女として見たことなんてありませんって。」
言いながら、自分で作った水割りを煽る。
思ったより強めに作ってしまっていたが、それが逆にちょうどよかった。
「今日、いろんなきれいな人に誘われてたけど全部断ってたじゃないですか。
だから、アルに恋人でもいるのかな?って思って。」
神子にパーティで女性に誘われていたのはバレていたらしい。
嫌な汗が背中を伝うと同時に過去の自分を呪いたくなった。
「恋人はいませんが、想い人はいますね。」
察してくれ、という願いを込めて水割りを嬉しそうに飲んでいる神子を見つめた。
「その人は絶対に付き合えない相手なんですか?」
「そうならないように努力してる最中です。」
「じゃあちゃんとお休みとってその人デートに誘いましょう。
アルの顔なら絶対に大丈夫ですよ。
それに私のところにいたせいで婚期逃した、とか言われても責任取れないです。」
ここで、じゃあデートしてください、といえたらどれだけ楽だろうか。
そんなことを言って警戒されれば、この距離感で接することはもう出来なくなるだろう。
今まで口説いてきた女性たちとは違い、絶対に失敗できない相手だ。
簡単に口説くことは出来なかった。なんて答えようか返答に困る。
「そんな簡単に誘える相手でもないんで…。
誘えたときと玉砕したときは休みます。」
玉砕したときは本当に1週間くらい休みとって知らない土地にでも旅行にいこうと決めた。
くすくすと笑いながら、分かりました、という返事が返ってくる。
神子は最初の1杯を飲み終え、次の酒を自分で作り始めていた。
「姫、お酒お好きだったんですね。」
召喚されてから1度も酒を神子に出したことはなかった。
そういえばこちらに来る前も酒で記憶を飛ばしていたと言っていた気がする。
酒を作るもの手慣れたものだ。
「…そんなに好きってほどでもないですけど、酔ってしまいたい日もありますから。」
そう言いながら出来上がった酒をひと口のんだ。
自分を拷問しろだとか、襲わせろだとか目の前で言われる気分はどんなものだろう。
気にするなと言われたところでなんの気休めにもならないことだけは確かだ。
神子にスタンを近づけたことを心の底から後悔した。
「姫、嫌なことがあれば天気くらい荒らせばいいんですよ。
無理に感情を抑え込む必要はありません。
そのほうが妙な宗教も減ります。」
妙な宗教が減れば、神子に危害を与えようとする人間もいなくなるだろう。
無駄によってくる貴族の数も減るはずだ。
神子自身の安全にもつながるのであれば多少天候が荒れるくらい仕方がない。
「自分が面白くないこと言われたら、雷落とすってただのわがまま女じゃないですか。
これでも、さっき雷落としたことは反省してるんです。
それに私、基本的に嫌いな人からも嫌われたくない人間なんです。
私がたくさん魔素を降らせて、みんなが飢えないような気候を保ったほうが私も人から好かれて幸せだし、みんなも飢えなくて幸せじゃないですか。」
そのほうが両者にとっていいのかもしれないが、一方的に神子が我慢させられるだけの関係に思えてアルバートは納得いかなかった。
そもそも知らない世界に勝手に召喚され魔素を出せと言われる神子を、憐れまずに拷問しろとかいう奴らの気がしれない。
「…アルから見て私ってやっぱり真っ白で気持ち悪いですか?
あと、今日のドレス、淫売に見えました?」
拷問も気にしていたが、外見を罵られたことも気にしていたらしい。
男からしたらそんなことあの場で気にするようなことではないが、女性はやっぱり気にするのだろう。
「肌も髪も美しいとはいつも思っていますが、気持ち悪いと思ったことはありませんよ。
この世界の流行は召喚された神子が作ります。
どうせ明日から貴族共は、真っ白な白粉を全身に塗って、白い髪のカツラ被って、今日の姫のドレスに良く似たドレスを着て歩いてますよ。
あんなやつに言われたこと、何も気にしなくていいんです。」
そんな格好で歩く貴族たちを想像すると笑えた。
だが、明日からではなくても数ヶ月で全員その格好になるに違いなかった。
神子は、そんなことにはならないでしょ、と笑いながら3杯目を作り出す。
薄い酒で酔えないのか飲むペースが早い気がする。
「昔の神子のお話、いろいろアルに読んでもらってるじゃないですか。
あれで思ったんですけど、みんな恋人が出来ると魔素が降る量が増えてる気がするんです。
でも、どうやったら男性と出会えるんでしょう?」
「…茶会でも開くか、今日みたいな夜会に参加するかですね。」
――俺じゃだめですか。
1番言いたいひと言はぐっと押し留めて、一般論で返す。
普段、女性にこんなことを言われたら口説かれていると思うところだが、神子の態度を見るにアルバートを全く男性として意識していないだけのようだ。
今まで百戦錬磨だっただけに自信をなくす。
「あちらの世界ではどんな男が人気でした?」
「顔は掘り深めな感じが人気だったと思います。
体型は筋骨隆々よりも細くて程よく筋肉がついてる感じで、身長が高い人がモテたかな?
私は黒髪のクールな歳上タイプが好きでしたけど。」
全く性格の話をしない神子。
向こうの世界ではあまり内面を重視しないのかもしれない。
アルバートは神子が出した条件を自分に当てはめて考える。
――髪は染めればいいし、顔は神子も好ましく思っているみたいだが、身長が足りない。
こちらの世界では身長の高い低いはあまり重視されない。
高い方がいいとか、低い方がいいとかそんな話すら聞いたことがなかった。
アルバートの身長は女性と比べれば高いほうだが、男性の平均を考えると低い。
内面の話なら努力したが、身長なんてどうしようもなくてアルバートは肩を落とした。
「こっちの人は女性も男性も身長高いですよね。
向こうよりも平均身長20センチくらい高いんじゃないかな?
私なんて150センチしかないから羨ましいです。」
センチはきっと身長を表す単位なんだろう。
たしかに神子はアルバートの胸くらいまでしかなく、こちらでは見たことないくらい小さかった。
それが可愛いと今まで思っていたが、向こうの世界では不人気だったようだ。
「俺は姫みたいに小さい人も魅力的だと思いますよ。」
「アルもメアリも私によくしてくれるのは私が神子だからって分かってます。
でもそうやって無理に褒められたりするとすごく虚しくなるんですよね。」
突然違う方向に話しが飛ぶ。
神子は酔ってるのか耳まで真っ赤になっていた。
目も少し座っている。
――酔えなくて飲んでたわけじゃなくて、酔いたくて飲んでたのか。
神子は酒に強いタイプではなかったらしい。
とめるべきだったかとも思ったが、酔って神子の本音を知れるならそれで良かった。
「嘘ついてるわけじゃないですよ、姫はお美しいし魅力的です。」
この感情が従者の病のせいなのかは分からなかったが、本当に頭のてっぺんから足の指の先まで神子のことを美しいと思っていた。




