最終決戦
よろしくお願いします。
俺は今日はハーピィの戦士たちと一緒に狩りに来ていた。今日の獲物は巨大な山羊だった。まだこちらには気づいていないようで、木の皮を剥いで、幹をかじっている。
「打ち合わせ通り、私が突っ込む。あとよろしく。」
リコリスが改修型ブローティアを構えて魔力を剣に溜めて、刀身に赤い光が蓄積していく。
そして、空中から山羊の首に向かって垂直に落下していく。そして、落下の勢いを乗せて剣を振りかぶって斬りかかる。魔物と剣が接触する直前で、左手の人差し指をトリガーに押し込み、爆発の力で更に剣速が上がる。
勢いそのままに着地し、地面に軽いひびが入るくらいの衝撃が走る。
「「「おおー!」」」
剣を振って血を飛ばしたリコリスの後ろに、切断した巨大な山羊の頭が降ってくる。
「ブローティアの調子はどう?」
「いい感じ。魔力の消費量も少ないし、使いやすい。これは爆破斬りって呼ぶ。」
ブローティアの持ち手は完全にリコリスの手の形に沿って作られている。ここまでされると完全にオーダーメイドの武器と同じだ。リコリスは両利きだが、右手の指が三本しかない。なので、使うには左手の方が都合が良かったのだ。
そして、骸竜からもらったリコリスの資料には、彼女を作るときに使った因子の一覧があった。九尾狐、フェンリル、竜、悪魔、吸血鬼、グリフォン、などなど数えきれない程色んな因子が組み込まれていた。
そして、俺たちは夜な夜なその能力の実験の進めていた。能力によっては使える時間帯が限られたり、使用には時間制限があったりと癖が強いものが多く、まだ実践には使っていなかった。
エルロンに拠点を移して数週間が経った。俺はルインのことについて話し、魔石を分けてもらっていた。里で使うマジックアイテムを作る為に魔石が必要なので、全部はもらえなかった。だが、狩りに協力することを条件にいくつか譲ってもらっていた。
そして、ルインがまともに飛べるようになるまであと三個という所まで来ていた。
あと三個、あと三個でカリンに帰れる。
俺ははやる気持ちを抑えながら、今日もエルロンに帰る。
ネメシアからアネモネへの巫女の役職の引継ぎは、いったん中止になっていた。マサジのやつが行方不明になっていたのだ。それの捜索などをやっていて、未だに引継ぎを行えていなかった。
だが、四日後は再び満月がくるようで、もうその日に引継ぎを行う予定だった。
俺は着実に帰還に近づいていることを実感しながら日々を過ごしていた。ハーピィたちも回復薬を作れる者が出てきて、戦闘で死者が出るよなことはほぼなくなった。戦士たちは全員が回復薬を所持しており、危険になったら自由に飲むようになっていた。
俺も帰還に向けて準備を進めており、純銀華をはじめとした回復薬の材料の種の確保。ルインの魔力回復用の分のストック、など用意していた。向こうの土地で魔境の植物が育つ可能性は低いだろうが、それはやってみなければわからない。俺はもしかしたらという可能性に賭けて、種を持って帰ることにした。
そんな充実した時間を過ごしていた時だった。その知らせが届いた。
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「大変だ!これまで見たこともないような巨大な魔物が北から迫ってきてるぞ!!」
俺たちはその知らせを聞き、家を出て北の方を見る。
そこには四足歩行の巨大な肉塊があった。胴体の大きさに対して、足が細すぎる。あんな魔物今まで見たことがない。
背中には完全に動いていない羽のようなものが付いていた。
「あんなのがエルロンに来たら神樹が折れちまうぞ!?」
「い、一体どうしたら…」
「鎮まれ!戦士たちは武器を持って戦闘の準備、それ以外の者はいつでも避難ができるように準備だ!急げ!」
リボルトさんが指示を飛ばし、みんな空を飛び回って行動を始める。
「リボルトさん。俺も行きます。」
「助かる。アミル君は遠くから魔法で援護してほしい。」
俺はリボルトさんたちと一緒に魔物の近くまで飛んでいく。ルインとネメシアは里に残ってもらった。ルインはあまり戦力にならないのと、避難する人たちを統率するのに巫女である彼女が適任だったのだ。
「で、でかい…!四十メートルはあるぞ!?こんなでかいの一体どこから…?」
「おい、あそこを見ろ!誰かいるぞ!」
ガリウスが魔物の上に何かが浮いているのを見つける。遠くから見た時はよくわからなかったが、近づいてくるとそいつが誰だか思い出してくる。
「お前…!なんでここにいる!?」
「待っていたよアミル。なあにあの時の借りを返しに来ただけさ。そこの羽虫共ごと捻り潰してやる。」
俺はそいつを憎らしく睨む。本当に嫌な奴だ。借りを返すだけなら俺の命だけを狙ってくればいいものを…こいつは俺がハーピィを巻き込まれるのを嫌っていると分かっているのだ。
「アミル君、あれが誰か知っているのか?」
「俺がこの魔境に転移させられた原因があれです。俺は街に帰る途中にあいつに会って、ここに飛ばされた!注意してください。あいつに物理攻撃は殆ど効きません。俺がエンチャントの魔法をかけるので、その武器で攻撃してください!」
あの時とは違い、今はこれだけの人数がいる。更に距離もある。あいつに負ける要素はない!
「そんなこと私が考えていないと本気で思っているのかい?おいゴミ、仕事だよ。」
悪魔がそう言うと下の魔物が四本の足を振り回し、激しく暴れ始める。
「大いなる氷の精霊よ。今こそ我に敵を貫く鋭き槍を与え、その一切を撃ち倒せ!ブリザード・ランス!」
「ぎゅいいいいいい!!」
耳障りな鳴き声が周りに響き渡る。だが、俺が放った魔法はあまり効いていないようだった。
「あっはっはっは!こいつはお前の魔法攻撃を想定して作ってある。お前程度の魔法はびくともしないんだよ!」
「それがなんだ!戦士たちよ、突撃しろ!奴の四肢をもいでやるのだ!」
「「「おおー!!」」」
リボルトさんの掛け声で、戦士たちが突撃していく。
足の根本に全員で斬撃を浴びせ、右前足を切り落とす。
「口ほどにもない。」
「行けるぞ!」
だが、悪魔からは余裕の色が透けて見える。
「それはどうかな?」
リボルトさんたちが足を切り落としたことに喜んでいると、根本から足が再生していく。
「ば、馬鹿な!」
「今度はこっちの番だよ!蹴散らしな!」
魔物が再生した足を振り回し、ハーピィたちが一蹴される。地面に叩きつけられ、魔物に踏まれそうになっている人もいる。
「「グアー!!!」」
「弱い弱い!踏みつぶされろ!」
ハーピィが踏みつぶされる寸前で、リコリスがハーピィたちを避難させる。
「ちっ!なんだお前は!?なんで悪魔の力を持っているのにゴミの味方をする?」
「私はアミルについて行く。ただそれだけ。」
リコリスがブローティアを抜き放ち悪魔に向かって突撃する。
「アミル!こいつは私が何とかする。そっちは任せる!」
「わかった!絶対に帰って来い!」
リコリスは笑顔を見せた後、凄い速さで悪魔を魔物から引き離していく。
俺は俺にできることをやるしかない。
「大いなる氷の精霊よ。今こそ我に敵を貫く鋭き槍を与え、その一切を撃ち倒せ!ブリザード・ランス!」
俺は魔力が続く限り、自分のできる最高の攻撃を撃ちまくった。
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私は目の前の悪魔を蹴り飛ばし、魔物から引きはがす。これで、あの魔物に指示は送れなくなったはず。
「おいお前!下級の悪魔のくせに、この私に楯突くことがどうゆうことかわかっているんだろうな?」
「知らない。あと私は悪魔じゃない。リコリス・レディアータ。」
私はブローティアを構えて、空中で斬りかかる。だが、悪魔も魔法で魔法陣の盾作り出し、ガードされる。
詠唱をしていない…この魔法陣自体が魔法効果を成立させているのか。
私はブローティアに魔力を込めて再度斬りかかる。そして、接触する直前でトリガーを引き、爆破斬りを繰り出す。だが、それでも魔法陣を突破できない。
「あんたみたいな低級悪魔が私に叶うはずないんだよ!」
悪魔が魔法陣で剣を形作り、斬撃を浴びせてくる。私はそれをくらってしまう。
「クッ。」
「はっ!あんたみたいな雑魚さっさと地獄に送ってやるよ!」
私はブローティアを振りながら悪魔からの攻撃を防いでいく。あの剣は魔力が付与されているようだ。
空中で、逃げ回りながら私は時間が過ぎるのを待つ。
「ほらほらほら、さっきの威勢はどうしたんだい?回避ばかりじゃないか!」
東の空を見ると日が山脈に隠れ始めていた。私が全力を出せるようになる夜まであと少し。
日が落ちれば私もアミルも全力を出すことができる。それまで凌ぎ切れば私の勝ちだ。
だけど…
「グハッ!」
私は悪魔の斬撃を再度くらってしまい、右腕を大きく切り裂かれる。
「あんた、対人戦は素人だね。力だけの木偶の坊は私の敵じゃないよ!」
私はフェイントなどの駆け引きの要素が入る戦闘の経験が乏しかった。そのせいで、最初は力押しで拮抗していたのが、徐々に押し負けていた。おまけに魔法が強力で、中途半端に切り込むとただの的になってしまう。
敵の攻撃を避けて、斬りかかる。一体それをどれだけ繰り返せばいいのか。
私の中には焦りが生まれていた。
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俺は空を飛びながら魔物の行く手を魔法で妨害する。出し惜しみは無しで上級魔法を連打していた。土属性の魔法で足を奪い、様々な属性の攻撃を繰り出す。だが、どの攻撃も手ごたえがない。唯一相手の行動を鈍らせたのは、やはり最も火力が出るブリザードランスだ。凍りつかせることで動きを阻害しつつ、再生能力を鈍化させていた。
それでも魔物の歩みを止めることはできず、着実にエルロンまで迫っていた。
非常に不味い。
このままでは日没前にエルロンまでたどり着かれてしまう。ハーピィの戦士たちも攻撃を加えているが、あまり有効打は打てていないようだった。
それに、そもそも日没が訪れたとして、それで勝てるのか?
確かにドレイク・ヘルブラッドは強力な魔法だ。だが、所詮竜が使える魔法では最も魔力の消費量が少ない魔法だ。しかも今日は満月の夜ではない。最高火力の攻撃を俺は撃ち込むことができない。
俺は嫌な予感を振り払って、魔物の足止めに専念する。
夜にさえなれば勝てる。そう信じて。
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「落ち着いて避難の準備を進めてください。」
私は不安な気持ちを抑えながら、みんなの避難の準備を進めていた。
「アミルたちのことが気になるか?」
しかし、ルインさんからそう指摘され、不安が顔に出てしまったことに気付いた。こんなにも気が緩んでしまっていたなんて、気を引き締めなければ。
「…っ!申し訳ございません。顔に出ていましたか…?あんな巨大な魔物私は見たことがありません。みんなが無事か不安で…」
私がこんな調子では民たちに不安が伝播してしまう。私はすぐに表情を直して、気持ちを切り替える。
「いいのだ。アミルのことが心配なのは私も同じだ。だが、私はあそこに行くことができない。アミルにここの人たちを守るように言われたからな。」
その言葉を聞いて私は少しだけ寂しいくなった。
「私は、何も言われませんでした…やはり、私は彼の力になることはできないのですね…」
一番彼と出会って間もないのは三人の中で私です。それに他の二人と違って私はとても弱い。しかし、ルインさんの口から出たのは意外な言葉だった。
「私は違うと思う。」
「え?」
「アミルはお前を待っているんじゃないか?」
(アミルさんが…)
「私を…?」
驚いている私に、ルインさんは言葉を続ける。
「アミルはリコリスには付いて来るように言った。本当はお前にもついて来て欲しかったんだと思うぞ。だが、お前はまだこの里の巫女だ。民を蔑ろにすることはできない。だから、アミルは何も言わなかった。いや、言えなかったのだ。」
私が役目を全うできるように敢えて何も言わなかった。そんなこと、全然気づかなかった。彼なりに私に気を使ってくれたのかもしれない。
私が魔物の方を見ていると、妹がこちらに飛んでくる。
「お姉ちゃん、大丈夫。ここは私がみんなを避難させるから。お姉ちゃんはお父さんたちを手伝ってあげて!」
「でも…」
私は妹の言葉に従うべきか迷う。私は巫女。自分のことよりも他に優先しなければいけないことがある。
迷っている私の手を妹が握り、胸を張って笑いかけてくれる。
「私、次の巫女になるんだよ?これくらい私が何とかするから!」
「それにここにいる者たちは私が守っているから心配いらぬ。全力でぶつかってこい。」
その言葉に私は決心をし、ここを離れて戦闘に向かうことにした。
「…二人とも、ありがとう。行ってきます!」
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「ガハッ!」
私は地面に叩きつけられ、苦痛の声を上げる。しかし、上から来る追撃を、地面を転がることでなんとか回避する。
「はぁ、はぁ…」
「無様だね。私も向こうに戻らなければいけないの。わかる?そろそろ死ねってことだよ!」
私はブローティアで斬りかかるが、またも盾で防御されてしまう。そして、相手の剣がこちらの首を撥ねようとする。
私はそれを体を反らすことで何とか回避する。既に全身傷まみれだった。回復薬もすでに使ってしまい、もう後がない。
だが、ぎりぎりだったが、なんとか間に合った。
日が沈み、夜空に月が昇る。
私は今引き出せる力────吸血鬼、屍鬼の力を開放する。
「なんだい…?おい、何をやっている!?」
私の右腕が黒く染まり、僅かに筋肉が肥大化する。
そのまま悪魔に突撃し、敵の剣を右手で掴み、強引に首筋に噛み付く。
「ああーっ!!は、離れろっ!!」
私は悪魔から吸い取った血を飲みこむ。不味い血だったが、吸血鬼の力が発動し、一時的に膂力が強化される。背中からはコウモリのような黒い翼が出現し、四枚羽になる。
「お前なんなんだ!?悪魔じゃないのか!?」
「私はリコリス。それ以上でも以下でもない。」
私は強化された肉体で悪魔に接近し、ブローティアの爆発をそのままくらわせる。トリガーを引かなければこれまで通り爆発のダメージを与えることもできる。
そして、その反動の勢いを利用して、悪魔の体を上空に蹴り上げる。
「クソが!」
悪魔は炎の魔法を撃ってくるが、羽が増えて空中での機動力が増した私にはもう当たらない。
「なんで、なんで当たらない!?さっきまでただの雑魚だったのに!」
接近する私に、悪魔はフェイントを混ぜつつ斬撃を飛ばしてくる。だが、私だって何もただ無意味にやられていた訳ではない。
「その攻撃はもう覚えた。」
悪魔の斬撃を完全に見切ってブローティアの爆発斬りを連続で盾に命中させる。あまりの攻撃に盾が限界を迎え、バラバラに砕け散る。
私はその一瞬の隙を見計らって、悪魔の懐に潜り込む。そして、左手のブローティアで下から上方向に斬撃を放つ。
「嘗めるなぁっ!」
悪魔がこちらの斬撃を剣で受けようとするのを見て、私は剣を空中で逆手持ちに切り替え、敵の喉元に突き刺す。
「わ、私の、フェイント…!?」
「言ったはず。もう覚えたって。これで終わり。」
私は屍鬼の右腕で悪魔の胸の中にある魔石を掴む。
「認めるよ…今回は私の負けだ…だが、私は悪魔!地獄に帰った後、すぐにお前を殺しに来る。」
私は屍鬼の腕で掴んだ魔石を握りつぶす。私の右手が裂けていき、そこから口が出現する。
「ぐあああ!な、なんでっ!?魂にダメージが!?」
私は握りつぶした魔石ごと、悪魔の魂を右手が裂けてできた口の中に放り込んでいく。
「ま、待って!頼む!助け────」
「これで終わりって言った。」
屍鬼の能力は、使用中は飢餓状態になる代わりに右手の膂力が上がり、そこに口が出現するというもの。
飢餓感がでるので使いにくいが、そこは吸血によって多少緩和することができる。能力を使用中は完全に飢餓感を消すことはできないが、戦闘に支障が出ないように抑え込むことはできるようになった。
「やっと終わった。次はあっち…」
私は決着がついて間もなく、すぐに空を飛び立った。
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「血は命、血は炎、広がる常世は全て我が手中にある。月の光に照応するは氷結世界の一滴。命の灯を吹き消し、目の前の敵を打ち倒せ────ドレイク・ヘルブラッド」
俺は日没してから、ドレイク・ヘルブラッドを撃ちまくっていた。これで5発目だ。
だが、目の前の魔物は止まらなかった。もう魔力回復薬ももう残っていない。
ハーピィの戦士たちも疲労が蓄積して、動きが鈍くなってきている。
俺の魔力量が増えたと言っても、人間の頃の何倍にも増えたという訳ではない。精々五割増しというくらいだ。
もうエルロンは目と鼻の先だ。このままでは魔物を止めきれない。
「アミル!」
「アミルさん!」
俺がどうすればいいか迷っていると、二人の声が聞こえてくる。リコリスとネメシアだ。
「リコリス、悪魔はどうなった!?」
「消えた。もう大丈夫。」
俺はその言葉を聞いて安堵する。姿からして、リコリスの中にある能力を開放しないと勝てなかったのだろう。だが、この勝利はデカい。もう魔物は戦闘の指示を受けなくなる。
「アミルさん。私も一緒に戦います。」
「ネメシア、いいのか?」
「向こうはルインさんと妹に任せてきました。私にできることは少ないですが、力を貸します。」
ネメシアの覚悟を決めた目を見て、俺も頷く。
「アミル!あそこ見て!」
リコリスが指さした先には魔物の顔と思わしい部分を攻撃するガリウスが居た。彼の攻撃によって切り裂かれた肉の隙間から赤い魔石がキラリと光った。
さすが戦士長を務めているだけある。おそらくこれまでの戦闘でずっと魔石を探していたのだろう。
「魔石だ!リボルトさん、あの赤いところを攻撃してください!」
「わかった!みんなこっちに集まれ!」
間違いなくあの魔物の核だ。俺たちの必死の足止めのおかげか、もう再生も殆ど進んでいない。魔力が無くなってきているのだろう。
ハーピィたちの攻撃も無駄じゃなかった。彼らが足の根本を攻撃してくれたおかげで、余分に相手の魔力を削ることができた。あいつは頭が良くないのか、切り落とされた足を接合するのではなく、全てを根元から再生させていた。それのおかげで、魔力を大分使わせることができたのだろう。
だが、ハーピィたちの攻撃は、魔石には全く効かなかった。
直径二十センチくらいの大きさだが、魔力の密度が尋常ではない。あの巨体の核なのだから当然かもしれないが、その硬さは想像を絶するようだ。
「なんだこの硬さは!?」
リボルトさんがその硬度に驚き、魔石を見つけたガリウスも斬りつけながら返事をする。
「わかりません!核だけ異様に硬いんです!」
一体どうすればいい?魔力回復薬はもうない。いや、あったとして、俺の魔法であの硬さの魔石を破壊できるのか?
彼らの斬撃を一切受け付けない様子を見て、俺は感じてしまう。無理ではないか、と。
「アミルさん!これ、使ってください!」
「これは…!」
「鉱石を取りに行った時に分けてもらった魔力回復薬です。」
「助かる!」
俺はすぐにそれを飲み干し、魔力を全回復させる。そして、ネメシアは持っていた杖を構えて、詠唱を開始する。
「それと────我が力は個にして全。互いの魔力経を繋ぎ、力を分け与えよ!────マジックリンク!」
俺の魔力がネメシアとリコリスとの繋がりを強く感じる。
「魔力が…!」
俺の中に二人の魔力が流れ込んでくる。
「魔力共有の魔法です。私たちの魔力も使ってください。」
「アミルに託す。」
俺は二人から託された魔力を受け取り、杖を構える。
「二人とも、ありがとう。」
使う魔法はドレイク・ヘルブラッド。それは確定だ。だが、魔力がこれだけあれば、まだやれることはある。
俺が普段使っている魔法は自分の魔力量と相談し、制限を付けたもの。
「血は命、血は炎、広がる常世は全て我が手中にある。氷結世界の息吹をここに現出させよ。」
俺は改変する前のドレイク・ヘルブラッドの詠唱を行う。二人から魔力を受け取ったのに、全身から力が抜けていく感覚がある。
だが、ここで踏ん張らなければもう後がない。俺はクラクラする頭を必死に回し、詠唱を続ける。
「命の灯を吹き消し、目の前の敵を打ち倒せ────リボルトさん!全員距離を取ってください!」
「みんな離れて!」
「アミルさんの魔法攻撃を撃ち込みます!」
俺は詠唱を完了し、魔力を杖に集中させる。だが、あまりの魔力の量に杖の魔石にヒビが入り始める。
「急いで!」
俺はリボルトさんに呼びかけ続ける。杖の周りに渦状の風が発生しており、魔力の操作を誤れば爆発しそうだ。
「全員撤退!撤退だ!」
リボルトさんの指示が飛び、疲れている戦士たちが引いていく。
俺は杖の中で暴れる魔力を必死に抑え込む。目からは血が噴き出し、体中の血管が浮かび上がって今にも千切れそうだ。
「アミルさん、避難できましたよ!」
ネメシアから避難完了の報告を聞いて、魔物の魔石に向けて魔法を開放する。
「これで、終わりだ!ドレイク・ヘルブラッドォ!!」
俺が放った魔法は、間違いなく竜が使うものと遜色ないものだった。これが、本物の魔法。俺の魔法は魔物全体を一気に凍らせた。そして、次の瞬間、石像のように全身がバラバラに砕け散る。
「や、やった!やりましたよ、アミルさん!」
「「「「うおおおお!!」」」」
ハーピィたちの勝鬨が聞こえてくる。どうやらやり遂げたようだ。
俺は杖を見ると、ちょうど魔石が粉々に砕け散った。
思えばこいつには世話になった。討伐屋時代もそうだが、魔境に来てこいつがなかったら間違いなくここまで来れなかっただろう。
「お疲れさん…ゆっくり休んでくれ…」
俺は全身から力が抜けていく。フライの効果が切れて体が落下を始める。喜んでいる彼らに助けを求めたいが、もう声を出すこともできない。
結局、人間の街に帰ることはできなかった。だが、それでもいい。俺はこの魔境で見つけた、かけがえのないもの守り切ったのだ。
俺が落下しながら死を覚悟していると、ふわりと何者かに受け止められる。
「ゆっくり休むのはお前の方だ。」
そこには竜の羽や尻尾が出ているルインが居た。
「ぁ、が…」
ルインにお礼を言いたいのに、うまく口を動かせなかった。
「もういい。後は私に任せて今はもう休め。」
俺はその言葉を聞いて、安心して眠りについた。
読んでいただきありがとうございました。




