第2話 二日目の子持ちししゃも
私の婚約者は深い慈愛と大きな度量をもつ女性である。
ひとの失敗をさも人生の一大事かの如く責め立てたり、暇つぶしに思い出してはストレス解消のネタにするタイプではない。自らのことを"漢女"だとSNSのプロフィールに書くくらい豪傑な一面がある婚約者だ。
何が言いたいのかというと、ついうっかり子持ちししゃもを干乾びさせてしまった。
明敏な読者なら分かっている通り、私は昼食の料理担当として自宅でリモートワーク中の婚約者のために料理をつくる。婚約者は子持ちししゃもが好きであるため心優しい私はいつもスーパーで子持ちししゃもを買ってくる。そして毎日昼食の時に婚約者のために焼くのだ。
しかし何らからの理由(詳細は忘れた)で、昨日の昼食では子持ちししゃもを焼かなかったのだ。
だが人というのは学習する生き物であるため、日々の通りに私は何の疑いもなく(そして記憶に留めることもなく)コンロの魚焼き器の中に子持ちししゃもを入れた。そして中に火がともることはなく、日が沈みまた星々が煌めきまた日は上ったのだ。
そして結論をいうと、その干乾びた子持ちししゃもがさっき婚約者に見つかった。
正確には婚約者との話の流れで魚焼き器を開けることになり、私の手が焼き器の取ってを掴んだ時点で中に入った遺産を想い出すに至り、私はとっさに話題の変更を試みた。
しかし聡明な婚約者は、取調室で詐欺師を詰める刑事の顔へと一瞬にして変わり、哀れ私の罪は暴かれてしまった。まだ詐称を働かなかっただけ罪はきっと軽くなるはずだ。
つまりは子持ちししゃもを干乾びさせても笑って許せる度量ある人物と婚約した方がひとは幸せになれるということだ。
ししゃもは私の業火のようによくよく焼いたのち食べた。