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九州大学文藝部・2021年度・新入生号

オムライスの戯言

作者: 有明榮

 オムライスなる料理がある。「オムレツ(omelette、仏)とライス(rice、英)を組み合わせた日本の洋食」という、字面を追えばまさに神仏習合に端を発する日本のナンデモアリ文化を代表するような料理である。筆者は交際中の立場にある人に命ぜられて月に一度程度の頻度で作らされているのであるが、実際これがなかなか奥深い。というのもライスの味付け、具材、最後にかけるソースの味、そしてオムレツの焼き加減によって、出来上がるオムライスはそれぞれが全くと言ってよいほど異なる結果に至るためである。一つの原形からこれほどまで多くのレパートリーというか、亜種というか、枝葉というか、まあメニューなのだが、そういった類のものが生まれる料理もそうそうないだろう。うどんとかそばも考えだしたらキリがない程の種類があるが、彼らは丼に盛るかザルにあげるかという器の問題があるためここでは勘定には入れない。筆者はその形態(フォルム)を想定しているのである。


 さて思えばかなりの種類のオムライスを作りそれを我が血肉となしてきた。今回このとりとめもない雑記を寄稿するにあたり、不図これまでどのようなオムライスを作ってきたのかと気になったため、スマホのアルバムを見返したのである。その数十二。中にはメニューとして被っているものがあるため、それを勘案するとこれまで作ったオムライスの種類は十種類弱といったところであろうか。和風オムライス、ホワイトソースオムライス、トマトソースチーズがけ……そのコンセプトからソースに用いる具材から、選り取り見取り、色とりどり。器の中心を占める最も基本的な形態――長球を二分割する形で盛り付けたライスとそれを包む半熟のオムレツ――は全く変わらないのにもかかわらず、その周囲が全く違う。色味が異なるだけでなく勿論味も異なる。しかもここで面白いのは、形態の内側、玉子に包まれて見えない部分が異なるということである。ある時は所謂チキンライスにしたり、趣向を変えてチキンをシーフードにしてみたり、或いはガリバタライスとか、炊き込みご飯風にしてみたこともある。更にそれらは、実際に作っている当事者か、それを横で見ている者以外は、スプーンで切り出すまで正体不明の存在である。つまりオムライスには、ある種のスリルと博打とホラーというライスが内包されているということになる。玉子のヴェールを脱ぐまで、ライスはその真の姿を、我々に見せてはくれない。味がどうであるとかは勿論のこと、ライスに入っている具材も、果たしてオムライスにかかっているソースとマッチするのかどうかでさえも、無知なる我々には見通しが立たない。オムライスにスプーンを突き刺す行為は、一見してその様相が同じであっても、その本質はカレーライスを掬うそれとは全く異なっているのである。


 あまり話が大仰になると読者諸氏からこいつは一体何を言っているのだというご指摘を頂きそうなためこの辺りで慎ませていただくが、要はこのオムライスなるものは全く持って奇妙奇天烈、魔訶不思議な料理なのである。それでいて、この「玉子―米」という至極単純な構造の奥にある奥深さを味わうにはコストパフォーマンスが非常に悪いのもまた面白い。皿は一つにまとまるのに、用意すべき調理器具は非常に多い。この燃費の悪さもまた、日本人の洋食の嗜好というか、かつての「ぜいたくな料理」への憧れすらも体現していると考えられよう。こうした諸所の事象が渾然一体となったオムライス――読者諸兄には是非とも自らその奥深さを体験していただきたいものである。

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