表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/29

あとは異世界に「行くだけ」だ! その4

「あとは異世界に「行くだけ」なんだから」


そう言って笑った、今の龍はそのままの笑顔でいる。

相変わらず何も出来ないで呆けて泣いている俺の頭を犬や猫みたいにぽんぽんと撫でて


「これ以上やったらさすがに擦り切れちまうか、今日はお休み」


パチンと頭の中で音がして、俺はやっと目を閉じた。
























-まずは何から話そうか・・・



遠くから声がした。


僕たちがこの世界に来た理由からだろうね。

それはある日突然の事だったんだよ、そう突然。



魔法薬の実験をしてたら急に強い力に引き寄せられて・・・・

僕も、あの頃はまだ貪欲だったからね、その「力」も欲しい、と思ってしまったんだ。

手を伸ばしたらそこに居た。


そう、5年前、君が眠っていたあの場所に。



僕は魔王だけれども、人間を捕食する事はしない。

それに君はまだ小さな子供だった、今もそれはあまり変わらないけれどね。


このまま君を放置できないなと考えた、人間はすぐに死んでしまう脆弱な生き物だから。

とりあえず小さな君を抱いたままこの町に来た。徒歩での移動なんて久しぶりすぎてほとほと疲れたよ。


魔法が使えない事や、この世界の服装に合わない僕自身の事はすぐにわかった。

暗がりの中、家の外で誰かの帰りを待っているような女性が君の母君という事もね。

君の名を呼びながら探していたから、君が「真」君だとわかったし、君を保護した僕を見て


「ありがとうございます、あの警察の方ですか?連絡しても捜査はもう少し遅くなると聞いたのですが・・

この村には派出所も無くて・・」


その言葉を借りて、僕はこの村の「警察官」になる事にしたんだ。



それから、元の世界に帰る為に色々考える日々が始まった。

あまり苦な事ではなかったよ。


村民の意識で情報を集め、より人間らしく振舞えるよう暗示をかけた。

暗示なんて人間だって使える催眠術だからね、それほど魔力を消費しない。


皆が僕をおまわりさんと呼んでくれるのでどうやら僕の暗示は成功したらしい。

でも気付いたんだ、村の異変に。


それは「月」


月が本来の世界のものとは違う、しかも多少の魔力を含んでいる。

おそらくこれは僕の推測だけど、僕が工房で実験していた研究中の何かがこの村を覆ってしまったんだ。


調べてみたけど、特に人間に害はないと判断した、僕が研究していたのは大型獣の餌を作るための土壌肥料だったし

おかげでこのあたりの田畑は少し豊かな壌土になり、病気(と言っても腰痛・肩こりくらい)が和らいだりしたくらい。


さて、人間にも害がないとわかった所で・・僕はその月の力を借りて元の世界に帰る事が出来ないかどうかの実験を始めた。

あの月が見える場所は僕の工房でもあるんだよ、あの線引きはその目隠しの呪文でもある。

・・そこへある日、君がやってきて、驚いたよ、色んな意味で。


まずは君の体、僕が君の存在を感知できるほどの魔力を帯びていた事。

その魔力は君には扱えない、ただ君の感情の琴線に触れると大量に周りに放出されて消えてゆくんだ。

発汗作用みたいなものだと思ってくれればいい。


僕は君を何度か調べてみたけど(変な事はしてないからね!)君自身には何の害もない。

けれど村に居る時の君の魔力はただ流れてゆくのに、この崖、この場所に「留まる」事がわかった。


それはわかったんだけど、君の君ら人間の心の揺れ幅っていうのが僕にはわからなかった。


君は「異世界に行く」と突然言い出して、毎日山道を駆けのぼって来ては、まるでこの場所に力を運び、満たすようにして

力尽きて眠ってしまう。

そんな君を家にこっそり送り届けるのも、君の記憶を魔力として食べてしまうのも、もう何年になるだろう。


君の言う異世界の事も調べてみたよ。


僕の世界とは少し違うかもしれないけれど、確かに僕の世界には勇者が居て、聖剣も存在していた。

君がその名を口にした時の僕の驚きを想像してほしい・・・まさか君も僕のせいでこの世界に飛ばされてしまったのか・・・

なんて仮説をたてた事もあったくらいだ。


でも確かに君はこの世界の人間で、人間であるがゆえに心と言うものがあり、その琴線に触れ幅が大きい程君の魔力は

大きくなり、とうとう、僕が少し魔力を分けてもらっても耐えられる程成長した。


それは人間の第二次成長期という時期に相当するのが由来かと僕は推測する。


何気なく家族に反発したり、嫉妬したり、異性を意識したり・・そんな人間の成長に欠かせない大切な時期、

君の成長期は魔力に変換され、行き場をなくし、暴走した。

時に人間の身でありながらありえない速度で自転車を走らせるような事態にまで発展した。

そんな時は僕が少しだけ君の魔力を頂いていたのだけれども・・・・・・


僕には、ある疑問があった。


何故君が毎日、まるで暗示にでもかかったように山を登るのか。

そんな事をしていては君は体を壊してしまうから、僕は君が山を登る時は魔法を使って木々から君の体を守っていた。

薄膜程度のものだけどね。その魔力消費の代わりに「山に登った」という記憶の少しを魔力として頂いていた。

記憶のない君は毎日山に登ってはこの場所に魔力を満たし、僕の魔力で記憶を改ざんする毎日を送っていたんだ・・

覚えてないだろうけれど・・・・


けれど・・・


君は明らかに、僕以外の魔力を持ったものに記憶や感情を大きく削り取られていた。

探ってみたものの、その正体はわからない。

でもこのままでは君は、感情も記憶も失くし、人間ではなくなってしまう。

その前に、僕はこの世界から去ろうと思う。







-本当にごめんなさい・・



遠くから悲し気な声がする。


私の記憶が完全に回復したのは、つい一か月程前の事でした。

私の国・・そう、あなたの呼ぶ「異世界」で月の巫女として勤めを果たしていた私は、ある日

この国のこの体の中に居たのです。

侍女であり、私の傍らで私を庇った為に共にこの世界にいた者の話によると、

悪しき魔王の魔法でこの国に連れて来られたという事。


この体では魔力が使えないばかりか、月の光を浴びなければ日中の生活も困難な生活が続きました。

けれど、私はすぐそばで、あたたかい力を感じていました。


侍女は幸いにして人間に扮する力も残っており、私に魔力の供給も出来る程の力を蓄えておりました。

侍女の話には、彼女の兄であるあなた様が、何か特殊な魔力をお持ちだと。

その言葉通り、私の体は自由に動くようになり、あなた様と実際にお話したり、同じお部屋に居る事で

少しづつ力を取り戻す事が出来ました。


幸いこの世界の月は、私の世界の月とよく似ていて、それも相まって先日あなた様からの強い力を得て

元来の姿に戻れる程回復いたしました。

・・・・お側を離れるのは心苦しいのですが・・・・・、私どもと共に居ると悪しき何かがあなた様に不幸を呼ぶやも

しれません。

幸い、あちらの世界に帰る算段が整いました。

それもすべて、あの場所にあれ程の魔力を下さったあなた様のおかげです。


最後まで何も本当の事をお話出来ず申し訳ございません。

我々が消えれば、あなた様に憑りつく魔性も消える事でしょう。





・・・一緒に・・・花火大会・・・というものに行ってみとうございました・・・。

さようなら、ありがとう・・真ちゃん・・・。



























次の日は土曜で学校も休み、それでも龍は俺の部屋に「居た」


朝、目を覚まして、飯を食って・・そういえば咲は夏樹の所に泊まりに行ったんだな・・・とかぼんやりと考える。

特にやる事も無く部屋に戻ると「よう」といつもの陽気な声と、昨日の記憶の断片が一気に襲ってきた。


「逃げよう」と思った。

何故か龍から逃げなければならない気がした。



「まーまーまー、ちょい待てって、ストップ」


逃げようと思っても、俺の体はその場から一ミリも動いていない、対して龍はいつもの窓際を背に胡坐をかいて

「ま、座りなよ」と俺の部屋の畳を指先で叩いた。



「昨日はちょっとやりすぎた、ごめんなー、いきなりでびっくりした?」

「・・・・あ・・・う・・・」

「あー、相当ショックだったよな、でもほら、俺、勇者だぜ?本物の勇者に会えてうれしいだろ?」

「お、お前、なに・・・言ってんだよ・・・・、それにお前・・誰なんだよ・・」


少しづつだけど落ち着いて来た。

それは目の前の龍が、いつもの龍でいてくれるからだろう。




「順を追って話すよ、そろそろ、いろんなもんが限界に近いからな」


俺は頷くしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ