決戦
「家康が出奔して今川に行っただと」
信繁が慌てた顔で躑躅ヶ崎へと報告に着た。
「あれから諏訪に戻ると言いながら気がついたらと、兄上申し訳ありませぬ」
家康がいる余裕が消えてしまったが問題児が手元からいなくなった安堵が大きく弟にいずれ何かしらで取り返すように言い小太郎を呼んだ、
「話は聞いたと思う、すまぬが二郎三郎と言うものを今川の保護下からさらってきてほしい、今なら可能とあ思うが」
織田から引き渡された松平家の跡目をこの際と思いながらすぐに動く、義元は家康を手入れ渡りに船と言う事で二郎三郎を亡きものにしようとしたが間一髪小太郎が助け出した。
「その方がか」
家康であった男がおり本物に比べるべきもなく醜男であるが何か引き付けるものがある。
「徳川の姓を名乗れ徳川家康と」
そう伝え直ぐに松平家の家老である酒井忠次に連絡をとり内密に会談を申し込んだ。
「今川に出奔されたと」
私から告げられると驚き何も言えない、
「その代わり二郎三郎を排除される前に保護いたしました」
三河の帰属を巡り今川と争う事になり跡目を確保しているかと言う事であり本物は向こうだが二郎三郎は家臣達にお目見えしており今川も今更なのだが強行する可能性もあり忠次に相談をする。
「我らといたしましてはどちらかを頼りにしなければならぬのが現状で」
苦渋の決断をと言葉が少なくなる。
「我らも松平家が味方についてくれれば盟友としてこれほど嬉しい事はない」
現状、北条と今川両方との戦いは得策ではなく三河は泥沼化想像でき躊躇する。
「なれば戦うと言うなら援軍を出していただけますか」
即決はできずにしばらく考える。
「今回は今川と事を構えずにいよう、支援や受け入れはするが」
「わかりました二郎三郎殿をよろしくお願いします」
そう言うと今川に納得できない将兵を飯田と長篠城へと受け入れ、長篠の城主に徳川家康(二郎三郎)をおいた。
「太源和尚が参られました」
しつこいな和尚と思いながら会見する。
「瀬名姫の輿入れについてですが」
しつこい本当にしつこい、今川は西進したいが北条は良いが武田と盟友にならねば織田と戦えぬと、桶狭間で義元を潰してほしいと考えている自分がもう少し信長が元服するまで無言の嫌がらせをしたいと考えている。
「それならうちからそっちに節操なく鞍替えした小僧に与えて松平への影響力に使った方が良いではないでしょうか」
「それについてはこちらも困っておるので」
「いやいや、義元殿が大層喜んでおると聞いております」
顔色も変えずにいる和尚に、
「それと長篠の城は返しませんから規模を大きくしてしまったので返すのが勿体無いのと徳川家康に与えると約束しましたから」
「徳川家康」
はじめて聞く名前にようやく眉が動く、
「織田から信広と交換で返してもらった松平の息子ですよお忘れですか、あの元康と改名したのが手に入って義元殿がもういらぬと言われたのでこちらが勝手ながら引き取らせてもらいました」
消えた人質が私のところにいると言われたが表立っては動揺を隠し、
「それで徳川とは」
「松平の姓はたくさんおられますから朝廷に願い出て官位と徳川の姓を頂いたと言うことです」
日頃から献金を欠かしてなかったので直ぐに了承し一族として娘(養女)あたえることを話すと和尚は、
「それでは不戦同盟だけでも結んではいただけないか」
「1年ごとの更新でなら承りましょう」
ゲームの外交のように毎年どうするか決め影響力を保持すると言うので渋々ながら和尚も同意した。
「我らと婚姻を結び、我らから北条へ娘をと言う和尚の三国同盟はならずですが北条と敵対する長尾と婚姻関係にあるのでどう転んでもと言うことです」
明確に拒絶をして期間限定の不戦同盟を結んで次は越中の国境までの飛騨の支配と美濃の斎藤との同盟と越前国境を越えてその辺りの鉱山を押さえるため出陣した。
「8千ほどでよろしいのでしょうか」
美濃方面の主将秋山が聞いてくる。
「足軽での長期滞在と残りは北条に対する備えにするからね、輝虎(長尾)殿も越中へ共同で侵攻するから」
前回は三木氏を下したが領内が未だに不安定だったので飛騨に接する越中、加賀、越前の国境にある鉱山を見て見ぬふりをしたが銅銭等の需要を満たすために共同での出兵となった。
小さな勢力は越中の神保氏に組していたが輝虎に攻められ援軍が来ずに次々と武田の将兵に落とされていきそのまま国境を西へとむかい勢いを落とさずに越前へと入った。
「朝倉宗滴が主将で1万2千が国境を固めております」
流石は宗滴と思いながら山岳地帯を山越えして朝倉勢を望む使者を送り会見を行う、
「武田信輝と申す。高名な朝倉宗滴殿ですな」
あの無能な当主が出てくれば戦を仕掛けて打ち破ろうと思ったがやっぱり本人は出てこず宗滴なので話し合いでと言うことで挨拶をする。
「朝倉家家臣金ヶ崎城主朝倉宗滴と申す。武田殿は国境を侵す意図は」
「飛騨の安定のため国境の豪族を平らげに来ただけの事、宗滴殿がいる朝倉を攻めようとは思わぬ、ただ挨拶にと思っただけです」
「それならば使者をたてればこの様に大袈裟にならなくても良いものを」
「宗滴殿が不在なれば当主朝倉義景殿の器量を見定めたいと、よろしければ宗滴殿と同盟を結びたい」
当主を無視してと言う私の発言に少しだけ笑いながら承諾して後日使者を送る事となる。
しばらく話し込むと今度は南下して美濃へと入り蝮こと斎藤道三との会見をもった。
「左近衛少将武田信輝です」
家康の徳川姓と三河守お願いのついでに輝虎に右近衛少将と共にお願いをしており今回はそれを名乗る。
道三にとっては特になのだが会見を始める。
「同盟を結びたいと言うことだが」
「美濃ともですが織田との婚姻を結んだと言うことで我々とも結び3国で同盟を結びたいと考えております」
ようやく今年になり信長と濃姫の結婚が決まりそれに便乗しようと言う話で直ぐに道三は了承して三国同盟を結ぶこととなり道三の長子義龍に私の養女を、私の長子にお市を嫁がせることになった。
信長との会見は後日と言うことで満足しながら戻ると氏康が動き始めた。
平井城を落として周辺の豪族を傘下におさめ上野の支配を進めていく、東では足利を傀儡として周辺を押さえることに成功して万全をきして八王子と陽動で上野経由で佐久を狙いに着た。
「八王子は籠城させよ、佐久に出陣する」
八王子はかなり拡大して堅城としたので数ヶ月は楽に持つと言うことで輝虎と共に上杉憲政を担ぎ上げ攻める。
輝虎は速攻で沼田を落とすと周辺の豪族は寝返り長尾勢と合流する。
私は平井城等の周辺を落とすと武蔵へ入ろうと動くと氏康は今川の援軍と共に5万の兵を集結させた。
「越中及びその国境で神保の残党が決起したとか」
氏康にそそのかされたのであろう日の浅い者達がと言うことで輝虎と話をして長尾勢は鎮圧に戻ることになり上野勢と武田を含め4万で対陣をした。
「ここは我らに先鋒をお任せくださらぬか」
箕輪城城主である長野業正が申し出て来るのを思わず頷いてしまう、
業正は生きている間は上野を取ること叶わぬと言われ後年では上野の黄班と呼ばれた男で前から幸隆(真田)とやり取りをさせ機会があればと言うことで今回の出陣で周囲の豪族をまとめて寝返ってくれ氏康をあわてさせたのであり箕輪衆1万を中央におき軍監は仲の良い幸隆に任せ両翼に1万ずつ本陣に1万、上泉信綱の道案内で昌景が赤備えを伏兵としておいた。
先ずは1500の鉄砲隊が半分ずつ両翼に展開しながら進む、北条の先鋒は黄色い旗の北条綱成であり戦上手だが地の利で業正があり陣太鼓の音と共に突撃を開始した。
先ずは展開している鉄砲が早合を使い速射する。
綱成も展開をしたいが目の前に業正が迫っており密集を維持し続けており近づけば近づくほど被害は大きくなりこの時代の鉄砲の優位性をそのまま持ち込めた。
業正の先鋒と綱成はぶつかる。
業正は崩れた場所を見逃さずに楔を打ち込むと挟み込むように綱成を攻撃しており、鉄砲隊は両翼に攻撃対象をそれぞれうつし攻撃を続けた。
「北条氏尭勢が引きますぞ」
勘助の言葉に左翼を見ると昌豊(内藤)率いる北信濃衆の勢いに負けたとは思えないが動く、
「氏康の策と見た方がいいな勘助、昌豊の後詰めに入り昌景が奇襲を仕掛けたら押し出せ」
手持ちは残していた方がいいがここでと思いながら投入を行い、右翼の弟である信繁率いる諏訪と南信濃衆が倍近い敵と戦い押さえている。
「右翼の大外から敵騎馬3千が迂回しながらこちらに進んできております」
氏康側の方が兵が多い為なのか嫌がらせでと言うことらしい、
「高坂に騎馬鉄砲で迎撃させよ、そのまま撃破したら迂回して信繁の援護をさせよ」
編成して初の出陣である騎馬鉄砲、短筒であるが口径が大きく鉄の破片を入れた散弾銃であり近距離での威力は中々のものだが古い頭の考えの老臣からは抵抗されたので高坂にひきいらせ今回と言うことである。
高坂は直ぐに隊を動かして迎撃を行う、北条方の騎馬に真っ直ぐ向かい直前で二手に別れ鶴翼に展開すると目前で発砲した。
敵の騎馬は突如壁にでも当たったように馬ごとつんのめり後ろもそれに巻き込まれて倒れる。
高坂は槍に持ちかえると後ろに回り込み攻撃を開始した。
「すごい威力ですな」
信春が思わず声に出すほどであり高坂は敵を殲滅して弾をこめなおすと右翼の外から敵に平行にになりながら発砲して崩して離脱を繰り返す。
これで戦局は動くと思っていると、
「左翼外から敵の伏兵」
氏康のかくし球だろう1万を越える敵が森から出でて昌豊の側面をつこうとするのを勘助が横やりを入れる。
「敵中軍動きます」
氏康もここぞと動きぎりぎり崩壊を防いでいる綱成の後ろから押し出し業正と乱戦になった。
赤備えは未だかと言いたくなるのを我慢して平然とした表情で目の前のを見つめており勘助へ援軍を出したいが何処か崩れそうになるかもしれず善戦しているが数倍の敵に勘助は包囲されつつあった。
「残りは業正の左翼に、氏康を押し返させろ」
勘助にすまないと呟き支えている業正に援軍を出す。
「山本勢壊滅しつつあり」
勘助もわかっているのか援軍をと言ってこず生き残ってくれと勝手なことを思っているとその後ろから更に兵が現れた。
これで左翼がと思った瞬間、
「毘沙門天、長尾勢にございます」
輝虎、さすが軍神そう叫びたいのを我慢しながら北条の伏兵を突き崩していると更に、
「赤備えが」
ようやくこちらの攻撃であり昌景と上泉率いる別動隊が後方から後詰めの幻庵を一蹴して氏康本隊に襲いかかる。
「総攻めを行う、陣太鼓を鳴らせ」
本隊の残りを動かし追撃を行う、
「北条綱成討ち取ったり」
業正の響き渡る声に敵は総崩れとなり味方はひたすら追撃を続け夜にようやく帰陣してきた。
「長尾殿は」
輝虎の事を聞くと早々に越後へ戻ったと聞きかなわないなと思いながら勝利に沸き返るが、
「山本様討ち死に」
勘助の死を聞いて皆押し黙ってしまった。
「皆の者良くやってくれた、これで上野は我々の物になろう」
被害はどのくらいかまだわからないが、川中島の戦いより双方の被害は大きいと感じており勘助の他に義清(村上)も戦死して驚かせた。
戦功の評価を行い茶器や武具と領地をと言う話で、そのまま南下して鉢形城を鉄砲を全面に押し出し一方的に攻撃すると落城させた。
「ここは要の城となる。幸隆よ改築を頼む」
「昌信(高坂)よその方が城主となり北条を押さえよ」
これで関東に八王子城と鉢形城から出陣できるので後は輝虎の関東管令就任のための北条征伐を待つだけとなる。
その間に上野の南西の鉢形城の反対である南東の金山城を攻める。
「由良が降伏を願い出ております」
由良は下克上で大名となった武将で優秀だがころころ寝返った記憶があるので無視して攻撃を命じる。
半月程で北条の援軍もなく落城をした。
「山上道及ではないか」
業正が金山城で捕らえられていた中で大男を見つけて声をかける。
道及と言えば慶次郎と槍を並べた男でありいくさ人であり業正と話をしているのを声をかける。
「話の間に入ってすまぬが山上殿、金山城を守ってはくれぬか」
そう言われて少し目を開き笑うと、
「武田の棟梁か、お初にお目にかかる上州浪人山上道及と申す。いきなりの事ですがよろしいのですかな」
私の軽い言いぐさを気に入ったのか大きく頷き業正に、
「前の上様(上杉憲政)はまあか、北条との戦い楽しみじゃな」
そう言うと金山城城主を受け業正と共に北条に備え、周辺の大名の寝返りを行うこととなった。
越中での反乱を直ぐに鎮圧を終え戻るだろうと思い兵糧の手配と北条領へ青田刈りを行いながら20日を待たずに輝虎は帰還してきた。
「先ずは佐野を落とす」
義弟の口少ない言葉に頷き進軍をする。
敗れた氏康は川越におりどう動くのか気になりつつ輝虎が戻ったと聞いてごうぞくが慌てて集まってきた。
「これは人徳か軍神のなせる技かな幸隆」
焼きもちを焼きたくなるような状況になりながら佐野氏を下し宇都宮は私が向かい輝虎は南下して古河に向かった。
「すべてを落とせ」
先の戦いでは北条に組して大敗しており早々に降るかと思ったが中立と言う立場をとったので攻撃を仕掛ける。
宇都宮城を早々に落とすと多気城を囲む、
「どうやら宇都宮家当主は先の戦いで戦死しており主導権争いをしていた様子で」
幸隆が報告と共にその中の重臣を連れてくる。
「宇都宮家家老岡本宗慶にございます」
話を聞くと当主広綱には佐竹からの正室はいたが未だにと言うことらしい、
「跡継ぎがいないともうすか、わかった私の弟で元服をしたばかりの信廉に宇都宮家の後を継がせる。宗慶は筆頭家老として支えよ」
そう言うと直ぐに躑躅ヶ崎に知らせて幸隆には宗慶共々信廉を支えるように命令して周辺の城を攻め落とした。
輝虎はすでに古河を落として忍城を降して川越城を包囲しておりそこに合流した。
「お初にお目にかかる佐竹義昭にございます」
顔色がさえない武将が輝虎の横におり挨拶をしてくる。
「武田信輝にございます」
お互い挨拶をして宇都宮家の事を輝虎に話すと同意してくれ私は義昭にお願いをする。
「未亡人となられました宇都宮家の正室を我が弟信廉の正室としてあらためてもらい受けをお願いしたい」
そう言うと勝手に宇都宮家に弟を送り込んでしまったのをかなり怒っていたが提案を受けると、
「誠によろしいのか、私の娘をあらためて嫁がせることに」
「宇都宮家は佐竹あったればこそ、よろしくお願いします」
そう言うと輝虎も喜び盟約を3者で結んだ。
「籠るは松田か、氏康は小田原で待ち受けていると」
こちらの兵力は15万を越えており氏康に野戦で勝利は難しいと、
「ここはおさえをおき鶴岡八幡宮へと向かうことがよろしいかと」
早く上杉輝虎になってもらいたく本来の時期より少し早いがすでにこの世界は歴史と切り離されているので急かす。
「信輝殿も慌てることがあるのか」
そう笑われながら南下して鎌倉の鶴岡八幡宮へと入った。