将軍家
「松平竹千代にございます」
「竹千代殿か、岡崎に戻したいと思っているが今川の影響が大きくてな考えておる」
今返せばそのまま竹千代は義元の元へ人質として行かされてしまう、
「しかし父と今川との約束で私は送られるはずですが」
未だ幼子だが自分の立場をわきまえているのに心で感動しながら、
「だが父親は織田にその方を盗られても今川を裏切ろうとはしていない、なればその方の価値は無いのかと」
自分の父が織田からの脅迫に屈せずにいたと言うことは竹千代も改めて言われると泣きそうな顔をがまんしているので、
「しばらく我が家にいて元服してその時に改めて考えればよかろう、今川も父親も織田にいると思っているし、いないと言われれば命がと考えよう」
「わかりました」
苦渋の決断で受け入れるしかなく泣きそうなのを最後まで我慢しているので、
「武田家康と名乗れ、一門格として受け入れる」
そう言うと重臣や一門も驚き慌てて反対をしてくるので、
「竹千代、いや家康は未だ幼いが苦労をしている。それに報いてやりたいのだ、信繁よ弟として後見を頼みひとかどの武将として育てよ」
一門の中で一人だけ反対しなかった信繁に任せることとなり、打算ではあるが家康の父親が亡くなったときに三河を占領する口実にもなるとその日まで武田家康として育てる事になった。
関東からの流民を受け入れ戦いはせずに内政を行っており領内の見回りから戻り中庭で落ち着く、
「そういえば砥石崩れがあったんだよな本当は」
あれからずいぶんたった気がするがそうでもない、ifで走り抜け民のためと思っていたが走りすぎて一揆を起こさせそうになったりと面倒なので当主になりたくはないと言うのは今も変わらない、信長にしろ謙信そして信玄もいつ裏切りだのを絶えず考えねばならず小心者の自分なら押し潰されそうになるのも自覚している。
何とか歴史のあったことでやって来たがここからは手探りであり小太郎の忍に家臣には言えないかなりの額を投資しており遊廓の上がりも手元に入ってきているが同額が小太郎に流れており、勘定(大蔵)方は一部の把握でしかなく必要な分を私に決済をあおぎ各金山銀山等から支払われ足りなければ堺から資金を取り出すと言うことだがさして手をつけていなかった。
そんなことを考えていると何度目なのか奉行が顔を出す。
「勘定方として申し上げます。全体の把握を出来ずに職務を責任をもって行えませぬ」
何度か言われる度に問題ない責任の云々は問わないと答えているが不安なので幸隆を責任者として表状の流は開示することにした。
「想像以上の金の流れですな、商人を出入りさせて各地の産物と領外もですか堺や京とのやり取りを、今川や長尾は商人がまさか武田の家臣とは思いますまい」
「出入りしている者もだがそこに住まいを構えている商人にもいる、これは私と小太郎そして幸隆しか知らぬこと」
関東にも進出させているが貧しく兵糧の流通も少なく徳政令を氏康がだして関所は減ったものの未々旨味はなかった。
「御館様、北条と今川が河東でのにらみ合いを始めました」
何とか関東を上野以外を安定させた氏康は今川に渡した河東を取り返すために出陣をしたらしい、義元も返り討ちにしてやろうと出陣をして小競り合いをし始めている。
氏康は尾張の織田に牽制を頼んだようで三河でも騒がしい、前年に私や朝倉からの圧力に耐え兼ね道三は帰蝶(濃姫)を信長の元へ嫁がせており道三も援軍を出しているらしいかった。
「それで双方から援軍をと言うわけだけど意見を聞きたい」
評定を開いて家臣の意見を聞く、古くからの家臣達は信虎時代の今川に煮え湯を飲まされ続けた恨みがあり、婚姻を結ぶときにも根強い反対をしたおかげで信虎が支配力を強化する動機のひとつとなっており積極的に介入をと言う、
「北条は八王子の城を快く思っておりませぬし先頃の流民を受け入れた事について恨み言を申していると聞いてます」
昌豊(内藤)は八王子の城代として受け入れと北条との窓口になっており積極的に民を受け入れた武田に対して不満を持っているので考えた方がよいと、
「それと上野の平井城を上杉から奪ったことにより上野の支配を進めようとしておりその辺りを御館様がいかが考えておられるかになります」
そうだよね伊豆の港と言うか金山は手放したくはないから争乱が起きるまで寝かせておこうと思い、
「上野はしばらくは北条に預けておく、我々は三河に出陣する」
家康の帰還がはやまるか、しかし広忠がいるのでおいそれとはと思いながら圧力で今川と話し合いか戦闘も視野にいれての出陣となった。
「連れていって貰えないのですね」
三河に早々に向かうと聞いたらしく家康が出陣のおりにお願いしてくる。
「馬に乗れればだが無理だしな」
あまりにも言うので馬に乗ったら連れていくと言い必死に上ろうとしていたが地べたに転がってのぞきこむ私を見上げた。
「家康の父上が生きておられれば戦いは静観するつもりだ」
家康本人には言えないが父親が討たれたか病で亡くなり今川に吸収されてしまうのを阻止したいと言う思惑で八千を率いて向かった。
「喧嘩売ってるかなこれは」
今川には知らせていない出兵で長篠城の菅沼定村が街道をふさいで詰問してくる。
「武田とお見受けしますがどの様な事で三河に向かわれる」
「用事があるから向かうだけ、今川と争うつもりはないが」
親今川の定村は私の返答に何故か怒り、
「用もないのにみだりに兵を動かしその言い様、通れるなら通ってみるが良い」
馬鹿なのか同盟に手出しが出来ないとたかをくくっているのか、
「わかった、昌景かまわん赤備えで撃ち破れ、勘助は長篠城を占領せよ」
定村は驚き慌てるが赤い疾風迅雷が襲いかかりあれよと言う間に拘束してしまう。
「城は」
「かまわない、速攻で落として」
目の前の長篠城は菅沼が築城した砦に毛が生えた位のもので後年に家康が普請し直しているので気にせず勘助に命令する。
数に物を言わせ城主も捕らえられている状況では統一的な防御も出来ずに一刻ももたずに落城した。
「貴様どうなるかわかっているのか今川との盟約を破るとは」
定村は捕まっても強気は崩さずにいりので、
「菅沼殿のおかげで盟約が無くなった、と言うことは今川と争わなければならなくなったな」
「本気で考えているのか」
私の言葉に驚き顔が青ざめ白くなる。
「そう伝えよ、この書状を持っていけ」
縄を解いて定村を解き放つと何度も聞いてくるので、
「そこに書いてある」
それだけ言うとさっさと追い出した。
「と言うことで成り行きでこうなったので三河に向かう、太源が兵を率いて松平勢と共に織田斎藤の連合と対峙していると言うことだ後ろをつければだな」
馬引城(浜松城)のおさえのため井伊谷に秋山を向かわせる。
そのまま三河にはいると小太郎から報告があった。
「半日前に岡崎城近郊で戦が行われ織田は大敗、息子信広が伏兵により捕らえられたと」
さすがは和尚、これにより竹千代との交換の材料にと考えているのだろうがもう1つの報告に驚く、
「高所から攻められて崩れた松平勢に信秀が襲いかかり今川の奇襲前に壊滅させ当主が討ち取られたと」
「幸か不幸かどう交渉をするかだな」
ここで松平の当主が亡くなり三河には当主不在であり太源和尚は信広を人質に竹千代の返還を交渉し三河を押さえる算段だと言うことは容易に考えられる。
直ぐに移動して勝利にわき返る今川勢と悲しみと怒りにうち震えている松平勢、当主が討たれたのは今川の落ち度と考えておりそれを小太郎に命令して伝え怒りをどんどん増やしていった。
「武田がここまで来るとは」
太源和尚が使者として自ら来られて前に座る。
「三河をどうするかについて、と言うことです」
「それについては松平と話をして決めようと思っているが、心配ご無用」
「当主が亡くなられたと、その責任は今川と話し合いに応じますかな」
顔色は変わらないが眉毛が少しだけ動く、
「今川義元殿がお着きです」
菅沼からの知らせを受けたのだろう、十数人と共に駿河の北条との対陣から来るとは動きが早いが和尚と話すよりはと思い通す。
「菅沼から話は聞いた、いきなり襲うとは盟約をどう思うておるかな」
手紙を私そびれたか意図的にか、
「今川殿に書状を菅沼に渡したが、まあ盟約が破綻した原因をつくった本人が隠さざる終えなかったと言うことかな」
義元は奥に控えている菅沼をちらりとみて太源和尚は目を細める。
「何れにしてもそちらの落ち度でと言うことだ、見解の違いはあるがそうなってしまったから」
「何を考えておる」
義元は菅沼に対する怒りを消し去り感情を出さずに聞いてくる。
「三河ですよ、駿河に関してはそれぞれですが、三河は我らも西へ向かうのにと言うことです」
「それは松平と今川との盟約があり当主の松平広忠もそれは認めておるのにか」
未だ義元には勝利以外は伝わってなかったらしい、
「その当主が今川の落ち度により討ち死にしており家臣達は納得もしておらずと言う話、竹千代は三河にも駿河にもおらぬとなれば切り取りしだいでは」
「それについては信秀の息子信広を捕らえたので竹千代と交換と、そうすれば当主として後見を今川が行います」
秘匿したい切り札を出さなければ我々がこのまま岡崎に攻めこむこととなるので苦渋の選択で太源和尚が言うのを義元も同意する。
「後見となるので三河に手を出すなと」
「そうだ、織田との戦いも続いており双方が争えば織田が竹千代を連れて岡崎を我が手に持つだろう」
「竹千代の後見と言うことが岡崎のと言うことか」
「なので一度引いて改めて話し合いをと言うことでどうかな」
義元とはその様な話し合いになり手元にすでにあるので受け入れることにして引き上げることにした。
「長篠城はもらいます」
受け入れた引き換えに東三河の支配権を伝えて甲斐へと戻った。
「父上が亡くなられた」
すぐに諏訪から家康を呼び伝える。
「悲しみにくれている暇はないぞ、今川も織田も当主不在の岡崎を狙っておる」
「それでは直ぐに」
家康は来た頃よりも感情を表に出せており信繁の人柄に開花したようで安心をする。
「今戻れば織田と今川に挟み撃ちにされる。先ずは今川との話し合いを太源和尚が使者として明日にも来るからな
、焦らずに待つのだ」
そう伝えていると和尚が到着したと言い、家康には信繁の隣に座るようにと言い通した。
和尚は入ってくると小さな家康を一別して座る。
「忙しそうだな、それで織田との交渉は上手くいっているのかな」
「順調に、来週には引き渡しをすると織田から」
そう聞いて家康は言いたいのを事前に止められているのでこちらをみる。
「そうか、それは良かった。跡継ぎがいなければ三河は今川の物にならぬからな和尚」
私の言い回しに顔色は変わらず眉毛だけが少し動く、
「今川の物とは、あくまで松平家の家をと言うことですからな」
「そうなのだな、わかった竹千代殿が戻られるなら言うことはない」
腹のさぐりあいは終わり和尚が居なくなると家康が我慢をしているので、
「言いたいことはわかる。相手がどんな小細工をしても当主は家康なのだ」
「しかし不安にございます」
そう言うと信繁に慰められながら諏訪へと戻っていった。
駿河では氏康が河東の半分を取り返したところで三河で勝利した和尚の率いる今川勢が義元の元へ合流してにらみ合いとなり長期化している。
「戦火を逃れた駿河の民が越境してきており指示通り受け入れを行っておりますが」
「港が使えないと言うことだろ、気にしなくて良い」
遠回りすればだが今は越後経由の日本海側からの品物のやり取りをしており土肥の港は採掘した金を堺に送り込むだけの港となっていたが問題も発生した。
「今川に金を載せた船を拿捕されただって」
義元の武田に対する侮りが出たのか直ぐに幸隆を使者として駿河に向かわせる。
同時に兵を集め駿河との国境に勘助を大将として向かわせると私は春日山に向かった。
「信義殿、早速向かうか」
景虎が春日山で待っておりそのまま直江津にでて船で若狭に向かう、
「景虎殿誘っていただき感謝します」
足利義輝が将軍家を継ぎその御祝いに上洛をすると聞き同行を希望すると直ぐにと言われて駿河の事もあったが任せてお忍びで向かう、
「近畿は三好が将軍家を圧迫しておりお助けするために上洛したいが難しい、しかしそれは言い訳にすぎないから今回は単身でと言うことだ」
私よりも若いはずだがしっかりしており感心させられ青空を見ながら、
「確かに、しかし平家そして源と絶えず新しい者が出てきて入れ替わるのも昔からの事実、京さえも守れずに逃げ出している命脈が尽き始めていると考えられるのでは」
「だからと言って将軍を蔑ろにして良いとは思えぬ、たとえ周りが要らぬと攻めようとも景虎義をもって助太刀いたす」
相変わらずすごいなと思いながらも長尾家も戦国大名のはしりで下克上を為景が行ったのだが今と言うことらしい景虎に頷きながら若狭へと入った。
「お待ちしておりました」
若狭の港は敦賀、そこの豪商は私の手の者で小太郎の配下の者が起こした井筒屋が佐渡からの金銀や布で商いをしており豊富な資金で山口経由で南蛮とのやり取りも行っておりそこを宿として入る。
「私の遠い親戚筋で塩などの購入をしてもらっているのです」
「そうか、一晩休ませてもらう」
細かいことは気にしない景虎はもてなしに感謝をして翌日には出発した。
「あそこが浅井氏の小谷城、反対側に将軍家が避難された朽木谷」
琵琶湖に出ると景虎を誘い湖面の運送を生業にしている者の船に乗り込み進む、懐かしい小谷城を見上げながら説明をする。
「しかしよく知っておられるが、どうしてかな」
そう聞かれて苦笑しながら、
「継ぐ前の幼い頃に馬で色々遠出をして堺までも行きましたから」
「そうか、それで信義殿は商売にも知識にもたけていると、私が寺にいた間にか」
考えながら見上げる景虎、
「そう言えば小谷も寂れましたよ、国友とか言う鍛治の集団が消え去り探したが神隠しにあったようで、数千が消えたと」
人数が誇張されてるところは突っ込みをいれたいが原因は自分なので船頭の話を笑いながら聞いている。
「神隠しとは、神仏を蔑ろにするからとは考えぬか信義殿」
「私が一番駄目かもですかね、特定の宗派に入れ込めば他のが不満を持ちます。家臣達にはそれぞれなのでとやか言うつもりはありませぬが」
「強いのだな、自分以外を信じぬと言うことかな」
私は笑いながら、
「銭を信じているとでも言いましょうか、仏の名を借り民を苦しめるのが許せないだけです」
景虎は納得したのか静かに頷き私はその流れで坂本の港にわざと入った。
「これが京を守護するはずの比叡山の実態であり、生臭の坊主が昼間から酒を飲み女を抱く」
僧兵が昼間から遊廓に出入りしておりそれを見て景虎は難しい顔をして、
「これが現状か、しかし比叡山には高名な僧侶もおり日夜読経をしておるのだろう」
そう言われて坂本から比叡山に上ると鳥を焼いて食べていたりと殺生を禁じているはずの僧侶が行うのをみて景虎が、
「早めに何としても早めに兵を率いて上洛を行わぬとな」
別のスイッチが入ってしまいそこじゃなくてこんなのいらないと伝えたかったのが外れてしまい苦笑いで上洛をはたした。
「将軍足利義輝である」
剣豪将軍と言われ太刀を使わせればだが家としての力はなくついこないだまで三好に京を追い出されようやく戻ってきており暮らしもままならない様だった。
「越後守護代長尾景虎にございます」
「甲斐国主武田信義にございます」
「おふたがた上洛を嬉しく思う、見ての通り将軍とは名ばかりだが幕府の再興を目指すつもりだ力を貸してくれ」
「我々も幕府に力を貸してもりたてていく所存、国許を固めて上洛をしたいと考えております」
景虎が伝え私が献上する目録を伝える。
弟の義昭よりは全然ましだが、家臣達も日頃の貧しさから解放されると目を見開き品物を見て嬉しそうにしており何度も頷いていた。
「感謝をする。そして一字を与え長尾輝虎そして武田信輝と名乗るがよい」
偏諱を受けたが名前が違う景虎を考えながら挨拶をして内裏へと向かう、今回越後上杉の当主が亡くなったため景虎(輝虎ですが)は国主を継ぎ私と共に従五位で私が左衛門佐となり景虎が卯衛門佐となりお礼をかねて金品を送り拝謁して京での事は終わった。
そして戻りたそうな景虎を誘い堺へとくだる。
「ようこられました」
堺衆が出迎えてくれ情勢の話をする。
「三好さんは細川の公方さんを追い出してやりたい放題ですわ、今回将軍様と和議を結びましたがいつこじれるか」
そんな話をしていると知らせが飛び込む、
「三好が京に侵攻を始めたそうです」
間が悪いとしか言いようがなく景虎は単身でも駆けつけると言い配下が慌てている。
「小太郎、鉄砲は」
「30丁弾薬もあります。射手も護衛の中から」
確認をすると景虎に、
「援軍に向かうのは良いが多勢に無勢、危険だと思ったら引いてもらうのを約束してください」
景虎は頷き来た早々京へと戻った。
「二人ともよく来てくれた。三好勢は南側から侵入してきておるわ」
将軍に挨拶をして堺で準備していた南蛮胴の鎧に着替えて出陣する。
「先鋒は私がこの鉄砲で務めます。景虎殿はそこへ騎馬を率いて蹴散らしてください」
大通りを進むと下京は火を放ったのか燃えており手前で陣をはると三好勢を待つ、下京から敗れた幕臣達が退却してきており中尾城に退却をしておりそれを追撃をしている三好が目の前に現れた。
「はなて」
自分で言いながら引き金を絞り馬上の三好の武将に撃ち込む、悲鳴と共に吹き飛ばされ鉄砲の音と仲間が倒れたのを見て一瞬止まる。
早合を使い素早く再装填終わると狙いを定めて引き金を絞り次々と倒していき、
「景虎殿今です」
そう言うと小島と共に斬り込み蹴散らし撃ち破り下京から三好を追い出して中尾城にいる将軍義輝の元へと向かった。
「三好め必ずや」
将軍は怒り再度侵攻して主のいない城を落として歓声を上げているのを見続けていた。
「六角や他の豪族に三好を攻めるように伝えよ」
そう言うが現状反撃をするには三好は大きく難しいとわかっているので黙ってしまう。
私は、
「現状は手を出すと危険です。しばらくは三好の好きにさせながら反撃の手筈を考えた方がよろしいかと」
部外者である私に言われ幕臣は安堵の表情を浮かべ義輝は厳しい顔で同意するしかなかった。
「ところで兵から聞いたのだが武田殿は雷で敵を撃ち破ったというが」
「はい、鉄砲と言うもので遠くから敵を倒す武器にございます」
そう言いながら取り出して見せて試射をして見せる。
轟音に皆驚き悲鳴をあげ威力を見て誉めてくれたので、
「持ってきた鉄砲の中から10丁を献上いたします」
そう言うと喜び何度も誉めてくれ三好の主力が飯盛城に下がっていくのを確認して帰国することになった。
「国友に作らせてみようぞ」
別れ際に義輝から言われたが自分が引き抜いてしまったので苦笑いするしかなく逃げるように敦賀に船に乗り直江津に到着して景虎と別れると甲斐へと戻った。
「おかえりなさいませ御館様」
駿河での話はついた様で引き上げていたので報告を受ける。
「奪った金の返還と沈めた船の替わりを新しく、そして今川殿の娘である瀬名姫を嫁に出したいと」
「瀬名姫か、駄目だな今川とは今さらと言う感じだし」
「そう思ってお断りはいれたのですが義元殿はどうにかと引き下がりませんが、それと織田から今川に引き渡す予定の竹千代の現場にと言いましたが太源和尚が譲らずに拒否されました」
織田との話し合いで妥協する点がお互いあったと言っているようなもので様子を見るしかないと思いながら従五位左衛門佐の祝いをもうけてくれ楽しんだ。
数週間すると織田から今川に竹千代が引き渡されたと報告を受ける。
「藪を突っつくかな、今川に書状を三河を取り込むなら竹千代の元服を待ってからだとな」
居ないはずの竹千代がいる。
信繁といる家康は誰だだれなんだと考えたがもうそんなことがどうでも良いと言えばどうでも良いと気がつき手配していた事をしに長篠城へと信繁と家康を呼び出した。
「竹千代が織田から今川に引き渡されたと偽物にございます直ぐに岡崎に」
家康の立場なら当然なのだが、
「入れば東西から織田と今川に引き裂かれるぞ」
私はあえて冷たい言い方をする。
「ならこのまま見逃すのですか、武田の力なら押さえられましょう」
確かに北は良いが北条とも良好とは言えないし斎藤も領地の奪還を狙っている。
しかし目の前にいる竹千代は人質時代を過ごしていないせいか思慮よりも感情
優先されていて息子信康を思い出させる。
色々言わせており、信繁も止めようとしたが目線でやめさせ言わせていると待った人物が到着した。
「松平家家老酒井忠次ともうします。内密の義と伺い岡崎から単騎参りましたが」
私がしゃべろうとすると、
「忠次、私だ竹千代だ父上が亡くなったと聞く、直ぐにでももどるので手配をしてくれ」
家康が喋り始め私は怒りを押さえるために目をつぶり呼吸をする。
「もしやと思いましたが竹千代様ですか、今川にこないだの会見で織田から人質交換でわたったはずでは」
「その前に信輝殿に助け出されて元服も済ませた。今日中にも急ぎ戻るぞ忠次」
私をみて忠次は家康に、
「急ぎ戻っていただきたいのは我ら一同松平家臣は思っておりますが今川が目付で送ってきており内密にはこばなければ」
家康は露骨に残念そうなこをして頷いたので信繁に連れて下がるように伝えて二人となった。
「私が誤ったかな」
思わず懐かしい忠次に思わず口をこぼしてしまう、
「いえ、元々活発なお世継ぎですから、手に余るほどに」
忠次も私から何か感じたのか思わずと言うこと、
「ここまで来てもらったがあれを岡崎には帰せない」
私が言うと反対するかと思ったが同意する。
「帰ってくればお世継ぎと言うことですがそれでまとまるほど一枚岩では無いですからな」
「分別と忍耐が、言ってもせんなきことだがひとつ聞きたい、あれは真か」
「偽物と言えば偽物ですが、あの性格は一度会われてみればと言いたくなりましょう」
「そうか、忠次殿がそこまでかうなら一考もせねばか」
礼を言うと岡崎へと戻っていった。
「いつ戻れるのでしょうか」
「今川の了解がとれ次第だ」
何度目だろうか長篠から戻る途中で家康が聞いてくるのを同じ言い方で返す。
別れる頃にはへそを曲げたか軽い会釈だけで諏訪へと馬を走らせていった。
「目をはなすな、岡崎に戻せば皆が不幸になる」
信繁に伝えると悲しそうな顔で後を追っていった。
躑躅ヶ崎に戻り勘助と幸隆を呼ぶ、
「計画に変更がしょうじた」
私のご機嫌ななめに二人は少しだけ笑いながら、
「御館様もそんな顔されるのですね」
二人に言われ確かにと思い、
「今日だけ、明日からはしないよ、それで鳥峰を道三に返して盟約を結ぶ」
「三河への布石ですな」
勘助の言葉に頷き、
「今川との戦いになる。北条とも関係をと思い孫六を元服し信廉として小田原に人質として出す」
「わかりましたすぐに動きましょう」
「それと和尚が希望している話し合いを今一度行う」
その他にも輝虎に三河の事を詳細に記した書状を書き援軍を依頼する。
戦うまでに勝率をあげていかねばだけど、今川の武将に内応の手配もだしでも一番の厄介は和尚なんだよな、居なければ楽勝まではいかないけど義元もこの頃ならまだまだだし、来月に評定を開くことを知らせながら畳の上で寝転がっていると音もなく気配が、
「よくない知らせだね」
「氏康の娘を義元の嫡男氏真に嫁がせる話が水面下で行われており輿入れが決まったそうです」
小太郎に感謝を伝えると和尚に対する話し合いは理性抜きにしてやろうと思い会見の寺へと向かった。
「信輝様においては会見の場をもうけていただき礼をもうします」
この堅苦しさも苦手だが気にもしていない顔で真夏の蒸す中で涼しげに座っている。
「こちらも用があったのでな」
顔色は変えないのを知っているのでこちらから切り出す。
「北条と婚姻をしたそうだがそれには乗る気はないよ」
「知っておられたとはさすが、しかし話を聞いてからでもよろしいのでは」
本来ならそうだが今回は首をふる。
「三河をくれると言うなら考えるが義元は取り込むのにためらいはあるが太源和尚は積極的だと」
「そのような話何処から、そう言えば武田家康殿はお元気かな」
「元気すぎて直ぐに三河に戻って采配をふるいたいと」
「そうですか、皆が歓迎してくれるならよろしいですがな」
「そちらの偽物よりはましかなと」
引き渡された子供の招待は二郎三郎と言う道々の上無しの子だと小太郎は調べて来てくれ伝えるが流される。
「何れにしよ妥協はないし三河についても歩みよりはお互いできないと言うことで、それだけ確認したかった」
「何れにしろ公には竹千代が今川の元におり次がせたいとかんがえております」
それだけ言うと和尚は立ち上がり会見は終わった。
なんの得ることもできないと言うか半分はそう行動したのだがあの余裕は何だろう、家康はこちらにいるのに人気がないと言うことなのか何れにしろ今川とは有効な関係は崩れたと言うことで北条と長尾を巻き込んでの戦いとなる。